2021年6月発売の『早く絶版になってほしい #駄言辞典』(日経BP)。ジェンダーにまつわるステレオタイプから生まれる400を超える「駄言」を、エピソードとともに掲載している本書から、駄言の実例とその駄言を生んでいる背景の分析を公開。第14回では「子育て」に関する駄言「その1」を紹介します。

「ママなのに育休取らないの?」

「育児を主体的に担う人=母親」という決めつけはもうやめにしよう
「育児を主体的に担う人=母親」という決めつけはもうやめにしよう
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 厚生労働省「令和元年度雇用均等基本調査」によると、女性の育児休業(育休)取得率は2019年で83%です。母親だからといって必ず育休を取得するわけではありません。父親が育休を取得する場合もあれば、育休を取得せずに仕事を続ける場合もあります。子育てのやり方にも多様性が認められるべきで、「育児を主体的に担う人=母親」という決めつけはもうやめにしましょう

 『#駄言辞典』を作るに当たってウェブ上フォーマットとツイッターで駄言を募集したところ、子どものいる女性が飲み会に参加したり、夜や休日に出勤したりすると「お子さんはパパが見ているんですか? いいパパですね!」と言われるというケースが複数寄せられました。「パパに子どもを預ける」も、よく使われる駄言です。二人の子なのに「パパに預ける」というのはおかしい話。ママのほうが日ごろから主体的に育児に関わっているという前提があるからこそ生まれてしまうセリフです。

 「やっぱりママが一番だよね」も、子どもの「ママ大好き」な気持ちを表すポジティブなフレーズに聞こえますが、実は問題のある発言です。パパが子どもの前で言って、育児をママに押し付けるときにも使える一言だからです。また、家族の内実を知らない第三者が無責任に使うことで、言われた家族を不用意に傷つけてしまう可能性もあります。

 「お母さんは3歳になるまでは子どもと一緒にいたほうがいい」という「3歳児神話」も、専門家によって否定されている駄言です。『厚生白書(平成10年版)』(厚生労働省)の第1編・第1部・第2章にも、「三歳児神話には、少なくとも合理的な根拠は認められない」と明記されています。

 にもかかわらず、まだ3歳児神話をひきずっている人は数多くいるようです。2013年、当時の安倍政権が、子が3歳になるまで育休を取得できるようにするという指針を出した際の「3年間、赤ちゃん抱っこし放題」という発言にも、そうした背景があったのでしょう。

 パートナーとの家事・育児の分担はカップル二人だけの問題にとどまりません。社会の無理解や不勉強が、実態の改善を阻んでいるという見方もできます。逆に言えば、周り(社会や身近な人たち)がカップルに対して有効な情報やメッセージを発信し続けることで、家事・育児における性別役割分業は変えられる可能性もあるのです。


【書籍情報】
ジェンダーにまつわる
アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)による
1200もの「駄言」が教えてくれたものとは?


早く絶版になってほしい
『#駄言辞典』

編集:日経xwoman
発行:日経BP
定価:1540円(10%税込)
 Amazonで購入する

【目次】
・駄言とは?
・まえがき
・第1章…実際にあった「駄言」リスト
 女性らしさ/キャリア・仕事能力
 生活能力・家事/子育て
 恋愛・結婚/男性らしさ
・第2章…なぜ「駄言」が生まれるか
 スプツニ子!/出口治明/及川美紀
 杉山文野/野田聖子/青野慶久
・第3章…「駄言」にどう立ち向かえばいいのか
・あとがき

「赤ちゃんはママがいい」

【「子育て」に関する駄言~その1~】
書籍『#駄言辞典』にも掲載されている、公募で集まった「駄言」の一部を紹介します。以下、太字部分が駄言です。応募時に寄せられたコメントや投稿先も併せて掲載します。


「母性」
という言葉にすごく迷惑しました。何のエビデンスもないのに女性なら全員あると思われてる虚像ワード。(ツイッターより)

「母親なんだから」
(ツイッターより)

「母は強し」
(ツイッターより)

「良妻賢母」
(ツイッターより)

「子育ては母親にしかできない大切な仕事」
へ? 母乳以外は男もできるわ。(ツイッターより)

「やっぱりママが一番だね」
ママだから一番なのではなく、日ごろ世話してくれて自分を見てくれて同じ時間を過ごしてくれる人が一番なだけ。パパの育児への関わらなさを棚に上げて都合よく性別の問題にしないでほしい。(ツイッターより)

「やっぱママじゃないとダメみたい~」
夫のこのセリフはマインドごと滅びろ。「ワンオペ育児」も絶滅しますように。(ツイッターより)

「赤ちゃんはママがいいに決まっている」
大臣の発言です。(ツイッターより)

「お母さんは、子どもが3歳になるまでは一緒にいたほうがいいよ」
産休前に上司から言われたこと。(ツイッターより)

「そんなに早く復帰するなんて、赤ちゃんがかわいそうだよね」
(ツイッターより)

*「駄言」の紹介は、まだ続きます。

働く母親に対するプレッシャーは、程度の差はあれど、いまだ社会のさまざまな場面に潜んでいる(画像はイメージです)
働く母親に対するプレッシャーは、程度の差はあれど、いまだ社会のさまざまな場面に潜んでいる(画像はイメージです)
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「子どもはパパに預けてるの?」

「(子どもは)パパに預けてるの? いい旦那さんだね」
いや、2人の子どもだから預けるとかじゃなくね? 「いい旦那」は否定しないけど。普段、旦那が仕事のときはあたしが見て、あたしが仕事なら旦那が見る。ただ交代しただけなのに何なのこの差は?(ツイッターより)

「ママが早く帰ってあげなくてお子さん大丈夫?」
子どもたちが未就学児だった頃、残業していたら、我が子と同い年の子どもを持つ男性上司に言われたことがある。「パパが早く帰ってあげなくてご家族は大丈夫ですか? 本当に?」(ツイッターより)

「昼間自分の仕事で子どもを夫に見てもらったから、晩ごはんは出かけられない」
(ツイッターより)

「母親失格」
そんなこと言う資格ある?(ツイッターより)

「そんなことしたらママに叱られるよー」
父親である、あなたが叱ってよ。(ツイッターより)

「旦那さんの許可得てます? こんなお母さん嫌だなー」
美容院で髪を刈り上げるときに言われたこの言葉。妻が装うのに夫の許可なんか要らないし、母はこうあるべきだという押し付けが社会全体で強すぎる。おかしい。(ツイッターより)

「ママなのに出張行くの? 信じられない」
「ママという立場で出張に行く=非常識極まりない」と思っている方も少なくなく、何度か言われたことがあります。でもママだってバリバリ働けますよ?(神奈川県・ともこ・30代・女性)

「え、繁忙期から産休入んの? タイミング考えて子どもつくれよ~」
独身の男性社員から言われた。(ツイッターより)

「3人目産んでから老けたね」
男性上司(偉い人)が女性の先輩にかけた言葉。「この職場、適当なところで辞めよう」と決意した言葉。(ツイッターより)

「あいつ時短だから使えないんだよな」
以前の職場で上司が同期の女性を指して言っていた言葉です。そして、それに同調した別の男性社員が「本当ですよねー」と笑っていました。そのとき、私は妊活中。「自分も子どもができて時短を取ったらこう言われるんだ。こんな会社嫌だ」と思いました。その後、他の理由もあって転職しましたが、この言葉が転職の背中を押した要因の一つでした。(東京都・るーしー・30代・女性)

「避妊してなかったの?」
「どんな方法で避妊してたの?」
絶対忘れない、上司に妊娠告げたら個室に呼び出されて言われた言葉。(ツイッターより)

「妊娠は病気じゃないでしょう。流産したことがあるとか、事情があれば配慮するけど」
妊娠中、上司に言われた言葉です。(ツイッターより)

 次回は、「子育て」に関する駄言「その2」を紹介します。

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 『#駄言辞典』をコミュニケーションのきっかけにして、皆さんの力で古い固定観念に揺さぶりをかけ、ステレオタイプを覆していきましょう。

『#駄言辞典』サイト

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構成/小田舞子(日経xwoman) イメージ写真/PIXTA

日経xwoman2021年7月29日掲載]情報は掲載時点のものです。

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この記事はシリーズ「職場で、家庭で聞いた。言われた。心をくじく駄言」に収容されています。フォローすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。