首都圏情報ネタドリ!
- 2024年6月14日
がん治療めぐり後悔する患者・家族 1500万円払い最悪の事態に陥った当事者も
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がんは医療技術の進歩などにより、入院ではなく、通院での治療が一般的になってきました。
ところがいま、在宅で治療を続ける人たちから「情報がいっぱいあり、どれを信頼してよいのかわからない」という悩みや不安の声が相次いでいます。
中には最先端の治療だと信じ大金を投じたにも関わらず、悔やみ続けるケースや、最悪の事態に陥ってしまったケースも…。
「首都圏情報ネタドリ!」はNHKプラスで配信します。
手術は成功したのに…命を絶った母
先月、がんの治療を終えた母親がみずから命を絶った40代の女性です。
8年前、母親は初期の乳がんと判明。
手術は成功し、その後、症状は落ち着いていました。
1人暮らしだった母親は、がんの再発を防ぎたいと、さまざまな製品を購入していました。
この日も、取材をしていると、亡くなった母のスマートフォンに着信が。
がんの予防に効果的なんですよ。
がんに効く商品を、オススメされているという感じですか?
そうです。
携帯電話番号が載っているリストが、そちらの会社にあるんですか?
ランダムなんですよ。パソコンに打ち出してね、順番にかけさせていただいているんですよ。
母の携帯にかかってくる電話はこんなのばかりなんだ。
さらに母親は、「がんに効果がある製品を開発している」などと未公開株を販売した疑いで社長らが逮捕された企業にも、総額1500万円を支払っていました。
母親は、支払った金額の返還と、企業の幹部の責任を問う裁判を起こしました。
社長などとは和解が成立しましたが、取締役に名を連ねていた医師は、「全く関与していない」と争っていて、裁判は続いています。
自らを責める発言が多くなった母親は先月、自ら命を経ちました。
母親を亡くした女性
「がんが転移するかも、再発するかもしれないという不安に、心の隙間に入っていって、彼らにとっては命じゃなくて、ビジネスなんだなと思います」
医師からもらった“処方箋”の書類 信用したが…
医師がすすめる治療だからと信じてしまったことを、悔やんでいるというケースもあります。
6年前、同居していた母をがんで亡くした女性です。
初期のがんだと診断され、家族で治療の方法を検討する中、「独自の免疫治療を確立した」とホームページでうたう医師のことを知りました。
手術をこわがっていた母親は、この治療にかける決断をしたといいます。
女性
「医師免許を持っている、お医者さんが言っているというのは、母にとって本当大きかったようです」
処方箋として渡された書類です。
これをもとに「免疫を高める」というサプリメントなどを2年に渡って購入。
総額は350万円に達していました。
医師からは血液検査の結果などをもとに、「治療の成果が出ている」と説明を受けていたといいます。
「先生からは『100歳まで生きてください』という形ですごく励まされて。母が喜んで話していたんです」
治療を始めて1年あまり。
がんを克服した例として、サプリメントの販売を手がける企業の広報誌にも紹介されました。
その9か月後、痛みを訴えるようになった母親は家族と共にクリニックを訪れましたが、「よくなっている」と言われました。
しかし、まもなく母の容体は急変。
救急搬送された総合病院で、がんの全身転移が判明しました。
女性はクリニックの医師に電話をしましたが、「いつかは死ぬんだからしかたない」と言われたといいます。
「完全に切り捨てられたということで。振り返ってみたら本当に、サプリを売ったり、健康食品を売ったり、健康グッズを売っているということだったのかなって」
母が受けた治療は、医療として適切だったのか。
女性は一連の資料をまとめ、警察や厚生労働省に相談しましたが、思うような回答は得られなかったといいます。
「現状、法律的には、なかなか詐欺というのは難しいということと、警察の方も医療過誤というのも、なかなか立証が難しいと。本人が選んだことだからというので」
悩み・不安の声が相次ぐ
近年、入院ではなく通院による治療が一般的となり、自宅でがんの不安と向き合う時間が長くなる中で、インターネット上も含めてあふれる情報との向き合い方が難しくなっています。
がんの患者1000人を対象にした調査では、「どの情報が信用できるか判断できない、わからない」と答えた人がおよそ6割にのぼりました(アフラック「がん患者の悩み・不安に関する調査」(2022年)より)。
自宅でがんと向き合う人たちを中心に、年に5000件以上の相談が寄せられているNPO法人です。
不安を埋めようと検索を繰り返す中で、最先端にみえるがん治療の情報に飛びついてしまうことが多いといいます。
認定NPO法人マギーズ東京 秋山正子センター長
「病院の予約がすぐに取れるかというと、そうではないときもあります。その間が一番不安になります。“治る”“完治する”といった心地よい誘いの文章に、迷いつつそちらへ行ってしまう人も少なくありません」
適切な治療を、どう見極めればいいのでしょうか。
国立がん研究センターでがんの情報発信を行う若尾文彦医師に注意すべきポイントを聞きました。後編で詳しくお伝えします。