筋トレも済まし、俺達はダンジョンへと突入した。ストレージリングのお陰もあって、道中の移動で苦労する事も無く1階層を踏破し、俺達は2階層に続く通路を歩いている。
「おい、マダオ」
俺は隣で異世界の高級装備を纏って優雅に歩く、丸で駄目な魔王に声を掛けた。
「マダオ? わたくしの事ですの?」
「あぁお前だよ! 丸で駄目な魔王様。1階層は見事に何も仕事しなかったな? ソフィーですら、ドロップ品を拾い集めるのを手伝ってくれたぞ」
「僕も頑張ったー♪」と言いながら俺の頭の上でポヨンポヨンと跳ねるソフィー。ソフィーが付いてきたいと言うので、連れてきている。言わば、今日はフルパーティでダンジョンで来ているのだ。
「丸で駄目って……! 失礼ですわね! 魔王たる者は後方でドッシリと構えるものですわ」
見事なまでのドヤ顔で魔王の在り方を語っているが、コイツって自分が現在肩書きだけの魔王って自覚ある? ちょっとした意識改革をしてやる必要があるな。
「そうかそうか。ならドッシリと後ろで永遠に構えてろ。晩御飯とデザートも抜きになるけどな」
そう言ってやると、ルーメリアの顔は段々と青ざめていく。
「そ、そんなのあんまりですわ!? わたくし2階層から頑張ります!! いや、頑張らせて下さい!! ワタクシにはあのコーヒーが必要ですの!! マスター、どうかご慈悲を!!」
喧しくルーメリアは上目遣いをしながら俺の足にしがみついてくるが、ウザイので引き離す。
「なら働け。そうだな……ノルマは大目に見て10体だ。因みにノルマを達成したからってサボるのは無しだからな」
「余裕ですの! 魔王の名に賭けてマスターの前に屍の山を築いて差し上げますわ!」
デカい口を叩いてるが、コイツって弱体化してるよな? 心配だ。
「まぁ……ほどほどに期待してるぞ」
やる気に満ちたのか、ルーメリアは一気にカマクラがいる前線へと向かった。
魔王の戦いか、一応見物だな。ステータスはカマクラに劣っているが、神や勇者との戦いで培われた戦闘経験は生きてる筈だからな。
そんな事を考えてると、通路の出口を出る。1階層と同じでほんのりと灯りがある洞窟と言った印象だ。
「にゃぁぁあ!」
少し進むと、カマクラが何かを感じ取った様で戦闘態勢に入った。
俺には敵の姿が見えない……。
カサカサカサカサ
今、カサカサとした音?がしたぞ。
俺も瞬時にバットを構える。今の音で確実に何かがいる気配がしたからな。
そして、
俺の目は黒光りする敵の姿を捉えた。
「ひぃっ!? ご、ゴキブリ!?」
大型犬サイズのGが3体、カマクラとルーメリアと対峙していた。そんな中、ゴブタニは俺を守るように陣取る。ポイント高いぞゴブタニ!!
「カサカサ」
「にゃっ!」
本能的忌避感を駆り立ててくる素早いGに、カマクラは動揺する事無く爪撃を繰り出した。
だが、Gは体の半分を抉らても尚、動き続ける。
カマクラが一発で仕留め切れなかったのは初めてだ。だとすると生命力が高いのかもしれない。なんて厄介なヤツらだ。
「虫ケラ風情が……!! 操血魔法、ドレインボール」
Gの動きに痺れを切らしたルーメリアが魔法の名を唱えると、その手から銀色の球体が浮かび上がる。
「果てなさい」
Gが近づくと同時に、球体は回転しだして、その血を吸い取り始める。
分かってはいたけど操血魔法って強えな。あとグロい。ゲームなら確実に敵キャラが使っくる魔法だ。
「凄いな……」
やがてGは木乃伊みたく乾燥して、光の粒子となって消えていった。
「ニャー」
右側の方でも光の粒子が見える。
どうやらカマクラも2体を倒し終えたようだ。
「虫の血は不味いですわね……ウエッ」
ルーメリアはペッ、ペッと唾を地面に吐きまくる。ウチの魔王様は女子力が足りてないようだ。にしても女子力って言葉はやはりビッチくさいな。
よし、ココはスマイルを浮かべて従魔達を労うべきだな。俺のキャラじゃないけど。
「やっぱお前ら強いな。操血魔法なんてカッコ良かったぞ。流石はヴァンパイアの魔王だな」
カマクラとルーメリアは、うわっと言いた気な表情を向けてきた。
「………マスターの笑みって気持ち悪いですわ」
やめろよ、戦っても無いのに俺のライフポイントがゼロになっちまうだろ。機会があれば葉山にイケメンスマイルのやり方でも聞いてみるか。機会が来ても俺は会わないで帰る気がするけどな。
「気持ち悪いのは悪い事ばかりじゃないぞ。そのお陰で面倒事を避けてこれたからな」
「人類に避けられてたのですね。お可哀想なマスター」
ぷぷって笑うその姿を見て、俺はあざとい生徒会長を思い出してしまった。
元気かなアイツ………きっと今頃「これ可愛いくないですか〜?」とか甘い声を出しながらIT系の金持ち社長を引っ掛けてそうだな。うん、やっぱあざといわ。
「ゴブっ!」
昔を思い出しながら、Gがドロップした羽と鎧みたく硬い脚部を拾ってると、ゴブタニが大声を上げながら遠くの方を指差すので、目を凝らして見てみる。
5……6……7……あの量は無理じゃね?
「お前ら逃げるぞ!!」
10体以上のGが迫って来てたので撤退を指示。流石にカマクラが一発で仕留め切れないヤツらを何体も相手にするのは危な過ぎるからな。
「撤退? 魔王が撤退なんて有り得ませんわ。何よりノルマが優先ですの!」
「おいバカ!!」
呼び止めようしたが、勝手に突撃しやがったよあの駄王!!
「カマクラ、悪いが援護に行ってくれ! ゴブタニ、お前は【身体強化・小】を発動して俺と一緒に陽動だ!」
それぞれに指示を飛ばし終える。俺は敵に石を投げつけて何体かのヘイトをこちらに向けた。
そして、こっちに気を取られた敵を背後からカマクラが爪撃で倒していく。
「8体いますわね……操血魔法、ブラッドアロー」
ルーメリアの方に目を向けると、先程の球体を展開しながら血で作った矢を飛ばしまくっている。
恐らくあの球体に血を蓄えてるっぽいな。
「ハァ、ハァ……やはり虫けら、口ほどにもありませわね………」
倒し終わって安心してる様だが、俺の目はルーメリアの頭上、天井に張り付いてる黒光りを捉えた。
「まだ1匹残ってるぞ!」
叫ぶと同時に、俺は考える間もなく走り出していた。
やばい。このままだと魔王と言えと大ダメージを負ってしまう。
頼む、間に合ってくれ!
「キャッ!?」
「グアッ!!……ぐぅ!」
ルーメリアを押し飛ばすと、肩へと突き刺さった強烈な痛みが全身を支配してきた。どうにか唇を噛んで、声を殺す。
視界の端で確認すると、赤い液体がポタポタと肩から零れてるのが目に映る。Gの鉤爪にやられた様だな……。
「…………っ!! ブラッドニードル!」
周りにあった俺の血が1箇所に集まっていく。俺を食おうと迫ってたGが血の棘に貫かれ、目の前で粒子となって消えた。これも操血魔法か……。
「マスター!」
ルーメリアが駆け寄っくるが、掌でストップのジェスチャーを送る。
「大丈夫だ……ハァ……反省してるなら、次からは指示に従ってくれ……マジ痛え」
空間収納から雪ノ下印のミドルポーションを取り出して飲み干す。傷口は徐々に塞いでいくが、痛みは即座に消えてはくれないようだ。
「ゴブ……ゴブゴブ」
「ニャーン……?」
「プルプル」
「平気だお前達……悪いな心配かけて。痛いだけで、傷は塞がった。ただ……これ以上の探索は無理そうだ」
歩けない程じゃないが、少しクラクラする。傷が治っても、流れた血が戻る訳じゃない。ミドルポーションだと傷を塞ぐのが限界なようだ。それに……もう雰囲気的に探索出来そうに無いしな。
足取りが重い中、俺らは来た道を引き返す。カマクラがゴブリンの群れを蹴散らした辺りで俺はスマホをチェックする。なんと現代人が一息つける午前12時になっているではないか。
サラリーマンの時はパンを咥えながらPCをカチカチしてたけどな。お陰でパンの味がよく分からなかったわ。あの時は舌が腐ってたのかもしれない。舌が腐るまで働くとか流石俺氏。まさに社畜の鏡である。
社畜からダン畜にジョブチェンジした俺は全員に指示を送り、安全地帯で休憩を取る事にして腰を降ろす。
ダンジョン内にはちょいちょい敵が現れない安全地帯がある。言わば謎のセーブポイントみたいなもんだ。厳密には現れはするんだが、遭遇率はかなり低い。
「なぁ……お前も食えって……」
「………結構ですわ」
空間から飯を取り出して、それぞれに配る。だが、ルーメリは俯いたままで受けとってくれない。
っべー、ウチの魔王様がガチ凹みしてますわ。これは怒る気なれない、と言うか怒る必要性が無い。
ミスをしても反省しないヤツには怒る必要はあるが、問題点を理解してて反省してるヤツを怒るのは良くない。精神的負荷を無駄に掛けるだけだからな。
これはサラリーマンだった時の俺の経験だ。まぁコッチが反省してても怒鳴ってくるクソ上司はいたけどな。あの上司は俺の絶対許さないリストに書いてやった。砕け散れ。
「充分反省したろ。お前は全盛期の自分に慣れ過ぎてた。弱体化してる今の自分の力が分かって良かったんじゃねえの? 次は無茶しなきゃ良いんだよ」
もっと気の利いた事言えないのかよ俺。これじゃお前は弱いんだから出しゃばるなって言ってるようなモンだ。
リーダ経験が無いボッチにはこれが限界なんです、ごめんなさい!
「………ナンデ」
うん? ボソボソと言われても分からん。俺は鈍化系でも無ければ難聴系でも無いが、ルーメリアの言葉が本当に聞き取れなかった。
「何だって?」
意を決したような表情でルーメリアは見つめてきた。
「何で助けたんですの……? 例えあの不意打ちを食らってもワタクシは死ななかったですわ……わざわざ従魔の為に自分を犠牲にする従魔士なんて聞いた事がありませんわ……」
俺よりステータスが高いルーメリアなら確かに死ななかっただろうな。それに聞く限りだとコイツの価値観的には従魔の命を最優先にするのはオカシイようだ。
「………気づいたら飛び出してんだから仕方無いだろ。大体、お前が死んだら俺の稼ぎ少なくなる。だから……これは俺の為であって、深い意味なんてねえよ」
これ以上の理由が無い俺は「分かったら食え」と言って、朝作った玉子サンドとマッ缶を強引にルーメリアに押し付けた。
本当に大した意味なんて無い。サブロー……じゃなかったな。サブレを助けた時と一緒で、体が勝手に動いただけだ。それ以上でもそれ以下でも無い。まぁ……ほんの少し小さい頃の小町と重なったてのはあるかもだけど。
てかサブレは元気か? アイツも生きてたら結構な歳だろ。元気だといいな。
「…………自ら従魔にご飯まで作るマスターはやっぱり優しいですわね」
うん? まさかのまさかでコイツ今デレなかったか!?
「お前……大丈夫か? 押し飛ばした時に頭でも打ったか? 気味が悪いぞ」
「失礼ですわ! やっぱりマスターは腐ってて気持ちが悪い捻くれ者ですわね」
うん? ううううん? 俺のライフポイントが、ワンタンキルされかけてるのなぁぜなぁぜ?
「腐ってる気持ち悪いマスターの従魔になってるお前は、見事に気持ち悪いの仲間入りだな、オメデトウさん」
皮肉をド直球で飛ばしてやると、ルーメリアはパンをモグモグしながらプクーと頬を膨らませる。
これはパンを飲み込んだら悪口が飛んで来そうだな……。
「ワタクシは気持ち悪くなんか……」
ルーメリアはそこまで言って一瞬ハッとし、何かを考え直すかのように黙るが、直ぐに口を開いた。
「そうですわね、魔王たる者が感謝出来ないのは気持ち悪いですわ……マスター、そ、その……助けて頂き感謝します」
そう言ってルーメリアは深々と頭を下げてくる。
神を殺し、次元ごと滅ぼした魔王が他人に感謝してると言う事実が俺を動揺させてくる。
嘘だろ……コイツってもっとこう、高飛車な悪役令嬢みたいな性格じゃなかったっけ? 世間知らずなだけで礼儀正しい子だったりする? 意外と良識があるのかもしれないな……。ちょっとだけ八幡的にポイント高いぞ。なんならギャップ効果で追加点あげちゃう。
「お、おう……ノルマ達成出来て良かったな。してなかったら昨日の血を吸われた腹いせも含めて、追撃説教してやろうかと思ったが出来なくて残念だ」
ミドルポーション代15000円の事も言いたいが、それを言ったらダメンズになる可能性がある。既にダメンズなのかもしれないが、金の事をネチネチ言ったら俺の良心の中に潜んでる小さい小町が「ごみぃちゃんポイントひくーい!」って言ってくるに違いない。
「やっぱり捻くれ者ですわ……」
「ねぇ、俺褒めてるよね? 何で俺がカウンター口撃食らってんの?」
「玉子サンドと言うこの食べ物凄く美味いですわね……モグモグ」
俺との言い合いに飽きたのか、食べ物に集中しだしたようだ。まぁ自分が作った物を褒められるのは悪い気はしないな。
従魔達が飯を食べ終わるのを見計らって、俺は全員に向けて声を出す。
「魔石を食い足りない奴はいるか? 飯を食ったら少しは体調が良くなったから、ゴブリン狩りなら付き合うぞ」
従魔全員が元気良く手を挙げた。育ち盛りって怖ぇ。俺がガキの頃はここまで食わなかったぞ。
そう言えば、給食の余ったコッペパンとかの処理係にされた時は殺意が沸いたな。しかも、残したら残したで「ヒキタニが残した〜お前が残すと俺らまで怒られるだろ!」って責められたな……。シクシク
悲しき幼少期を思い起こしてると、次はルーメリアが従魔達の前に出てくる。
「先程は軽率の行動を取ってしまい、申し訳ありませんでしたわ」
ルーメリアが頭を下げると、ゴブタニの目が点になった。魔王が謝るのがやはり意外なようだ。
カマクラはルーメリアの足をポンポンして「まぁ次頑張ろうぜ」と言ってる。
ソフィーはルーメリアの頭に触手を伸ばして撫でてる。多分、誰も怒ってないよと伝えたいのかもな。
コイツらって仲良いよな……。大して共通点とか無いのに不思議だ。
空気が良くなった所で、俺達はゴブリン狩りを開始した。戦闘らしい戦闘もなく狩りは順調、と言うより蹂躙だ。ゴブリン共が可哀想に思えてくる。
1階層に対して今の戦力は過剰だと言えるな。
「これは迷惑を掛けたお詫びですわ。スライム、貴方も食べなさい」
ルーメリアは自分が手に入れた魔石を他の従魔達に配っている。魔王としてのプライドなのか、はたまた罪悪感からなのかは分からないが、元の世界では意外と王として立派にやっていたのかもしれないな。
「プルプルプルプルプルプル」
「うん?…………は!?」
ソフィーが魔石を10個程食べた辺りで急に光だした。え、本当に何これ?
「おお! スライムが進化しますわ!」
「いや、進化って……ソフィーは敵を倒した事無いんだぞ?」
「知らないんですの? スライムは弱い代わりに進化の速度が早く、形態も多いですのよ。魔石を沢山食べるだけでも進化しますわ」
マジか……。これってBボタン連打出来ないよな。出来れば可愛いままで居て欲しい。頼むからゴツイのだけはやめてくれ!
祈りを込めてると次第に光は収まり、ソフィーの新たな姿が顕となる。
「おー綺麗だな……」
一回り大きくなって、水色だった体はサファイヤブルーとなっており、宝石みたいだ。
「見た事無い種類ですわね……」
どうやら異世界にはいなかった種類のようだ。
「プルプル♪」
マスター強くなったよー♪と言っている。
俺は確認するベく【モンスターブック】を呼び寄せる。
ネーム:ソフィーLv2
種族:アース・スライム
スキル
【高速消化】【アルミ硬化】【酸消弾】
ステータス
生命力:50/50
魔力量:100/100
筋力 :+110
耐久力:+220
敏捷力:+90
知力 :+100
見るからに耐久型っぽいな。てか、アルミ硬化って何だ? MAXコーヒーの空き缶を食わせてた影響か? 試すしかなさそうだな。
「アースとは何ですの?」
隣を見ると、ルーメリアは頭蓋骨を鷲掴みにしながら、ソレをソフィーに向けていた。しかも、ただの頭蓋骨じゃない。銀でコーティングされおり、肉眼まで付いている。
何だよその呪わてそうなアイテムは……ツッコムの後にするか。
「アースってのおそらく、俺らが住んでるこの星、地球の事を指してるんだと思うぞ」
教えると、ルーメリアは納得したのか「星に名があるとは興味深いですわね」と呟いている。多分地球の物を食わせ過ぎた影響だろうな。
「てか、その不気味なアイテムは何だ?」
「コレは【鑑定眼】とか言うスキルを持っていた勇者の骸ですわ。倒すのに苦労しましたのよ」
oh……異界の勇者の亡骸だったのかよ!! てことは殺した後に首から上を、アイテムとして改造したのか。かなり冒涜的な事をしてるなコイツ。やっぱり魔王は魔王って事か、所業が魔王らしい。まあ異世界の事は俺には関係ないか。
「殺す間際にパパ、ママ助けてと泣き叫んでたのは酷く滑稽でしたわよ……フフッ」
獰猛な笑みを浮かべながら当時の状況を赤裸々に語ってくる。そんな魔王らしい表情で生々しい事言わないで!! 怖いから。てか怖えぇよ。あと怖い。
「…………お、お前の武勇伝はまた今度聞くわ」
「いつでも聞かせて差し上げますわよ」
いや、聞きたくねーよ。とりあえず満足そうな魔王は放っておくとして、今はソフィーのスキル確認だ。
「ソフィー、あの岩に酸消弾を撃ってくれ」
「プルプル!」
指示を出すと、ソフィーは勢い良く酸の弾を岩石に撃ち込んだ。おお!意外と弾速が速い!
そして、岩石は撃たれ所が溶けていく。結構強い酸のようだ。
「次は【アルミ硬化】を使ってみてくれるか」
「プルプル」
うん? 変わった様子が無いな……。触ってみるか。
「おお……硬くなってるな」
見た目は変わって無いが、硬度がかなり上がってるようだ。
「ゴブッゴブゴブ」
「俺に進化したいって言われてもな……」
ゴブタニは自分だけが弱いんじゃないかと心配してるようだ。まぁ戦うだけが仕事じゃないし、あんま気にしなくて良いと思うけどな。
なので、俺はゴブタニの背中をパチンと軽く叩く。
「戦いだけが仕事じゃないぞ。俺なんてゴブリンを一体倒すのがやっとだ。それに比べればお前は2体同時に倒せるんだしマシだろ。困った時は下を見て安心しろ」
「にゃ……」
「プル……」
「励まし方が卑屈ですわ……」
何でお前らは呆れた目を向けてくるんだ。俺はマスター(笑)で、衣食住を提供している。言うなればホワイト企業並の福利厚生を充実させているんだぞ。もうちょっと敬意を持ってくれても良くないですか? って(笑)が付いてる時点でダメか。
「お前ら……ハチマンオウチカエル」
泣きたい気持ちを抑えて、俺らは和気あいあいしながらダンジョンから帰宅した。まぁ和気あいあいだったのは従魔達だけだがな。
晩飯は手抜きチャーハンを作ってやったが、カマクラ以外は目を輝かせながら食ってくれたよ。
カマクラが人間の飯に詳しいのが非常に残念だ。
♢ ♢ ♢
今日は珍しく、午後からダンジョンに突入している。なぜ午後かと言うと、午前中はホームセンターにある物を買いに行ってたからだ。
「昨日はよくもやってくれたな虫ども!! クタバレ!!」
現在2階層にて、俺はゴキジェットを振り撒いている。恨みを添えてな。
「カサ……カサ……」
効果はバツグン! 流石に死にはしないが、G共は痺れて仰向けになっている。
「ゴブタニと俺で撒き散らすから、他はトドメを刺してくれ!」
指示を送ると、従魔達は頷く。そして血の槍やら爪撃、酸の弾がG共に降り掛かってゆく。
「次はムカデモンスターかよ」
目の前に、俺と同じぐらいの大きさもあるムカデモンスターが現れた。
俺は即座にゴキジェットを空間にしまい、ホームセンターで1番高かった殺虫スプレーを取り出す。
「1500円の重みを味わえ!」
ムカデは殺虫スプレーにより痺れてしまい、ピクピクとしている。そこにすかさずソフィーの【酸消弾】が飛んで来て、ムカデは溶けて逝った。
ここまで楽になるとは思わなかったわ。流石は情報化社会と言った所か。別にこの攻略法は俺のアイディアじゃない。ネットで『ダンジョン 虫モンスター 楽な倒し方』と調べたら出てきたんだ。
「今日は役に立ってますわねマスター。偉いですわよ」
昨日ヤラかしたルーメリアさんが愉快そうに弄ってくるが、実際俺はダンジョンだとおんぶに抱っこなので言い返せない。
「おい、俺がいつも足引っ張ってるみたいに言うなよ。うっかり探索者を辞めたくなっちゃうだろ」
全く最近のガキと言うか、魔王は俺を揶揄うんだから。陽乃さんにも良く揶揄われたな……って、俺はまさか魔王とエンカウントする星の元に生まれってしまった感じなのか? HAHA、なにそれ、もう来世に期待しよ。
「ゴブリン……貴方、意外と中々やりますわね」
「ゴブー♪」
「ニャ〜」
「プルプル」
気づけば、ルーメリアとゴブタニは木の棒で○×ゲームをしている。オマケにカマクラはソフィーを頭に乗っけて、じゃれ合っている。微笑ましい光景だが、どんだけフリーダムなんだよコイツら……。ダンジョンの中にいる自覚あります?
「お前ら油売ってないで、ドロップ品を拾うのを手伝ってくれよ……」
注意してやると、従魔達は渋々ドロップ品を俺の所に持ってくる。自主的だったら八幡的にポイントが高かったんだがな……。見た所、魔石はざっと40個ぐらいか。
「ほら、魔石は仲良く平等に食えよ」
ガツガツボリボリ食い始める従魔達。魔石も売却に回せればもっと余裕が出来るんだがな……。食料だと思って割り切るしかないな。
ぶっちゃけ今は従魔を増やすのを中止している。と言うか、養う余裕が無い。
2階層がヌルゲー化したお陰で金銭面的には余裕は出来そうだが、飯を俺1人で作るのがそろそろキツイ。普段は従魔を本に入れとく案もあるが、連携と言うか、信頼関係に支障が出そうだからソレは無しだ。カマクラの【招福】が無かったらと思うとゾッとするわ。
とりあえず帰ったら飯対策を考えようかな……。
「まぁ大変な分、毎日充実してるけどな」
「ほほお……マスターはワタクシ達と居れて幸せだと」
ふと漏れた呟きが、1番面倒臭い奴に聞かれてしまった。何で魔王属性の奴って地獄耳なの? こうやって本音を聞かれると、高校の頃「俺は本物が欲しい」って言った時と同じぐらい恥ずかしいんだがっ!
「な、何を言ってるんだ。充実してるのは最近の稼ぎの事であって、お前達の事じゃn」
言い切る途中で、魔石を食べ終わった従魔達が群がってきた。
「にゃー♪」
訳:素直じゃねーなコイツ♪
カマクラは俺の肩に登ってきて、頬をモフモフグリグリしてくる。
「ゴブゴブ、コブー♪」
訳:旦那照れてるー♪
俺の脇をニヤニヤしながら肘で突っつきだすゴブタニ。
「プルプル♪」
訳:ソフィーはマスター大好き♪
俺の頭の上でポヨンポヨン跳ねるソフィー。
うぅぅぅ、恥ずかしいよ。何となくコイツらの言葉が理解出来るせいで余計に恥ずかしい。つうかマジで恥ずかしい。
「ワタクシも大好きですわ! MAXコーヒーが!」
ルーメリアは俺の足に抱き付いてくる。コイツに至っては、ただただMAXコーヒーが好きなだけじゃねーか。
「あー!分かったから帰るぞ! 今日は牛肉カレーを作ってやるから、いい加減離してくれ!」
強引に従魔達を引き剥がして、俺達は帰路に着く。
余談だが、2階層での1日の稼ぎは平均15万となった。虫モンスターの素材が意外と高く売れる事にビックリしたわ。どうやらGの羽根は装備の素材、脚部は武器の素材になるらしい。
そう言う訳で、今までの稼ぎの約1.8倍になった。これも全部【ストレージリング】のお陰だな。収納数も多分無限であり、荷物が嵩張らないからパーティの継戦能力が格段に上がった。
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