自宅招いてお茶を出して 無償奉仕の保護司、悩む面接相手との距離感

滝坪潤一 木子慎太郎 根岸拓朗 川村さくら 久保田一道

 大津市で保護司を殺害したとして、保護観察中の男が逮捕された。男が容疑を否認する一方、滋賀県警は、保護司の自宅で面接中に事件が起きたとの見方を強めている。保護司は非常勤の国家公務員だが、無給のボランティアだ。保護司の安全を守るため、国は対策に乗り出した。

 亡くなったのは、新庄博志さん(60)。8日に殺人容疑で逮捕された飯塚紘平容疑者(35)は「やっていません」と話している。

 県警によると、新庄さんが死亡したとみられる5月24日夜、自宅で飯塚容疑者との面接が予定されていたという。

 面接場所に自宅を選ぶ保護司は多い。総務省が2019年に実施した保護司4700人対象のアンケート(回収率85.1%)では、73.4%が最も多い面接場所は自宅と答えた。

 「気の置けない関係を築くことが大事だ」と大阪市の保護司の男性(76)は話す。自宅でお茶を出し、世間話を重ねる。最初は反発していた少年も、距離が縮まればいろんな話をしてくれるようになるという。

 PTAの先輩に頼まれ、三十数年前に保護司になった。これまで80~90人担当してきた。20年前には少年だった子と近所の道で会い、「元気にやってます」と笑顔で返された時、保護司をやってきてよかったなと感じるという。

「私の安全のために線引き」

 近畿地方の70代の男性保護司は、あえて自宅ガレージで面接する。

 「きれいな部屋でコーヒーを出されたら、相手も緊張するでしょう」。パイプ椅子に座って、向き合う。

 家族の視線を気にして、自宅を使わない保護司もいる。その場合の利用先は「更生保護サポートセンター」。全国886カ所にある保護司の活動拠点だ。

 大阪府交野市の加藤勤さん(74)は、妻から「顔見知りになると、街中で偶然顔を会わせたときにお互い気まずい」と言われ、センターを利用している。

 だが、加藤さんは少数派。自宅から遠いなどの理由もあってセンターの利用は広がらない。

 保護観察の対象者は、刑務所から仮釈放となったり、保護観察付きの執行猶予判決を受けたりした人たち。保護司は、不安を感じたら担当から外れることもできる。

 ただ、法務省によると、観察対象者から危害を加えられたことを理由に、保護司に補償が適用された例は12年以降で4件ある。10年には、茨城県の保護司宅が、担当する保護観察対象者に放火された事件があったという。

 首都圏で保護司を務める50代女性は、小学生の子どもと暮らす自宅ではなく、民間や自治体の会議室などで会う。対象者の犯した罪が殺人や放火、性犯罪だった場合は、保護観察所から支援の打診があっても断ることにしている。「どんな対象者でも断らない女性の先輩保護司もいる。けれど、私は自分の安全のために線引きをしています」(滝坪潤一、木子慎太郎、根岸拓朗)

でも「しょせんは地域の人」

 現在の保護司制度は、明治期に静岡の篤志家が始めた事業がルーツとされる。監獄から出所したばかりの生活困難者を保護したという。

 1950年制定の保護司法によって制度化された。保護司は、医学や心理学などの専門知識を持つ保護観察官と役割分担しながら、対象者の立ち直りを支援する。保護観察の対象者を、どの保護司が担当するかは、自宅との距離や経験を踏まえ、保護観察所が決める。

 定期的な面接で生活状況などを確認し、その内容は保護観察官と共有しているという。

 フィリピンやケニアでも導入された制度で、国際的にも「模範」として評価されてきた。

 現在、保護司は約4万7千人。定員割れの状態が続き、国は担い手不足の解消に向けた議論を進めてきた。事件はそんな中で起きた。

 大津市で保護司を務める60代の男性は「おれらはしょせん『地域の人』」と話す。面接を通じて地元に居場所をつくる意味では役に立つが、「対応が難しい観察対象者を抱えきるのには限界がある」と不安を隠さない。専門性の高い保護観察官が受け持つ対象者を増やすべきだと指摘する。

 ボランティアという立場では、背負う責任とリスクに見合わないとの声も漏れる。50代の女性保護司は「国は保護司に甘え、必要な制度づくりを怠ってきたように感じる」。

「あなたの味方だよ」が大事

 小泉龍司法相は14日の閣議後の記者会見で、6月末までに必要に応じて観察の担当を保護司から保護観察官に変更したり、複数の保護司で担当したりする措置をとると説明した。観察対象者との面接に不安を感じるケースを想定している。法務省は、観察対象者を担当している保護司に対し、トラブルや不安の有無について聞きとりを進めている。

 ただ、元法務官僚で刑務所や保護観察所での勤務経験がある龍谷大の浜井浩一教授(犯罪学)は、こうした動きが、1対1での面接禁止やカメラ撮影などに発展しかねないと危惧する。「監視の意味が強まり、保護司の良さがなくなる。犯罪歴もすべて知って受け入れ、地域で『あなたの味方だよ』と応援するのが保護司。(専門知識を持つ)観察官を養成し、保護司との連携を強めることもリスク低減につながる」と語る。(川村さくら、久保田一道)

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