運動強度を測るにあたっては心拍数を基準とする考え方が一般的に定着しているかと思われます。ただし、どれぐらいの心拍数でどれ位の強度と考えるのかについては様々な理論/方式があり、閾値(LT値/AT値)の心拍数、レースでキープすべき心拍数、インターバルトレーニングで追い込むレベルの心拍数をどの数値に設定して考えるべきかはとても悩ましいところです。
そこで各種理論/方式を自分に当てはめて比べてみました。どの理論においても運動強度は1~5のゾーンに分けられ、各ゾーンの位置づけは大体共通していますが、基準となる心拍数が異なります。
基礎数値(as of 2017.5)
HRM(最大心拍数) | 200 |
RHR(安静時心拍数) | 48 |
HRR(予備心拍数*1) | 152 |
LTHR(LT値心拍数*2) | 170 |
*1:Juha Karvonen、及びPete Pfitzinger & Scott Douglas方式にて使用。最大心拍数から安静時心拍数を引いたもので、どれぐらいの心拍数が上がる余地があるかといった数値を基準とする考え方。
*2:Joe Friel方式にて使用。最大心拍数の85%をLT値とし、LT値を基準とする考え方。
Jack Daniels
ATスティル大学の体育教授で、数々のオリンピックアスリートのコーチ。 雑誌Runner’s World にて”The World’s Best Coach”として選ばれる。『ダニエルズのランニング・フォーミュラ』の著者。
Zone | 強度(HRM) | 心拍数 | |
---|---|---|---|
Zone 1 | Easy/Recovery | 65%~79% | 130~158 |
Zone 2 | Race Pace | 80%~89% | 160~178 |
Zone 3 | Threshold | 88%~92% | 176~184 |
Zone 4 | Interval | 97.5%~100% | 192~200 |
Zone 5 | Repetition | ~100% | ~200 |
Pete Pfitzinger & Scott Douglas
Pete Pfitzingerは米国代表として2度オリンピックに出場したマラソンランナー。Scott DouglasはRunner’s World誌やRunning Times誌での連載を持つランニング専門のライター。『Advanced Marathon Training』を共著。
Zone | 強度(HRM) | 心拍数 | |
---|---|---|---|
Zone 1 | Easy/Recovery*1 | 70%~81% | 140~162 |
Zone 2 | Race Pace | 79%~88% | 158~176 |
Zone 3 | Threshold | 82%~91% | 164~182 |
Zone 4 | Interval | 93%~95% | 186~190 |
Zone 5 | Repetition*2 | – | – |
Zone | 強度(HRR) | 心拍数 | |
---|---|---|---|
Zone 1 | Easy/Recovery*3 | 62%~75% | 142~162 |
Zone 2 | Race Pace | 73%~84% | 159~176 |
Zone 3 | Threshold | 77%~88% | 165~182 |
Zone 4 | Interval | 91%~94% | 186~191 |
Zone 5 | Repetition*2 | – | – |
*1 リカバリー時は76%以下、ロング走時は74%〜84%
*2 脚の速度(ピッチ)とフォーム改善に向け、神経系を鍛える目的としており、心拍数は関係ないとしている。
*3 リカバリー時は70%以下、ロング走時は65%〜78%
Juha Karvonen
ウメオ大学(スウェーデン)臨床生理学部の科学者&Finnish Amateur Athletic AssociationであるJuha Karvonen氏の研究。カルボーネン法として有名。
Zone | 強度(HRR) | 心拍数 | |
---|---|---|---|
Zone 1 | Easy/Recovery | 60%~70% | 139~154 |
Zone 2 | Race Pace | 70%~80% | 154~170 |
Zone 3 | Threshold | 80%~85% | 170~177 |
Zone 4 | Interval | 85%~95% | 177~192 |
Zone 5 | Repetition | 95%~100% | 192~200 |
J.A. Zoladz
ポーランドの運動生理学者。
Zone | 強度(HRM – x ± 5) | 心拍数 | |
---|---|---|---|
Zone 1 | Easy/Recovery | HRM -50-5~HRM -50+5 | 145~155 |
Zone 2 | Race Pace | HRM -40-5~HRM -40+5 | 155~165 |
Zone 3 | Threshold | HRM -30-5~HRM -30+5 | 165~172 |
Zone 4 | Interval | HRM -20-5~HRM -20+5 | 175~185 |
Zone 5 | Repetition | HRM -10-5~HRM -10+5 | 185~195 |
Joe Friel
持久系スポーツ(主にトライアスロンや自転車)のコーチ。 運動科学の修士で『The Triathlete’s Training Bible』等の著書多数。自身のブログにてトレーニング理論に関する記事を執筆。
Zone | 強度(LTHR) | 心拍数 | |
---|---|---|---|
Zone 1 | Easy/Recovery | ~85% | ~142 |
Zone 2 | Race Pace | 85%~89% | 142~149 |
Zone 3 | Threshold | 90%~94% | 151~157 |
Zone 4 | Interval | 95%~99% | 159~166 |
Zone 5 | Repetition | 100%~106% | 167~177 |
BENSON, R & CONNOLY, D
Benson氏は体育修士号を持つ運動科学者かつ、長距離ランニングコーチでPolarとNikeの心拍うトレーニングに関するコンサルタント。Connoly氏はバーモント大学の運動生理学教授。心拍トレーニングに関する書籍『Heart Rate Training』を共著。
Zone | 強度(MHR) | 心拍数 | |
---|---|---|---|
Zone 1 | Easy/Recovery | ~60% | ~120 |
Zone 2 | Race Pace | 60%~75% | 120~150 |
Zone 3 | Threshold | 75%~85% | 150~170 |
Zone 4 | Interval | 85%~95% | 170~190 |
Zone 5 | Repetition | 95%~100% | 190~200 |
Fox and Haskell
Haskell氏は米Federal Public Health Serviceの医師で、Samuel氏は彼のメンター。“最大心拍数= 220-年齢の公式”の考案者。
Zone | 強度(HRM) | 心拍数 | |
---|---|---|---|
Zone 1 | Easy/Recovery | 50%~60% | 100~120 |
Zone 2 | Race Pace | 60%~70% | 120~140 |
Zone 3 | Threshold | 70%~80% | 140~160 |
Zone 4 | Interval | 80%~90% | 160~180 |
Zone 5 | Repetition | 90%~100% | 180~200 |
自分にはどれが合いそうか?
レースペース
いずれもサブ3.5を達成し、自己ベストに近い記録がでた直近3回のフルマラソンにおける平均心拍数164(3:29),168(3:29),166(3:27)を見るとJack Danielsが最も近いように見えますが、いずれのレースも何故か序盤5~6分間の心拍数170代と実態と合わない異常値が出ている(おそらく心拍ベルトの湿りが足りないことが原因か)ことと、いずれのレースも脚が攣っており実力値を超えた走りをしていることを考えるとKarvonenの方が近いように思えます。
AT値/LT値
上記フルマラソンの平均心拍数がレースペースとしての実力値を超えていることを考えると、160台中盤が自分のAT値/LT値であると考えられます。また自覚的運動強度でいうと「ややきつい」レベルで5km程度走ることができる心拍数もこの辺りとなるので、こちらもKarvonenが近い様に思えます。Joe Frielは基準となるLT値は近いが、レースペース等その他のゾーン設定がいまいちあいません。Jack Danielsは全体的にかなりキツ目で、ドSな設定の印象ですが、もしかしてトレーニングとしてはその方が効果があるのかもしれません、、、。
※2017/1/31追記:トレーニング効果による走力の向上もあると思われますが、勝田全国マラソン勝田全国マラソンの結果を踏まえると、やはり今はJack Danielsが一番合っていると思います。
自分に合う方式を見つけよう
科学的なアプローチはそれなりに理論の裏付けと実績データに基づいているものですが、多数のサンプルデータからの傾向値であるが故に、個人差が見落とされがちな部分があり、必ずしも全ての人に合うとは限らないという欠点があります。よって自分の体験や計測値を元に、最も自分に合い、納得できる方式をそれぞれが見つけていくことが大切だと思います。
自分の基礎数値から各種方式による数値を出すにはこちらのサイトが便利です。皆さんも試してみてはいかがですか?