か、カマクラが若返ってる!?   作:9ナイン9

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14:ダンジョン以外でも、カマクラは精力的に活動していた。

 小町が帰った翌日、ダンジョンに行こうとしたのだが、出発が出来ないでいた。

 なぜなら出発時間になってもカマクラが来ないからだ。

 

 マジでアイツどこに行きやがった……。

 カマクラは夜になると散歩と言う名の深夜徘徊に行ってるから、それが原因だと思われる。

 

「まさかの家出じゃないよな……?」

 

「カマクラさんに限ってそれは無いですわ。ああ見えてマスター大好きっ子ですのよ」

 

「プルプル♪」

訳:親分強いから大丈夫♪

 

 案外誰も心配してないんだな。従魔達の様子を見てると心配無いのかもしれない。てかカマクラのヤツ、かなり慕われてんだな。

 

 感心してると、ゴブタニがいきなり手を上げだしたので「なんか知ってるのか?」と聞いてみた。

 

「ゴブ、ゴブゴブ」

 

 ゴブタニ曰く昨日の夜にどこに行くのか尋ねたら、カマクラは傘下の所に行ったらしい。

 

 いや、傘下って何だよ!?ちょっと八幡には獣の世界の事は理解出来ないよ……。

 

「とりあえず裏庭に居るのもなんだし、家に戻るか……」

 

 今日の探索予定をリスケして、俺達は家に戻った。

 て事で、二度寝を取ろう。平日の二度寝とか、マジ最高。

 

♢ ♢ ♢

 

 二度寝から目覚めて、そろそろ昼飯の準備でもするか〜と思ってる時だった。

 

「にゃ!」

 

 カマクラが慌てた様子で、勢い良く縁側から入ってきた。

 見てみると返り血を浴びていて、至る所が汚れている。それでいて血生臭い。

 幸いなのは、カマクラ自体は怪我してる様子が無い所だ。

 

「カマクラ、お前どk…って、何だよそれ……?」

 

 カマクラは口に咥えてた子犬サイズの何かをゆっくり下ろすと、ソレを舐め始めた。

 

「キツネ……?」

 

 子キツネの首根っこを丁寧に咥えていたようだ。この子キツネはカマクラと、どういう関係なんだ?

 カマクラは子キツネの傷口を労るように舐める。だが、子キツネを見る限りだと、身体中ボロボロで瀕死だ。呼吸も荒くて、もはやポーションでも手の施しようがない。

 

「にゃ!にゃぁぁ!」

 

 カマクラは、悲痛な声で大切な傘下だから助けくれ、と俺に言う。コイツとは俺がガキだった頃からの付き合いだが、こんな辛そうな表情を見るのは初めてだ。

 家族であるカマクラの願いだ、叶えてやりたい。やりたいが……

 

「助けろって言われても……どうやって……」

 

「にゃ!にゃ!にゃー!」

 

「なっ!?魔石を食わせる!?」

 

 確かに魔石を食わせてミラクルを起こすのはアリだ。だが、カマクラが若返った時もそうだが、俺はカマクラが初めて魔石を食った所は見ていない。正直言ってミラクルが起きる保証なんて無いんだ。

 

「ふぁ〜なんですの?騒がしい」

 

 ソファーで雑魚寝をしていたルーメリアが気だるそうに起きだした。

 魔王様なら何か知ってるかもしれない!

 

「なぁルーメリア、普通の動物が魔石を食うとどうなるか分かるか?」

 

 動揺を隠し、出来るだけ冷静に問いかける。

 ルーメリアはキツネの方に視線を向けると、状況を理解したのか真面目な表情になった。

 

「普通は凶暴化して死ぬまで暴れ続けますわ。まぁ運が良ければ適応して突然変異しますわね。もっともワタクシも適応した例なんて2回しか見た事がありませんわ。確率の低い賭けになりますわよ」

 

 そうか……賭けか。ならその賭けは必ず勝てる。なぜならこっちには、幸運をもたらす招き猫様がいるからな。

 

 俺は空間から魔石を取り出し、魔力を流し込む。

 

「カマクラ、話しは聞いただろ。万が一凶暴化したら、その時は……」

 

「ニャ!」

 

 カマクラは決意のこもった目で見詰めてくる。

 どうやら、カマクラが責任を持って始末するようだ。そこまで覚悟が決まってるなら、後はやるだけだな。

 

 俺も覚悟を決め、悪いと思いつつ子キツネの口を強引に開けて、魔石をねじ込んだ。

 

「キュッ!……キュ…………」

 

 子キツネは何回か痙攣を起こすと、パタンと動かなくなってしまった。

 

 はっ?死んだのか!?

 

「にゃ……」

 

 カマクラも悲壮感を漂わせながら顔を俯かせ始める。

 

 周りが暗い雰囲気に呑まれ掛けた時だった、

 

「……っ!?」

 

 子キツネが突如と輝き出したのだ。

 マジで何だこれ!? 眩しい……!

 

 光は段々と収まり、子キツネの姿が露になったのだが、

 

「ふえぇ?私……生きてる?」

 

 亜麻色の髪をしたロングヘアー。モフモフとしたケモ耳とシッポを生やした裸体姿の女の子。

 その女の子は、不思議そうに辺りをキョロキョロすると、俺と目が合った。

 

 ファンタジー世界なら獣人と言う種族に該当するであろう存在。もっと可愛く言うならケモ耳少女。いや、この場合少女にすら達していない。もっと詳しく言うと……

 

「ケモ耳幼女だと………」

 

「あ、私を助けてくれた人だ~ありがと〜♪」

 

 そう言いながら、俺の足に抱き着いてくるケモ耳幼女。足からは生暖かい温もりが伝わってきた。

 え、何この守りたくなる可愛い存在!!

 

「ぐぬぬ……マスター? 鼻の下が伸びてますわよ、このロリコンマスター!」

 

 おいおい、こんなの不可抗力だろ。可愛いケモミミ幼女が足に抱き着く幸運と、魔王幼女がメンチを飛ばしてくる不運で、今日の運勢はプラマイゼロ。むしろマーイですぜ。

 

「ち、違うぞ、俺は何もしてない! 冤罪だ!」

 

 とは言っても、また幼女かよ。ウチのロリっ子枠にはもうロリ魔王がいるんだよなー。

 待てよ?中身が1000歳以上の奴は果たして、ロリと言えるのか?

 

「なんですの!?その可哀想な物を見るような目は!?」

 

 心外と言わんばかりの表情をルーメリアは向けてくる。

 

「いや……お前って色々詐欺だな、と思って」

 

 そう言った瞬間、血が吹いた。物理的に。

 赤い何かが俺の頬を掠ったのだ。

 

「ひ、ひっ!?」

 

「次は急所を狙いますわ」

 

 コイツ!マスターにブラッドアローを飛ばしやがったぞ!?

 軽いヴァンパイアジョークじゃないですかー。てかヴァンパイアも年齢とか気にすんだな。

 

「ち、違うぞ! 出会った時の大人なお前も素敵だったが、今のお前も超素敵だって意味で言ったんだ! 本当だ!」

 

 なんかコレだと遠回しに俺はロリコンだって言ってる気がするが、今はそんな細かい事は後だ。

 

「……本当に……そう思ってますの?」

 

 あれ?ちょっと予想してた反応と違くない?何で上目遣いで人差し指を合わせながら、頬を紅くしてるんですの?

 俺の予想だと『ワタクシの魅力を理解しているなら許してあげますわ』と、こんな風に渋々許して貰う筈ったんだが……。

 

「ああ、思ってる思ってる。とりあえずこの幼女をだな……」

 

 視線を俺の足にしがみついてるケモ耳幼女に戻す。

 見れば見るほど可愛い。プリキュアよりプリプリしていやがる。いや、今はケモミミ幼女に見とれてる場合じゃないな。

 

「なあ……お前って、さっきまで死にかけてた子キツネさんか?」

 

「そうですよ〜♪」

 

 おっとりしたような声で答える幼女。本当に野生の世界で生きてたのかと、疑問に思えるおっとり具合だ。

 

 そんな事を思っていると、カマクラが幼女の足をポンポンしだした。

 すると、突然ハッとした幼女はカマクラを抱えだして熱いハグをする。

 

「カマクラおじ様、怖いお犬さん達から助けてくれたのおじ様ですよね? 何か恩返しがしたいです!」

 

 おじ様呼びから推察するに、どうやらカマクラは相当慕われてるようだ。

 まあカマクラの年齢的にも、おじ様呼びは妥当……なのか?

 

「にゃ〜みゃっ」

  

 なら、そこの目の腐った男の従魔になれとカマクラは幼女の頭を撫でながら言う。

 イヤ、色々ツッコミたいんだが。まず狐と猫ってそんなに仲良くなれるもんなの? 不思議だ。

 

「分かりました!いーっぱいご奉公します!」

 

 なんか俺を蚊帳の外に置いた状態で勝手に話しが纏まりそうなんだが……。

 

「勝手に話を進めてるとこ悪いが、お前は先ずコレを着ろ。で、カマクラ、ちょっと来い」

 

 幼女にジャージの上を投げ渡し、俺はカマクラの首根っこを掴んで自分に寄せる。

 

「どう言う事なんだ? そもそもお前、休みの日とか夜中はいつもどこに行ってんだよ?」

 

「にゃ、みゃ………」

 

 問いただすとカマクラは説明してくれた。だが、人間の俺には理解し難い話であった。

 

 カマクラは若返ってから暇な日や夜中は富津市や隣の君津市の各地にいるドラのボス猫、ボス犬、または鹿、イノシシ、猿などを倒し回って縄張りを拡大してた様だ。

 で、件の幼女狐はカマクラの庇護下にいる傘下の一人との事。

 ボスを倒したとか、縄張り拡大とか、傘下とか、俺の相棒は一体何を目指してるの?ヤクザの組長?海賊王?それとも新作ゲームのカマクラの野望でも発売予定ですか?

 

「にゃ〜」

 

 で、自分の縄張りに遊び行ったら、幼女狐がイカつい犬共にリンチされてたと。

 

「一応聞くが、その犬共は……?」

 

「にゃ」

 

 当たり前のようにあの世に送った、と恐ろしい事を言うカマクラ。

 ここで問題なのは、その犬共が野犬かどうかだ。

 

「その犬共って首輪してたか?」

 

「にゃ、にゃーん?」

訳:してたけど、それがどうしたんだよ?

 

「マジかよ、お前……」

 

 ただの予想だが、当たってたら最悪だ。

 犬共は狩猟犬で、害獣指定されてる狐を駆除をしていたと推察する事が出来る。

 

 富津市の中でも特に俺が住んでる所は人が全く居ないド田舎だ。だけど、富津市の中には農業をしてる人達だっている。そして、狐は畑を荒らす生き物だ。

 

 最悪な事にカマクラは、飼い主から与えられた使命を全うしてただけの狩猟犬達を惨殺した事になる。この予想が当たってたら世間的に悪いのはカマクラになっちまう。次いでに連帯責任で飼い主の俺にもお咎めがありそう。

 

 ただ俺は思う、問題は問題にしない限り問題にはならないと。

 これは身内贔屓な考えだが、カマクラは仲間を守る為に闘って敵を殺した。何より獣の世界は弱肉強食だ。

 よって正しいのは強いカマクラであり、悪いのは弱かった狩猟犬共だ。

 はい、て事で俺もカマクラも悪くない、なんなら誰も悪くない、以上。

 

「次からは首輪が付いてる奴は殺すな。そいつらにも家族がいるからな。だけど……俺は仲間を守ったお前を誇りに思う。良くやったな」

 

 カマクラに付いた血をタオルで優しく拭きながら、一応の注意をする。

 過ぎてしまった事は仕方がない。この場合は叱るより、柔らかく注意する程度でいいだろ。

 

「ニャ〜」

訳:善処しとくわ〜

 

 この曖昧な答え、一体誰に似たんだよ。親父か、親父に違い無い。

 

「わたくしの事はルーメリアお姉様と呼びなさい。良いですわね?」

 

「ルーお姉ちゃんが良いです〜」

 

「駄目ですの、ルーメリアお姉様ですの!」

 

「ルーお姉ちゃんはルーお姉ちゃんなの〜!」

 

 気づけばルーメリアによる、呼び方での序列付け合戦が始まっていた。

 なんか昔、一色と小町が似たようなやり取りをしてような気がするんだが。年頃の女子ってそう言う細かい序列とか、本当に好きだよな。

 

 取り敢えず俺は「こっちの話が先だ」だと言って二人の会話に割り込んだ。

 

「なあキツネ幼女、お前は俺の従魔になるって事で良いんだな?」

 

「そうです! あるじ様の従魔として、ご奉公します!」

 

 主様だと!? なんか幼女にそう呼ばれると背徳感が疼くんだが……。

 いかんいかん、何を考えてるんだ俺は。本当にいつか通報されかねない。 

 ともかく元奉仕部員としては、ご奉公ってワードが凄く気に入ったぞ。もう俺の中には奉仕の精神なんて微塵も無いけどな。

 

「なら、名前が必要だな。一応聞くが名前はあるのか?」

 

「無いです、良ければ主様に付けて欲しいです……ダメですか……?」

 

 人差し指を顎に添えて、物欲しそうな顔でクビをキョトンとさせてきた。

 なんだこの可愛い上目遣いは!! 大天使トツエルに匹敵するぞ!!

 

「そ、そうだな……ちょっと考えるから待ってろ」

 

 狐だし、定番どころだとクラマとかどうだ?

 いや、ありきたりだな。それにクラマにしてみろ、俺は口癖を七代目火影様みたく「だってばよ」にしなきゃイケなくなってしまう。そんなのはイヤだってばよ。俺に友情努力勝利なんて似合わないってばよ。金銭、休暇、小町が良いってばよ。

 あらいやだ、俺ってば大志のせいで万華鏡に開眼しちゃいそう。アイツとは一回、終末の谷でお・は・な・しをした方が良さそうだな。

 

 一人で悩んでも仕方ないので、スマホで『狐 伝承』と調べる。

 やはり狐の伝承絡みの話になると、九尾の妖孤に関する事が多く出てくるな……。

 

 スライド操作をしてるとある記事が目に留まった。

 

 うん? 妲姫と玉藻前か、聞いた事あるぞ。

 なになに……どちらも傾国の美を持つ女性であり、正体は九尾の妖孤。その時代の支配者を誑かし、災禍を招いた。ただの害悪腹黒ビッチじゃねぇか。

 ビッチに育って欲しくは無いが、マスターとしては美しく育って欲しくはあるな。

 

 名前は決まった。俺は目線を合わせるべく、膝を屈めて幼女の頭に手を置く。

 

「俺の名前は比企谷八幡だ。よろしくなタマエ」

 

従魔士Lv5→従魔士Lv6。

スキル【従魔・火耐性付与】

スキル【従魔・水耐性付与】

 

 久しぶりに脳にジョブのLvアップとスキル獲得の情報がインプットされたぞ。

 しかも、バフ系のスキルを獲得出来た。これで俺も戦闘で少しは役に立てそうだな、多分。

 

「こい、モンスターブック」

 

ネーム:タマエLv1

 種族:妖孤

スキル

【妖術】

 

ステータス

生命力:180/180

魔力量:600/600

筋力 :+90

耐久力:+80

敏捷力:+110

知力 :+400

 

 アレだな、ゲームで例えると魔法使いのステータス構成だな。【妖術】に期待するとしよ。

 にしても変異種は謎が多いな。カマクラは獣人化してないのに、タマエは獣人化した。

 多分だが、どんな風に変異するのかは法則性が無いのかもしれない。

 

「これからはタマエを一生よろしくお願いしますね、あるじ様♪」

 

 一生か……まぁそうだよな。俺が生きてる限りは、従魔達の面倒は俺が見なきゃだよな。うん、モーマンタイ、八幡頑張っちゃう。

 

 チュッ

 

 色々考えてたら、頬に僅かな温もりが走った。

 

「あるじ様だーい好きです♡」

 

「お、おお……」

 

 家族たる従魔に、こういう事を言われると従魔士冥利に尽きるな。えへへ

 

「な、ななな何をしてんるんですの!?」

 

 ルーメリアは慌てて俺からタマエを引き離した。

 

「タマエ、このマスターはロリコンですの。話すだけで貴女が孕んでしまいますわ。今後マスターとコミニケーションを取る時は安全の為、ワタクシの見てる前でしなさい。良いですわね!?」

 

 凄い血相でタマエの両肩を掴みながら、俺の尊厳を無視した事を言うルーメリア。

 だが、タマエはイマイチ分かってない様でキョトン、としている。

 

「あ! ルーお姉ちゃんもだーい好きだよ♡」

 

 タマエは先程と同様に、ルーメリアの頬にキスをした。

 

「………」

 

 ルーメリアは自身の頬を撫でながら唖然としていた。どうやら、魔王様は不意打ちの好意には弱いようだ。

 そしてタマエは、カマクラを再び抱え上げる。

 

「カマクラおじ様もだーい好き♡」

 

「にゃっ!?」

 

 カマクラは寸前の所で、タマエの腕からすり抜けて逃げて行った。

 そんなカマクラをタマエは「何処へいくの〜おじ様〜」と言いながら追っかけて行ってしまった。

 そう言えば小さい頃、小町がカマクラにキスしようとした時も逃げだしたっけ。ったく、俺の相棒は素直じゃないんだから。

 

「な、なんですの……あの子は……」

 

 未だに唖然としてるようだが、俺は今日もコイツの躾をしなければならない。

 

「で、誰がロリコンだぁ?」

 

 俺は両拳をルーメリアの頭に設置して、半回転を開始した。

 

「痛いですわー! グリグリはイヤですのーー!」

 

 今後この調子だと、我が家はより騒がしくなりそうだな。まぁ冷めた家庭よりは騒がしい方が良いだろ。

 マスターとして、風通しの良いアットホームな家庭を作らなきゃな。って、なんかブラック企業の求人広告みたいだな。

 

 タマエとカマクラが走り回った後は、寝てたソフィーとゴブタニを起こして、タマエを改めて全員に紹介した。

 で、昼食に従魔達とキツネうどんを腹一杯食べましたとさ。

 因みに、タマエはキツネうどんを5杯もお代わりした。油揚げが好物とか狐属性のテンプレだな。今後は油揚げ料理を定期的にお供えしなきゃな。

 

♢ ♢ ♢

 

番外編:クビにしてみた!

 

 トベキンTV、いま俺がタスクを消化すべく見てる動画のチャンネル名だ。

 

『べっー! ハローブンブンっしょ!』

 

 夜中、従魔達が寝静まり、自室で俺は寝る前にスマホと向きあっている。タスクとは言ったが、そんなカッコイイものでは無い。気になってた企画系の動画を見てるだけだ。

 

『今日の企画はなんと! 大岡と大和にクビ宣言したらどんな反応をするのか検証するべー!』

 

 おお、久しぶりに見たが、戸部が相変わらずうるさい。てか大和と大岡が裏方なのか。コイツらズッ友かよ。ズッ友パワーで登録者数を一千万まで持って行ったのは賞賛するがな。

 

 企画からしてドッキリ企画みたいだな。クビ宣告された時の二人が顔を思い浮かべると笑えてくるぜ。ククッ

 

 会議室に隠しカメラをセッティングし終えると、戸部は規定の時間までしばし撤退。

 数分経ち、大和と大岡が会議室に和気あいあいといった感じで入ってくる。

 

『なあ大和、昨日の動画の編集は終わったのか?』

 

 二人は席に着くと、アップルPCを開いて雑談を始めた。何でYouTuberって高い割合でアップルなんだよ。大方、賢そうに見えるとかそんな所だろ。

 

『あと二時間ぐらいで終わるわ。お前こそ案件動画の確認終わったのかよ』

 

『先方に動画を送ったから、今は確認待ちだな』

 

 ちょっとバカにしてやろうかと思ったが、ちゃんと仕事してそうな会話だ。クラスの後ろでギャーギャー騒いでた奴らには見えないぞ。

 

『そう言えばさ大岡、この前美味しいラーメン屋見つけたから戸部も誘って行こうぜ』

 

『それ良いな、もう今日ラーメンの気分になったわ。てかそこ家系?』

 

『ああ、こってこっての家系だぜ。チャーシューがメチャクチャうめえんだよ』 

 

 夜中にラーメンの話しとか聞きたくない。腹が減ってくる。明日はラーメンでも作ろうかな。

 

 二人がラーメンの話しに花を咲かせてると、ドアがガチャっと開き、戸部と知らない美女二人が入ってきた。男二人は、予定外の美女の登場に啞然としている。

 この美女二人も仕掛け人か。こんな美女を用意出来るとか、流石はトップYouTuberだな。

 

『ウェーイ、二人共お疲れー』

 

 戸部はウザイノリの挨拶をすると、二人の対面に座った。美女二人も戸部の横に座る。

 

『え、えーと戸部、そのお二人さんは?』

 

 どこか嬉しいそうに大岡が戸部に問いかける。こいつまさか、未だに童貞風見鶏なのか?

 

『マイって言います♪』

『私はユーカでーす♪』

 

 美女二人が愛想良く挨拶すると、男二人の目がハートマークになる。俺はマイちゃんがタイプだな。

 

『この二人はウチのチャンネルの新しい裏方だべ』

 

『『マジ!?』』

 

 突然の美女二人の加入に男二人はどこか興奮した様子だ。この後、地獄を見るとも知らずに。

 

『んじゃっ、大岡と大和は二人に引継ぎよろしくな』

 

 戸部の言ってる意味が分からないのか、二人共困惑の表情をしている。

 

『要するに、もう二人共クビだべ。今までありがとう、お疲れ様っしょ』

 

 空気が悪化していく中、拳を振るわせながら大和が声を発した。

 

『どういう……事だよ戸部』

 

『ほら、何て言うの? 花ってやつ? それがお前らには無いんよ』

 

『ふざけんなよ戸部! 俺達死ぬ時は一緒だって約束したじゃねえか! アレも全部噓だったのかよぉ!』

 

 大岡が感情的に声を荒げ始めた。そんな約束してのかよキッショ。桃園の誓いかよキッショ。ホモ達かよキッショ。

 

 しかも何が面白いって、美女二人がしれっと会議室から抜けてたのが面白い。

 

『あーあー、大岡うるさいべ。大体お前ら居なくても成り立つんよ、全部俺っちの力で稼いでるみたいなもんだし?』

 

 顎を上向きにしながら薄ら笑いを浮かべる戸部は大岡を見下す。戸部の奴、意外と悪役が板についてるな。

 

『戸部ぇぇぇぇぇぇぇえええ!』

 

 ガンっと大和が戸部の胸倉を掴みながら壁に押し付けた。やはり内輪揉めは見てて面白い、俺はいつだって内輪にいないからな。ククッ

 

『戸部! お前そんな事思ってたのかよ、許せねえ!』

 

『ハイハイ、今時そんな熱いの流行らねえし、キモイっしょ』

 

 戸部がそう言うと、大和はより一層手に力を込める。ウゼェ、演技だって分かっててもウゼェ。

 

『それに、それ以上は傷害罪ってやつ?になるから、やめた方が良いべー』

 

 恐らく穴だらけであろう法律論で、大和は悔しそうに手を雑に離した。

 

『ああそれと、この封筒は退職書類な。後日提出よろ』

 

 項垂る二人に戸部はヘラヘラしながら分厚い封筒を渡した。余りの分厚さに、怪しいんだ二人がその場で封筒を開けだした。

 

『百万……!?』

 

 封筒に入ってたのは、諭吉の札束であった。

 啞然としてる二人に、戸部は「後ろ」と言う。

 

『じゃっじゃじゃーん! ドッキリ大成功!!』

 

 先程、しれっと出て行った美女2人組がドッキリ大成功の看板を掲げていた。

 

『なんだよー、ドッキリかよ!』

『マジビビったぜ!』

 

 気の抜けたように地面に座り込む二人。それに対して戸部はニヤニヤと嬉しそうだ。

 

『て事で今回の検証結果、大岡と大和にクビ宣言したら二人はキレました!』

 

 と隠してたカメラを取り出して、戸部は結果内容を報告する。

 

『あと、日頃から頑張ってる二人には臨時ボーナスっしょ! 高校の時からありがとうな二人共、お前らは最高のダチだべ』

 

『『戸部!』』

 

 感激したのか、三人でハグしだしたし……。

 

「…………キッショ」

 

 そっとスマホを消し、俺は寝るべく目を瞑る。

 まあ元気そうで良いんじゃねーの、知らんけど。




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