か、カマクラが若返ってる!?   作:9ナイン9

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16:教養があれば、娯楽も楽しくなる筈。

 現在、庭裏ダンジョン2階層にて新入りの為のダンジョン研修を行っている。

 

「妖術・妖光!」

 

 タマエの妖術によって、生み出された妖しき光が昆虫モンスターへと降り注がれる。

 

「グギ!」

 

「カサカサ!」

 

 その妖しき光を受けた敵共は、互いに同士討ちを始めた。

 妖術便利だな。今後も使う場面が多そうな撹乱に最適のスキルだ。

 

「よし今だ、ゴブタニ!刀の錆にしてやれ!」

 

「ゴブ!」

 

 ゴブタニは腰の鞘から刀を抜き取ると、即座に敵へと詰め寄って切断。

 

「グギ……グギ……」

 

 6体居た敵が瀕死の2体だけとなった。どうやら斬撃が浅かったようだな。

 

「ゴブタニ、切断が浅いぞ! もう一回やれ!」

 

 そしてゴブタニの横一文字の斬撃によって、残っていた敵が光の粒子となって消えて逝った。

 

「初日にしては刀の扱いが上手いんじゃないか? 才能あるぞお前。知らんけど」

 

「ゴブゴブ……」

 

 ゴブタニがジト目で見つめてくる。

 俺の適当な褒め言葉が不満なようだ。

 

「仕方ないだろ。俺も剣とか刀に関しは素人なんだし」

 

 本当に才能あると思うぞ。YouTube動画だけで勉強して、こんだけ扱えるなら充分だろ。

 素人の俺からしてみれば、刀で切るってのは凄い技量が必要だからな。さっきなんて、適当なゴブリン相手に試し切りさせて貰ったが、俺は全く扱えなかった。

 

「あるじ様あるじ様! 私は〜?」

 

 タマエは褒めて欲しいそうに、期待を込めた眼差しを向けてくる。

 タマエちゃんったら〜欲しがり屋さんなんだから〜。これはお兄ちゃんとして、褒めてやらないとな。

 

「タマエも凄かったぞ、なんなら今日のMVPはタマエだ。八幡検定1級もあげちゃうぞ」

 

「わーいわーい!えむぶいぴー!」

 

 喜ぶタマエの頭を撫でてたら、後ろからポカポカと背中を叩かれた。

 ちょっと痛いんですけど……。

 

「むー、マスター! いつまでタマエにデレデレしてるんですの! わたくし、暇ですのよ!?」

 

「なんだよ、お前も撫でて欲しいのか?」

 

「べ、別にそんなじゃ無いですわ! ま、まぁ、幼女趣味のマスターが、どーしてもわたくしの尊き頭を撫でたいのなら、特別に触れる事を許して差し上げますわ」

 

 中身は良い歳してる癖に、ツンデレ紛いな事を言い出す魔王様。

 精神年齢まで若返ったのか知らんが、どうやら難しい年頃のようだ。

 これは多分、俺にも原因があるんだろうな……。

 

 なので、ルーメリアの頭に手を伸ばして、絹のような美しい白銀の髪を、優しく撫でる。

 

「あうぅ……マスターのバカ……」

 

 何このトラップ。バカって言われちゃったよ、ヒドイ。このツンデレヴァンパイアめ。

 

「あー!るーお姉ちゃん顔が赤いよ? あるじ様、お姉ちゃんをイジメちゃメッ!だよー」

 

 タマエの言葉で恥ずかしくなったのか、ルーメリアは俺の手を雑に退ける。

 もっと幼女にメッされたい!

 

「………っ!! 魔力感知に反応がありましたわ!Gのスタンピードですわよ!」

 

 ルーメリアの声で緩んだ空気が引き締まる。

 Gのスタンピードとは2階層で、ちょいちょい起きるG型モンスターの大量発生の事だ。

 

「にゃー!」「ぷるぷる!」

 

 後方でじゃれ合ってたカマクラとソフィーが戦線に加わる。

 

「「カサカサ、カサカサ」」

 

 目の前には無数ものGが現れ始めた。

 軽く50はいるんじゃないか? やっぱ気持ち悪いなアイツら。

 

「ルーメリアとソフィーは、遠距離攻撃で敵を迎撃! タマエは抜けて来た敵に妖術を掛けろ! カマクラ、ゴブタニは敵陣後方に切り込んで殲滅してやれ!」

 

「ブラッドアロー!」「ぷるぷる!」

 

 各々に指示を飛ばすと、強酸の雨と血の矢が敵へと絶え間なく降り注ぐ。

 

「妖術・妖光!」

 

 こちらのスキル攻撃を運良く掻い潜ってきた敵は、怪しき光により混乱して仰向けになったり、同士討ちを始めた。

 

「ニャアアアン!」「ゴブゴブ!」

 

 そして締めに、カマクラとゴブタニがG共に襲い掛かり、爪撃と斬撃で滅多斬りにしてゲームセット。

 

 もはや、このダンジョンで我が軍の布陣を破れる敵はいない。

 フフフフフッ。圧倒的ではないか、我が軍は!

 

「なんでマスターが得意気な顔をしてるんですの?何もしてないですわよね?」

 

 おっと、心の中で材木座ムーヴをかましてたら、顔に出てしまったようだ。ちょっと恥ずかしい。

 

「しただろ。指示出しとか後方指揮官ぽくて良かっただろ。俺的に名采配だったぞ」

 

「あるじ様カッコ良かったです! 後ろで腕を組んでニヤけてた所とか、偉そうでカッコ良かったです!」

 

 なんだろう、タマエはキラキラした目で褒めてくれるが、全く褒められてる気がしない。てか、そんな偉そうにしてたのかよ俺。

 ブラック企業にいた頃のクソ上司みたくなるのは御免だ。よし、今晩は美味い濃厚カルボナーラでも作って、従魔達の好感度を底上げしよ。

 

 今晩の飯の事を考えながらドロップ品と魔石を回収した俺は「仲良く食えよ」と言いながら、今日手に入れた魔石を従魔達に配る。

 

「ゴブウーーーー!!!」

 

「これは進化……!?」

 

 魔石を5個食った辺りで、ゴブタニが突如と光を帯びだした。

 正統派の進化ならホブゴブリンになる筈……。

 

 次第に光は収まり、ゴブタニが姿を表せる。

 

「おお、お前なんかワイルドになったな」

 

「ゴブ!」

 

 ドヤ顔で、居合のポーズをするゴブタニ。

 

 オールバックみたいな黒髪が生えた以外は……少し身長が伸びたか?

 

「前に居た世界では、いなかった種類のゴブリンですわね……」

 

「ゴブさんの進化わーいわーい♪」

 

「にゃー?」「ぷるぷる♪」

 

 カマクラとソフィーはゴブタニの髪が珍しいのか、触って遊び始めた。

 

「こい、モンスターブック」

 

ネーム:ゴブタニLv8

種族:サムライゴブリン

スキル

【身体強化】【瞑想】【間合】【飛斬】

 

ステータス

生命力:470/470

魔力量:380/380

筋力 :+470

耐久力:+350

敏捷力:+400

知力 :+230

 

 おー、進化して結構強くなってる。

 気になったので、新スキルの【間合】と【飛斬】をタップしてみる。

 

 【間合】は魔力を消費して、ハンターハンターで言う所の円みたいなもんを展開するらしい。

 【飛斬】は魔力を消費して、飛ぶ斬撃を放つと書いてある。

 

「検証するか。ソフィー、ゴブタニの目を塞いでくれ」

 

「ぷるぷる」

 

 ソフィーがベチャっとゴブタニの顔に張り付いた。

 

「ゴ、ゴブ?」

 

「悪いなゴブタニ。【間合】を使って、目隠し状態で俺とジャンケンだ」

 

「ゴブ、ゴブ」

 

 頷いてくれたのでジャンケンをする。

 

「「ジャンケンポン!(ゴブゴブ!)」」

 

 俺の負けか。なのでパーをしれっとグーに変えてみる。

 

「ゴブゴブ!ゴブ!」

訳:旦那が大人気無い!腐ってるぜ!

 

 どうやら【間合】を展開してる間は、範囲以内になる生物が何をしてるかが分かるようだな。

 つーか、腐ってるは余計だろ。

 

 この後も引き続き【間合】の距離と、【飛斬】の威力を確かめてみた。

 

「間合の展開距離は半径5mで、飛斬は魔力を込めた分だけ威力を増す……強くなったなゴブタニ。俺は嬉しいぞ」

 

 最初は荷物持ちとしてテイムしたのに、今では立派な戦力になってくれた。感慨深いぜ。

 それと余談だが、魔生物図鑑を確認したらサムライゴブリンは載っていなかった。これで俺は新種のゴブリンを発見した事になるな。

 

「てかお前、サムライになりたかったのか?」

 

「ゴブゴブ……」

訳:飛天御剣流がカッコ良くて……

 

「あ、うん、そうなんすね……良いと思うぞ……」

 

 アニメの影響かよ。これで頬に十字傷を付ければ完璧だな。やろうとしたら止めるけど。

 これは俺の仮説だが進化先はある程度、本人の望む方向へと向かうのかもしれないな。200万も払って刀を買ってあげた甲斐があったわ。

 

「ねーねー、ルーお姉ちゃん! 私もお姉ちゃんみたいな綺麗なドレス着たい!」

 

「フフン、タマエにはまだ早いですわ。わたくしみたいな大人のレディーになってからになさい」

 

「むー、お姉ちゃんも私と一緒で子供!」

 

「違いますわ! 中身は立派な淑女ですの!」

 

 なんか、気付いたら幼女達が騒がしくなったな……やれやれ、止めるか。

 

「ハイハイ、どっちも立派な淑女だから仲良くしような。さぁ、もう帰るぞ」

 

 まだ午前中だが、早上がりだ。今日はタマエの力とゴブタニの刀の具合を試すのが目的だからな。

 それに、デスクワークも溜まってるし。経理業務やりたくね〜。

 

「えへへ、あるじ様だーい好き♡」

 

「おー! 俺もタマエが大好きだぞ。今日は初めてのダンジョンで良く頑張ったな」

 

 タマエの頭をナデナデし終えて、帰る事にしたが、

 

「わたくしも頑張りましたのよ……」

 

 不満気なルーメリアにズボンを引っ張られた。

 

「お、おう……なんだ? マッ缶が欲しいのか?」

 

 マッ缶を取り出そうとしたら「違いますわ!」と言われ、手を差し出された。

 え、何が欲しいんだよ。高級スイーツか? コンビニの高級風なヤツで我慢して欲しいんだが……。

 

「鈍いマスターですわね。エスコートを所望しますわ」

 

「………いや、ここダンジョンだし。手が塞がらるのイヤなんですけど……ゴブタニにエスコートして貰えば?」

 

「ゴブゴブ? ゴブ〜」

訳:お嬢、手を繋ぎたいですか? お嬢も可愛い所ありますね~

 

「貴方は引っ込んでなさい!」

 

「ゴブ……」

訳:なんかごめんなさい……

 

 折れるの早過ぎだろゴブタニ。しかもお嬢って何だよ……。お前そんな悪役令嬢の腰巾着みたいなキャラでいいのかよ。

 

「はぁ〜今日だけだぞ」

 

 これ以上機嫌を悪くされてもイヤなので、小さい手を握ってあげる事にした。

 

「ルーお姉ちゃんだけズルイ!」

 

 タマエは俺の反対側の手を握ってくる。

 

「おいタマエ、お前もかよ……」

 

 もう、両方可愛いから何でもいっか。

 ほら、可愛いは正義って言うだろ?

 

「カマクラ、ゴブタニ、ソフィー。俺の両手が塞がった、全力で出口まで守ってくれ。よろしく」

 

「ゴブ……」「にゃ……」「ぷる……」

訳:これが幼女たらし……

 

 お前ら……聞こえてるぞ。俺は断じて、たらし込んだ覚えなんか無い。

 

 こうして俺達は、ダンジョンから帰路に着いた。

 左右にいるルーメリアとタマエの幸せそうな顔が見れて、お兄ちゃん的にはポイント高いぞ。

 もし俺に娘が居たら今頃、こんな感じだったのかもな……。

 

「……おい」

 

 あれ、ちょっと魔王様? 何で指を絡ませてくるんですの? それ、俗に言う恋人繋ぎって言うヤツですよ?

 ルーメリアに視線を投げ続けたら、恥ずかしがってるのか、プイっと顔を背けられた。

 ちょっとだけドキッとしちゃったじゃねえか。

 

 幼女にドキッとさせられたと言う敗北感を味わいながら、帰路に着いた。

 

♢ ♢ ♢

 

 ダンジョンから戻って、ノートPCにインストールした会計ソフトに収入と支出を打ち込んでいるんだが……。

 

「ゴブ、ゴブ?」

 

 ゴブタニが俺の腕をユサユサと揺らしてきたので、作業の手を止める。

 

「あー、これは螺旋丸って読むんだ。こっちは千鳥だ」

 

「マスタ〜。この順転とか反転の蒼と赫はなんですの?なんで茈になるんですの?そもそも無下限呪術が理解出来ませんわ」

 

 次はルーメリアが最近話題の漫画を持ってきた。

 

「えーとそれはだな……」

 

 ったく、何で漫画の解説を俺がしなきゃイケないんだよ。大体、日本人の俺でも、五条先生の術式の原理って結構曖昧なんだよな。いや本当に無限の解釈とか作品によって結構複雑だからね。

 

「結構、端折って説明するぞ。無下限呪術は術者の周囲に、無限によって絶対不可侵の空間を作り出す術式だと覚えれば良い。で茈だが……蒼が引き寄せる力で収束する無限。赫は弾く力で発散し続ける無限だ。この2つの無限を衝突させて仮想の質量を生み出してるのが茈だ。ああ、それと仮想の質量が何なのかは質問するな。文系の俺には理解が出来ん」

 

 てかもう茈に関しは、実現不可のエネルギーを生み出してるって表現のが正しい気がするんだよな……。

 

「なるほど……空間魔法と重量魔法を応用して時空魔法を生み出してると考えれば納得がいきますわね」

 

 いや、その例えは俺には全く理解が出来ないからね。てか、そんなヤバイ魔法があんのかよ。是非とも一度は見てみたいな。

 

「あるじ様あるじ様。これが全く読めません……」

 

「うん?どれどれ、俺の固くて太いのを入れて、白濁を流し込んで……って、この小説はタマエには早い! 見ちゃダメです。なんなら一生見ちゃダメだ!」

 

 タマエから官能小説を取り上げて、空間収納の中にしまう。

 屋根裏の奥に封印した筈なのに、どうやって見つけたのか疑問だ。

 

「え〜」

 

 可愛いく頬を膨らますタマエ。えへへ、なにそれめっちゃ可愛い!

 

「そんな顔してもダメです」

 

「ゴブ、ゴブ」

 

 またゴブタニがナルトの漫画を持ってきたよ、もう我慢の限界だ。ここ数日こういうのが多過ぎる。

 義務教育がどれだけ偉大だったのか、改めて知ったわ。

 

「3人共、ソファーに座って待機してなさい」

 

 3人をソファーで待機させて、俺は『国語 問題集 小学校1年』と調べて、調度良いやつを印刷にかける。

 2階から国語辞典と漢字辞典も持ってくる。

 

「平仮名が分からない人は手を上げなさい」

 

 タマエが元気良く「はーい\(^o^)/」って手を上げた。素直でよろしい。

 そんな中、ゴブタニとルーメリアは余裕の笑みを見せている。

 多分ゴブタニはアレだ、漫画のなぁなぁな知識でなんとなく読めてるだけで、書けないパターンだな。

 ルーメリアも同様に【異世界言語】のスキルで読むのが出来るだけで、書くのは厳しい筈だ。

 

「よし、タマエはこれからやろうな。出来たら将来、カッコイイお姉さんになれるぞ」

 

「本当!? 私頑張る!」

 

 タマエはやる気満々で、平仮名と向き合い始めた。

 

「お前達は余裕なんだな? なら平仮名のテストだ。40分やるからやってみてくれ」

 

「余裕ですわ♪」「ゴブゴブ♪」

 

 テスト用紙を配ると、黙って解き始めたので、俺は黙って見守る。

 さてさて、どうなるか楽しみだ。ククッ

 

・・・・

・・・

・・

 

「ルーメリアが55点。ゴブタニが40点だな。付け加えると、ゴブタニは自分の名前を書けるように頑張ろうな」

 

「異議ありますわ!」「ゴブゴブ!」

 

「なんだよ?一応聞いてやる」

 

「読めれば充分ですわ。書けなくても日常生活に問題なんかありませんもの」

 

「ゴブゴブゴブ?」

訳:ダンジョンで役に立つのかこれ?

 

「確かに読めれば充分、一理あるな。ダンジョンでも役に立たない、その通りだ。だけど、平仮名がマトモに書けないと日本では問答無用で馬鹿扱いだ。お前達はこう言われるんだぞ『まぁ魔物だから馬鹿でも仕方無いよね』って。いいのかそれで?」

 

 挑発気味にそう聞くと、二人とも露骨に悔し気な表情をする。

 

「………イヤですわ! わたくしは馬鹿ではありませんわ!」

 

「ゴブ!」

 

「ならやれ。勉強しなくても半分近くは取れたんだ。お前達なら2時間も勉強すれば余裕だ」

 

 2人は先程と違い、真剣にプリントに向き合い始めた。

 てか、ステータスの知力に補正値がプラスされてるんだから、平仮名程度なら絶対に余裕の筈だ。

 

・・・・

・・・

・・

 

 2時間程でPC業務を終わらせた俺は3人にテストをやらせて、今採点が終わった所だ。初めて知ったが、採点って手間がかかるんだな。採点が合ってるか、意外と心配になる。

 

「タマエは73点。あと1時間勉強すれば90点台はイケそうだな。ルーメリアは99点。おに丶が付いて無いから気をつけろ。ゴブタニは92点。字が汚いのは目を瞑って甘めに採点したから気をつけるように。てことでルーメリアとゴブタニは次片仮名だな」

 

 それから難なくゴブタニとルーメリアは片仮名もクリアして、漢字に挑戦中。

 タマエも無事に平仮名を卒業して、片仮名に昇進。

 

「ゴブリン、早く聞きなさい」

 

「ゴブ、ゴブゴブ……」

訳:知りたがってるのお嬢なんだから、お嬢が聞いて下さいよ……

 

 何が知りたいんだ? コソコソ話しだから全部聞き取れん。そんな躓くような漢字とかあるか?

 

「どうした? 難しい漢字とかあったか?」

 

「な、なんか、このゴブリンが質問しても良いのかって、ウジウジ悩んでますわよ」

 

「そうなのか? 何でも聞いて良いぞ、ゴブタニ」

 

 ゴブタニはとばっちりを受けたかのような顔をしている。本当にどうしたんだコイツ……。

 

「……ゴブゴブ?」

 

「俺の名前の漢字か? そう言えば確かに見せた事が無かった気がするな……こう書くんだ」

 

 適当な白用紙に【比企谷八幡】って書いてやると、ルーメリアが食い付いてきた。

 

「ふーん、マスターって名前も面倒くさいですのね。最後のなんて画数が多すぎですわ。まぁ、わたくしならこんな漢字、簡単に覚えられますわね♪」

 

 髪をかき上げて、得意気な表情を見せるルーメリア。

 俺をdisりつつ、自分の優秀さをアピールしてくるとか、本当に良い性格してるなコイツ。

 

「へいへい、自分でも珍しい苗字と名前だと思うわ。お陰で、ヒキタニ君とかヤハタ君って良く間違われたしな。何なら卒業式でも間違われたぞ」

 

 懐かしいな。高校の卒業式でヒキタニって呼ばれて、その後の奉仕部の集まりで、雪ノ下と由比ヶ浜が笑いながら慰めてくれたっけ。傷口に塩を塗るとは、あの事を言うんだな。

 

「出ましわ。マスターの訳の分からないトラウマが……」

 

「まぁアレだ、何が言いたいかと言うとだな、日本で漢字が読めないと人の名前を平気で間違えてしまう。場合によっては嫌われる。そうならない為にも、お前達は今の内に勉強するんだ。因みに国語力が上がれば、より漫画が楽しめるぞ」

 

 勉強するにも、自分が勉強してる理由と目的を知っておいた方がいい。じゃないと続かないからな。まぁこいつらの場合は娯楽コンテンツを楽しみたいが一番の理由だろうけど。良かったね、漢字もマスターすれば遊戯王カードの複雑なテキストも読めるようになるぞ。

 

「あるじ様あるじ様! お名前いーーっぱい書きました♪」

 

 タマエがキラキラとした笑顔でノートを見せてくる。ノートには『比企谷八幡♡』が沢山書かれている。

 うん、そのノート俺の宝物にしよう。なんなら家宝にしよう。

 なので俺はスマホでパシャリと写真を撮った。

 

「わたくしも書きましたわ」

 

 なんだ? コイツもマスターである俺の名前を書いてくれたのか? 意外と可愛いとこあるな。

 そう思い、ルーメリアのノートを見てみる。

 

 腐れ目、めんどくさがり屋、ケチ、トマト嫌い、閉じ籠もり気質、シスコン、ロリコン、誤魔化す時はアレアレ言い始める、糖尿病予備軍……etc

 

「全部、俺の短所じゃねぇか。なんなら悪口だろ」

 

 つーか、コレを書く為だけに漢字辞典を引いてたのかよコイツ。大した執念だな。

 

「ゴブゴブ」

 

 ゴブタニもノートを渡してきたので見てみる。

 

「サーロイン、タン、バラ、ランプ、ヒレ、リブロース……って、何で牛の部位なんだよ!」

 

「にゃ〜」

 

 縁側で寝てたカマクラが、俺の足をポンポンしながら早く飯を作れと急かしてきた。

 

「あ、うん、ご飯にするか……」

 

 まぁこの調子なら、すぐに最低限の教養は身に付くだろ。

 やっぱ日本の漫画って偉大だと思うわ。従魔達が勉強するキッカケになってくれたんだからな。

 

 こうして俺は、頑張ってくれた従魔達にカルボナーラを作るべく、料理を開始した。

 

♢ ♢ ♢

 

番外編:恋は落ちるもの

ルーメリアside

 

 日を跨ぐ直前の、夜の11時。

 わたくしは二段ベッドの上で僅かな灯りに照らされながら、毛布に包まって、うつ伏せ状態でノートにペンを走らせていた。

 

「比企谷八幡……やっとマスターの名前がちゃんと書けるようになりましたわ。フフッ♪」

 

 わたくしは今きっと、酷いニヤケ面をしているに違いないですわ。

 されど、これは仕方無き事。この五文字を見るだけで凄く幸せな気持ちになるんですのよ。

 

「これが恋なのですね、ライミー。もっと貴女と恋について語り合えば良かったですわ」

 

 ノートを抱きしめながら、亡き友の笑顔を思い浮かべる。

 四天王であるハーピィクイーンのライミー。四天王で唯一の女性であり、わたくしにとって友であった存在。

 凄くお節介焼きで、恋だとかの浮ついた話が大好きだったハーピィでしたわ。

 

 ライミー……この世界に来てから、わたくしはダメダメですわ。自分の髪でさえ、乾かすのに苦労してますもの。貴女がどれだけ大切な存在だったか、改めて知りましたわ。

 もし、貴女が居てくれれば……貴女が好きな恋の相談も出来たのに……。

 

「1000年以上も生きてるのに初めてですわ、こんな気持ち……」

 

 わたくしの信念は必勝不敗。今までは魔王としての自分に絶対なる勝利を捧げるべく、必勝不敗を謳ってきた。

 ですが今は……自分にでは無く、勝利を捧げたい人がいる。

 

「フッ、戦血の魔王が聞いて呆れますわ。わたくしも所詮、女だったって事ですわね」

 

 過去の自分と対比すると、自虐的な笑いが自然と出る。

 いつからマスターに対して恋心が芽生えたのかなんて分からない。昆虫の魔物から庇ってくれた時かもしれない。クラウスの弔いで抱きしめてくれた時かもしれない。

 わたくしが魔力を無理矢理繋げるべく、強引に口づけを時かもしれない。いや、あの時は保護してくれそうな、チョロそうな人間ぐらいにしか思いませんでしたわね。

 

「ドキドキが……収まりませんわ……」

 

 もしかしたら、マスターが料理してる時の後ろ姿だったり、

 髪を乾かしてくれる時の優しい手つきだったり、

 酷いワガママを言った時にちゃんと正してくれる所だったり、

 陰湿なグリグリをされた時だったり、

 そんな些細な所に、惹かれたのかもしれない。

 あのグリグリ、何回もされるとクセになるんですのよね……。

 

「恋はするのでは無く、落ちるもの……って良く、ライミーが言ってましたわね」

 

 当時は戯言かと思ってたが、いざ当事者になると理解してしまう。気づいたら、非力な人間を好きになってたのだから。

 でも、それ故に嫌な事も理解してしまう。マスターがわたくしの事を異性として大して意識してない事が。

 この前、妹君である小町が遊びに来た時に、マスターがわたくしに向ける目は、小町に向ける目と同じだと分かってしまった。マスターからしたら、わたくしは手の掛かる妹ぐらいの認識。

 

「どうしたら……」

 

 逆転の一手が思いつかないですわ……。

 マスターは生粋のシスコン。なら、タマエみたく妹力で攻めれば良いんですの?

 お、お兄様大好き♡的な……ダメですわ! それは完全な悪手ですの!

 その攻め方で行くと、甘やかしてはくれますが、いつまで経っても妹枠で居る羽目になりかねないですわ!

 

 なら、色気は……これもダメですわ。一緒に暮らして分かりましたが、マスターの理性は魔王城並みに堅牢。程度の低いハニートラップでは看破されますわ。

 

「何でわたくしが、目の腐ってる人間なんかに……はぅぅ」

 

 いつまでたっても心臓が胸を突き破りそうなほど跳ねている。

  好き、大好き、どうしようもないぐらいに好き。今日、恋人繋ぎしたせいで、もっと好きになってしまった。自分ではどうしよも無い程にマスターの事を好きだと気付いてしまった。

 

「あー!こんなのいやですわ!」

 

 気づけば、ノートを抱きしめながら右往左往へとゴロゴロしながら悶えてしまう、みっともない自分がいる。

 こうなってるのもマスターの……八幡のせいですわ。わたくしは悪くないですわ!

 

 もう、好き……好きが止まりませんわ。わたくしはマスターが、比企谷八幡が……すきぃ……♡ だいしゅきぃ……♡♡♡

 

「……八幡♡」

 

「あるじ様がどーしたの? ルーお姉ちゃん」

 

「っ!!? た、タマエどうして起きてるんですの!?」

 

 いつから居たのか、タマエが二段ベッドの下から、ひょこっとケモミミをピコピコしながら顔を出している。

 魔王として一生の不覚ですわ! 気まずい……はぅぅ、棺桶に入りたいんですの!

 

「お姉ちゃんがうるさいんだもん……」

 

「上がって来なさい。今日は特別に一緒に寝てあげますわ」

 

 ノートをこっそりと枕の下に隠して、誤魔化すべくタマエをベッドに誘い込む。

 

「やったー! お姉ちゃんと一緒♪」

 

 タマエは嬉しそうに布団に入ってくる。

 マスターが甘やかしたくなる気持ちが、分かりますわ……。それにこのモフモフ具合、気持ちいいですわね。

 

「ねぇねぇ、お姉ちゃんの魔王譚(サーガ)の続きが聞きたいな〜」

 

「フフッ、仕方無いですわね。炎界勇者と戦った時の話をしてあげますわ。あれは確か、わたくしが……」

 

 昔話をしていると、次第にタマエから寝息が聞こえてきた。

 

 こんな温かく平和な日常は、前の世界では有り得なかったですわね。常に魔王として戦いに明け暮れた日々でしたわ。

 日本というこの国は本当に平和なんですわね。前の世界でも人間側ともっと上手くやれていれば……。

 それに、わたくしを拾ってくれたのがマスターじゃなかったら……想像もしたくないですわね。マスターとの生活以外は考えたくも無いですわ。

 

 この家は本当に暖かい。ご飯も皆で食べて、食卓は常に笑顔が溢れてる。誰かがマスターをイジッて、マスターがツッコミを入れる。そんな当たり前で、尊い幸せな日常がこの家にはある。

 魔王城に居た頃は皆、わたくしに気を遣っていましたわね。一緒にご飯を食べてくれるのは四天王ぐらいでしたわ。

 

 そんな四天王も常に忙しいから、食べるのは一人のが多かった。もっと無理を言ってでも、魔王軍の皆とご飯を囲めば良かったですわ。本当に後悔が絶えないですわ……。

 

「お休みタマエ。いい夢を見なさい」

 

 追憶も程々にして、最後にタマエの頭を撫で続ける。

 気づけばわたくしも意識を幸せな夢へと飛ばしていましたわ。




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