私はオーボエを担当している。
オーボエを吹くときにいつも悩むのがやっぱり音の質。
日によって安定しないんだ。
オーボエは木管楽器の中でも一番難しいとギネスに登録されているほど。
指は回りにくいし、運指も難しいし、リードはすぐに消耗しちゃうし。
そう言ってイエモンさんは「ある人」に視線を向けた。
視線の先に映っているのはやっぱり私ではなくて、
銀色に輝くフルートで美しい音を奏でている、吹奏楽の部長。
部長とだけあって一番上手。
でも少しだけ抜けているところがある。
きっとそんなところに惚れたんだろうな。
ほらやっぱり貴方は今日も「あの人」を見て笑顔になる。
わざわざ「あの人」を見るために、トランペットであるはずの貴方は木管の練習場所に来るのでしょう?
そして近くにいる私と話しながら「あの人」を見つめる。
それはそれは、愛おしそうに。
メテヲさんがイエモンさんの前に立ちはだかるように近づいてきた。
私はなんて卑怯なんだろう。
貴方の瞳にこれ以上「あの人」が映るのが嫌で嫌でたまらなくて、2人を引き返そうとさせるなんて。
でも神様。これくらい許してくださいよ。
私だって少しは希望を持ちたいの。
恋は残酷だ。
叶わない恋だと分かっていても諦め切れない。
頭では理解しているのにどうしてか心は言うことを聞かない。
それほど好きになってしまったということだ。
もういっそ、想いを伝えて、きっぱり切り捨ててくれたらどんなに楽だろう。
そうしてくれたら "俺" / 私 も未練なく次の恋に進めるのに。
苦しくなくなるのに。
それでも貴方に想いを伝えるなんて怖くてできない。
失恋するのが怖いのだ。
この恋は叶わないって認めたくないのだ。
今日も "俺" / 私 は遠くで愛しい人を見つめ続ける。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。