物を見ては真を写す   作:Iteration:6

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夢殿大祀廟

「君の興味を惹くものが彼処にあるとは思えないが」

 

 豊聡耳様は、夢殿大祀廟への道筋を私に教えてくれた。乗り気といった様子では無いけれど、それもまあ当然だろう。自分の墓所を人に教えるというのは、どんな感じなのだろうか。

 

「まだ副葬品がいくらか残っていた筈だ。気に入ったものが有れば持ち帰って構わない。千四百年の時を経て殆どは朽ち果てていたが、必要なものは既に全て持ち出した」

 

 豊聡耳様は一度死んでから不老不死の尸解仙として蘇った。故に彼女にとって副葬品は実用品であった。蘇った彼女が死後の為の副葬品を役立てているのを思うと随分と計画的だなと思う。自分が死に、そして蘇ることを組み込んだ計画──私には想像さえ出来ない遠大さだ。

 

「千四百年……タイムスリップしたような感覚ですか?」

「そうだね。世の中は随分と様変わりしていたよ。見ていて刺激的で飽きない。しかし、やはり何時の世も人が為政者を求める事は変わらないようだ。私ならば──すまない、話が逸れた。言いたい事は別にある」

 

 笑みを浮かべて彼女は顔を近づけてきた。見る者の心を落ち着ける柔和な笑みは、彼女の渡世の深みを思わせる。生まれた時から人の上に立つことを定められた者の所作が見てとれた。所謂カリスマと言う奴だ。

 

「君、この神霊廟で修行してみないか? 私には欲を聞く耳だけでなく人を見る目もある。君とその欲を見聞きしてみたが、仙人となればその全てが叶うであろう」

「私が?」

 

 唐突な申し出に驚いていると、彼女は滔々と流暢に語り始めた。やや芝居がかった言い回しは、成る程演説家と言った具合であった。多分、態と態とらしくしているに違いない。

 

「君には、この世界をその目に映すことを渇望する欲望がある。故に私は君に問う。死して後の世をその目に写せぬ事を口惜しいとは思わないかね? 仙人となれば無限の時を生きられる」

「それは素敵な話ですね。しかし、私はあの世も見に行きたいのです。不老不死になると彼岸に行けなくなるのでしょう? それは勿体無い」

「しかし、この美しい世界にずっと生きて居たいと思わないのかい? この世が美しい程に、生に対する執着は深まるだろうに」

 

 豊聡耳様の表情は僅かに歪み、眉間に皺が寄っている。不老不死となることを否定することは、彼女にとっては理解し難いに違いない。

 

「人間が死なねばならない理由も義務もありはしない。故に永遠を生きることにもまた瑕疵はない。大地は神々の時代から変わらず、海は水を湛えている。人間もまたそれらと同じくあろうとするだけだ」

 

 

「しかし、人間は生きていますよ」

 

 

 私の言葉を最後に、永い沈黙が私たちの間に横たわった。豊聡耳様は耳を澄ませていた。十人の話を同時に聞くことが出来る程度の能力を持つ彼女は、言葉の真意を心に探ることができる。聞き耳を立てられているのだ。

 

「大地も海もただそこにあるだけのものです。しかし人間は生きている。だから死ぬのです。人間だけではありません。この世を生きるあらゆるもの達は皆、死ぬのです」

「ふむ、では生きているものは何故死ぬのだ」

「生きているという状態そのものが異常であるからです。岩は砂になり風に吹かれて行くのに対して、私たちの身体は常に一定の状態を保ち続けようとして種々の作用に抗っています。この抗いが如何に異常で勝ちの目のない抵抗であるかは、少し考えてみれば分かることでしょう?」

「生きているという状態そのものが異常……か」

 

 そう、この世において常であることは万物が流転し諸行が無常であること。対して生きていることは変わらない恒常性を保持すること。その常に対するなんと異なことか。

 

「だから死とは、私たちが生きているという異常が解決されることなのです。私たち生き物が大地や海のように移ろいながらただ其処に在るだけの物に還ることなのです。まさに豊聡耳様が仰られたように『人間もまたそれらと同じくあろうとするだけ』の事なのですよ」

 

 私はこの目で物を見てきた。故に、物と生き物の異なりがこの目には写っている。岩は砂に、水は霧に、土は泥に、形有るものは形無きものに、何もかも流転していく。それに対して生き物の、死ぬまで移ろわぬ有様は奇異と言う他ないだろう。

 

「では、全てが移り変わり流転していくことがどうして常なのだ。どうして変わらずある事が常ではないのだ」

「何故ならば、この世界に存在するものは常に何かしらの力に晒されているからです。力とは物を変える作用を持ちます。故に全ては移り変わっていくのです。とても物理的な話ですが……殴られたものが傷付くように、力に晒されたものは形を変えていきます」

「では何故、この世の万物は力に晒されているのだ?」

「それは世界が力によって生まれたからです」

 

 豊聡耳様は私の言葉を耳にして微笑んだ。

 

「それが私の問いに対する君の答えなのだね。何故人間は死なねばならないのか……それは世界が力によって生まれたからだと」

 

 問いから答えまでの道のりは破り捨てられた。それは数式と答えのようなものだ。物語は言葉から掘り出される。故にその豊かさは、どれだけの言葉が語られずに埋まっているかで決まるのだ。

 これは一種の職人芸であった。言葉足らずにならずに意味が正しく伝わり、論理に破綻をきたさずに納得を齎しつつ、最小の言葉で組み上げられるように言葉を埋め込む。

 豊聡耳様のその手際の鮮やかさたるや、舌を巻いて閉口する他ない。その美しさは私に感動さえ覚えさせた。もっともこの感動は、言葉から物語を掘り起こすだけの思慮を持つ者以外には無縁なものであろうが。

 

「世界は力によって生まれ、万物は力に晒されて流転し、私たちもまた生から死へと移ろう。成る程それは然りだ。ならば私たちもまた力によってこれに抗おう。道を極めて力を蓄え、人を超えて永遠を生きよう。さすれば不老不死は、力によって自らを取り巻く世界に対して勝利したものの証となるだろう」

 

 尊厳に満ちた瞳で胸を張る彼女の有様が、強烈な印象を伴って私の目に写る。眩く、力に溢れ、輝いている。後光が差して見えるというのは、きっとこういう光景に対して言うのだろう。

 

「しかし君の欲深さは私が耳にした以上だったようだね。この世だけではなく、あの世まで目にできなければ満足できないとは。その欲の為だけに不老不死まで蹴り飛ばして逝こうというのか」

 

 胸に手を当てて、豊聡耳様は頭を垂れた。

 

「感服したよ。貴方に無粋な勧めを口にした私をどうか許して欲しい」

 

 思わず跪かずにはいられなかった。彼女に対する強い敬服の念がそうさせたのだ。この聖人の頭が私のそれより下に降っている事に、私の心が耐えられなかった。

 

「この私が豊聡耳様を許すなどと、そんな烏滸がましい事を出来るわけがありません。寧ろ感謝しております」

「感謝?」

「貴女と語らえたこの僥倖、我が身に余る幸運故に」

「ふむ、こういう所が私の高貴さの困った所なのだが」

 

 彼女は頬を撫でてはにかんだ。

 

「畏まって欲しい訳ではないのだけどなぁ……」

 

 

 

 

 

 

「神子様の墓所でもある夢殿大祀廟はこの先ですわ」

 

 霍青娥さんはそう言って、命蓮寺の墓地深部の洞窟を指差した。

 

「この墓地の洞窟を潜っていくと夢殿大祀廟に続く扉の前まで辿り着けます。かつて神霊はか細き光の筋となり洞窟の奥を目指し、それはこの世の物とは思えない光景でした。今は見る影もありませんが、かつて此処は正に聖域だったのです」

 

 神霊廟を去った私は、霍青娥さんに引き会わされた。私に道を教えるよう依頼された彼女は、快く案内を買って出て同行してくれた。命蓮寺の墓地まで連れられたが、まさかまた洞窟とはね。

 とかく死とそれに纏わるものは土の下に埋まっているものらしい。人々は天上の世界を夢見るが、遺骸が土の下に埋められる点を鑑みるに、彼岸が地下にあるというのもあながち突飛な考えではないと思える。

 人が思うあの世には共通点があるのではないだろうか? そう私は思い始めていた。それが雲の上だろうと河の対岸であろうと海や山の向こう側であろうと或いは土の下であっても、あの世は人が踏み越えることの出来ない境界の向こう側にあるという点だ。

 生あるものが生きたままには決して目に出来ない世界。ならばそれは私たちが越えられない境の向こう側にあるという思考。なんとまあ純朴で素朴な考え方であろうか。

 

 なんて物思いに耽っていた思考を呼び戻す声がする。

 

「貴女の事は存じ上げていましたわ。雲見明香さん」

「お会いしたことがありましたっけ?」

「いいえ。でも、伝聞で耳にした事が何度かあるのよ。幻想郷中を巡り写真とその瞳に在るがままのものを写してゆく人間がいると。一時期写真が新聞に掲載されていたことがあったでしょう?」

「あの御百度参りの時の──」

 

 かつて私は参拝費用の為に写真を天狗に流していた事があった。てっきり名は伏せられていたと思っていたのだが、そうではなかったらしい。

 

「ですので、私としても貴女とご一緒できるのは楽しみですわ。夢殿大祀廟は神子様の──聖人の霊廟。今はもう棄てられて久しい場所ですが、もしかすれば貴女の目に写すべきものが見つかるかもしれません。……ところで、カメラはどちらに?」

「何処にも。写真はもう撮っていないのです」

「それは残念。理由を聞いても?」

 

 無言で答える。答えたくなかったり、理由が分からなかったからではない。無数の絡みついている理由のどれを口に出すべきか悩ましかったからだ。どう答えれば分かってもらえるだろうか?

 

「気まぐれであり、また必要性の喪失が理由でもあります。言葉にするのは難しいですが……」

「カメラを置いた気分はどうですか? 気が楽になったり、体が軽くなったりしませんでした? あるべき物が急になくなって穴が空いたような気持ちになったでしょ?」

 

 ニコニコとした青娥さん。その上機嫌さに少し不気味なものを感じた。彼女は面白くて堪らないのだとあっけらかんと口にする。大切なものを失った人間を見るのが好きなのだと彼女は私に告白した。

 

「人の心の隙間につけ込むには、穴を見つけるのが一番なのよ。貴女みたいに心に穴を開けたままブラブラとしていると、良くないものを引き寄せることになるわ。それに、穴を見ると中身が覗けるから愉快よ。そう簡単には目にできない心の奥底までよく見える」

 

 自嘲しながら茶化す青娥さんは、しかしその目までおちゃらけてはいなかった。心の奥底まで見透かされていると錯覚する程の眼力がそこにはあった。仙人として千年を越えて世界を写した真摯な瞳が私を射抜く。

 

「けれど、失ったモノの後に形を見出すことで、私たちは正しくモノの有様を見てとることができる。喪失も時に役立つ。失っては苦しみ、手にしては喜ぶ無為な心の揺れ動き。けれどそれで良いのよ。苦しい時は苦しみ、楽しい時は楽しめば良い。自我のダンスは終わらないけれど、踊ることは楽しいことだと気付けば、人生全てが喜劇なのだと思えるでしょう」

 

 楽しむことが肝要なのです。そう言って青娥さんは私の手を引いて進んでいく。上機嫌である青娥さんは仄暗い洞窟の深部まで私を連れながら語り続けた。饒舌な方だなぁと思っていると、笑顔で否定される。

 

「普段は物静かな方ですわよ? 貴女には分からないでしょうけど、1400年ぶりに期待させてくれる人間に出会えて最高に気分が良いだけなの」

 

 両手で顔を撫でられる。この上もなく優しい手つきで頬に手が添えられた。

 

「貴女には世界が刻まれている。その目に写った物がそのままに貴女を押し上げる徳になっているのよ。最早それは天運とも遜色のない領域に在る」

 

 だから貴女はこうまで恵まれながら更に世界を見て回れるのだ。彼女はそういう風なことを告げた。見晴るかしては更なる高みへと押し上げられる。そんな正の循環が私を取り巻いているのだと。

 

 

「さあ、着きました。この扉の向こう側が夢殿大祀廟ですわ」

 

 

 命蓮寺の墓地深部洞窟の最深部では、巨大な扉が洞窟の岩壁に嵌め込まれている。道教の色濃い装飾を施されたそれは、聖なる場所と俗なる場所を仕切り遮る聖俗の境界であった。

 

「穢れたる墓地と、清浄なる霊廟。死に腐る遺体と、不変の聖体。扉一つ跨ぐだけで、全てが真っ逆さま」

 

 指一本触れられずにひとりでに開いてゆく扉。その向こう側には、洞窟の内部だとは信じられない程に広大な空間が在った。一面に鏡面の様に水が張り、中央には荘厳な夢殿が聳えている。見上げるとそこには空があり、日が差し、雲が浮かんでいる。

 頭の中で形作られていた地図が破綻して、三次元の空間が捻くれていく。まるで世界を切り取って継ぎ接ぎしたかのような感覚を覚える。それは、私に一つの言葉を想起させた。

 

 

 仙境──

 

 

 

 

 

「世界は何故こうまで美しいのかなぁ」

 

 じっと目に写し、言葉が漏れた。月並みだが、美しいという言葉しか浮かばない。外の世界からそのまま其処に移ったかのような夢殿は、目にするだけでその歴史を感じさせる。美しさとは、その見た目の形ではなく物語で決まる。その物にどれだけの物語が組み込まれているか、或いはどんな物語が秘められているかで決まるのだ。

 私たちが何かを見て美を感じるとき、それはその物ではなくその物の背後にある物語を想っている。星空を見た時、私たちとは尺度の異なる永遠にも思える雄大なシステムを想像したり、朝に霜が降りた草木を目にした時にそこに至るまでの過程を想い描いたりするように。

 私はこの夢殿の辿ってきた遍歴を知らない。だが、聖人をその身に抱きながら幾年月を経た物語が脳裏に想い起こされた。それは無論、私の妄想だし空想の産物でしかない。だが、そうした物語を想わせる物であるという点で既に、これは美しいのだ。

 

「なのに引き換え私たちはこんなにも醜い」

 

 人間は醜い。私は美しい物を見る度にそう思う。人間の思わせる物語など、理不尽で生々しく醜悪で不条理に満ち満ちた下劣な物語だ。生きるだけで醜さをその身に刻んでいかねばならない生き物なのだ。例外は存在する。しかしそれは原則が正にそうであることを承知することと同義だ。

 

「私はそうは思いませんわ」

 

 しかし青娥さんはにこやかに語った。

 

「自ら望んで生まれ落ちたでもなく、この世という地獄の中で罪を犯し過ちを重ね、老いに身体を蝕まれては後悔に魂を焼かれて、苦しみ抜いてなお生きていたいと願うそのザマが、人間の一番に滑稽で美しいところではないですか」

 

 青娥さんは自信たっぷりだ。不敵な笑みで目を眇める。いや、これはウインクと言うやつだろうか?

 

「これほど見ていて笑えるものはありませんわ。私たち皆を笑顔にさせてくれるこの傑作な生き物が醜いだなんて、考えたこともありませんでしたわ。寧ろ愛おしくさえあるのに」

 

 貴方は人間を一体何だと思っているんだ、そう口に出してしまいそうになって済んでのところで呑み込んだ。考えてもみれば人間を醜悪な汚物の様に見做す私だって大概だ。人間に対する歪んだ見方という点では、彼女は私と同じぐらいイカれている。

 

「なら青娥さんには、私もそう見えているのですか?」

 

 彼女は目を丸くして言葉に詰まった。そう答えにくい事を聞いただろうかと首を傾げていると、言葉を選びながらといった様子で彼女は口を開く。

 

「雲見さん。貴女は私にとっては滑稽で傑作な生き物であり、それでいて美しい世界をその身の内に刻んでいる存在。とても愛おしく思っておりますわ」

 

 裏表の無い真剣な声音と、見るものを釘付けにする柔らかな表情。そして私は、自分の問いかけが何を意味していたのかを理解した。途端に顔が熱くなるのを感じて視線を下ろすと、水面には赤面した私が映っている。

 

「あら、恥ずかしがらないで。愛しい人」

「っ……!」

 

 揶揄うように、彼女は耳元で囁いた。堪らずに後ずさって睨みつけると、悪戯顔の青娥さんが悪どく笑っている。

 

「そうそう、そんな目も愛おしくてたまりませんわ」

「あんまり揶揄わないで下さい」

「本当の事を口にしているだけですので」

 

 彼女は人間の話をしているのだ。私の話をしているのではない。そう自分に言い聞かせる。

 

「神子様もまた貴女のように人間を唾棄しておりました」

 

 夢殿を見つめながらに、彼女は語った。

 

「死を恐れ、死なねばならぬ身を疎み、人として生まれた事を呪っておりました。そして人としての身の丈に合わぬ絶大な才能と能力を有してもいました。だから私が人を超える術を教えたのです。そして次は貴女の番だと確信しましたわ」

「私の番?」

「私が貴女に教えます。神子様にそうしたように、貴女にもまた尸解の術を教えましょう。死して後に尸解仙として蘇り不老不死となる術です」

 

 青娥さんは私に向けて手を伸ばした。魅力的な提案だ。もし彼女の語りを信用するならば、その教えを受けることは私が尸解仙になることを意味する。

 

「死して後に……つまり、一度死ぬと言うことですか?」

「その通りですわ。尸解仙となる為には先ずは人間として死ぬ必要があるのです」

「あぁ、それならば──」

「お待ちになって。そう心配することはないわ。死ぬと言うことはそれほど恐ろしいことではないのです。それに、しっかりとした手順を踏めば失敗する確率も殆どありません。如何に仙人になる為としては下位の法とはいえ、数千年を経て失われる事なく伝えられたその歴史に負うて信用の置けるものであることを私自らが保証致します。なんなら物部様や神子様といった先例もございますし、私も誠心誠意ご指導させてもらいます」

「是非とも宜しくお願いします」

「いえいえ、本当に死ぬのは怖く無いわ。ほら一瞬だから。少しチクッとするようなそんな程度でしか……もしかしたら脳味噌が腐ったりするかもしれませんが、私ならば防腐の術もお手のもので──えっ?」

 

 沈黙と静寂。凍結したかのように動かなくなった青娥さんは、少しずつ平静を取り戻し、油が切れた歯車のようにぎこちなく動き始めた。どうやら首を傾げておられるようだ。

 

「宜しくお願いします。一度死んでみたかったのです」

「は、はぁ?」

「三途の川を越えて向こう側から、帰ってくる方法が欲しかったのですよ。不老不死になるのは面倒そうですが、折角の彼岸帰航のチケットを逃すのは勿体無いからね」

「つまり不老不死の尸解仙となるのは、彼岸まで行って帰ってくる為の手段でしか無いと仰るわけですか……」

 

 私の考えを正しく悟った青娥さんは、耽美な笑みを浮かべた。

 

「死ぬ為に不老不死に至るというその倒錯。それは狂気の沙汰に他ならないわ。けれど故に面白い。やはり貴女は最高に滑稽で傑作な生き物ですわ」

 

 大いなる期待と、たっぷりの不安と共に

 

 私は彼女の手を取った。


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