か、カマクラが若返ってる!?   作:9ナイン9

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18:黒歴史も、綺麗な思い出である。

 ダンジョン配信をした翌日。

 俺は県から派遣された、30代半ばぐらいの職員を案内して、裏庭のダンジョンのゲート前にいる。

 隣で、職員は真面目な表情でタブレットに色々と書き込んでいるのが見て取れる。

 

 勿論、騒がしい事にならない様に従魔達はモンスターブックに押し込めた。本当にあの子達は、俺を困らせる時の団結力だけは凄いからね。

 

「土地資産の査定に関してはこのぐらいになりますね」

 

 職員はそう言いながら、タブレットで査定表のPDFデータを見せてくる。

 

 あれ? こんなものなのか?

 

「……厳しい額だったでしょうか?」

 

 俺の目が腐ってるせいで不機嫌だと思われたのか、職員が恐る恐る伺ってきた。

 

「いえ……自分が調べた限りだと資産税が3倍ぐらい跳ね上がる予想だったので……」

 

「あーそれはですね、富津は過疎化してますし、探索者が来るにも交通の便が悪すぎるからです。その為、富津でダンジョンを所有したとしても、大した資産評価にはならないんですよ」

 

 なるほど。一般的に私有地にダンジョンを所有してるオーナーは探索者に開放して入場料をとっている。

 勿論、ダンジョンによって入場料の額は変わってくる。ミスリルが採掘出来るダンジョンだと、入場料が10万とかだったりする、とネットに書いてあった。

 

 それらを踏まえた上で、過疎地である富津にダンジョンがあったとしても人が集まらないから大した価値にならない。

 だから、1.2倍ぐらいの査定にしかならないって事か。そもそもミスリル等のファンタジー鉱石が採掘出来るダンジョン自体超激レアだしな。

 

 一見メリットに思えるが、俺がこの土地を売却するってなった時は大した額にならない事の裏返しだ。

 まあ、売却なんてしないけどな。俺はこの地で骨を埋める覚悟だ。

 

「そうなんですか……なんか、ありがとうございます」

 

「いえいえ、都会のダンジョンと同じ査定にしちゃうと理不尽ですからね」

 

 確かにその通りだと思う。佐渡島にもダンジョンがあるらしいが、入場料が軒並み500円って書いてあったな。ダンジョンがあるって言っても、人を呼び込むのに苦労してる市とか多いって事か。

 

「ところで、この希望名称ってなんですか?」

 

「ああ、さっきも言いましたが、ダンジョンは一応、探索者ネットに登録されます。比企谷様の場合は入場未開放で設定されましたので、ダンジョンネットでも入場未開放って表示されます。ですが開放、未開放に関わらずダンジョンに名前を付ける事が出来ますよ」

 

 職員さんはそこまで言うと、笑いながら話を続ける。

 

「中には……ップ……アインクラッドやオラリオって付ける人もいますよ……ップ……一番面白かったのは呪術高等専門学校ですね、ップ」

 

 笑い過ぎだろこの人。笑いたくなる気持ちは分かるけどな。全国の人間に見られるのに、アインクラッドとかオラリオは確かに恥ずいわ。

 

「そ、そうなんですか……特に希望しない場合は、どんな名称に?」

 

 ある程度、笑い終えた職員は満足気な表情で、質問に回答してくる。

 

「私有地ダンジョンですので、比企谷邸ダンジョンになりますが大丈夫ですか?」

 

 比企谷邸ダンジョンか。悩ましいな……。

 名称を考えるのも面倒くさいから比企谷邸ダンジョンでいっか。わざわざ探索者ネットで比企谷って調べる奴なんていないだろうし。

 

「あー、面倒くさいんでそれでお願いします」

 

「その様に登録しておきますね。それと、名称は申請して頂ければいつでも変えられるんで」

 

 いつでも変えられるなんて便利だな。まあ、申請料とか取られそうだけど。

 職員はタブレットを鞄にしまうと、別れの挨拶をしてきた。 

 

「では、この度は査定に協力して頂きありがとうございました」

 

 職員は俺にお辞儀をすると、来た車で帰って行った。

 今日はダンジョン探索を休みにしたが、案外とダンジョン所有の査定が早く終わったな。

 

「もうすぐ飯時か……そうだ!今日はミラノ風ドリアにでも挑戦しよう」

 

 自作のミラノ風ドリアに胸を踊らせながら、俺は従魔達の飯を作るべく、キッチンに向かった。

 

 

 名称を【比企谷邸ダンジョン】にした事を後悔する日が来るとは、この時の俺はまだ思いも寄らなかった。

 

♢ ♢ ♢

 

「うぅ、屈辱ですわ……」

 

「俺はお前以上に屈辱な思いをしたんだ。昨日のデザート1週間抜きの刑を無くしたいなら我慢しろ」

 

 俺はパシャリ、とスマホで写メを撮る。

 

 昼食を食べ終わって従魔達にデザートのプリンを配ってたら、ルーメリアが「わたくしもやっぱ欲しいですわ!」って駄々をこねだしたのだ。

 だから、デザート1週間抜きの刑を無くす条件をルーメリアに与えた。

 その条件とは……

 

「ルーお姉ちゃん、凄く可愛い!」

 

「ぷるぷる♪」

訳:魔王様可愛い♪

 

「魔王たるわたくしが給仕係の格好をするなんて、一生の恥ですわ!」

 

 ルーメリアには唐ヶ原さんから貰った、ゴスロリメイド服を着て貰っている。

 やっと屈辱を味わせる事が出来たぞ。

 ククッ、いい表情だなルーメリア!

 

「プッ……ゴブゴブ」

訳:お嬢、似合ってますよ

 

 ゴブタニが笑いを堪えながら褒めると、ルーメリアが鋭く睨みつけた。

 

「ゴブリン、殺す」

 

 ゴブタニは後でルーメリアにボコボコにされんだろうな……。

 武運を祈ってるぞ、ゴブタニ。

 

「ほらほら、次は目の辺りで可愛いく横ピースをしろ」

 

「マスターの鬼畜!」

 

 文句を言いながらも、いろはすお得意のポーズをしてくれるルーメリア。

 俺は遠慮なく、シャッターを切る。

 

パシャリ

 

「次は、笑顔のまま両手でハートを作れ」

 

パシャリ

 

「良いぞ良いぞ、あざと可愛いぞ。次は前屈みで投げキッスのポーズだ」

 

パシャリ

 

「オーケー、次は唇に人差し指を当てながら首を傾げてくれ」

 

パシャリ

 

 ロリヴァンパイア最高だぜ、可愛いぜ。やっぱ幼女は最高だな!

 って、これだと俺が変態みたいだ。

 

「よし、そのまま『お帰りなさいませ、マスター♡』って言え」

 

「お、おかえりなさいま……って、調子に乗り過ぎですわ!!」

 

「ちょ、おm……グハッ」

 

「あるじ様!?」「ぷる!?」「ごぶ……」

 

 サッカーボールぐらいの赤い玉が俺の鳩尾に飛んで来て、クリーンヒット。

 ルーメリアの奴、操血魔法で鉄球を作りやがったな……。

 

「うぅ………お前……痛いじゃねえか……うぅ」

 

 床で腹を抑えて藻掻き苦しむ俺は、空間収納から慌ててローポーションを取り出して飲む干した。

 

「ああ……死ぬかと思った……」

 

「これに懲りたら反省する事ですのね、マスター♪」

 

 コイツ、なんて良い笑顔なんだ。

 まあ、確かに今回は俺が調子に乗り過ぎたな。八幡ちょびっと反省☆

 

 だがな、甘いぞルーメリア。お前のせいで俺は、世間から二股ロリコン野郎の汚名が付いてしまった。

 昨日なんてXでエゴサをしたら『二股純愛砲』がダンジョン部門でトレンド入りしてたしな。

 だから、お前も道連れにしてやる。

 

「悪かったよ。トイレに行ってくるわ」

 

 俺はトイレに入る。

 スマホを操作して、ルーメリアの可愛いメイドコスの写メを1枚選び、鎌谷幕府のアカウントで投稿。

 よし、これで今回の件はチャラだ。

 次いでに、小町にも自慢の意味を込めて送っとこ。

 

「………可愛いから待ち受けにするか」

 

 こうして、両手でハートを作ってるメイドコスのルーメリアが、俺のスマホの待ち受けになった。

 

♢ ♢ ♢

 

 明日から裏庭ダンジョン完全踏破に取り掛かる事にした。

 その為の準備リストを、今一度PCで確認している。

 

・ローポーション20個

・ミドルポーション20個

・ハイポーション10個

・おにぎり5日分

・サンドイッチ5日分

・調理用食材

・調理器具

・食器

・ポータブル浴槽

・水

・飲料諸々

・テント

・寝袋

・着替え

・マッ缶20本

……etc

 

 これら全ては既に空間収納に入れてある。3日で済むとは思うが、念には念を入れて食材等は5日分用意してある。

 一番の問題であった風呂問題も解決した。ルーメリアが詠唱すれば、属性魔法も使えるのが分かったからな。水魔法で水をだして、火魔法で温めて貰う。

 これぞ俺のパーフェクトプランだ。いや、ルーメリアが万能過ぎるだけか。

 もっと言えば【ストレージリング】が神すぎる。探索者なら誰しもが抱えてる荷物問題を、一気に解決できるんだからな。

 

「おお! 相変わらず目が腐ってますわ!」

「あるじ様わかーい!」

「にゃ〜♪」

訳:昔から腐ってたな〜♪

「ぷるぷる!」

訳:マスター変わってない!

「ごぶごぶ!」

訳:この目、昔から卑屈そうだな!

 

 ふと、ソファーで固まり合って楽しそうにしてる従魔達の騒がしい話し声が聞こえてきた。

 

 若い?腐ってる?卑屈?

 今でも若いだろ俺、まだ29だしな。てか、俺に聞こえる距離で悪口とか、いい度胸してるなアイツら。

 もう泣いてやろうかな。泣いて面倒くさい奴になってやろうかな。これは試す価値がありそうだな。

 

「この人カッコイイで〜す♪」

 

 マウスを動かす手が止まった。

 タマエの口からカッコイイだと?

 どこのドイツだ、タマエを誑かしてる奴は! これは泣いてる場合じゃないな!

 

 俺はPCを閉じて立ち上がり、ソファーの方へと向かった。

 

「お前達、何し……って、それ俺の卒アルじゃねえか」

 

 従魔達が見ていたのは俺の高校の卒アルであった。

 

「なんですの? 見てはイケないモノですの?」

 

「いや、どこで見つけたんだよ……」

 

「屋根裏にあったのー♪」

 

 犯人はタマエか……お兄ちゃん許しちゃう☆

 

「で、タマエ。誰がカッコイイんだ? 俺だよな? 俺以外いないよな? 俺が一番イケてるぞ!」

 

「それを言ってるマスターが一番イケてないですわ……」

 

 ルーメリアがうげぇといった感じで、ドン引きしている。

 なんだよ、顔面偏差値だけなら自信あるぞ、目を抜きにすればな。やっぱ目が原因かよ。

 

「この金色の人!」

 

 タマエはそう言いながら、トップカーストの奴を指差した。

 

「………ケッ、やっぱ葉山かよ……チクショッ!」

 

 やっぱ俺はお前が嫌いだよ、葉山。

 今の葉山が何してるかは知らないし、どんな風になったかも知らない。

 だが、タマエにカッコイイって言われてる、卒アル時点のお前はやっぱ嫌いだ。

 

「この色男……期待を背負う勇者の笑顔と同じですわね。この手の人間は良くも悪くも自分より周りを大事にし過ぎて、自身の幸せを蔑ろにしますわ。そんなのは悲しい結末しか待ってませんのよ」

 

 ルーメリアがどこか思い詰めたような表情で、そう言う。

 

「お前、良く分かるな……」

 

「魔王として、このハヤマと言う色男と似た勇者を何人も葬ってきましたわ。この色男もきっと、周りからの期待に応えるべく、必死に生きてきたに違いありませんわね」

 

 流石は魔王様。伊達に何人もの勇者を倒してきただけはある。

 倒す過程で、勇者のバックグラウンドに触れてきたのかもな。

 そう思うと、勇者って損な役回りだよな。周りからは魔王を倒しに行くのが当たり前とか思われてるんだから。俺ならバックれるね。

 

「ルーメリアの言う通りだ、笑顔の裏に苦労を潜まてる奴だったよ。誰にでも良い奴で、誰にも優しい奴で、嫌な顔一つしないで周囲の期待に応えとする。そんな、ムカつくくらいに理想主義のカッコイイ勇者様だったよ。俺はそんな葉山が嫌いだった」

 

 勇者属性の葉山に対しては、大人になった今はこう思う。「俺はお前が嫌いだ」なんて自分の素をさらけ出すような言葉が吐けるのは、ある意味、真に気を許せる相手に対してだけなんだろう、と。

 

「えーと、良い人なんですよね?」

 

 タマエが不思議そうに聞いてくる。

 

「そうだな、良い人過ぎるんだよ」

 

「あるじ様と一緒ですね♪」

 

「………ああ、俺はタマエに対して凄く良い人だからな」

 

 俺は歯を見せながら、キリッと良い笑顔で言い放った。

 葉山と一緒なんて言われたのは、初めてだ。そのせいで、うっかり反応が遅れてしまったぞ。

 

「ん? なぜか、この眼鏡の女から負のオーラを感じますわね……」

 

 違う、それは負のオーラじゃない。腐のオーラだ。

 流石は腐海の住人。写真越しからもオーラを発するなんて、只事じゃないぞ。

 

「ゴブゴブ♡」

 

 次はゴブタニがページを捲り出して「この子可愛い♡」とか、思春期真っ盛りの高校生みたいな事を言い出した。

 可愛い子を探すのって卒アルあるあるだよな。まぁ俺は友達なんて居なかったから、他人の卒アルなんて見た事ねーけど。

 

「どれどれ、誰がタイプなん………げっ、相模かよ」

 

 どうせ、三浦か由比ヶ浜辺りだろうと思って、ゴブタニが指差すを人物を見たら相模南だった。

 いや、うん、可愛いよね南ちゃん。あんまりいい思い出ねーけど。

 

「どうしたんですのマスター? この女と何かあったんですの? 顔が気持ち悪いですわよ?」

 

 俺は今、相当引きつった顔をしてるらしい。

 相模とは色々とあった……。

 まあアイツが体育祭で運営委員長をやり切ったのは、ポイント高かったけどな。

 

「………何て言うか……色々あって泣かせちゃったんだよ」

 

「あるじ様、女の子泣かせるのはメッ!だよ!」

 

 よし、メッ!されたいから、もう一回泣かせてこようかな。俺のゾンビスマイルを見せれば簡単に泣かせる自信あるぞ。

 

「ごぶごぶ?」

訳:痴情のもつれっすか?

 

「ちげーよ。仕事関連で揉めただけだ」

 

 ほら簡単だろ誰も傷つかない世界の完成だ、なーんてメガトン級にカッコつけてたっけ。やっべ、超恥ずいんですけど。なんなら今夜は毛布に包まって、悶え死ぬまであるぞ。

 

「どうせマスターの事ですから、無理な仕事を遂行する上で苦肉の策に出た。と言った所ですわね」

 

 え、なにコイツ?八幡検定一級?エスパー? いや、戦血の魔王だったわ。

 

「ぷるぷる♪」

訳:この子可愛い♪

 

 えー、ソフィーもそう言うお年頃なの?

 ソフィーが触手を伸ばした先を見てみると、

 

「戸塚ぁぁぁぁぁああ!会いたかったぞぉぉぉぉおお!」

 

「「マスター?(あるじ様?)どういう事ですの?(ですか?)」」

 

 幼女達の目からハイライトが消えた。

 これが、ヤンデレならぬヤンロリか。怖ぇよ、メッチャ怖い、あと怖い。

 

「か、勘違いするな!戸塚は男だ!」

 

 俺がそう言うと、カマクラ以外の従魔達全員が「は?」と言う様子で、固まってしまった。

 うん、そう言う反応になるよね。俺なんて出会って3秒で陥落したしな。

 

「うっ、目が浄化されますわ! わたくし、この手の聖天使が苦手ですのよ!」

 

 何故かルーメリアが目を抑え始めた。

 これは良い事を知ったわ。次ルーメリアがワガママしたら、戸塚とのプリでも見せるか。

 

「あるじ様は男の人が好き……」

 

 タマエは魂が抜けた感じで、ブツブツ言い始めた。

 いや、俺ホモじゃないからね? 戸塚は生物学上は男だけど、哲学上は性別戸塚だらかね? 

 

「ゴブゴブ……」

訳:可愛い過ぎんだろ……

 

「ぷるぷる!」

訳:人間って不思議!

 

「違うぞソフィー。人間じゃなくて、戸塚がスペシャルなだけだ。もっと言うなら戸塚は大天使トツエルだ」

 

「これ以上見てると目が焼けますわ!」

 

 ルーメリアは、目から蒸気を出しながらページを急いで捲る。

 なんで目から蒸気が出てるんだよ……。メッチャ不思議なんですけど。

 

「プッ、なんですのこの肥えた人間は!? プッ……プッハハハハ」

 

 ルーメリアが材木座を指さして、腹を抱えながらゲラゲラ爆笑しだした。

 コイツ、材木座でツボリ過ぎだろ。

 仕方ない、材木座は過去にちょいちょい色々手伝ってくれたし、フォローを入れてやるか。

 

「おい、失礼だろ……プッ」

 

 ヤッベ、俺もつられて笑ってしまった。材木座だし別にいっか。

 

「何でこの人間だけコートに指貫きグローブ……プッ、ハハハハ。あー、腹が痛いですわ、ハハハハ」

 

「もー、あるじ様もお姉ちゃんも、おデブさんに失礼だよ!笑うのメッ!」

 

 おデブさんとか言ってるタマエも充分失礼だと思うんだけどね。

 タマエはアレだな、ナチュラルに男子を傷つけるタイプだ。

 

「ゴブゴブ」

訳:デブはいいから、他のクラスも見ようぜ

 

 大して材木座に興味が無いゴブタニがページを捲り始めた。

 材木座って卒アルでも扱いが雑だな。

 

「そこで止めなさいゴブリン!」

 

 ルーメリアの声で、ゴブタニのページを捲る手が止まった。

 

「…………っ!?」

 

 様々な感情、遠い昔の煌びやかな思い出が鮮明に俺の胸の内に蘇る。

 

 今でも覚えてる。更生するべく連れ行かれたあの部屋で、彼女に見惚れしまった、あの時の事を。

 今でも覚えてる。彼女の人生を歪める権利を貰った、あの時の事を。

 今でも覚えてる。彼女に心無い言葉をぶつけてしまった、あの時の事を。

 

 そんな思い出から逃げるように、俺は卒アルから目を背けた。

 

「何ですの、この高貴なオーラを放つ女は……避けては通れない因縁……いつか、わたくしの前に立ちはだかる宿命のようなモノを感じますわ」

 

「わー、凄く綺麗な人間さん……」

 

「ゴブゴブ?」

訳:このクラス女ばっかじゃね?

 

「ぷるぷる♪」

訳:綺麗な人多いね♪

 

「にゃ、にゃー」

訳:この女、良く家に遊びに来てた

 

 カマクラが投げた爆弾により、俺は悟った。終わったなって。

 なので、俺は2階にフェードアウトしようとしたが、

 

「逃がさないですわ」

 

 パチッ

 

 ルーメリアが指を鳴らした瞬間、俺の体は血の鎖でぐるぐる巻きにされてしまった。

 

「な、何だこれ!? 離せ!!」

 

 フェードアウト出来ませでした。なんなら人生からフェードアウトしそうだよ。

 とにかく操血魔法が万能過ぎる件に関して!

 

「マスタ〜どういう事か、事細かにお願いしますわ♡」

 

「あるじ様、詳しく教えて下さいね♡」

 

「えーとだな……ルーメリアには前に言ったと思うが、も、元カノだ……」

 

 何でだ……。やましい事なんか一切してないのに、浮気を問い詰められてる夫の気分だ。

 幼女2人の目は、親父がゴミ箱に捨てたキャバの名刺を見つけた時のお袋の目と一緒だ。

 何が言いたいかと言うと、超ヤベー!

 

 俺はSOSの視線を他の従魔達に投げるが、目を逸らされた。カマクラに至っては我関せずで、縁側で昼寝しだしたし。

 なんて薄情な従魔達なんだ!

 

「「で?」」

 

「は!? でって何だよ!? これ以上何を言えってんだ……おい!ま、待てルーメリア!周りに展開してる血の矢をしまえ!タマエもいい子だから、変な光を出すのをやめなさい!」

 

 それから俺は散々吐かされた。雪ノ下と出会った経緯から付き合った後までの事を細かく吐いたよ。まさかプレイ内容まで聞かれるとはな………。

 雪ノ下に猫耳を付けてニャンニャンプレイした時の事を話したら、顔の近くに矢が飛んで来てチビッちゃったよ。

 余りにも理不尽。話せって言ったの魔王様じゃん。

 

「ふーん、結局本物はありましたの? その女が本物だったんですの? ニャンニャンするのが本物ですの?」

 

「えっちな事するのが、あるじ様の本物………?」

 

 こいつら、インチキ魔法のバーサーカーソウルを発動しやがった!! もうやめて!八幡のライフはゼロよ!!

 

「頼むからから本物を連呼しないでくれ! 八幡マジで死んじゃうから!」

 

 俺は鎖を解こうと必死に藻掻くが、全く解ける気がしない。

 

 流石に俺だって、30間近になって本物なんて曖昧なモノには拘ってなんかいない。

 それでも、本物って言われると恥ずか死ぬんだよ。やっぱ黒歴史って克服できねえわ。

 

 パチッ

 

 ルーメリアが指を鳴らすと、鎖が解けた。どうやら俺は修羅の道を抜けたらしい。

 

「ゴブリン、奉仕部はありましたの?」

 

「ゴブ、ゴブ!」

訳:お嬢、見つけたました!

 

 ゴブタニが部活動紹介のページを開き、ルーメリアとタマエに渡す。

 悪役令嬢の腰巾着ゴブリンめ。

 

「これが奉仕部……って、ただのハーレムコミュニティですわ!」

 

 ただならぬ勘違いをしてるようだから、正してやる必要があるな。

 

「ケッ、何がハーレムだ、笑わせるな。ラッキースケベとか一切無かったぞ。ラブコメの神様は俺に微笑むどころか、嘲笑ってたんだよ」

 

「女の人が4人……男はあるじ様が1人……えっちです!」

 

「違うんだタマエ!えっちな事したのは雪ノ下だけだ!しかも4人の内の1人は妹の小町……。待てよ、女が4人? ちょっと見せてくれ」

 

 奉仕部に幻のシックスマンみたいなのが居た記憶がない。そもそも俺よりステルス性能が高い奴なんて居てたまるか。

 なので、俺も卒アルを覗いてみる。

 

「そう言えば写真撮る時に一色も居たわ……」

 

「妹君の小町は良いとして、全員距離が近いですわね。それにマスターの鼻が伸びてますわ。本当にボランティアコミュニティだったんですの? マスター専用の風俗ではなくて?」

 

「ふーぞく?」

 

「タマエは知らなくて良い。本当に奉仕部は困ってる人をサポートする部活なんだ。断じて、いかがわしい事なんてしてない。信じてくれ」

 

 何で俺が浮気の弁明みたいな事を言わなきゃイケないんだ……。

 

「この女の人、なんか怖いです……」

 

 タマエは俺の腕にしがみつく一色を指差す。

 確かにこの4人の中なら、ある意味一番怖いのは計算高い一色だな。

 

「このユイガハマと言う女……全盛期のわたくしよりデカイですわね……うぅ悔しいですわ」

 

 ガハマさんに勝てる胸部装甲を持ってる奴なんて、そうそういねえよ。

 マジあの胸部装甲ヤバイから。マジ悩殺兵器だから。

 

「一応言っとくが全員良い奴だからな。由比ヶ浜はバカだけど、明るくて優しい人間だ。一色は腹黒い所はあるけど、意外としっかり者なんだ。雪ノ下は方向音痴でポンコツな面はあるが、真っ直ぐで、負けず嫌いの努力家だ。で、小町は俺の天使だ」

 

「「シスコン……」」

 

 ハイハイ、シスコンシスコン、ロリコンロリコン。世間に醜態を晒した俺は、もはや無敵の人だ。何て言われようが、開き直れるね。

 

「もういいだろ。卒アルは俺が元あった所に戻しておくから」

 

 半ば強引にルーメリアから卒アルを取り上げると、卒アルの中から封筒らしきモノが落ちた。

 そして、それを拾って開封するルーメリア。

 

「なんですのこれ………青春とは嘘であり、悪である……」

 

「………なっ!? それはダメだ!!」

 

 俺は急いで読むのを止めよとするが、

 

パチッ

 

「離せ!それを読むんじゃない!」

 

 またもや血の鎖でぐるぐる巻きになってしまった。

 ルーメリアはジタバタする俺を無視して、読み上げ続ける。

 

「誰か俺を殺してくれぇぇぇぇぇ、ゔぅぅぅ!?」

 

 とうと口にまで鎖を施されてしまった。

 これなんてイジメ? イジメじゃないよ、拷問だよ。

 

「…………結論を言おう。青春を楽しむ愚か者ども、砕け散れ。2年F組比企谷八幡……なんですの、この粋な犯行声明は。センスがありますわね」

 

 黒歴史を褒められても、なんも嬉しくねーよ!!

 

「あ!ルーお姉ちゃん、まだ何か封筒に入ってるよ」

 

「ゔぅぅぅ!?」

 

 しまった!!あの封筒に入ってるのは、きっと……

 

「写真?………って、次は知らいボインな女と肩を組んでますわ!?」

 

「また黒髪の人…しかもデカイです……アルジサマハ、デカイノガスキ……」

 

 違う、それは平塚先生だ! ただの結婚願望が強い、どこにでもいる量産型女教師だ! いや、あんな人が量産型な訳ないか。

 その写真は確か、平塚先生がわざわざ赴任先からやって来て、進学祝いで奉仕部面子を高級焼き肉に連れてってくれた時のだ。因みに酔っ払った先生を陽乃さんが連れて帰るまでがセットな。

 確か、写真を撮ってくれたのは雪ノ下か由比ヶ浜のどっちかだった筈。

 

「ゔぅぅ!ゔぅぅ!(頼む!話せば分かる!)」

 

 やましい事なんてしてない!本当だ!

 

「「マスタ〜♪(あるじ様〜♪)」」

 

「ゔぅぅぅぅぅぅい゙ぃぃぃぃぃ!!(助けてぇぇぇぇぇ小町ぃぃぃぃぃ!!)」

 

 この後、ヤンロリと化した幼女2人に平塚先生との関係を洗いざらい吐かされました。メデたしメデたし……ってなんもメデたくねーよ!

 




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