CGアニメコンテストが35年の歴史に幕 「できなかったこと」とは
CGアニメが一つの文化に育つ土台を作った、国内で最も歴史あるコンテストが2023年、35年の歴史に幕を下ろした。「パソコンでアニメを作る時代がくる」。時代に先駆けて1980年代にそう発想した一人で、「CGアニメコンテスト」の主催団体DoGA(ドーガ)代表の鎌田優(ゆたか)さん(60)に聞いた。
7月6日に上映・講演会
CGアニメコンテストの歴史を振り返る上映・講演会が、7月6日に長野県立科町で開かれる。「第62回日本SF大会 やねこんR」(同実行委員会主催)の企画の一つ。「傑作入選作ガッツリ見せます!」と題して、35年分の入選作から「歴史を動かした傑作」と「これだけは見ておくべき傑作」を厳選して見せる2部構成で、鎌田さんが講師を務める。詳細は公式HP(https://www.yanecon.com/)。
――CGアニメコンテストからは「イヴの時間」の吉浦康裕さんやNHK「びじゅチューン!」の井上涼さん、「けものフレンズ」のたつきさんなど国内外で活躍する作家が多く世に出ました。なぜ突然、終わらせたのですか。
「というより20年以上前からやめようと考えていて、タイミングがなかった。第12回(2000年)が転機でした。新海誠さんが自主制作の短編『彼女と彼女の猫』でグランプリをとり、2年後に劇場公開作『ほしのこえ』がヒットした。CGアニメは世間に受け入れられ、行政まで注目しました。もうオタクでもカルトでもない文化となり、コンテストは目的を果たした。近年は、他のコンテストやネットで作品を発表できるようになったのも理由の一つです」
「最後の仕事として、過去の入選作564作品全てを集めたデータベース『CGアニメアーカイブス』(https://archives.CGanime.jp/)を作って、昨年末に公開しました。文化庁に支援された事業で、活動を保存・公開してほしいというクリエーターの要望から始まりました。今はネットで引っかからないと“存在しない”ことになるじゃないですか。入選作の中にはネットが普及する前の作品や個人保管の作品もありましたから」
――鎌田さんも第1回(1989年)に作品を出した一人でした。35年間で作家と作品はどう変化しましたか。
「初期は理系だけでした。コンピュータークラブに所属する学生くらいしかパソコンを持っていなかったから。パソコンが普及すると文系の人が参加してきて、ストーリーがしっかりした作品が増えた。次に芸術系の人がきて、アート性の高い作品に。それが最初の10年くらいの変化でした。昔は、CGアニメを作る=プログラミングだったので、理系以外がアニメを作るなんて想像もしていませんでした」
――多様な作品が入り交じる中で、審査はどう行っていましたか。
「うちは映像やストーリー、テーマなどの総合点で作品を見るより、作家が伸びるかを見ていました。ギャグ作品にテーマ性がない、純粋アート作品にストーリーが乏しい、と言っても意味がありません」
「応募する側の人に言いたいのは、一つのコンテストで選外になっても落ち込まなくていいということ。コンテストごとに合う合わないがあって、別の物差しで測れば別の結果が出る。諦めずにいろんなところに応募してください」
――コンテストが終わっても、DoGAと作家との関係は続きますか。
「クリエーターとの交流は続けます。表現に生かすために多様な体験をするべきだというのが私の考えで、入選者とは一緒に海外旅行にも行きます。ある作家と昔、宿も決めずに行ったイギリスでレンタカーを運転してひたすら北上しました。そのとき見た風景は次の作品に反映されていました。今年はウズベキスタンに行きました」
「入選者向けに開いてきた年1回の合宿も続けます。クリエーターと作品を守るために著作権などを勉強してきました」
35年間かけてできなかったこと
――コンテストはCGアニメの発展を支え、盛り上げてきた存在です。35年間の活動でやり残したことはありますか。
「二つあります。一つはクリエーターが作品を発表して食べていける環境を作れなかったこと。ネット上で自主制作アニメを数百円単位で売るような仕組みができる前に、動画は無料という考えが広がった。資金を回収する手段がない世界になったのが残念です」
「例えばYouTubeはクリエーターにお金を還元する仕組みを作りましたが、主な基準は再生回数とされています。クリエーターが1年以上かけた作品よりも子猫が鳴く動画の方が再生され、価値が高いとされる。業界に求めたいのは、中身で評価してお金を払う仕組み作りです」
「国が優秀な人材を見つけて支援することも重要です。行政が関わるコンテストはすでにありますが、応募作を評価して終わりで、その先につながっていない。クリエーターのトータルな育成事業はあってほしい」
――もう一つのやり残したこととは。
「教育です。子どもたちが、3DCGやアニメ制作を学ぶ環境を作りたい。以前、国のプロジェクトで小学生でも使えるソフトを開発しました。でも、全国の小中学校に配るところまでやってもらえなかった。このCGを教育に採り入れようという考えは、むしろ海外から賛同を得ています。実現はしませんでしたが、フランスやドバイの王族からお問い合わせがありました。ソフトを使ってもらうため、DoGAでは国内外で独自に子ども向けワークショップも開いてきました」
「過去のコンテストでは、こんなこともありました。細胞の中を延々と見せる作品が選外になり、そのクリエーターは『自分は医学部生でCGは趣味。もうやめる』と。私は『医者でCGが作れるなんて絶対に役立つ』と引き留めました」
「彼は瀬尾拡史さんといって、現在はノーベル生理学・医学賞の解説映像を手がけるなど、医療をCGで表現する分野の第一人者となっています。他にも、DoGAのCGソフトで遊んでいた子が高等専門学校に進学し、他の生徒が図面や文章で提出している課題を、CGアニメで提出した例もあります。『自分のイメージを文字や図で表現するより、CGアニメの方が簡単だ』と。そんな発想を持った子どもたちが育ってくる」
「子どもの頃にテレビアニメを見て『これを作りたい!』と夢見ました。DoGAの活動の根本は、それを実現しようというところにあります。子どもたちに託していますが、全員をアニメ作家にしようなんて思いません。自分の考えを表現する手段の一つとして映像を使えるようになってほしい。アニメ以外の分野も底上げできるんじゃないでしょうか」(富岡万葉)
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