か、カマクラが若返ってる!?   作:9ナイン9

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13:大人になっても、比企谷小町のポイントは乱高下してる

 家を急遽、大掃除した翌日。

 いつもより少し遅く起きて、朝のムッキールーティンもこなした後は、従魔達と朝食を食べ終えて、俺はダンジョンゲートの前で胡座をかきながら考え込んでいた。

 

 ダンジョン所有の申請書類は郵送した。

 多分、1週間後に県の職員が調査に来る筈だ。調査って言っても軽いモノである。ネットで調べた限りだと、敷地のどこにあるのかを見るだけらしい。

 一々ダンジョンの中まで入ったりしないんだとさ。まぁ職員は探索者じゃないしな。

 

 俺が悩んでるのは、この裏庭ダンジョンの階層数についてだ。そろそろこのダンジョンの踏破に本腰を入れようと思っている。だが、何階層なのか分からないままでは対策のしようが無い。うーん、5日分の食事を準備すれば足りるか?

 

「マスタ〜」

 

 仮に100階層レベルだったら詰む。って、流石に100は無いわ〜、それどこのデスゲームだよ。キリっとダンジョンをスターバーストしたい所だが、生憎俺は従魔士であって剣士ではない。

 

「マスター!」

 

 調べた限りだと階層型ダンジョンの中では50階層が世界で1番深いダンジョンだと言われている。

 普通に50もイヤだわ。風呂に入りたい。風呂無しとか日本人に死ねって言ってるようなモンだ。風呂に入れない生活とかせいぜい5日が限界だ。

 

「マ!ス!ター!」

 

「うわっ!!?……ってお前かよ。耳元で大声だすな」

 

 なんかプンプンしてるが、こっちはマジで鼓膜破れるかと思ったぞ。

 

「何度も呼んだのに反応しないマスターが悪いんですわ。で、難しい顔をして何を悩んでるんですの? 人生に疲れたんですの?」

 

 たった今お前に疲れたわ。てか、従魔達にも関係する事だし、言っても良いか。

 

「そろそろこのダンジョンを踏破したいんだが、何階層あるか分からないから悩んでんだよ」

 

「ちっぽけな悩みですわね。それならすぐに調べられますわ」

 

「ちっぽけだと?おm……うん?聞き間違いじゃなきゃ、今調べられるって言わなかったか?」

 

 するとルーメリアは空間から例の勇者の目ん玉付き頭蓋骨を取り出した。

 

「出たよカースドアイテム……」

 

「呪いだなんて失礼な!これは【鑑定勇者の髑髏水晶】ですわ」

 

 名前に髑髏って付く時点で呪物だろ。だが、ルーメリアは俺の疑心に満ちた視線を流して話し続けた。

 

「これでダンジョンの階層が分かりますわ。と言うより、この水晶の前では何だって鑑定できますわよ」

 

 そう言うと頭蓋骨をダンジョンゲートに向ける。え、そんなんで分かるのかよ。流石勇者の頭蓋骨、生前はチート鑑定を持ってたんだろうな。

 

「10階層、低級ダンジョンですわね。フンッ、悩むに値しないダンジョンですわ」

 

 10階層か、良かったわ。3日間風呂を我慢すれば大丈夫そうだな。

 

「ありがとうな。感謝の印にこれをやる」

 

 俺は空間から熱々のマッ缶を取り出し、ルーメリアに渡す。不思議な事に【ストレージリング】内では時間が進まない。なので温かいモノが冷める事は無い。

 

「マスターの癖に太っ腹ですわ。うー!この甘みがワタクシの心の癒しですの〜♪」

 

 いくら俺でもマッ缶でそんな蕩けきった顔にならないぞ。マッ缶ってヴァンパイアにとって劇薬だったりしないよな?

 

「なぁ……俺の事も鑑定してみてくれないか?」

 

 ここ最近、1回は軽い筋肉痛を起こしてる。俺の個人レベルが1は確実に上がってる筈だ。

 

 ルーメリアは軽くポイっと俺に頭蓋骨を投げたので慌ててキャッチする。これ手に持つの抵抗あるんだが……。

 

「肉眼を自分に向ければ鑑定出来ますわよ」

 

 そう言われ頭蓋骨と向き合う形にするが、直視出来ない。いや、やっぱ怖ぇよ、このアイテム!目とか本物だもん!

 

 冷や汗を流してると、髑髏の上に情報が浮かび上がった。

 

ネーム:比企谷八幡Lv4

種族 :人間

ジョブ:従魔士Lv5

 

スキル

【テイム】【モンスターブック】【テイマークッキング】【ビーストハッシュ】

 

魔法適正:闇系統、無属性系統

 

従魔

【カマクラLv7】【ゴブタニLv6】【ソフィーLv5】【ルーメリアLv5】

 

ステータス

生命力:240/240

魔力量:500/500

筋力 :+250 

耐久力:+200

敏捷力:+180

知力 :+350

 

 ステータスは概ね30づつ上がってるな。と言うか……

 

「魔法適正って何だ……?」

 

 探索者協会の鑑定士に鑑定して貰った時は、こんな項目無かったぞ。

 

「後天的に習得出来る魔法の事ですわ。自慢ですが、ワタクシも属性魔法とか使えますわよ?」

 

 沸いて出てきた情報に驚愕してると、ルーメリアはポエムを紡ぎ出した。

 

「燃え盛る球よ、敵を穿て!ファイヤーボール!」

 

 ルーメリアは手からファイヤーボールを天に飛ばしてみせた。

 なんでコイツ今まで使わなかったんだよ……

 

「今のワタクシにとって、習得魔法を使うのは非常に面倒ですのよ。全盛期の時は、無詠唱でイケましたけど。それと操血魔法はヴァンパイアの種族魔法ですわ」

 

 なるほど、理解出来た。ジョブやスキルで手に入る魔法は簡単に使えるが、自力で習得した魔法は詠唱と言う面倒な手順を踏む必要があるのか。だとしても俺は使いたい、だって男の子だもん。

 

「じゃあ俺も魔法がつk……」

 

 だが、俺の期待はあっさりと砕かれる。

 

「無理ですわ。この世界に修練用の魔導書があるなら話は別ですが」

 

 聞いた事ねぇよ魔導書なんて……。やっぱりルーメリアがいた世界は魔法技術がかなり進歩してたようだな。

 

「こう言うのですわ。ありますの?」

 

 ルーメリアが空間から大きくて、どこかビンテージ感溢れる本を取り出した。「いや、お前のがあるじゃん」と言いかけたが、異世界文字が読めない俺は口を閉じた。

 悔しいが、押してダメなら諦めろだ。

 

「この世界には無いな、今回は諦めるわ。それと、コレありがとうな」

 

 俺は勇者の頭蓋骨をルーメリアに返し、ここに来た用を聞く事にした。

 

「で、何か用があって来たんだろ?」

 

「そうですわ!5D'sとやらの続きが見たいんですの!」

 

「アニメかよ。階層数も分かったし、家に戻るか」

 

 家に戻って、俺はルーメリアとゴブタニにDVDのセットの仕方を教え終えるが、特にやることの無い俺はソワソワしながら、ひたする片手で交互にダンベルを持ち上げる。

 

 小町の奴11時ぐらいに来るって言ってたよな。直接会うのは多分、半年ぶりだ。ちょいちょいLINEでのやり取りはあったが、来るメッセージは全部「生きてる?」だ。妹よ、お兄ちゃんは簡単には死なんぞ。何故なら愛する妹のウェディングドレス姿を見るまでは死ねないからだ。

 見た後?知れたことよ、俺は大志を羽交い締めにして親父に魔貫光殺砲を撃って貰うつもりだ。

 

 気づけば、なぜか次第に俺のダンベルを上げる速度が加速してゆく。醜い嫉妬を添えて。

 

「オノレ大死ぃぃぃぃぃぃいい!!」

 

「うっさい!! マスターうっさいですわ!! それとキモイ!! 今ディヴァインが良い所ですの!!」

 

「…………うっ、ご、ごめんなさい」

 

 ついつい憎しみが言葉になってしまったようだな。にしても従魔達に恥ずかしい姿を見せてしまった。俺の築き上げてきたマスターとしての威厳が……って気持ち悪いって言われてる時点で威厳なんて無いですね、八幡勘違いしちゃった☆

 てかディヴァインって誰だっけ?サイコ教祖デュエリストの方だっけ?

 

「ニャ〜」

 

 カマクラが机に乗ってきて、俺の手をポンポンしてきた。

 

「なんだ相棒、慰めてくれるのか……?」

 

 だがカマクラは鼻で軽く、フッと笑う。

 

「にゃ〜ん」

訳:お前って相変わらず気持ち悪いよな〜

 

 お前もかよ。何これ、新手のイジメ?それとも新手の精神的DV?そろそろ八幡泣き喚くよ?

 

ピンポーン

 

 おや、ピンポン音がするな。この家に住み着いてから初めて聞くピンポンだ。ここは田舎過ぎてN〇Kすらこな来ないからな。そのせいかピンポン音が新鮮に感じる。

 

「妹が来たから、カマクラ以外は本にしばらく入って貰うぞ」

 

「横暴ですわ……」

「ゴブ……」

「プル……」

 

 何でこの子達はお涙頂戴しようとしてるの? 久しぶりに小町に会える幸せブーストが掛かってる八幡には効かないからね?

 

「今日は我儘無しだ、何が何でも本に入れるからな」

 

 そして俺は【モンスターブック】を呼び出す。

 

「あんまりですわマスター! ワタクシは偉大なる魔王ですのよ。良識ある魔王としてマスターの妹君には挨拶しなければなりませんわ。挨拶は大事ですのよマスター」

 

「ゴブ!ゴブ!」

訳:そうだ!そうだ!

 

「プルプル」

訳:本の中暇だからいやだ〜

 

 良識ある魔王が掃除をよくサボる件について。ゴブタニに関してはルーメリアに乗っかってるだけだし、ソフィーは暇なのがイヤらしい。因みに俺は暇が好きだ、と言うか大好き、愛してると言っても良いだろう。

 

ピンポン、ピンポン、ピンポン

 

 これは居留守を疑われだしたぞ。しまいには「お兄ちゃん居留守とかマジでポイント低いからね?」とか言われかねない。

 

「もういい、お前達は2階に行ってなさい。それでも我儘言うなら強制的に本に戻す」

 

 強めに言うとカマクラ以外は慌てて2階に行きだした。よし、素直なのは八幡的にポイント高いぞ。

 

ピンポン、ピンポン 

 

「はい、はーい、今開けまーす」

 

 カギを解除してドアを開ける。

 

「お兄ちゃん!半年ぶr……ってお兄ちゃんがマッチョ!?」

 

 小町は俺がムッキーになったのが面白いのか、腕をベタベタ触ってくる。これはもしかしたら俺はリア充なのかもしれない!!

 

「あのな、俺だって仕事の為に体鍛えんてんだよ。なんなら私生活に仕事を盛り込むとか社会人の鏡だな俺」

 

 いや本当に俺なんで、こんなガチな体育会系みたいな体系になってんだよ。昔の俺に見せてやりたいわ。俺の事だから、ダンジョン探索者になったなんて聞いたら、卒倒しそうだな。

 

「それと、久しぶりだな。で、大志と別れたのか? そうか、やっと別れたんだな、良いぞ小町。こっちに引越して来い」

 

「うわっ、29歳になってそのシスコンぶりはどうかと思うよお兄ちゃん」

 

  千葉の兄なんて、幾つになってもこんな感じだろ。それとも俺が特殊? いや、俺はスペシャルだ。

 

「それに別れてないし、別れたとしてもこんなド田舎に引っ越すとか無いわ〜」

 

 おい、ド田舎最高だろ。人が全くいないと言う事は、人間関係に悩まされないからな。なんなら少子高齢化時代のクセに富津は老人すら出現率が低いぞ。

 

「住み心地良いんだけどな。てかお前荷物多くないか? 早く上がれよ」

 

 小町をリビングに通して、ソファーに座って貰う。

 家族とは言え、我が家に滅多に来ない客なので、こっから徒歩30分のコンビニで買ったケーキとカフェラテを出しとく。

 

「お〜気が利くねお兄ちゃん! 家も綺麗しにてるし!」

 

 小町はケーキを1口食べると、ビニール袋をガサガサしだして、机の上に沢山の猫フードとぴーなっつ最中を置いた。

 

「はいコレ、カー君とお兄ちゃんへのお土産。で、カー君はどこ?」

 

 そして、待ってましたと言わんばかりにカマクラがソファーの裏から飛び出し、小町の太ももの上に華麗に着地。

 つーか何で千葉県に住んでる俺に千葉のお土産ランキング1位のぴーなっつ最中を買ってくんだよ……。いや、まぁ、最近食べてないから嬉しいけどさ。

 

「みゃ〜ん♪」

 

「か、カー君!本当にまんま昔のカー君だ!若返るなんて小町的にポイントカンストだよ!!」

 

 小町は両手でカマクラを抱えだして、大興奮。まぁそう言う反応になるわな。俺なんてうっかり泣いちゃったし。

 

 次第に落ち着きを取り戻した小町は、カマクラを撫でながら俺に本題を投げかけてきた。

 

「で、お兄ちゃん。カー君とお兄ちゃんに何があったの? そこ詳しく聞きたいんだけど」

 

「あぁ……本当に色々あった……始まりは、ある日の夜にな……」

 

 カマクラが若返った経緯、探索者になった理由、俺のジョブについて、従魔達の事について(滅びた異世界は伏せる)、配信をしてる成り行き、全てを小町に話した。

 

「…………正直、小町はお兄ちゃんに探索者なんてやって欲しく無い……欲しく無いけど、こんな本気の目をしたお兄ちゃんを見たら、色々言う気が失せちゃったよ。改めて聞くけど、お兄ちゃんとカー君は本気なんだよね?」

 

「にゃにゃっ」

 

 カマクラは小町に向かって頷く。それに対して小町の表情はどこか少し悲しそうだ。

 

「俺は今さら企業勤めなんて無理だ。それに……あ、アレだ、もっとカマクラ達と冒険して、色んな景色を見て、思い出を作って行きたい。最近そう思うようになったんだ……」

 

 俺がそう言うと、小町を大きく目を見開いた。そんな意外そうな目で見るなよ、俺らしく無いこと言ってる自覚あるから!

 

「ねぇ、本当にお兄ちゃん? まさか……お兄ちゃんも魔石食べたとか!?小町のお兄ちゃんは冒険したいとかアクティブな事言わないよ!?」

 

「食う訳無いだろ、俺を何だと思ってるんだ!? 俺は至って普通の真人間だぞ」

 

 なんなら冒険も得意だぞ。他の奴らが外で遊んでる間に、何回もドラクエをクリアしてきた男だぞ俺は。

 

「いやいや〜絶対に真は付かないから。お兄ちゃんはどちらかと言うと、駄が付く人間だから」

 

「ねぇやめて。確かに一時期、無職引き籠もりの駄ルートを歩みそうだったけど、真ルートに戻ったからね? お兄ちゃんそれなりに稼いで社会の資源に貢献してるからね? なんなら年収ヒエラルキーは親父よりだいぶ上だからな」

 

 決まった、渾身のドヤ顔と共に言ってやったぜ。俺は親父より高年収だ。今度会ったらマジでマウント取ってやろうかな。ククッ

 

「うわっ……そんな顔で年収マウント取るとか、成金クズ男の特徴だよお兄ちゃん。そう言う男に限って『俺に金で買えないモノは無い』とか、勘違い発言をしだすんだよ。痛い、痛過ぎるよお兄ちゃん!」

 

「おい待て、俺はまだその発言をするレベルじゃないぞ。小金持ち程度だからね? 全然サイゼの味で幸せを感じれるからね?」

 

「まぁ小心者のお兄ちゃんがそんな成金クズ発言する訳無いよね。仮に成金クズ男になっても小町がライトサイドに戻してあげる! あ、今の小町的にポイント高い!」

 

 ポイント制は永遠に続きそうだな。久しぶりのポイント制に安心してる俺ガイル。

 

「ハイハイ、タカイタカイ、カワイイ」

 

 俺は昔馴染みの適当な返事をするが、小町は俺を無視して、カマクラとじゃれ合いだした。

 

「カー君はお兄ちゃんと上手くやれてる? ウン、ウンってやっぱカー君、昔より賢くなってて凄いね♪」

 

 カマクラと小町は相変わらず仲が良いな。前から思ってた事を聞いてみるか。

 

「なぁ小町。お前がカマクラを引き取ろうとした時に、カマクラが嫌がったってお袋から聞いたんだが、どんな感じだったんだ?」

 

「あの時凄く大変だったんだよ!お兄ちゃんの部屋に逃げ込んだと思ったら、ベッドにしがみついて全く動こうとしなかったんだからね?多分だけど、最後はお兄ちゃんと居たかったんじゃない?結果、若返ったけど」

 

 この話を聞いてるカマクラが急いで逃げようとしたので、俺は首根っこを優しく掴んで自分に寄せる。

 

「なんだカマクラ、お前照れてんのか?可愛いとこあるなお前、ウリウリ〜」

 

「にゃ!?にゃ……にゃっ!!」

 

「グハッ……やっぱ……こうなるのね……」

 

 カマクラの頬っぺをウリウリしてたら猫パンチを思いっきし顔面に食らってしまった。照れ屋さんな猫め……。

 

 そのままカマクラは縁側の方に逃げて行ってしまった。

 

「お兄ちゃんとカー君が仲良くやってて良かったよ。昔より仲良くなってない?」

 

「ああ、凄く仲良しだ。なんなら俺はカマクラのヒモって言っても過言じゃないぞ。もうカマクラには頭上がらないわ」

 

「このクズ具合、やっぱお兄ちゃんだ……。お兄ちゃんはもう少し、飼い主としてプライド持とうね。でさでさ! お兄ちゃんの従魔達、小町にも紹介してよ。ほら、配信で皆お菓子が好きって言ってたからイッパイ買ってきたよ!」

 

 お菓子が好きなのはルーメリアな。ゴブタニは肉、もっと言うなら肉が入った中華料理。ソフィーは毎日同じモノじゃなきゃ何でも食べる。カマクラも比較的何でも食うな。

 

「あ、アイツらは今アレがアレでアレだから、ちょっと忙しいんだ……よろしく言っとくわ、HAHA」

 

 騒がしい従魔+騒がしい妹=超騒がしい。

 よって会わせない。俺の胃が痛くなりそうだからな。

 

「出たよ、隠し事する時のお兄ちゃんのアレ。配信でアレアレ言うの辞めた方が良いよ? 何か隠し事しようとしてるの丸分かりだから」

 

 え、そんな分かり易いのアレ。俺的にめっちゃ誤魔化せてると思ったんだがな……。

 

「お、おう、気をつけるわ。それと従魔達はまた今度会わs……」

 

 言い切る途中で、リビングのドアがバタンと勢い良く開いた。

 

「呼ばれて飛び出て、ルーメリアですわ! 話しは聞きました。お望み通りワタクシが挨拶に来てあげましたのよ!」

 

 何で満足気な顔で腕を組んでんだ……。カッコ良く登場したつもりかコイツ?

 

 小町は一瞬「わぁ……」と感嘆の声を上げると、目をキラキラさせながら凄い勢いでルーメリアへと近づいた。

 

「動画で見るより凄く可愛い!! ねえねえ、えーと、ルーちゃんだよね?小町は小町! よろしくね!」

 

 我が妹ながら自己紹介がバカっぽい。そろそろ我が妹には私を使って欲しいと思うが、可愛いからどうでもいっか。

 

「な、なんですのこの妹君は……しかもマスターと違って目が綺麗……!?」

 

 悪かったな兄妹なのに目が似てなくて。

 ルーメリアは小町に気圧されると、ゴホッゴホッとわざとらしく咳をして仕切り直した。 

 

「良くぞ聞かれましたわ! わたくしこそ美しく気高い、戦血の魔王ことルーメリアですわ!」

 

 コイツはコイツで自己紹介が紅魔族っぽい。

 

「魔王?小町には良く分からないけど、お兄ちゃんの友達の材木材さんみたいな挨拶だね!」

 

 ほら見ろ、魔王とか言うから材木座みたいに電波扱いされんだ。

 てか材木座の奴、夢だった小説家にはなれたのか?会う機会があったら聞いてみるか。そん時はアイツの夢破れた話を肴に酒を飲んでやる。因みに酔わせて奢らせるまでがセットな。

 

「おいやめろ、アイツとは友達なんかじゃない。ギリ赤の他人だ。それと材木材じゃなくて材木座な」

 

「妹君の名前は小町と言うんですのね。うむ、よろしくしてあげますわ小町」 

 

 相変わらず偉そうな奴だ。まぁ実際魔王様だから偉いんだろうけど。

 

 小町は持ってきた袋から、せわしなくお菓子を取り出し始めると、ルーメリアの眼前に楽しそうに掲げた。

 

「ねえねえ、ルーちゃん。お菓子食べる?」

 

「お、おぉぉ! それはスイーツ! 有難く頂いてあげますわ」

 

 小町がお菓子でルーメリアを餌付けしてる一方、俺はドアからちょこっと羨ましそうに顔を覗かせる二匹に視線を向ける。

 ったく、二階に居ろって言ったのに、ウチの従魔達はしょうがない子達だな。

 

「そんな所にいないで出てこいよ。一緒にお菓子食おうぜ」

 

 お菓子を見せながらそう言ってやると、二匹が嬉しいそうに出てきた。

 

「あっ! マッチョなゴブリンさんと綺麗なスライムさんだ!」

 

「ゴブ……」

訳:旦那と似てない……

 

「プルプル」

訳:マスターと同じで髪がピョコンしてる

 

 いや、うん、アホ毛以外あんま似てない自覚あるから、もう言わなくて良いよ。

 

 ソフィーが小町の頭に飛び乗ると、小町は「プルプル可愛くてポイント高い!」と嬉しそうにしてる。

 

「小町。このゴブリンがゴブタニで、その人懐っこいスライムがソフィーだ。仲良くしてやってくれ」

 

 小町はゴブタニの筋肉を恐る恐るツンツンしながら「お兄ちゃんのゴブリンって怖くないんだね」と感心している。

 まぁSAN値が減らない面だったからテイムしたんだしな。

 

「よろしくね、ゴブタニ君にソフィーちゃん! お兄ちゃんが、独り身で寂しがってるかと思ってたけど、この子達に囲まれてて幸せそうだね!」

 

「毎日騒がしくされて、飯を作るのだって大変で、ソフィー以外は世話の焼ける奴ばっかだ。まぁ……ポケモンみたく育て甲斐はあるな」

 

「ってお兄ちゃんは言ってるけど、ただの捻デレだから皆は真に受けちゃダメだよ?」

 

「モグモグ……小町、ひねデレ?とは何ですの?」

 

「お兄ちゃん特有の超メンドクサイ照れ隠しなのです!」

 

「ゴブゴブ~」

訳:今までの全部照れ隠しなのか~

 

「プルプル」

訳:マスター可愛い

 

「マスターが偶に挙動不審な様子でする発言は、全て照れ隠しでしたのね。フフッ、いい事が聞けましたわ」

 

 俺に聞こえないように固りあってコソコソ話してるようだが、全部聞こえてるからね?

 大体、捻デレってなんだよ。小町には全力でデレてるだろ俺。

 

「やっぱこの組み合わせ騒がしいわ……」

 

♢ ♢ ♢

 

 先程昼時になり、小町が来てる事もあって、いつも以上に腕によりをかけて料理を振る舞った。

 俺の渾身のパエリアを食った小町曰く「お兄ちゃんの嫁度が上がってる!?これならルーちゃんのお嫁さんになれるね、お兄ちゃん!」と訳の分からない評価を下してくれた。

 そんな小町と俺は現在ソファーでコーヒーを飲みながらゆったりしてる。

 

 縁側では、腹が膨れて眠くなったゴブタニとカマクラが日向ぼっこしながら、スヤスヤしていた。

 ソフィーは小町の頭の上が気に入ったのか、楽しそうに居座っている。

 

「それにしても長閑な所だね、ここ。老後ならいいかも」

 

 小町は穏やかな表情で外を見ながら、誰に言った訳でも無い言葉を呟いた。

 俺の膝を枕にして、ヨダレを垂らしながら図太く寝てるルーメリアを見ながら思う、小町って仕事に疲れてそうだな〜と。なので、その言葉に乗っかる事にした。

 

「だろ。富津には空き家が沢山あるから狙い目だぞ。移住するならお兄ちゃんが、国の代わりに特別補助金をだしても良いぞ」

 

「わ〜移住はしないけど、お兄ちゃんの愛と補助金だけは有難く貰うね!あ、今の小町的にポイント高い!」

 

 ちゃっかり補助金を貰おとする辺り、抜け目の無い奴だ。あ!愛の代償が高い!

 

「でさ、お兄ちゃん。動画が凄いバズり散らかしてるけど大丈夫なの?」

 

 やっぱバズってたか。【ストレージリング】を見せたから仕方無いか。

 

「ああ……動画サイトの誰にもバレないように居住地はインドに設定してあるし大丈夫だろ。むしろ気づけたお前がスゲェよ」

 

「………一応聞くけど、お兄ちゃん自分がSNSで何て言われてるか知ってる?」

 

 そう言われて、寒気が走った。嫌な予感がした俺はXを即座に開き、生まれて初めてのエゴサーチをしてみた。

 最初は『比企谷八幡』で検索してみるが、ノーヒットした事に一安心。

 次に『源義経』で検索を掛けたが、こっちは荒れ狂う波の如く情報が氾濫していた。

 

『従魔士期待の星、その名は嫁ニキ』

『経ニキロリっ子ヴァンパイアの嫁だった模様www』

『リスナーの要望を全て検討で躱す次世代の検討士』

『嫁と言う言葉が何故か似合う男』

『重ねた検討を加速させる男』

『可愛い従魔と空間収納を持つチート転生者』

『今1番バズってるダンジョン配信者は嫁ニキ』

『異種族ラブロマンス羨ま』

『嫌われない稀有な検討士』

『本人は弱い模様』

『ロリヴァンパイア趣味の変態野郎』

『法律に触れない性的犯罪者』

 

「死にたい! 死にたいよぉぉおお! もう駄目だ! お天道様の下を歩けないよ!」

 

 経ニキは良い、チート野郎も検討士も許せる。だけど、嫁ニキだとか性的犯罪者はダメだろ! 八幡もう人様に会わせる顔が無いよ!

 

「……やっぱ知らなかったんだね」

 

 俺が頭を抱え悶絶してる中、小町は溜め息混じりで呆れていた。

 

「お兄ちゃん本当に炎上騒ぎとかやめてね? 小町達の苗字凄く珍しいんだから、特定なんてされたら家族構成とか直ぐバレそうだし」

 

 確かに言われてみればそうだ。て事は俺が何か表立ってヤラかしたら、日本中の比企谷さん達に迷惑が行くのか……。ごめんなさい、日本中の比企谷さん。多分、いつか迷惑をかけると思います。

 

「ならお前もコメントにカー君とか送るな……よくよく思い返すと怖いわ」

 

 そう言ってやると小町は片手でグーを作り、可愛く頭に乗せて舌を出した。

 

「テヘッ☆」

 

「うぜぇ、あざとい、後お前いい歳なんだからやめろ」

 

「あ! 女の子に歳の事言うとかポイント低いよお兄ちゃん」

 

「27で女の子は無理があr……」

 

「何お兄ちゃん?」

 

 これ以上言うなよ?あ?と小町のジト目が物語っている。

 

「いや……何でも無い」

 

「所でさ……お兄ちゃん。稼ぎもそれなりにあるんでしょ? いい人とか居たりしないの……?」 

 

 いや、まぁ、未婚の彼女無しのアラサー兄貴がいたら妹としては心配だよな……。

 

「もういいんだ。従魔達との今の生活に満足してる。それに……」

 

 雪ノ下じゃなきゃダメなんだって言おとしたが、酷く未練がましい上に情けないと思ってしまって言葉が続かない。

 

「はぁ〜そうだよね。お兄ちゃんは昔から雪乃さんが大好きだもんね」

 

 図星を突かれた事が恥ずかしくて、俺はついつい目線をズラしてしまった。

 

「…………まぁ、過去あっての今の俺だ。これからも……過去を大切にしていきたい」

 

「も〜相変わらず言い回しが面倒臭いよ、お兄ちゃん」

 

「俺らしくて良いだろ、面倒臭いの。今更、性格を変えるとか泉に落ちる以外に方法は無いぞ」

 

 貴方が落としたのはこの腐った八幡ですか? それともこのキラキラした素直な八幡ですか?

 アレ? なんか両方とも気持ち悪くね?

 

「まぁお兄ちゃんはルーちゃんのお嫁さんだから問題無いね!」

 

「おい、やめろ。傷に塩を塗らないでくれ。アレはネットに巣食う悪魔共が騒いでるだけだ」

 

「いやいや〜配信者なんてネタにされてナンボじゃない? 世の中ネタにすらされない可哀想な人達がネットに溢れ返ってる訳だし」

 

 小町の言う事は一理ある。YouTuberだろうが芸人だろうがダンジョン配信者だろうが、先ずは覚えて貰えなきゃ意味が無い。

 昨今は人に迷惑を掛けてまでも売名しようとする奴がいるぐらいだからな。悪名は無名に勝るとは良く言ったモノだ。

 とは言っても、俺はプロの配信者を目指してる訳じゃないけどな。

 

「お兄ちゃんの事は後にして、色々ビックニュースがあるのです!」

 

「何だよニュースって」

 

「先ずは、いろはさんなんだけど……」

 

 小町は総武高で親交のあった人物達が今何をしてるのか語り始めた。

 

 一色は現在女子アナをしてるらしい。小町曰く人気がうなぎ登りで絶好調との事。付いた愛称は「いろはす」。

 うわー、愛称は今更だが、アイツにお似合いの仕事だわ。今頃あのあざとさに騙されて、ファンになる男子が多いに違いない。

 

「で結衣さんは……」

 

 由比ヶ浜は大学の時からお付き合いしてるエリートな可愛系彼氏と籍を入れたとの事。そして、最近千葉に一軒家を買ったと言う。

 おめでとう由比ヶ浜。祝う機会があれば必ず祝ってやらなきゃな。

 因みに彼氏さんは学生時代に起業して大成功をしている。で、零細時代を支え続けたのが由比ヶ浜だ。ガハマさん、アゲマンじゃないですかー!

 

「ちなみに雪乃さんは……」

 

 最後に雪ノ下の情報はと言うと、コレは小町が由比ヶ浜から又聞きしたらしい。雪ノ下は雪ノ下コーポレーションのダンジョン製品開発部長に就任したとの事。それ以外の情報は不明。まぁアイツって必要以上に人と連絡取らなそうだもんな……。てか相変わらず部長なんですね、ゆきのん。

 

「あ、凄くどうでもいいけど、戸部先輩は売れっ子YouTuberだよ」

 

 小町はコーヒーを飲みなが興味無さそうに言う。俺は目をパタパタした。どうでもよ過ぎて、反応が遅れてしまったのだ。

 

「本当にどうでもいいな、その情報!」

 

 とは言ったものの、少し気になったので、スマホで『戸部 YouTuber』と検索を掛けてみた。

 

「トベキンTVってなんd……って、はっ!? 登録者数1000万人の再生回数アベレージが300万!? マジっベわー!」

 

 いや、コレは素直に賞賛する。俺も配信をやってるから分かるが、登録者数1000万は本当に凄い。日本の人口の約10分の1だからな。高校の頃サイン貰っておけば良かったわ、チクショー!

 

「てな訳で皆ピンピンしてるよ!」

 

 とりあえず、トベキンTVの『大和と大岡をクビにしてみた』は後で見るとしよ。

 

「そうだな……どいつも幸せそうで良かったわ」

 

「それと有給2日取れたから、今日はお泊まりサービスしてあげるね♪」

 

 道理で荷物が多いと思ったわ。

 

「……まぁこんな田舎だけど、ゆっくりしていけよ。少しは社会で負った疲れが取れんじゃねえの。知らんけど」

 

 最近学んだ事がある。家族ってのは迷惑を許容し合い、支え合うモノだと。お泊まりぐらい、どうってことないさ。

 

「てかさお兄ちゃん、SNSのアイコン無いのはどうなの?」

 

 昨日『鎌谷幕府』って名前で、Xアカウントを作ったがアイコンは何も設定してない。改めて言われると確かに、味気無いな。

 

「写真なんて普段あんま撮らねえし、選択肢が未設定しか無かったんだよ」

 

「なら小町が従魔達との写真撮ってあげるね!」

 

 そう言われ、空間から猫仮面とダンジョン用のジャージを取り出す。ルーメリアの頭を優しく膝からどけて、俺は着替えを始めた。その光景を小町は目が点になりながら眺めている。

 

「その指輪?凄いよね。お兄ちゃんの命が狙われないか小町心配だよ……」

 

「まぁ大丈夫だろ。今の所は俺個人を特定のなんて不可能だろうし、ウチにはカマクラの親分もいるしな」

 

 そんな事を言ってるとルーメリアが「ふぁ〜良く寝れましたわ〜」と言いながら起き出した。眠気眼なのか目を擦りなが背伸びをしている。

 

「ルーちゃんって、どこから見ても物語のお姫様みたいで凄く可愛いよね〜、良いな〜」

 

 姫様は姫様でもヴァンパイアの姫様だけどな。

 

「流石は小町! ワタクシの可憐さが分かるなんて、腐ったケチなマスターとは大違いですわ!」

 

 マスターへの敬意が足りてないなコイツ。って事で今日も正しい従魔の躾をやってみよう。

 

「痛あああい! グリグリは嫌ですのー!ドメスティックバイオレーーーーンスですわー!」

 

 両拳でルーメリアの頭をグリグリしてやると目尻に涙を浮かべだした。今日はこのぐらいしてやるか。

 

「うっせ、ドメスティックバイオレンスじゃなくて躾だ」

 

「わー懐かしい。お兄ちゃんの陰湿グリグリだ」

 

 そう言えば小さい頃、小町の我儘の度が過ぎた時もよくやってわ。懐かしい。

 

「マスターの鬼!外道!腐れアンデッド!あとは……」

 

 ルーメリが言い淀むと小町が「八幡!」と援護射撃を撃ってきた。

 

「それですわ!八幡!」

 

「お前ら、八幡は悪口じゃねえだろ!」

 

「何でアンデッドにはツッコマないんですの……」 

 

 下らない言い合いをしてると、カマクラとゴブタニが起き出した。すると小町が「さぁ皆、庭に行くよ!」と言うので、庭に移動した。

 小町がX用のアイコン写真を撮ってくれる様なので、俺は猫仮面を付ける。

 

「さぁマスター。魔王たるわたくしを担ぐのですわ」

 

「なんで俺がお前を担がなきゃイケないんだよ」

 

魔王(キング)とは常に頂点に座して居なきゃけない存在ですのよ」

 

 キングとか言ってるが、恐らく5D'sに影響されてるに違い無い。そう思うとこの魔王が可愛いく見えるな。

 

「はぁ〜ほら、担いでやるよ」

 

 屈んでやると、遠慮なく俺の背中を踏みつけて肩に乗っかってきた。俺ってコイツのマスターだよな……。遠慮無さ過ぎだろ。

 

「はいは〜い、撮りますよ!!」

 

 小町の声が合図となり従魔達はポーズを決め始める。まぁ本格的にポーズを決めてるのはゴブタニぐらいだけどな。

 

「はい、チーズ!」

 

 シャッター音が何回か鳴り響く。

 こんな集合写真みたいなのは入社式以来だ。因みにその写真は俺の顔だけがブレていて、クソ上司が大爆笑していた。覚えてろよ、あの野郎。

 

「もう1回撮るよ!」

 

 小町はそう言うと、庭にあった脚立にスマホを設置し、ポチポチし終えると、こっちに走って来る。そして俺の腕に腕を絡めてきた。

 

「やっぱり俺はリア充なのかもしれない……!!」

 

 そして、シャッター音がまた鳴り響いた。

 

 やはり俺の妹がアラサーになっても可愛い件について。

 

♢ ♢ ♢

 

 写真を撮り終えた後は、マリパをやったり、スマブラをしたりした。ゴブタニがやたら対戦ゲームが強かったのは流石に驚いたぞ。

 

 小町が作った美味しい美味しい晩飯を食べ終わり、俺はXアカウントのアイコン設定し終えた所だ。

 昨日作ったアカウントなのに、フォロワーが1万になってるとかヤバイだろ。どんだけルーメリア人気なんだよ。

 俺が想像してるより世の中にはロリコンが多いのかもしれないな。

 

「さぁマスター。風呂に行きますわよ」

 

「ああ、もうそんな時間か?なら風呂に入るか」

 

「ちょっと待ったー!」

 

「な、なんだよ小町……」

 

「え、お兄ちゃんとルーちゃんっていつも一緒にお風呂に入ってる感じなの……!?」

 

「そうですわ。マスターは毎日、目をギラギラさせて『えへへ』と言いながら、イヤラシイ手つきでワタクシの体を触りまk……ゴニョゴニョニョ!?」

 

 とんでもない脚色をしだしたルーメリアの口を慌てて塞ぐが、小町はゴキブリを見るかの様な目で俺を見ながら、後退りしていく。

 

「やっぱロリコンさんだったんだね……お兄ちゃん。大丈夫だよ、結衣さんと一緒に面会には行ってあげるから」

 

「おい小町!? スマホをしまえ!あと由比ヶ浜を巻き込むな」

 

 小町の疑いの視線が痛いので、説明してやる必要があるな。

 

「あのな、一緒に入ってるのはコイツが髪を洗えって煩いからだ。あ、あとこんな事を言うのも何だが……雪ノ下を経験してる俺がこんなちんちくりんに興奮する訳ないだろ」

 

「失礼ですわね!元の力を取り戻せばボンキュッボーンですわよ!」

 

 プクーと可愛く頬を膨らませてるが、俺は自分の口を陵辱したあのボンキュッボンなビッチお姉さんの事は忘れないからな。忘れないと言うのは決してイヤラシイ意味では無い、決してだ。ハチマンウソツカナイ

 

「いいか小町、コイツは魔王とか訳分からない事を言うんだ。材木座みたいなモンだから真に受けるな」

 

「じゃあさぁ、今日は小町がルーちゃんとお風呂入るね!」

 

 ルーメリアは「ちょ、え!?」とか言いながら小町に手を引かれ、連れて行かれた。

 どうにかなった。危なく警察のお世話になる所だったわ。

 

♢ ♢ ♢

 

 小町が一泊した翌日の午後。

 昼飯を食い終わり、現在は玄関で小町とお別れの挨拶をしてる最中だ。

 

「なあ、本当に送って行かなくて大丈夫か……?」

 

「大丈夫大丈夫、アプリでタクシーを近くのバス停留所に呼んどいたから」

 

 へー今時そんな便利なアプリあんだな。俺も後でインストールしとくか。

 

「これ、久しぶりに会えた兄からの気持ちだ。遠慮無く受け取ってくれ」

 

 財布から愛情と諭吉を取り出して、小町に渡す。

 

「1万円……!? わーありがとう! お兄ちゃんが少しだけイケメンに見えるよ。お金って凄いね!」

 

「おい、俺ナチュラルイケメンだろ。目以外」

 

 お金を出すとイケメン補正が掛かるんだな。初めて知ったわ。もっとお金あげようかな。

 

「小町、是非また来るんですのよ? いつでも魔王(キング)たるワタクシが歓迎しますわ」

「ゴブゴブ!」

「プルプル」

 

「ルーちゃんもゴブタニ君もソフィーちゃんも、また来るからお兄ちゃんを宜しくね♪」

 

 すっかり1日で仲良くなったな。やっぱ小町は俺と違ってコミュ力高いわ。

 

「にゃ〜ん……」

 

 カマクラが寂しそうに小町の足に身を寄せてスリスリしだした。

 カマクラからしたら、小町は子猫の頃から1番構ってくれた家族だし、名残惜しいの当然か。なんなら俺も名残惜しい。

 

「カー君……小町はまた来るから悲しがらないで。それに、ダメダメなお兄ちゃんにはしっかり者のカー君が必要だしね」

 

 小町は愛おしくカマクラの頭を撫でる。その表情からは寂しさやら慈しみが読み取れる。

 

「みゃーん」

訳:それもそうだな

 

 飼い猫にまでダメダメだと思われてんのかよ俺。まぁカマクラには頭上がらないし仕方無いか。

 

 小町は突然撫でる手を止め、何かを思い出したのか、そうだ!と言い出した。

 

「お兄ちゃん! お願いだからダンジョンにジャージで行くのはヤメテ!見てて心配になるから!」

 

「お、おお。検t……」

 

「お兄ちゃん?」

 

「…………はい、良い装備買っときます」

 

「良くぞ言ってやりましたわ小町! これでマスターもあのみすぼらしい装備から卒業ですわね。可哀想だから言いませんでしたけど、アレはセンスを疑うレベルですわ」

 

 他の従魔達もルーメリアに続いて盛大に頷く。お前らどんだけジャージ嫌いなんだよ。ジャージ最強だからね? 起きて着替えずにそのまま筋トレして、ダンジョンに行けるジャージ、マジ最強。

 てな訳で最近バーゲンセールで買ったジャージ5セットが無駄になりました。

 

「次の配信、お兄ちゃんの新装備楽しみにしてるね♪」

 

 装備品ってモノによっては平気で100万もすんだよなー。出せて予算300万までだな。300万も出せるようになったとか、俺も成長したな。

 

「お、おお。恥ずかしから本当は配信を見ないで欲しいが、期待しとけ」

 

「じぁ小町はもう行くね! またね皆♪」

 

「待て小町」

 

 呼び止めると、何?と小町は首をキョトンとした。

 

「あ、アレだ、その……大志にも宜しく言っといてくれ」

 

 俺がそう言うと、小町は何回か瞬きをした後に今世紀最大の笑顔を向けてくれた。今日まで生きてて良かったわー。お袋、産んでくれてありがとう。親父も……いや、親父はどうでもいいか。

 

「うん! 言っとくね!」

 

 俺達は外まで行き、小町の姿が見えなくなるまで手を振り続けた。

 小町も俺も大人になった。昔と違って今はお互いに生活がある。

 それでもこうして、たまに会っても昔と変わらず仲良く接する事ができるのは、過去から今日までの積み重ねた家族としての絆があるからと今更ながら思う。

 

 まぁ何が言いたいかと言うと、アレだ。世界中が小町の敵になっても、俺は小町のお兄ちゃんであり、味方だ。

 あ! 今の八幡的にポイント高い!

 

♢ ♢ ♢

 

番外編

小町side

 

 今日はワザワザ有給を取ってお兄ちゃんの富津暮らしの視察に来た甲斐があったなーと小町は思う。

 来てみればお兄ちゃんは細マッチョになってるし、カー君が本当に若返ってるし、可愛い家族が沢山増えているしで小町的にはポイントが高いのです! まあ相変わらず、お兄ちゃんは訳分からない事言うし、捻くれてるな〜とは思ったけどね。

 

 それでもお兄ちゃんは昔よりは丸くなったとは思うけどなー。だって昔なら、あのお兄ちゃんの口から『冒険』って、アクティブな言葉は絶対に出て来ないと小町は思ったからです!

 昔なら『ダンジョンで冒険?自殺志願者かよ。大体俺は社会と言う理不尽なダンジョンに毎日挑んでるぞ。早く出口を見つけたいもんだ』とか言ってるに違いないからね。

 

 小町は一安心しました、お兄ちゃんの意識が真人間に近づいてくれて!

 あとはダンジョンで死ななきゃ良いけど……流石にダンジョンで死んだらポイント低過ぎだからね、お兄ちゃん。

 

 そうそう、ダンジョンで思いだしたけど、最近彼氏の大志君がやたらダンジョン動画にハマってるのが小町的には心配かなー。

 探索者になったら別れるから、と脅し……じゃなくて、注意しといたから大丈夫だとは思うけど。

 あ! でも、お兄ちゃんみたく細マッチョ目指して体を鍛えるだけなら、小町的にはウェルカムなのです!

 

「おぉ流石はマスターの妹君ですわ。ワタクシの髪を洗うのが上手ですわね」

 

 今お風呂場で小町が髪を洗ってあげてるのが、ルーメリアことルーちゃん。

 ルーちゃんは凄く可愛い!どんぐらい可愛いかと言うと、お兄ちゃんが良く読んでたファンタジーラノベに出てくるヒロインと同じぐらい可愛いのです! 赤い瞳に白髪とか幻想的過ぎだよ。可愛い過ぎて小町の目が浄化されちゃうレベル!

 

「わたくしが力を取り戻した暁には、小町も魔王軍の幹部にしてあげますわ」

 

 でもルーちゃんって喋り方は上品なのに、言ってる内容はお兄ちゃんの友達の太った中二病の人と同じレベルなんだよね……まぁ可愛いからいっか。ヴァンパイア特有の言い回しかもしれないしね!

 

「小さい頃はお兄ちゃんが小町の背中とか髪を洗ってくれたんだよ〜♪」

 

 自分で言うのもアレだけど、小さい頃は両親が社畜過ぎて構ってくれないから、結構お兄ちゃんっ子だったと思う。

 

「マスターもそう言ってましたわ。それに、マスターはいつも口を開けば、妹が〜って言っていますわよ」

 

 あちゃ〜お兄ちゃん、小町の事好きなのはポイント高いけど、従魔達の前でもシスコン全開なのはどうかと思うよー。

 

「そう言えばルーちゃんってお兄ちゃんの事を嫁宣言したけどアレ本気なの? 嫁にすると確実に面倒臭いタイプだけど大丈夫?」

 

「そこは大丈夫ですわ小町。力を取り戻したらワタクシがダンジョンで稼いで、マスターには料理に専念させますの。後は日々頑張ってるワタクシの為に、アニメのDVDとやらと、漫画とやらを沢山買わせますわ」

 

 ルーちゃん男前!なんなら漢だよ!なんかお兄ちゃんが夢見てた専業主夫が叶いそうだよ。アレ?嫁だから専業主婦になるのかな?

 にしてもルーちゃんってアニメとか好きなんだー、コレはお兄ちゃんの影響をモロに受けてますねー。

 

「ルーちゃんはお兄ちゃんが好きなんだね! 仲良くやってて良かったよ」

 

 小町がそう言うと、ルーちゃんの真っ白なお耳が紅くなっちゃった。背を向けられてる状態だから顔は見え無いけど、多分顔も紅くなってると思う。

 え? ガチな好き? 嫁宣言とかヴァンパイアの子供特有の言い回しかと思ったけど、まさかのガチでマジなLOVE♡なヤツなの!!?

 

「な、ななななな何を言ってるんですの小町!? だ、だだだ誰があんな目の腐った冴えないマスターを好きになるんですの!? いつも働きたくないとか、面倒臭いしか言わないから都合のいいシェフにしようと思ってるだけですのよ。そう言う意味の嫁ですわ!ま、まぁ確かに?ワタクシを昆虫型の魔物から庇ってくれた時は胸の鼓動が高鳴りましたけど……って違いますの!!ワタクシはマスターの事なんか好きじゃありませんわ!!」

 

 あ〜この反応ガチなヤツだ。ヴァンパイアのお姫様を落とすなんて、お兄ちゃんギルティー過ぎるよ……しかも幼女だし……。1つ言えるのは、お兄ちゃん絶対に無自覚で落としてる。もっと言うならお兄ちゃんはルーちゃんの事を手のかかる妹ぐらいにしか見てない。

 でも、ちょっと待って……て事は少ない可能性だけど、ルーちゃんがお義姉ちゃんになるって事!?

 ルーちゃんは分類上、魔物だし結婚は出来ない……出来ないよね? ってこれ、山あり谷ありの異種族ラブロマンスだよ! 映画なら見応えあるけど、身内で起きると流石の小町でも反応に困ります!!

 

「ルーちゃん落ち着いて! さ、冷めるとイケないから小町と湯船に入ろっか!」

 

 一旦落ち着かせて、2人で湯船に浸かる。ルーちゃんはと言うと、恥ずかしいのか顔の下半分を湯船に沈めちゃってる。本当うちの愚兄がすいません……。

 

「ねえルーちゃん。お兄ちゃんって少し前まで、疲れきってて今以上に目が死んでたんだ……。でも今日久しぶりに会ったら瞳の奥がギラついてるし、細マッチョになってるしで小町、驚いちゃったよ。多分、ルーちゃん達と出会えたからだと思うんだ。だから今後ともウチの愚兄を宜しくね♪」

 

 小町がそう言うと、ルーちゃんは視線を向けてくれた。

 

「ま、マスターは昔からあんな感じですの……?」

 

 気になるアノ人の過去って知りたいよねー、知った所で何かが変わる訳じゃないのに。まぁ知らないよりは知ってた方がいいんだけどさ。この場合ルーちゃんが小町に聞くのは正解。男って無意識に過去を捏造する傾向にあるからね。それはお兄ちゃんも例外じゃない。

 

 小町も本人じゃなくて、その友人とかに聞くかな。浮気性なのかとか、ギャンブラーなのかとかね。今思えば大志君と付き合うか悩んでた時は沙希さんに沢山相談に乗って貰ったなー。

 

「お兄ちゃんはね、昔から面倒くさがり屋だし、捻くれてるし、モテないし、挙動不審だし、言ってること意味不明だし、色々腐ってるし、甘党だし、変に頑固だし…………でもね、お兄ちゃんって人に頼られると、グダグダ言いながら何が何でも助けちゃうんだ。何だかんだ小町にとって自慢の兄なのです!」

 

 ルーちゃんは「今と全く変わらないですわね」って言いながらふふって微笑んだ。

 何この笑顔、守りたい。しかも今日初めましてなのに、ポイントが天元突破しそうだよ!

 

「だからね、ルーちゃん。小町の大切なお兄ちゃんを宜しくね。協力は出来そうにないけど、色々応援してるから」

 

 高校時代はお兄ちゃんを結衣さんや雪乃さんとくっ付けたくて、余計なお節介を焼いたのが懐かしいなー。でも今はもう小町とお兄ちゃんは一緒に住んでないし、それぞれの生活がある。手伝ってあげられる事なんて本当に無い。強いて言えば情報提供ぐらいかな。

 

「し、仕方無いですわね。マスターの妹君はわたくしにとっても家族同然。家族の頼みとあらば、あの仕方の無いマスターはわたくしがいくらでも守ってあげますわ」

 

 ルーちゃんはえっへん! と無い胸を頼もしく張って見せた。

 それにしてもルーちゃんって凄く分かり易い子だよね……。お兄ちゃん、色々大変だと思うけど頑張ってね! 小町は常にお兄ちゃんの味方だから。

 あ!今の小町的にポイント高い!

 




ここまで読んで頂き、ありがとうございます!

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