か、カマクラが若返ってる!?   作:9ナイン9

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11:やっと、比企谷八幡はやるべき事を見つける。

 日曜の朝っぱらからリビングにて面倒だな~と思いつつレシートの束から、レシートを1枚づつ丁寧に確認してノートPCをカチカチする。

 経理業務ってマジめんどくせぇ……。税理士と顧問契約した方が良いのかもしれない。調べたら月々3万円ぐらいが平均って書いてあったしな。真面目に検討しとくか。

 

 2階層を殺虫スプレーで攻略して以降の4日間はスムーズであった。何故なら俺達は5階層まで辿りつく事が出来たからだ。

 だが、5階層までが限界だと思われる。それ以上の階層になると、ダンジョンでお泊まりをしなければいけなくなる。俺ってそこまでダンジョン攻略ガチ勢じゃないんだよな~。大体、何階層あるか分からないのに、そんな無謀な事したくない。

 そもそも4階層で1日平均28万円分の稼ぎを叩き出せてるからもう充分だ。月商にしたら凡そ840万、年商にしたらギリ1億越えの利益率が60%。あくまで休日無しの計算だから稼ぎは実際もう少し下がる。

 

 あれ? マジで充分じゃね? この稼ぎなら土地資産税が上がったとしても耐えられるぞ。ダンジョン所有の申請をしても問題なさそうだな。

 

 現状に満足してると階段からドンドン、と騒がしく足音が聞こえてきた。

 

「マスタ〜、お願いがありますの〜」

 

 ルーメリアはリビングに入ってきて、俺の腕を掴んでユサユサ揺らしてくる。

 お願いってなんだよ。血は昨日の夜に分けてやったしな……。てか良く良く考えればヴァンパイアの癖して朝起き出来るとか凄いなコイツ。まぁ人類が想像してるヴァンパイアと異世界のヴァンパイアはかなり生態が違うのかもしれない。

 

「なんだよ? 朝っぱらから。今は仕事中だ、後で聞くだけ聞いてやるから、とりあえず……ちょっと待ってろ」

 

 近くの物入れから、俺がガキの時に買い集めたDVDBOXコレクションの1つを取り出してPS4にセッティングする。

 

「これでも見ながら待っててくれ。あと2時間もあれば終わるから」

 

 因みにセッティングしたのは某人気カードゲームアニメのDVDだ。

 

 俺は仕事に戻り、ポチポチカタカタを再開。

 

 経理業務を終わらして、裏庭ダンジョン1階層から5階層まで出てくるモンスターと、その対処法をまとめる。

 次は、ダンジョン所有の申請書を書かないとな。めんどくせっ!

 国の公式サイトから申請書(Wordファイル)をダウンロードして書き込んでゆくが……。専門用語が多過ぎて分からん! 

 なので色々調べながら書いてたら、2時間を優に超えていた。

 

 ルーメリアが痺れを切らしてないか心配になったので、恐る恐る視線だけをソファーの方に向けて確認してみる。

 

『王者の鼓動、今ここに列を成す。天地鳴動の力を見るがいい! シンクロ召喚!我が魂、レッド・デーモンズ・ドラゴン!』

 

「おぉー! やはりアニメと言う物は凄いですの! このドラゴン、ペットに欲しいですわ」

 

「コブー!」

 

 序盤の遊星VSジャック戦を見て感激している。ゴブタ二と一緒にメッチャ集中していらっしゃるではないか。気持ちは分かるよ、面白いよね5D's。俺も最初見た時は、中二心が疼いてバイクが欲しくなったよ。教習所代が高くて断念したけど。

 にしても異世界にアニメは無かったのか? 【ストレージリング】なんてヤバい物はあるのに不思議だ。

 アレか? 魔法技術は発達してたけど、科学技術は中世並の世界だったのか?

 

 俺はキリ良くエンディング曲が流れたのを見計らって、ルーメリアに話しかけた。

 

「仕事終わったぞ。要件があるんじゃないのか?」

 

「そうですわ! 四天王クラウスの弔いを手伝って欲しいですの」

 

 ルーメリアはそう言うと、空間から例の白骨死体を取り出した。いやさぁ、何で家の中でそんな物騒な物を取り出すかな……。

 外で取り出されるよりかはマシだけど。

 兎に角、見てるだけで呪われそうな気がする。

 

「弔うって言ってもな……庭には埋めたくないし……火葬は目立つし……。そんなデカイ白骨を海に投げるのも目立つしな……」

 

 白骨死体をそのまま捨てるのはマズイ。バレたら死体遺棄の容疑を掛けられかねん。

 そんな事になったら俺のスローライフ計画が台無しだ。

 

「待てよ?」 

 

 目立たないで処理する方法ならあるぞ。我らには裏庭ダンジョンがあるではないか!

 

「この世界には水葬って弔い方があるんだ。それで良いなら手伝うぞ」

 

「弔いが出来るなら我儘は言いませんわ。クラウスをちゃんと弔ってあげたいんですの」

 

 ルーメリアは白骨死体を優しく撫でながら言う。とても大切な思い出をかたるかのように、顔に優しい微笑みを浮かべながら。

 しゃーない。最近ダンジョン攻略も結構頑張ってくれたし、一肌脱ぐか。良かったな……えーと、クラウスとやら? 優しい魔王様を持ったな。

 

「ならダンジョンに行くぞ。弔う前の準備が必要だからな」

 

 従魔全員を呼び寄せ、俺らはダンジョンの出口付近で準備に取り掛かった。

 

「ソフィー。悪いが、ゴブリン共が来ないか見張っててくれないか?」

 

「プルプル♪」

 

「ありがとうなソフィー」

 

 ソフィーから了解の返事を聞き、他の従魔達にも指示を飛ばす。

 

「他は一緒に白骨をすり潰すぞ。カマクラ、先ずは白骨を細切れにしてくれ」

 

「にゃっ!」

 

 白骨死体が細切れになった所で、俺達は作業に入る。

 

「マスター……本当に大丈夫ですの……?」

 

 ルーメリアが心配そうに聞いてくる。まぁ心配になるよな、自分の元部下の死体をすり潰すなんて言われたら。

 

「大丈夫だ。クラウスだっけ?の魂を星に還すには必要な手順なんだ。だから我慢して見ててくれ」

 

 まぁ本当なら灰にしなきゃイケないが、頼れる宛なんて無いので仕方ない。

 

 俺とゴブタニでバットを使って出来るだけ粉末になるまで潰して、粉末がある程度の量になったら瓶に入れる。

 この工程を2時間程繰り返して作業が終わる。使った瓶は10個。

 骨って意外と量があるんだな……。

 2時間程度で終わったのはきっと、ステータスの補正値のお陰だろ。現に俺とゴブタニは全く疲れて無いしな。

 

「よし、帰るぞ。ルーメリア以外は家で休んでてくれ」

 

「わたくしは何をするんですの?」

 

「お前の部下を弔うのに、行くべき場所があるんだ。だから、そこにお前を連れてく」

 

 俺達はダンジョンから出る。

 ルーメリアを【モンスターブック】に入れて、俺は自転車に乗のって海岸を目指して懸命に漕いだ。

 

♢ ♢ ♢

 

 海岸に着いた俺は、澄み渡った青空を見上げながら堤防台の上を歩く。潮風がこんな気持ちいいとはな……。

 念の為、周りを確認するが誰も居ない。流石は千葉の超ド田舎である富津。まるで世界に自分しか居ないと錯覚しそうだ。まぁ富津市は財政破綻してるし、交通機関の利便性も悪いからな。住みたいなんて奴は静かに1人で余生を送りたい奴ぐらいだろ。

 

 あの日、カマクラが若返っていなかったら俺も1人で虚しく人生を送る羽目になっていたのか……。

 俺は今後どうしたいんだ? 夢なんてモノは勿論無い。30歳間近で夢がある方が世間的には少数だろ。今となっては稼ぎも充分ある。日々の生活だって最近は従魔達のお陰で、寂しさを感じること無く充実してる。

 このまま上手い事行けば、探索者のランクだって上がるかもしれない。

 

 なのに……なのに何だ、この満たされない感じは。

 自分の真意を確かめるべく俺は目を瞑る。すると昔の情景が昨日の事の様に綺麗に浮かんできた。

 

『貴方が好きよ。比企谷くん』

 

 目を開けると、目の前には先程と変わらない大海が広がっていた。

 

「俺もだよ……雪ノ下」

 

 景色に当てられてか、ついつい言葉が漏れた。

 気持ちを再確認したからって何だって話だけどな。別れた時から約10年は経ってる。結婚して幸せになってるかもしれないし、そうじゃなくても俺の事なんて綺麗サッパリと忘れて新たな道を歩んでるのかもしれない。

 

 なら、今の俺がやるべき事は……

 

「目指してみるか……高みってやつを」

 

 昔の情景を思い出すと同時に、今の自分の中で微かに芽生えた欲望まで知ってしまった。アイツらと……従魔達と共に見た事も無い景色、高みの景色が見たくなってしまった。

 何で成功者共が共通して、やりたい事を見つけろと言うのか分かってしまう。見つけてしまったこの瞬間の、心の内から湧き上がるこの感情、快感にも似た感情の昂りが収まらない。成功者共は知っているのだ、やりたい事を見つけた時のこの快感を。

 高みかは分からないが、Bランク探索者から目指してみるか。

 

「はぁ〜……。30間近で夢が出来るなんてな……人生何が起きるか、本当分からねえな」

 

 自然と顔に笑みが出てしまう。

 昔だったら、小町や戸塚が心配するから〜とか、雪ノ下や由比ヶ浜が煩そうだから〜とか、言い訳して挑戦しようとも思わなかったに違い無い。まぁ高校の頃にダンジョンなんて存在して無かったけどな。

 

 これからの方針をふんわりと定めた俺は当初の目的通り、ルーメリアをモンスターブックから出現させる。

 

「ここは……海ですの?」

 

 ルーメリアは俺ん家の外に出るのが新鮮なのか、辺りを興味深そうにキョロキョロする。

 

「ああそうだ、海に向かって四天王の遺骨を撒け。それで立派な弔いになる」

 

 なるほど、とルーメリアは呟きながら空間から先程の遺骨を詰めた瓶を取り出して、海に向かって豪快に振り撒いていく。

 

「四天王・龍魔将クラウス……これで今生の別れですわ……どうか、健やかにお眠りを。輪廻が巡った先で、また貴方に会える事を心待ちにしてますわ……最後まで大義でした」

 

 ルーメリアは目を瞑り、海に向かって合掌しながら四天王のクラウスとやらに別れの言葉は送る。

 俺はクラウスとやらに話した事も無ければ、会った事も無い。だが居合わせてる手前、俺も目を瞑って合掌をする。

 

「クラウス……ライミー……ショット……アルキスタ……魔王軍の皆……貴方達のお陰で女神・フィーエルを討ち滅ぼせました。ですが…ワタクシは…皆の家族を守れま……グスッ……お゛め゛ん゛な゛あ゛い゛」

 

 ルーメリアが急に泣き出した事に俺は驚いてしまった。隣を見ると、ルーメリアは両手で自分の顔を覆いながら、懺悔の言葉を何度も海に向かって絞り出していた。

 王様になった事が無い俺には分からない悲しみの深さだろうな……。だが、例え理解出来なくても悲しい時に傍に居てやるのが家族ってモノだろ。

 

 俺はただ優しく静かに、ルーメリアの髪を撫でる事にした。

 いつも気丈に振舞っているルーメリアだが、今日まで色々我慢してたのかもな。

 

「ま、ま゛う゛だぁぁぁぁ」

 

 ルーメリアが俺のズボンをギュッと握って来たので、相手の身長に合わせるように、俺は膝を屈めて胸を貸した。

 なんつうか、こんなの俺のキャラじゃねえな。でもな、家族が泣いてるのを放っておいたら、それこそ本当にごみぃちゃんになっちまう。

 

 どんぐらい経ったか分からないが、俺は泣きじゃくるルーメリアを抱きしめながら、ただ優しく頭を撫で続けた。

 ルーメリアは異界の魔王だ。残酷な事を数え切れない程してきたかもしれない。だが、そこにはルーメリアなりの正義があった筈だ。善悪の価値観なんて、時代や国よって違う。ましてや異世界なら絶対に違う。

 それに、今はもう……俺の従魔であり家族だ。過去の事なんてどうだって良い。ただ、勇者の亡骸を使った呪いチックなアイテムは、SAN値が削られるから出さないで欲しいが。

 

「グスッ…………マスター……ありがとうですわ」

 

「ああ……もう大丈夫みたいだな」

 

 俺は離れようとするが肩口を掴まれて離れられない。え……? 何で離してくれないんですの? このまま幼女と抱き合ってると、八幡の犯罪係数が上がっちゃうよ? 

 

「もう少し、このままでいるのは……駄目ですの?」

 

 うぐっ……そんな可愛いく上目遣いされると断れねぇだろうが。何より顔が近い、近いですわよ!魔王様!

 

 潮風によって流れる様に白銀の髪が靡き、真紅の瞳が俺の視線を捕らえて離さない。そう言えば、俺って大人版のコイツとディープなキスしたんだっけ……ハッ!! 何で俺は今この状況でそんな事思い出してるんだ!!

 俺は、抱きしめてた手を降ろすとルーメリアが小さく「あっ……」と、切なそうな声を上げる。イヤ、このままだとペド谷君になっちゃうから。マジで投獄されちゃうから。因みに、面会に来た小町と由比ヶ浜に絶縁宣言されちゃうまでがセットな。てか面会に来てくれるとか天使かよ。

 

「ほら、一応弔いの場でずっと抱き合ってるのも不謹慎だろ」

 

 至極真っ当な事を言ってやると、ルーメリアはあどけない笑顔を向けてきた。

 

「クラウスなら笑ってくれますわ。酒癖が悪い以外は明るくて皆を引っ張ってくれる存在でしたのよ」

 

 どうやら四天王のクラウスさんは、陽キャだったようだ。本人の弔いの場でこんな事を言うのもなんだが、俺の苦手な分類だろうな。

 

「酒癖悪いヤツは嫌いだ、特にあのクソ上司。砕け散れ」

 

「なんの愚痴ですの!?」

 

 おっと、ついブラック企業にいた頃のクソ上司を思い出してしまった。そう言えば退職してから半年間、酒飲んでねーな。来週までに日本酒でも買っておこ。

 

「ああそう言えば忘れる所だった。これクラウスとやらの角だ。これだけどうやっても潰せ無かったわ」

 

 俺は空間から角を2本を取り出してルーメリアに渡す。

 

「龍人の王の角はアダマンタイトより硬いので仕方無いですわね。形見として大事にしますわ」

 

 そう言うと、ルーメリアは大事そうに角を1本だけ空間にしまった。

 へー、クラウスとやらは龍人族なのか。道理で変な形した白骨死体だと思ったわ。

 

「もう1本はマスターが持ってて下さると嬉しいですわ」

 

「は? 何で俺がクラウスとやらの形見を持つ必要があるんだ? 縁もゆかりも無いぞ」

 

「マスターがもう1つの角を持ってた方がクラウスも絶対喜びますわ。なんなら装備品の材料にしてあげればもっと喜びますわよ」

 

 アダマンタイト以上の硬度を持つ角なら確かに良い装備が出来そうだが、呪われないか? てか未だに俺の装備って上下ジャージだったわ。

 

「喜ぶって言われてもな……余っ程変なヤツだったのか?」

 

「変なヤツでしたの! あ、でもマスターも変なので安心して良いですわよ?」

 

 キッパリ言い切られたので、渋々もう1本の角を受け取って、俺は空間にしまった。それとクラウスさん、変なヤツ扱いされてますよー。取り憑いて懲らしめた方がいいですよ。

 

「はぁ〜、もう帰るから本に戻すぞ」

 

「イヤですわ! ワタクシも Dホイールに乗りますの!」

 

 とんちんかんの事を言いながら俺の自転車の所へと走って行ってしまった。ったく、 Dホイールでもなければ、バイクですら無い。至って普通のママチャリだわ。

 5D'sになんて見せるんじゃなかった……。このままだとウチの魔王様がデュエル脳になってしまう。マジで闇のデュエルとか展開出来そうな辺り、タチが悪いんだよな。

 

「捻っても動かないですわね……」

 

「おい、それはDホイールじゃないぞ。ただのチャリンコだ」

 

 追い付いたら、ルーメリアはチャリのハンドルをアホみたいに捻っていた。

 こう見ると好奇心旺盛な子供にしか見えない。こんな見た目して、中身は1000歳以上のBBAだから詐欺ってレベルじゃないぞ。

 

「ちゃ、りんこ……?」

 

「チャリンコ、正式名称は自転車だ。それと、夢見てる所悪いがDホイールは実在しないぞ」

 

「うそ……」

 

 ガーンって効果音が付きそうなぐらいに、ルーメリアの表情が凍りついてしまった。

 真実は残酷だ。だから嘘だらけのアニメは優しいし面白い。世の中の真実を受け入れて、人は知らずに大人になる。良かったな魔王様、大人の階段を1つ上がれたぞ。

 

「で、でも、あのカードゲームは実在しますわよね……?」

 

「遊戯王カードか? あぁ普通に売ってるぞ。ククッ、アニメと違ってカードからモンスターは出て来ないけどな!」

 

 やっべ、マジなトーンで聞かれたから、つい笑ってしまった。まぁいつかはソリッドビジョンシステムが全速前進DE開発されんじゃねーの? 知らんけど。

 

「そんな……。あんまりですわ!!」

 

 何だこの感じ。サンタを信じてる子供に「サンタ?お前マジで信じてんの?居る訳ねえじゃん!」って、言ってしまったのと同じ気がする。

 そう言えば小さい頃、小町に「お兄ちゃ〜ん!ピカチュウ探しに行こう?」って言われた時は、俺って何もツッコまずに夜まで付き合ったんだよな……。まぁ見つからなくて小町は大泣きしたけど。アレは存在しないピカチュウが悪い、小町は悪くない。

 

「ハイハイ、お前は後ろに乗れ。それとも本に入るか?」

 

「何事も経験ですわ。このじてんしゃ?に乗りますの!」

 

 そう言うとルーメリアは荷台の方にシフトした。

 

「自転車な。もう少しお前の身長が伸びたら漕せてやるよ」

 

 俺が自転車に跨った時だった。

 

──俺達の魔王様を任せた。くれぐれも泣かせんじゃねーぞ腐り目

 

 海の方から誰かの声が聞こえた。だが、振り返るも誰も居ない。

 

「マスター? どうしたんですの?」

 

「いや……海の方から誰かに……呼ばれた気がしたんだ」

 

「誰もいないですわね……あっ、マスター! ドラゴンみたいな雲が浮かんでますわよ!」

 

 そう言われ視線を青天の方へと上げてみる。そこには確かに、ドラゴンを彷彿とさせる壮大な雲が浮かんでいた。

 

「おおー、確かにドラゴンに見えるな……」

 

───声はアンタだったのか、四天王のクラウスとやら。任せてくれ、ルーメリアは家族として大事にする。だから、これからもあの世から見守っててくれ。

 

 俺が心の中でそう呟くと、ドラゴンの形をした雲が心做しか微笑んだように見えた。

 

「出発するからちゃんと掴まってろよ」

 

 注意してやると、俺の腰あたりに腕を回してくる。ヴァンパイアだからなのか、服越しに冷んやりする。

 

「さぁ、マスター! 早くアクセラレーションするんですの!」

 

「だから、ライディングなデュエルはしないって」

 

 今度からは幼児向けアニメを見せよう、そう思いながら俺は自転車を漕ぎ出した。




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