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  • 2024年6月14日

がん 標準治療 自由診療とは 国立がん研究センター若尾文彦医師が解説 注意すべき医療機関は…

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がんの治療法をめぐって深い後悔を抱えるケースが相次いでいます。

中には、“最先端”だと信じて大金を投じた治療法が、がんが全身に転移してはじめて“科学的根拠が乏しい”と知ったケースも。

自分や家族ががんと診断されたときに知っておくべき心構えや、治療法を調べる際の注意点について取材しました。    

 「首都圏情報ネタドリ!」はNHKプラスで配信します。

配信期間:6/14(金)午後7:30~6/21(金) 午後7:57

標準治療 先進医療 自由診療 違いは?

最先端に見えるがんの治療に大金を投じ、深い後悔を抱える当事者たちの声を前編の記事でお伝えしました。

<前編の記事>
がん治療めぐり後悔する患者・家族 1500万円払い最悪の事態に陥った当事者も

新しい治療が次々と出てくる中で、どの情報を信じたらいいのか、悩みを深める患者は少なくありません。

国立がん研究センターでがんの情報発信を行う若尾文彦医師が知ってほしいと語るのが、こちらのチャートです。

国立がん研究センター 若尾文彦医師
「がんの治療は大きく分けると、効果と安全性を認めた科学的に確立された治療法とそうではない治療法があります。

効果が確立されれば、それが標準治療となり、国により保険適用とされます。これが科学的な裏打ちのある現状のチャンピオンと言える治療法です。

そうでないものの中でも国内外でさまざまな研究が進んでいて、治験や臨床研究段階のもの、国が先進医療としているものなど効果を確かめる段階の新しい治療法が次々と出てきているのが現状です」

前編の記事では、サプリメントなどの代替療法や医師が関わる自由診療を選択した人たちを取材しました。

自由診療は、全額自己負担で行われる一方、本来は、患者の選択肢を広げるという意味で私たちの利益につながるはずなのですが、なぜ後悔する人がでているのでしょうか。

「自由診療は値段も内容も医師の裁量で自由に決められる上、治療にも広告にも第三者の目が入りづらいです。

あたかも最先端治療かのようにみせる高額な治療がまん延している上、安全に治療を実施する体勢にもチェックの目が届いていないのが現状ですので、私たちも危機感を募らせています。

例えば、本庶佑先生がノーベル賞を受賞された研究をもとに開発された免疫チェックポイント阻害剤が国の承認を受けて標準治療になってきているのですが、それによって“免疫療法”と簡略化した言い方も注目されまして誤解をしやすい状況が生まれています。

体の免疫機能を高めることでがんを治療しようという昔ながらの科学的な根拠のない“免疫療法”を自由診療として提供し、高額な医療費を請求するクリニックもあるので、注意が必要です」

インターネットで検索するときのポイント

インターネットで治療法を検索することも増えていますが、特に気にしてほしいことが3つあるといいます。

◯1つ目は “ほぼすべて”に注意
今はがん治療は、臓器ごと、がん種ごとに異なる治療が見つかっています。一つの治療法でほぼすべてのがんに適用できるというのは「あてずっぽうな治療」だと思っていいでしょう。

◯2つ目は 書籍を出している医師だからと信用するのはNG
本を出していると信用したくなりますが、売れ筋のランキングに入る書籍にも科学的根拠が乏しいものが複数あるのが現状ですし、お金を払えば誰でも出版できる自費出版であるケースも多いことを頭に置いておいてほしいと思います。

◯3つ目は セミナーへの誘導に注意
ホームページだけでなく最近は電話やLINEの無料相談などもありますが、詳しく知りたい方はセミナーに参加してという案内があります。第三者の目も入りづらいため、不安をあおったり、洗脳に近い伝え方をしたりするケースもあるため特に注意が必要です。

いざというときの、4つの「あ」

そして、いざ、当事者となったときに、思い出してほしいと若尾さんが伝えているのが、4つの「あ」です。

◯1つ目の「あ」 「当たり前」
不安になりショックを受けることは当たり前のことなので、自分を否定したりしないでほしい。

◯2つ目の「あ」 「慌てない」
がんと診断されても、さまざまな支援制度をうけながら仕事と治療を両立させることもできるようになってきているので、どうか慌てて仕事をやめないでほしいです。

◯3つ目の「あ」は「焦らない」
治療の予定が先になってしまうなどすると、焦って、ネットなどで目につく、効果をうたっている医療に飛びついてしまいたくなることもあるかもしれません。
焦らないで、医療スタッフ、周囲の人のサポートを受け、一緒に今後の治療方針などを考えていきましょう。

◯4つ目の「あ」は「諦めない」
医療は日々進歩しています。諦めてしまいそうなときも、まだ治療法の選択肢や生活などのサポートも増えてきているのであきらめないで声をかけてほしいと思います。

よりよく変わるように日々努力していますので、一度冷たくされた、嫌な思いをしたという人も、医療者と会話をすることをあきらめないでほしいです。

不安や悩みに向き合う医療体制を

患者一人ひとりに寄り添ったがん治療をどうすれば実現できるのか。

治療だけでなく、悩みや不安を聴く場所としての役割も強化することで、患者を支えていこうと模索する医療機関もあります。

医師の西智弘さんは、川崎市立井田病院で腫瘍内科の部長をつとめています。 

西さんは、がんの専門医に加えて、緩和ケアの医師や看護師、心理士などで構成される「サポートチーム」を編成。

がんを治療するだけではなく、不安や悩みにも向き合う体制づくりをすすめてきました。

問題意識の根底にあるのは、がんの拠点病院や自由診療のクリニックなど、さまざまな現場に身を置いた経験だといいます。   

川崎市立井田病院 腫瘍内科部長 西智弘医師
「親身になって最後までつきあいますよという先生に当たればいいのですが、当たるかどうかは本当にガチャみたいなものですから。それを僕らはなるべく運じゃない、ガチャにならないようなシステムを川崎に作りたいと思っています」

サポートチームでは、在宅でがんと向き合う人たちの支援にも力を入れています。

西さんが開設した悩みや不安を相談できる外来「緩和ケア外来」は、他の病院で治療を受ける人にも開かれています。

この日訪れた夫婦は、再発の不安から続けている自由診療での治療について相談しました。

西医師

いわゆる自由診療のところのクリニックでやっている治療を休みたいということですね。

そうです。ただ、また少し気持ちが揺らいでいて。まだ仕事も続けられるので、(区切りの)10年までやる気持ちに、私的には少し傾いている。

そうですね。何か区切りがあった方がいいのかもしれないですね。

さらに、サポートチームでは、地域の医療機関やデイサービスなどの地域スタッフなどとも連携し在宅で治療を続ける人も支えています。

この日は、2年前に、肺がんのステージ4と診断された男性の自宅を訪れました。

男性は、長年中学校で数学を教えてきましたが、いまは休職しています。

がんと診断された男性
「最初は、めそめそしていましたよ。ただ、これぐらいで寿命が尽きるだろうというところから2年近く生きさせていただいて」

退院後も専門のスタッフから継続して支援を受け、もう一度教壇にのぼるという目標を持つようになりました。

「本当に、もう1回教室に行って授業をやりたい。学校の先生って面白いんですよ。僕にとっては最高です」

治療法が進歩し、がんと付き合う時間が長くなっているいま、医療の側にも変化が必要だと西さんは考えています。

西智弘医師
「病院が最後までおつきあいしますからねということが保証されている安心感は、すごく大きいと思うんですよね。そのほうが多分、人それぞれの幸せな生き方につながるんじゃないのかなと思います」

がんと診断されたとき、家族や知人にも不安をかけたくないと一人でたくさん検索をして情報を集め続けることがよくあります。しかし、一人で悩めば悩むほど、思わぬ落とし穴にはまり抜け出せなくなってしまう可能性があるのも、がん“在宅治療時代”の難しいところです。

病院の医師だけでなく医療スタッフ、さらには地域の中にも不安や悩みを聞き取りながら最適な医療につなげようと活動をしている人々もいます。一人で抱え込まず、誰かと話しながら一緒に悩んでいく時間を増やすこともまた、これからがんと向き合っていく上で大切なことだと取材を通じて感じました。

<前編の記事> 
がん治療めぐり後悔する患者・家族 1500万円払い最悪の事態に陥った当事者も

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