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恋愛の苦手なところ

恋愛は構造に欠陥がある

私はずっと恋愛が苦手で、まったく克服できないまま歳を取ってしまった。昔からうっすらと感じていた恋愛への違和は、本日に至るまで拭えないままである。こう、いろいろとしっくりこない。個人的な意見だが、恋愛という風習には仕組み的に上手く成り立っていない部分があるし、構造に欠陥があるのではないか。何というか、松屋の券売機くらいシステムが間違っているとしか思えないのだ。かくいう私はもう、これから恋愛をする必要はないし、年齢的にもムリなので、恋愛を卒業(単位未修得なので正しくは中退)した気楽な立場から、この問題について考えてみたいと思う。

私が恋愛でいちばんよくないと思うのは、「相手からより多くを奪い、自分の取り分にすることが成果として評価される」という、独特の野蛮なルールである。これはイヤですね〜(たけしメモ)。この乱暴さが嫌いで、私は恋愛になじめなかったと言ってもよい。具体的に説明すると、以下のようなことである。恋人ができた男性が、付き合っている女性をじまんする場面を思い浮かべてほしい。「俺の彼女さぁ、若くて、可愛くて、スタイルもよくて、性格が素直で、メシとか作ってくれて、最高なんだよ」。わりとよく聞く話だが、私はこれが嫌いなのである。まさにこうした発想が「相手からより多くを奪い、自分の取り分にすることが成果として評価される」システムの弊害に思えるからだ。このような言葉を聞くと、私はとても野蛮に感じてしまい、居心地が悪い。

いかに多く奪い取ったか

つまり件の男性は、暗にこう言っているのだ。俺は相手の若さを自分の取り分にした。女性の美しさを自分のモノとした。相手の肉体を自由にする権利を所有した。さらには恋人の主体性さえ奪い(「素直な性格」とは、嫌われたくないので相手の言うことに従っている状態ではないのか)、みずからの取り分として得た──。そうして、いかに自分が相手から多くを奪い取ったかを誇る。かかる恋愛の競技ルールが、私にはどうしてもなじまないのである(逆に「付き合ったのに指一本触れさせてもらえない」状態は、取り分の少なさゆえに失敗、みじめな結果となる)。私はこの「相手からより多くを引き出し、奪うことに成功した者が恋愛の勝者である」という基準を前に怖気づいてしまい、行動が起こせなかった。相手からなにも奪いたくないし、なにしろ野蛮すぎてムリだったのである。

容姿の美しさや、若さは本人に属することなのだから、本人が享受し、楽しんでくれればそれでよい。肉体も主体性も、その人自身が所有すべきであって、誰かが奪うものではないように思うのだ。でもなんか、恋愛って領地の取り合いみたいになりがちなのであって、私はそれを楽しめない。あの領地の取り合い合戦、キツくないだろうか? 恋愛をしようとすると、奪うという感覚からどうにも逃れられず、気が咎めてしまう。こんなことを考えていて思い出したのは、NHKの朝ドラ『虎に翼』に登場する男性、優三(仲野太賀)である。劇中で彼は、主人公の寅子ともこ(伊藤沙莉さいり)と策略結婚をする。戦前、未婚の男女は周囲からの信用を得られないので、仮に資格や能力があってもしたい仕事ができなかった。そこで、未婚の男女が社会的信用を得るために恋愛感情抜きで結婚し、身の安定を図るというアイデアが生まれ、寅子と優三、両者の利害が一致し、偽装的な結婚へと至ったのだ。

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奪わずに一緒にいるには?

かくして寅子と優三は夫婦となった。この話には続きがあり、優三の側は寅子に長らく一方的な恋愛感情を抱いており、策略結婚だと思っていたのは寅子だけだったということが示される。しかし優三は寅子に対して、自分はこれが策略結婚だと理解しており、確かに自分の側に恋愛感情はあるが、寅子には指一本触れないと約束する。このくだりに私は唸った。ここで優三が見せたジェントルマンぶりに胸を打たれたのだ。優三は奪わないタイプの男性で、そこがいい。寅子の自由闊達さ、頭脳明晰、弁護士としての将来、それらの資質は全て寅子本人に属しており、誰が奪えるものでもない。しかし恋愛や結婚は、そうした彼女の美点や可能性を損ない、奪い取るような行為になってしまうのではないか。だからこそ寅子は、結婚を地獄としか思えなかったのである。

なにより、優三は寅子から奪うことを避けたかった。私はそこに感動するのだ。優三は寅子の輝きを愛していたが、その資質は寅子自身のものであり、結婚は彼女の輝きを消してしまう。それではいけないと優三は考えた。彼はどうにか、奪わないまま成立する関係性はないものかと思案しており、策略結婚という、一緒にいながら傍観者であるような間柄、共にありつつも寅子本人の資質をいっさい損なわない、トリッキーな関係性を望んだのではないか。私は優三を見ながら思った。わかるよ優三、奪うのって全然嬉しくないよね。なんか、気が引けるもの。奪うのも、奪った成果をじまんするのも楽しくない。

世の夫婦や恋人はどうしているのか

これが友人であれば、その人の美点、良い部分をなにも奪わないまま関係性が持てる。奪う必要がないので怖くないし、安心して仲良くできるのだ。しかしなぜか、恋愛や結婚というかたちを取ると、とたんに領地の取り合いが起こり出すのが、構造的な欠陥に見えてしかたないのである。むろん生活を共にすれば、金銭を含む利害も発生するから、綺麗事ばかり言っていられないのはわかるが、どうにか相手から奪わないまま恋愛や結婚はできないものか。あるいは、なにも奪わない穏やかな恋愛や結婚ができている男女もいるのだろうけれど、未熟な私にはムリだった。いったい世の夫婦や恋人は、こうしたややこしさをどう乗り越えているのか、恋愛の苦手な私にはよくわかっていないままなのだった。

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恋愛の苦手なところ|伊藤聡
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