左がパナソニック エンターテインメント&コミュニケーションの末永 誠氏、右がアマゾンジャパンの西端明彦氏
パナソニックのテレビ「VIERA(ビエラ)」シリーズの2024年モデルが発表された。年初の「CES 2024」でも発表があったとおり、今回発表された6シリーズの「ビエラ」のOSは、すべてアマゾンの「Fire TV」。
ごく簡単に言えば、これまでパナソニックが培ってきた独自機能や画質に対する取り組みはそのままに、「Fire TV」のUIで動くテレビということ。以下がそのラインアップで、有機EL、液晶ともにすべてパネルは4K(3,840×2,160)仕様だ。
●独自パネル構造の有機ELフラッグシップ
「TV-65Z95A」 市場想定価格52万円前後 6月21日発売
「TV-55Z95A」 市場想定価格37万円前後 6月21日発売
●パネル制御はフラッグシップ同等の有機ELハイグレード
「TV-65Z90A」 市場想定価格40万円前後 6月21日発売
「TV-55Z90A」 市場想定価格29万円前後 6月21日発売
●スタンダードな“小型”有機EL
「TV-48Z85A」 市場想定価格23万円前後 7月19日発売
「TV-42Z85A」 市場想定価格22万円前後 7月19日発売
●Mini LEDバックライト搭載の液晶最上位
「TV-65W95A」 市場想定価格37万円前後 7月26日発売
●直下型LED分割駆動の液晶ハイグレード
「TV-65W90A」 市場想定価格30万円前後 6月21日発売
「TV-55W90A」 市場想定価格26万円前後 6月21日発売
「TV-50W90A」 市場想定価格20万円前後 6月21日発売
「TV-43W90A」 市場想定価格19万円前後 6月21日発売
●等速駆動の4K液晶スタンダード
「TV-50W80A」 市場想定価格14万円前後 7月26日発売
「TV-43W80A」 市場想定価格13万円前後 7月26日発売
上記のとおり、「Fire TV」搭載テレビは全6シリーズ13モデル。全面展開と言ってよいラインアップだろう。テレビの型番に冠していた文字列が「TH」から「TV」になったあたりにも、「ビエラ」が生まれ変わったことが示されているようにも思える。
「Fire TV」搭載テレビは有機EL、液晶合わせて6シリーズ13モデル
2023年モデルから、少し製品数が整理され、ユーザーとしては選びやすくなっているのではないだろうか。77V型有機ELテレビのみ「LZ2000」シリーズが継続される。「CES 2024」では77V型モデルとして「V93A」シリーズの展開が告知されていたので、こちらの登場も期待される
イメージが薄いかもしれないが、パナソニックは2008年に世界初YouTube対応テレビを発表するなど、実はAV家電のインターネットへの接続を推進してきたメーカーだ。当時は早すぎた感のあった機能だが、現在ではインターネットへの接続が当たり前だと言ってよいだろう。
利用率はともかく、パナソニックのテレビはインターネットへの接続を積極的に推進してきていた
パナソニックのテレビはこれまで独自OSを搭載していたものの、新たなアプリのインストールが必要など、目まぐるしく変化する状況に対応するのが難しい。これを根本的に解決する方法がアマゾンとのコラボレーションによる「Fire TV」搭載というわけだ。
しかも単にOSとして「Fire TV」を搭載するわけではなく、使われているのはまったく新しい独自の「Fire TV」であるという。パナソニックの資産を生かすまったく新しいOSを作り上げられることこそ、パナソニックが「Fire TV」搭載に舵を切った大きなポイントだったそうだ。
パナソニック同士のテレビやブルーレイレコーダーのコンテンツを別部屋で視聴する「お部屋ジャンプリンク」などの機能は継承。OSが既存の「Fire TV」に置き換わったのではなく、パナソニックの独自機能と「Fire TV」の機能が統合されたという意味で新しい「Fire TV」ということなのだろう
ホーム画面では、各種ネット動画サービスとテレビ番組(局名)も横並びで表示される
これまでと大きく変わらないリモコンなどにも、パナソニックらしさは継承されている。新製品の6シリーズすべてで、リモコンによる音声操作にも対応する。「Z95A」「Z90A」シリーズのみ本体にもマイクを搭載しており、本体でも音声操作が可能だ
音声操作についてはAlexa対応の照明やエアコンなどの家電にも対応。テレビ経由での操作が可能だ
基本的には「Fire TV」なので、主要ネット動画サービスは網羅されていると考えてよいだろう。もちろん、後からさまざまなアプリをインストール可能だ
このような統合は、アマゾンならびに「Fire TV」にとってもマイルストーンであるとアマゾンの担当者は言う。確かに、これまでも「Fire TV」で動くテレビは存在していたが、「Fire TV」のように動くという以上の魅力をアピールできていなかったように思う。ユーザーにとっても画期的なコラボレーションと言えるだろう。
ここから、製品の新機能などを確認していこう。共通しているのは映像処理エンジンとして、「新世代 AI高画質エンジン」を採用したこと。このエンジンによって、映像コンテンツの最適化を図る。
新製品はいずれも「新世代 AI高画質エンジン」を搭載する
新エンジンで実現される目玉機能が「デュアル超解像」。AIを用いた超解像技術のことで、AIと在来型の数理モデル3次元超解像を掛け合わせるので「デュアル」という名称が用いられている。元素材の情報量に応じて最適化をかけるため、不自然にならないレベルの解像感を得られるという。
不自然にならない滑らかさがこの機能のポイント
もうひとつの新機能として訴求するのが「ネット動画ノイズリダクション」。YouTubeなど、特に圧縮率の高い動画再生時のバンディングを抑制する技術のことだ。バンディングとは、グラデーションの表現時に情報量が足りなくなり、意図しない部分で階段状(縞模様状)のノイズが出てしまうこと。
他社製テレビでも見られる機能だが、「Fire TV」搭載テレビとあって、ネット動画との親和性の高さをアピールする狙いもあるのかもしれない。
本来はグラデーションになる部分でも、映像の圧縮率が高いと階段状に見えてしまう。それをグラデーションとして見えるように、滑らかに処理してくれるのだ
そのほか、Dolby Vision IQ “Precision Detail”などHDR映像の最先端機能に対応するほか、制作者の意図した映像で忠実に映画を楽しむための映像モード「FILMMAKER MODE」を搭載する。
144Hz駆動に対応したことも新製品共通の特徴だ(等速駆動の「W80A」シリーズを除く)。48V型の有機ELテレビ「TV-48Z85A」は144Hz駆動非対応であることには注意
有機EL、液晶テレビそれぞれの特徴を見てみよう。まず注目されるのは「CES 2024」で言及されていた新パネル採用の有機ELテレビ「Z95A」シリーズについてだろう。
「Z95A」シリーズは65V型と55V型の2モデル
基本構造は2023年モデル「MZ2500」を踏襲。ただし、パネル自体はLGディスプレイ製の最新世代「MLA+」パネルと見てよいだろう。「MZ2500」からさらに輝度を増しているものと見込まれる
パネル構造などのスペックは多くの部分で従来モデルと同じように見えるが、元のパネル自体の基礎体力(輝度)が上がっているはず。ここが画質にどう影響するかがポイントだ
パネル制御技術「Bright Booster」も進化。リアルタイムでのパネル発光性能解析を行うことで、さらにパネル性能を生かせるようになったという。この新「Bright Booser」技術は「Z90A」シリーズにも採用されている
「Z95A」シリーズのスピーカーのみ、「Tuned by Technics」を名乗る特別製であることも引き継いでいる。上方向に音を放射するイネーブルドスピーカーだけでなく、横方向に音を放射するワイドスピーカーも搭載。さらに実測定で音質を最適化する「Space Tune」機能も利用できる
各シリーズのスピーカーシステム比較表。すべてのシリーズでDolby Atmos対応ではある。「Z90A」シリーズもイネーブルドスピーカーを備え、「Spece Tune」を利用可能だ
独自のパネル構造で高画質化を図った「Z90A」シリーズ
「MLA+」パネルではないものの、スタンダードな有機ELパネルの性能も年を追うごとに上がっているはず。また、進化したパネル制御技術「Bright Booster」は「Z95A」と同等だ
2024年は、48V型、42V型の有機ELテレビもラインアップ。これまで展開されていた「LZ1000」シリーズが2022年モデルのため、この新製品は待望と言える
こちらもスペック上は従来とあまり変わらず。とはいえ、パネルは進化しているだろう。42V型は144Hz駆動対応だ
発表された新製品のうち、液晶テレビは7モデル。有機ELテレビの6モデルとほぼ変わらない製品数だ。これまではサイズ展開も豊富な液晶テレビ、という節があったのだが、パナソニックでは液晶テレビを整理する方向に動いた様子。有機ELテレビへの注力の表れなのかもしれない。
「W95A」シリーズと言いつつ、展開されるのは65V型のみ
スペックシート上は従来モデルと変わらないようだが、Mini LEDバックライトについても年々進化しているはずではある
直下型LEDバックライトを部分駆動して高コントラスト化を図る「W90A」シリーズ。65V型、55V型、50V型、43V型の4モデルを揃える主力シリーズと言える
Mini LEDほど細かくはないが、バックライトを区切り、映像に合わせて部分ごとに駆動する。これと信号処理を組み合わせて映像の最適化を図る
「W80A」はそもそも倍速パネルではないので、144Hz駆動には対応しない。ごくスタンダードな4Kテレビと言える
バックライトはパネル裏「直下」に設置される直下型。部分駆動はしないが、信号処理で高コントラスト化を図る
パナソニックの有機ELテレビと言えば、ひたすらモニター画質を追い求めるマニアにも支持される精妙な光のコントロールが魅力としてあげられてきた。製品発表会ではそこまでシビアに画質を確認できなかったが、新シリーズのテレビでもしっかりと従来モデルどおりの画質調整機能などは継承しているようだ。
「Fire TV」搭載と言っても、「Fire TV Cube」などのUIをそのまま持ってきているというわけではないし、いっぽうで操作レスポンスは「Fire TV Cube」で感じられるスムーズさそのものといったところ。パナソニックの画質×「Fire TV」のスムーズさが期待どおりに掛け合わせられているとすれば、テレビとしての完成度が高められた、期待の新製品が登場したと言えそうだ。
これまでのパナソニックのテレビは職人気質で垢抜けない印象もあったのだが、「Fire TV」の搭載でそれが一気に払拭できるかもしれない。2024年のテレビシーンで注目製品であることは間違いない。
Amazon MusicのDolby Atmosも再生できる。このあたりも「Fire TV」とのコラボレーションによる地味にうれしい成果だ
ちなみに、映像モードの表示は画面のとおり。「FILMMAKER MODE」のほか、おなじみの「シネマプロ」なども引き継がれていることに一安心
画質調整項目は入力ごと/放送波ごとに調整、メモリーできる。Amazonプライム・ビデオ以外のNetflixなどでも24p再生できそうだ。このあたりは後日検証してみたい