【福島県】県旗の“ズレ”なぜ?
- 2024年06月13日
福島県の旗「県旗」。鮮やかな橙色の真ん中に、シンボルマークを配したデザイン。
しかし、なんだか変だ。よく見ると、マークは真ん中ではなく“左斜め上”にズレている。見れば見るほど、大胆にズレていることがわかる。なぜこのようなデザインになったのか―。その謎に迫った。
“左上”にズレているのは福島県だけ
きっかけは視聴者からの投稿だった。
県政担当の記者として私は、さまざまな場所で県旗を目にしているにもかかわらず、これまで全く気にしたことがなかった。調べてみると、ネット上でも、この「ズレた」デザインの謎に関する複数の投稿が見つかり、気になっている人が多いことが分かる。
ところで、他の都道府県はどうなのか?
都道府県にはそれぞれシンボルの旗がある。ほかに似た事例がないかと47都道府県の旗をすべて調べてみたところ、愛媛県、熊本県、長野県が同じようにマークを「左」に寄せたデザインであることが分かった。
しかし、4県を見比べてみると「左上」に寄せているのは、なんと福島県だけだ。
さっそく、県がホームページに載せている県旗の説明文を読んでみると次のような説明があった。中央のマークは「県章」というらしい。
県章が福島の「ふ」をモチーフにしたことは大いに納得できる。県旗については「県勢の限りない躍進」を表現して左上に配置したとある。
なるほど、いかにも行政らしい説明文だ。しかし「誰」が「どんな思い」でこの旗のデザインを決めたのか、余計に疑問が湧き上がってきた。ここにあった情報をたよりに、県章と県旗が生まれた経緯を徹底取材することにした。
県章デザインの主が判明!
県によると県章と県旗が制定されたのは56年前の1968年10月23日。当時、何があったのか。
(県広報課の担当者)
県章と県旗は、当時開かれた明治百年記念式典に合わせて、デザインの公募があったようです。
デザインが公募されたとあれば、デザイナーがいるに違いない。その人なら「ズレた旗」が生まれた経緯を知っているはずだ。
資料を求めて県の歴史資料館へ。福島県にまつわるさまざまな資料をひもとく中で、地元紙のひとつ、福島民報社が発行した「福島大百科事典」の中に、なんと、デザインした人の名前が記されていた。
それによると、県章をデザインしたのは、1968年当時、福島大学の学生だった旧梁川町(現在の伊達市梁川町)出身の「椎名淳子さん」らしい。
その足で伊達市梁川町に向かい「椎名淳子さん」の手がかりを探す。有力な情報になかなかたどり着けない中、とある美容室で、椎名さんのご両親と親交があったという方を見つけた。
(椎名さんの)お母さんに「県章はうちの娘がデザインしたんだ」って聞いたよ。
詳しく聞くと、椎名さんがいま関西で暮らしていること、妹がいることが分かり、さらに、椎名さんの妹を通じて、福島に帰省するご本人に会えることになった。
福島名産の○○をモチーフに
椎名淳子さん(77)。56年前に福島県の県章をデザインした、その人だ。
幼い頃から絵画やデザインに関心があった椎名さんは、福島大学の教育学部美術科に入学。県章のデザインは、4年生の時に公募があり、大学の課題の一環として取り組んだという。
椎名さんによると、「ふくしま」の頭文字「ふ」を何度も書いているうちに今の形に近づいていったという。実は「ふ」以外の隠れたモチーフがあるそうだ。
大好きな桃のイメージです。私は桃の花が大好きだったので、創作していく中でつながったんだと思います。
高校時代から大学時代までの7年間、当時住んでいた伊達市梁川町から福島市まで、路面電車やバスで通っていたという椎名さん。車窓には桃畑が広がり、窓から手を伸ばせば桃の木に届くような場所もあったとか。
春になるとピンクの花が一面に咲いて、本当にすてき。桃源郷です。
学生時代には、桃のキャンペーンガールを務めていた椎名さん。桃を愛する思いと、通学時に眺めていた桃畑の風景とが相まって、県章をデザインする際に桃が強く影響したのだという。
福島に帰ってきた時にふと県章を見かけたときは、とても幸せな気持ちになります。
県旗デザインの当事者、ついに現る
さて、いよいよ本題。
なぜ旗の中で県章が左上にずれているのか、椎名さんならご存じのはず―。
県旗については全く知らないんです。私が応募したのはあくまで県章。旗のデザインは私の県章を採用してくれた方が決めたんだと思います。
県章のデザインが生まれた貴重なエピソードを聞くことができたものの、なんと、肝心の「県旗のズレ」は椎名さんも知らず。
もはやこれまでかー。
「デザインを選考した福島大学の先生方ならご存じのはず」との椎名さんの言葉を信じ、最後のチャンスとばかりに福島大学を取材。すると、当時、公募の審査員を務めた先生の助手だったという熊田喜宣さん(のちに福島大教授)が、旗のデザインに関わっていたことが分かった。ずばり、県章を左上にずらした理由を聞いた。
なぜ県旗はズレているんでしょうか?
旗は「旗ざお」と呼ばれるポールで掲揚する時、左側をくくりつけます。風に吹かれた旗は、ポールから遠い右側よりも近い左側の方が小さくはためくので、左に寄せた分だけ図柄が見やすくなるんです。風が吹いて大きくはためいても県章が見やすいように、先生たちの意見で左側に寄せることにしました。
言われてみれば、確かに左にずらすことで県章が見やすくなっている気がします。県章を左側に寄せた県がほかにもあったことを考えると、納得の理由です。でも福島県だけは、県章が上にもズレていました。これはなぜですか?
当時の日本は高度経済成長期。明治百年記念のタイミングでもあり、農業県の福島県が「さらに100年先も発展してほしい」という上向きの願いがありました。旗の色も活発な色を選んだと記憶しています。
なるほど。左と上、ずらした理由が別々にあったんですね。
ただ、四隅を広げて掲げた時に不安定に見えないでしょうか?
そう見えることを踏まえて、意図的にずらしたんです。ほかの都道府県のように県章を真ん中に配置すると、安定はしますが動きがなくなってしまう。デザインの手法で「ムーブメント」というものがあって、動きをつけることで躍動感が生まれます。
発展し“続けて”いく躍動感でしょうか?
そうですね。もちろん、ずらしすぎると不安定な印象が強くなるので、ずらすのは少しだけにしました。
県章が見やすいというデザインの理にかなっていること、そして、福島の発展を願う先人たちの思いが込められて「ズレた」福島県旗。桃の産地という土地柄も意匠に反映されたこの旗が、今の私にはもう、これまで以上に勢いよくはためいて見えるようになった。みなさんもまちで見かけた時に、この旗の誕生秘話に思いをはせてみてはどうだろうか。
(2025年5月16日まで掲載予定)
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