528 Reginleif・7
『緑の呪いが【デススクリューアタック】を発動』
『フリオニールが【ぶちかまし】を発動、圧倒! 緑の呪いに247,440Gダメージを与えました』
『【乱華閃舞】を発動、緑の呪いが一部切断されました』
ん、特に意識してこの配置になったわけじゃないけど、おにーちゃんと私が緑の呪いの後ろ側に回ったから、私達と本陣とで挟み撃ちにしてる形になってるわ。
緑の呪いはぶちかましで吹っ飛ばされた体を引き戻そうとしてるけど、それこそ無駄な抵抗よ。戻って来る前にまだ繋がってる部分を切り落とせば、緑の呪いの本体が再び接触するまではほぼ無力。誰かが回収して安全地帯まで引っ張って行ってくれると良いんだけど……。
「ダメダメ、凍らせてからバラバラにして! 中に鍵が入ってるかもしれないから、それ壊してから運搬ね!」
『ガウウ!!』
「面倒くさいとか言わないの! 復活するかもしれないじゃん!!」
『わう~……』
あれ、もってぃが生きてる。さっき死亡ログ出てたからもってぃも緑の呪いに侵食されたと思ってたけど……。あっ! 緑の呪いの攻撃じゃなくて、リアちゃんの隕石の爆風で死んでるから復活出来たんだ! それかもしくは、緑の呪いが干渉不可な間に解呪して復活させたかな? どっちにしろ、まだ生きてるならラッキーだわ。
そもそもなんでもってぃの初動が遅かったんだろう、ちゃんとギルドチャットで作戦伝達したのに。一部の人は即座に気がついて行動に出たから、伝わってないってことはないと思うんだけど。ん~……あ? もってぃ、地獄道ギルドのメンバーじゃないじゃん! 同盟まで含む全体チャット使ってないわ! これはう~ん、ごめんねもってぃ!!
『【神狐の殺気】を発動、もってぃの最終全ステータスを25%減少させました』
「あっ」
『(殺意の操作が、まだ不安定に御座いますね)』
また暴発しちゃった……。だって戦闘中に誰かを見たら、勝手に発動しちゃうんだもんこのスキル。わざとじゃない、わざとじゃないんだよ。
『フリオニールが【スラッシュ】【スラッシュ】を発動、スキルリンク! 【十文字斬り】を発動』
『緑の呪いが【突進】を発動、失敗! 体が切断されています』
『フリオニールが【シールドバッシュ】を発動、緑の呪いが大きく吹き飛ばされます』
『緑の呪いが【再生】を発動』
『【乱華閃舞】を発動、緑の呪いが一部切断されました』
『緑の呪いが再生に失敗しました』
なんだ……? 最初の時より、ずっと弱い……? 一瞬でも油断したらやられるような緊張感を感じない。使ってくるスキルも、どんどん弱くなってる……。
『(我が神、なんだか様子が変だ。最初の一撃で心が折れたかのような……)』
『(私も、違和感を感じてたところ)』
『(先程までの殺意を感じませぬ)』
『大きく、大きク、なりタい、ひとツに、ナって、ま、マ……ぱ、パ……』
『エリアアナウンス:緑の呪いが戦意を喪失し、自己崩壊が始まりました』
戦意を喪失した!? あれだけ暴れまわってたくせに!? しかも自己崩壊まで、ああ、本当だ……。どんどん体が溶けて形が保てなくなってる……。
『エリアアナウンス:緑の呪いが完全に戦意を喪失。外伝ストーリー【残された者】を再生します』
「え、そんな急に」
急にストーリームービー再生されるのは困るんだけど。こんな強制的なムービー再生、リアちゃんの時以来じゃない? でもなんだか気になるし、スキップせずに見ておくかあ……。
◆ ◆ ◆
空中都市メルティナ、大空を駆ける自由と繁栄の象徴のような華やかな都市だが、実はとある問題を抱えていた。
「これも失敗か、なぜ上手くいかないんだ……」
「前人未到の領域だ、そう簡単には行かないさ」
「どうしますか? この出来損ないは」
「当然廃棄だ。また所長に怒られるかもな」
「もう所長も怒るのに飽きたでしょう。あ、また失敗した? あっそ、みたいな感じですよ」
「だと良いがな」
空中都市という都合上、モンスター以外に新たな生命体が外部から入ってくる可能性は著しく低い。生活している人間は年々増え続け、最初は需要と供給のバランスが取れていたものの、それが崩壊しつつあった。
――そう、食糧難である。
家畜を増やすにしても、田畑を増やすにしても、メルティナの土地は限られていて大きくし続けることは出来ない。増やせないものを増やすにはどうすれば良いのか? 矛盾しているこの問題を解決するために出された解答は、急激に成長する家畜や穀物等の開発だった。収穫量が増やせないなら、収穫速度を早くすればいい。
成長速度を早くするために研究者達が目を付けたのは、人々から忌み嫌われているモンスターだった。モンスターは誕生した瞬間から驚異的な速度で成長し、あっという間に成体へと至る。この成長能力だけを家畜に与えれば、急成長する牛や豚を作り出せるのではないかと閃いたのだ。
しかし、モンスターの核となるものを家畜に植え付けるこの研究は上手く行かなかった。現実は悲惨なもので、家畜は凶暴化するばかりで成長は中途半端な上昇量。穀物もモンスター化が進み、終いにはトレントのような樹木のバケモノにまで成長してしまうこともあった。
「ん……? これは、なんだ?」
「それはえーっと、ああ……。スライムの核を植え付けた奴だ」
「何に植え付けたんだ?」
「処刑予定だったあの一家のさ、わかるだろ? 実験に使える牛も無限じゃないんだ。それこそ、成長するのが早くなるのかどうかの実験だけなら、人間だって同じだろ?」
「……あの罪人の子供か!!」
そんな中で行われた最も非道な実験が、とある大罪を犯して処刑される予定だった一家の子供に対して、スライムの核を植え付け経過を観察するというものだった。どうせ処刑されるなら、同じ生き物なら、ちょうど子供で都合が良いから……。そんな理由で両親が罪を犯したついでとばかりに一家全員の処刑が決まった、死を待つだけの無実の子供が実験に使われた。当然、一部の研究者達の興味本位による勝手な行動である。
「でもこの様子じゃダメだな。人間の原型がなくなりつつある」
『た、スけ、て、はか、セ』
「お~まだ意識が残ってるのか。頑張って大きくなるんだぞ~?」
「スライムって生き物とか鉱石とかを取り込んでデカくなるんだろ? さっきの処分予定の牛さ、こいつに食わせてみたらどうだ?」
「お、良いね。それにスライムって分裂するよな? 牛を取り込んで牛を真似て分裂したら! もしかしたら増えるかもしれないな!」
「そう都合良く行くかね~」
当然、都合よくそのようなことは起きなかった。スライム化した子供に実験に失敗した牛を与えた結果、取り込むことに成功して巨大化はしたものの、人格が崩壊してしまって支離滅裂な言葉を叫ぶようになった。
「やっぱりダメか。無駄だったな」
「しっかしデカくなったし、いつ見ても気持ち悪い緑色だな。これじゃデカすぎて処理出来ないんじゃないか?」
「投棄すりゃ良いんだよ。捨てちまえば下でどうなろうが問題ないだろ」
「いや~でもなあ……」
「万が一にもメルティス様の信仰者に被害が及んだら大変なことになるから、ゲートキーで異空間に閉じ込めておこう。後で問題になって俺達も処刑台に上がることになったら嫌だろ?」
「まあ、確かにそうだな……」
「でもそれ、貴重な魔導具じゃないのか?」
「大丈夫、魔族を脅せば幾らでも作らせられるさ」
「なら閉じ込めちまおう。その方が良い」
「恨むなよ~。お前がちゃんと成長しなかったのが悪いんだからな~」
『呪、って、ヤ、る、ヒトツニ、ナリまス。無駄な、大きく』
「おお、怖い怖い」
このような状態になっても尚、スライム化した子供の意識は残っていた。何の罪もない自分がどうしてこんな酷いことをされなければならないのか、メルティナを恨み、メルティスを恨み、研究者達を恨み、世界のありとあらゆる全てのものを恨み、呪った。
いつか必ずこの異空間を飛び出し、研究者達の忌み嫌う緑色で世界を覆い尽くし、全てと一つになって世界を呪い殺してやる。増殖する憎悪は呪いとなって緑の鍵となり、暫くはメルティナの危険物管理所で保管されていたが、ある事件が原因でメルティナが崩壊した際に崩壊に巻き込まれ、緑の鍵は下界へ放たれた。
いずれ、世界と一つになるために。緑の呪いで世界を覆い尽くすまで、憎悪で全てを呪い尽くすまで…………この悪夢は、いつ終わるのだろうか。
◆ ◆ ◆
今なら、同情する。あまりにも…………。
「…………デロナちゃんを連れてくる」
『(我が神が、そうしたいのであれば)』
終わらせよう、この子の悪夢を。終わらせるんだ。