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30代の男性が尿道に入れてしまった消しゴムを取り出すべく、膀胱鏡を挿入したものの、 柔らかい膀胱鏡では摘んでくる力が足りず、太刀打ちできません。 硬性膀胱鏡と呼ばれる硬い膀胱鏡で取るしかないか・・・と、 そっと尿道に入れてみたところ 「痛い痛い痛い!!!無理です!!」 と言われてしまいました。 (おいおい、消しゴム耐えられたんだからいけるんちゃうんかい) と思わなくはなかったですが 「分かりました。オペ室でやりましょう。ご家族に連絡はつきますか?」 と聞きました。 彼の顔はサッと青くなりました。 聞けば出張でホテルに泊まっており、家族は遠方であるとのこと。 どうか家族には連絡しないでくれ、と泣きついてきます。 「手術を受ける必要があったこと、数日入院することは家族に遅かれ早かれ伝わります。」 と言うと、絶望的な顔をしながら連絡先を教えてくれました。 prrr・・・ 『はい、もしもし』 若い女性の声でした。 「夜分に申し訳ございません。○○病院の当直医ほうけと申します。××さんの奥様の携帯電話でお間違いないでしょうか?」 『はい、間違いありません!え!?主人に何かあったんでしょうか!?』 かなり狼狽した様子の奥様 「落ち着いてください。ご主人は無事です。ただ、手術を受ける必要がありまして、ご家族にもご同意いただきたく電話でご連絡いたしました。」 『手術!?事故ですか?』 チラリと横を見ると、死にそうな顔で(言わないでくれ!!)と縋り付くようにこちらを見ている男性の姿が 「・・・いえ、尿が一時的に出なくなってしまっており、そのための手術ですね。30分程度ですむと思います」 『そうですか・・・良かった・・・先生、主人をどうぞよろしくお願いいたします。明日の朝一番に伺いますので』 「ありがとうございます。お待ちしております」 不安そうな顔でこちらを見つめる男性に受話器を渡します。 「あ、●●?いやあ、参っちゃったよ。でも大丈夫だから!心配しないで!」 急に彼の口から飛び出した爽やかなセリフに吹き出しそうになりながら、粛々と手術の準備を進めます。 当直の麻酔科の先生にも 「すみません、尿道に消しゴム入れちゃった人の消しゴムを取り出さなきゃいけなくて・・・麻酔お願いできますでしょうか?」 と連絡。 『は!?消しゴム??いいけど、なんで?』 なんでと言われても分かりません。 「なんでなんでしょうか・・・とりあえずお願いします。」 オペ室でやってしまえばあっという間に消しゴムは取れました。 ズルリ、という音がしそうなほど長い消しゴムが出てきた時は苦笑い。 おそらく新品なのか、角がしっかり尖っており、これを入れようと思った彼が心配になりました。 一応膀胱の中まで見て、消しゴムの残りがないことを確認して終了しました。 翌朝、 美しい奥様と5歳ほどの可愛らしい娘さんが病棟にやってきました。 「パパ!大丈夫!?」 と不安そうな娘さん。 「大袈裟だなあ。来なくても大丈夫だったのにー(笑)」 と言いつつ、男性は嬉しそうにしていました。 しばらくご家族で談笑していましたが、やがて奥様がやってきて言いました。 「先生、主人を助けていただいて本当にありがとうございます。詳しくお聞きできなかったのですが、なんの病気だったのでしょう?」 心の病気です!と言うわけにもいきません。 出張先のホテルで尿道に消しゴムを入れてエンジョイされてました!というのも、可愛らしい娘さんのことを考えると言い難い。 「膀胱の異物を除去したんです。膀胱に結石などの異物ができてしまって、尿を出なくしてしまうことがあります。今回は異物を除去して尿が流れるようにしました」 嘘ではありません。 結石の話がミスリードだという指摘は勘弁してください。 「そうだったんですね。夜中だったのに先生に助けていただいて・・・本当に助かりました!」 涙ぐみながら言う奥様を見て心が痛まないわけではなかったですが、 「今後尿が出なくなることがないようにしっかりと指導してから退院していただきます」 とお伝えしました。 30代エリートサラリーマンにはもう奥さんと娘を悲しませるようなことをしないようにみっちり説教しておきました。 「次の医者は正直に全部言うかもしれませんよ」 と言うと顔を青くして何度も頷いていました。 今であれば消しゴムマジック!とかいって笑い話になったのかもしれません。 私はほうけ医師です、GooglePixelを使っています。
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泌尿器科専門医・指導医|大学病院に10年勤務|尿路結石や排尿障害治療チームのリーダーをしてました|兄と子供が発達障害。彼らが幸せに生きる道を探してます|泌尿科の内容や、心に残ったことをポスト|リンクの投稿がYahooニュースのアクセスランキング当日総合2位になりました⬇|キッズ向けマイクラサーバー試運転中(固定)
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