141戦してわずか11敗…「選挙の神様」が残りの人生を政界再編に掛ける理由

2022年12月22日 06時00分
選挙や政治への思いを語る藤川晋之助さん=東京都千代田区で

選挙や政治への思いを語る藤川晋之助さん=東京都千代田区で

 政治の舞台、東京・永田町界隈かいわいで「選挙の神様」との異名を取る人物がいる。先月、国会近くに「藤川選挙戦略研究所」を開いた藤川晋之助さん(69)。20代から半世紀近く、参謀役を務めた選挙は141を数え、負けたのはわずかに11。そんな藤川さんの目には「昨今の政治家は目先の選挙を気にするあまり、ポピュリズムに陥り過ぎている」と映る。政治リーダーの発掘と政界再編に最後の夢をかける。(杉谷剛)

◆安田講堂事件で目覚めた

 藤川さんが政治に目覚めたきっかけは、中学3年の時に起きた1969年の東大安田講堂事件だ。大阪市に住んでいて「現場にいないことが悔しかった」。政治や思想、歴史の本を読みあさった。高校では、天皇制や憲法、日米安保や日本の歴史観について、友人らによく議論をふっかけながら、「自由主義と共産主義との間で揺れ動いていた」。
 東京の大学に進んで政治運動に没頭し、卒業後に23歳で、当時の自民党田中派の代議士秘書になった。政治の世界に飛び込んでみて、「学生時代に熱く議論した安保だ、憲法だ、天皇制だという根本的な問題よりも、政治は国家予算の分捕り合いと利益分配が中心だと知ってがくぜんとした」。失望を覚えながら、秘書の仕事や中央・地方の選挙をがむしゃらにこなすうちに、政治家を志すようになる。
 37歳の時、自民党から大阪市議に当選。政治改革を掲げて自民党を離党した小沢一郎氏から「各業界の利益代弁者である自民党では政治は変えられない。黒いかたまりの中にいた我々こそ改革できる」と言われて共鳴し、小沢氏率いる新生党(当時)に合流した。
 しかし、2期目の途中で出馬した衆院選など選挙に2度落選し、失意の末に政治家の道を断念した。インドネシアで事業を手がけたが、アチェ紛争で帰国。旧民主党に合流していた小沢氏と再会した際、「選挙を手伝ってくれ」と言われて永田町に戻った。
政治家秘書人生について話す藤川晋之助さん=東京都千代田区で

政治家秘書人生について話す藤川晋之助さん=東京都千代田区で

◆大事なのは候補者の熱量

 豊富な選挙経験を生かして国会議員や首長らの政策立案や選挙戦略を練り、勝利を重ねていった。「何のために選挙に出るのか、候補者には1カ月くらい悩み抜いて考えてもらう。それを戸別訪問やミニ集会などの地上戦で、繰り返し言い続ける。一番大事なのは候補者の熱量。それを人の輪で広げていく」
 田中派や小沢派の地上戦は「川上作戦」。住民の少ない郡部から始め、川下の都市部へと向かう。つじ立ちは1カ所3分以内。数十メートルおきに細かく移動しながら1日に何十カ所とこなす。
 「最初の1分で、とにかくわっーと演説する。単純明快に自分の政策を繰り返し訴える。有権者は『うるさいなあ』と思っても気づいてくれる。次の1分で、自分の名前を連呼する。有権者は家の窓を少し開けて『どんなやつだろう』と見てくれる。最後の1分で、またわっーと演説する。すると、窓を開けて演説を聞いてくれる人が出てくる。とにかく候補者自身が燃えていないといけない」
 チラシ投下や宣伝カー、SNSなどの「空中戦」も駆使するが、「政治は人を好きにならないとできない仕事」と、基本の地上戦を徹底させる。
 「自分ばかりを愛し、目の前の一人一人の有権者を愛せる候補者は少ない。人々の心をつかむ候補者なら、落選すれすれの人を勝たせる方がやりがいがある」。陣営を鼓舞して有権者に熱を広げていく先に勝機が見えてくる。

◆バラマキが当たり前…無責任

 旧民主党が政権交代を果たした2009年総選挙。盤石と言われた福田康夫元首相の群馬4区で、民主党の落下傘の新人女性候補の陣営に入り、大接戦に追い込んで比例復活当選した。19年の埼玉県知事選では、自民・公明が推す立候補者が有利とされたが、野党側候補の一本化に動き、大野元裕知事誕生の陰の立役者となった。
 自民党や旧民主党だけでなく減税日本やみんなの党(解散)など、頼まれて意気に感じれば党を超えて一肌脱ぐ。17年から東京維新の会の事務局長として維新の東京進出を牽引けんいん。東京を地元とする参院全国比例候補を含め、国会議員ゼロから5人へ躍進させ、今年の参院選後に職を退いた。
 「失われた30年間で行政改革や構造改革は骨抜きとなり、経済政策は失敗を繰り返した。ポピュリズムのまん延で、税のバラマキが当たり前のようになっているが、将来世代にあまりに無責任な政治だ」
 危機感が引退を思いとどまらせ、事務所開設に至った。「政権にチェック機能を働かせるには政権交代の可能な勢力が必要」と、残りの人生は真のリーダーになり得る人材の発掘と政界再編の夢にかける。
 「今のままでは後世に、この時代の大人が駄目だったから日本が駄目になったと言われる。老骨にむちを打って、もうしばらく永田町を徘徊はいかいするよ」

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