風花雪月場面切抜短編   作:飛天無縫

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 タイトルは合ってます。誤字ではありません。
 でもダブルミーニングは狙ってます。


背負ってしまったもの、未来を綴じる

 傾向はあった。

 

 ある意味では当然の成り行きなのかもしれない。

 

 気付かなかったにしろ、確かに『それ』はあった。

 

 感情が育っていなかったというのはただの言い訳でしかなく。

 

 ベレトが察することができた時はもう手遅れになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最初に違和感を覚えたのは帝国東部のフリュム領の暴徒鎮圧に協力した時だった。

 

 帝国がセイロス教を盛り立てる立場になり、エーデルガルトの声明が各地に広がるにつれて様々な反応が現れた。

 その中で彼女の声が受け入れられるだけでなく、反発する人も現れたのだ。

 

 五年前のガルグ=マク襲撃や、教団と敵対した帝国が何を言うかとエーデルガルトに不満を持つ平民が怒りを見せ、それを煽るように一部の貴族も囃し立てた。

 まあそういった反応が出ることは当然と言ってもいいのだが、だからと言って暴れていい理由になるはずもなく、帝国内へ派遣された巡回軍が治安維持に動いて一度はすぐに鎮められた。

 

 ところが、すぐに二度目の暴動が発生した。異例の再発である。

 あんな主張をするエーデルガルトはやっぱり信用できないだの何だの、先の鎮圧された暴動と内容は変わらない。規模も場所も同じなのに再び暴れ出す力がどこにあったのか。

 

 ヒューベルト曰く、こうやって民を煽ってエーデルガルト様の支持を削るのはそれだけ闇に蠢く者が焦っている証拠でしょう、とのこと。

 つまりこれは闇うご──ベレトが口にする度にそれを聞いたエーデルガルトが噴き出してしまうのがお決まりの流れになりつつある──が皇帝に反感を持つ一部の貴族を通じて武器を流したりなど煽動して、意図的に起こした暴動なのだ。

 方針を変えた皇帝が、自分達が望んでいない方向に帝国を動かそうとするのを気に入らず、足を引っ張ろうとしているということか。

 暗躍するしかないとは言え、いやらしいものである。

 

 そんな暴動も、駆けつけたベレトとジェラルト傭兵団の助力によって早々と片が付き、今度こそ背後も洗ってこの地を守ると息巻く巡回軍。

 彼らとの別れ際、フリュム領に派遣された部隊を率いる隊長と挨拶をする場面での会話がベレトには引っかかった。

 

「この度は助かりました。ありがとうございます」

「こちらこそ。これからも巡回を頑張ってください」

「はい! いやあ、それにしても流石は先生。噂通りですし噂以上でした!」

「噂?」

「ええ。かつて士官学校では陛下を指導していた教師だったと聞き及んでおります。今ではお忙しい陛下に代わってこうして帝国内を飛び回り、治安維持にまで貢献してくださる。しかも大層お強い! 先生が帝国を選んでくれて、我々としては大助かりですよ!」

 

 話す内に熱が入ってきたのか、だんだんと強くなる口調でベレトを褒め称える隊長の若い兵士。

 彼の言葉によれば、ベレトが王国でも同盟でもなく帝国を選んだことで現在のフォドラの情勢が作られたらしい。

 

 間違ってはいないのだが、ベレト本人にとっては違和感を覚える話である。

 

「……俺はあの時エーデルガルトを、一人の女の子を守りたかっただけです。あまり大きなことを考えていたわけではありません」

 

 聖墓でエーデルガルトを守る選択をした時、ベレトが考えていたのはただただ彼女を守りたいということだけだった。

 フォドラがどうとか、帝国がどうとか、セイロス教の沽券も何も頭になく、エーデルガルトを守りたい一心だっただけで、今もそうして彼女を支えるべく行動しているに過ぎない。

 

 流石に五年前の当時よりは考えて、今やっている活動が三国に渡ってフォドラをよくしていければいいと思いながら動いているが、それだって結局はエーデルガルトが健やかに生きていける世界を創りたいがためにやっているのだ。

 ベレトの中にある『エーデルガルトを守る』という私的な動機はそのままである。

 

 ──しかしそんな彼の内心など他人には知りようがない。

 

「そうなのですか? いやあ、考えるまでもなく陛下を助けてくださるなんて、素晴らしい愛国心ではありませんか!」

「え?」

 

 まさかそんな風に受け取られるとは思わず、ベレトは相手を見返した。

 

 これまでの人生を傭兵として生きてきたベレトに帝国への愛着など全くない。

 生徒の故郷だったりその地で生きる人がいるのは知っているし、そういう誰かの助けになることができればいいと考えてはいるが、根無し草として生きてきた彼にとって思い入れはなく、はっきり言って他と変わらない世界の一部だ。

 北の王国より温暖だったり、東の同盟より畑が多い景色だったり、違いは感じるがそれだけで、フォドラにある地方の一つとしか思っていない。

 当然、そんな帝国への愛国心などあるはずもない。

 

 ──しかしそんな彼の内心など他人には知りようがない。

 

「陛下のお味方をしてくださる先生がいれば百人力というものであります。貴方様がいれば帝国も安泰でしょう!」

「……」

「おっと、お引止めしてしまいましたね。自分はこれにて失礼いたします」

「……はい」

「ささやかではありますが、先生の今後のご活躍をお祈りしております。それでは、またお会いしましょう!」

 

 綺麗な敬礼を見せ、その若い兵士は自分の部隊のところへ戻っていった。

 彼に目礼して見送ったベレトも踵を返して歩き出す。

 

 歩きながらベレトは考えた。

 

 何か。

 何かが違う。

 何かがズレている。

 だが、その何かが言葉にできない。

 

 奇妙な歯がゆさがベレトの中に生まれていた。

 

 合流したジェラルト傭兵団を連れて移動する最中も、その後もずっと、例えようのない違和感がベレトの脳裏から拭えなかった。

 同盟のクロードへ親書を届ける前、帝国内を奔走する活動の中の一幕である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 違和感は消えない。

 その後も活動を続けていき、各地で人々と関わるほどにベレトの中で膨れ上がっていく。

 

 

 

 

 

 西部のヌーヴェル領に赴いた時。

 帝国と海を越えたブリギットとの交流を邪魔しようとした教団の嫌がらせを撃退した。帝国の戦力増加を阻もうとするのが教団の狙いだったのだろう。

 

 ブリギットを帝国の(しもべ)にはさせない──声高に謳うセイロス騎士団だが、既にエーデルガルトとペトラが結んだ友誼によってブリギットの立場は回復しつつあり、戦力の派兵まで叶った今となっては余計なお世話。

 それでも向こうからすれば大義名分はあるので、カトリーヌを含む有力な軍勢で力を入れて攻めてきて、常備された帝国軍とぶつかった。

 現在の上手く運んでいる繋がりを守るために帝国が備えた軍も大きく、フォドラ西部で起こった戦闘の中ではかなりの規模に発展したのだ。

 

 そこに駆けつけたベレトと仲間達が参戦したことでセイロス騎士団の撃退が叶い、ブリギットとの国交まで守ってみせるとは流石先生と持て囃された。

 

 

 

 

 

 将軍へと出世したランドルフと再会した時のこと。

 彼に連れられて帝国軍本隊の訓練に加わった際、ベレトはその実力と指揮能力でたちまちの内に兵士達から人気を集めた。

 

 ランドルフが率いる兵は若い者が多く、同格のラディスラヴァも率先して受け入れる姿勢を見せたことで、若いベレトでも自然と尊敬されるようになったのだ。

 また、皇帝直属の部隊として編成された黒鷲遊撃軍(シュヴァルツァアドラーヴェーア)の指揮官に任命されたことが分かると、ベレトに向けられる尊敬はいや増した。

 

 年嵩の兵士も、エーデルガルトから深く信頼され、帝国各地で実績を上げるベレトを見れば認めないわけにもいかず、最終的には多少のやっかみはあれどそれなりの関係に落ち着くことができた。

 これに関してはベレトの態度も、相手の年齢によって態度を変えることなく、若手達とも対応を一律させたのがよかったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 受け入れられるばかりではない。

 エーギル領の視察に加わった時のことである。

 

 五年前、領地の統治権を取り上げられたエーギル公に代わってエーギル領のことはエーデルガルトが面倒を見ることになり、皇帝の仕事に加えて領地一つ分の業務を彼女は抱えることになった。

 ベレトが眠っていた間もそれは続き、皇帝の力強い政策を進めるにあたって障害になりうる貴族がいなくなったエーギル領はこれ幸いとエーデルガルトの手が多く加えられることになる。

 政治的なテコ入れの他、早天馬(はやてんま)など革新的な案もまずはエーギル領で試したりなどしたのだ。

 

 そんなエーデルガルトがエーギル領へ訪問(演説やら視察やら)をする際にベレトも同行し、平民目線の意見を求められて領民と話しているとどこか咎める目を向けられたことに気付く。

 

 敵意を含む視線。しかしそれだけで何かするでもない。気になったので聞いてみれば──真正面から聞かれるとは思ってなかったのか──しどろもどろな口調ではあったが答えてくれた。

 領民からそれなりに慕われていたエーギル公をいきなり罰した皇帝が怖い。宰相を罷免されるほどの罪があったとは思えない。実質、貴族という立場を没収された公爵様がかわいそう。

 でも皇帝陛下が統治するようになってから何か悪いことが起きたわけじゃなく、むしろ軍の巡回や早天馬のやり取りがあって領内は安定している。戦争中だとは思えないくらい穏やかに過ごせている。なのでエーデルガルトを恨むこともできない。

 しかもそのエーデルガルトが重用しているのがベレトで、平民でも実力次第で取り立てるという話は本当なのか、いやいや彼は士官学校の教師という縁があるからこその采配ではないか、皇帝の新しい方針を五年経った今でも信じ切れない。

 憎む理由と憎み切れない理由で二律背反の感情を抱えた結果があの視線だと。

 エーデルガルトに協力するベレトにも含みのある目を向けた事情を聞けた。

 

 そういった複雑な感情もまとめてエーデルガルトとヒューベルトに報告するベレトだったが、今はその手の声にかかずらう余裕はないとして対応するのは先送りになってしまった。

 無視するつもりはない。今は何よりも戦争の終結を急いているだけで、こういう平民の声もいずれは対応する。

 その時になれば正式に公爵という地位が復権し、その座に就いたフェルディナントがエーギル領を統治していくだろう。

 

 

 

 

 

 このように帝国の各地で、その地方の人々と関わりながら、時には生徒と協力して活動していくベレト。

 その働きは順調で、行く先々で誰かを助けたり帝国の政策を補佐したりと、彼が思う『エーデルガルトが健やかに生きていける世界』に近付いていたのは間違いない。

 相変わらず違和感は消えない。しかし仲間達と力を合わせればきっと実現できる。

 

 ──そう思っていた。

 

 自分一人で何もかも気を配れるわけではない。そんなことは分かっていた。

 だからこそ多くの人の手を借られるように、たくさんの人があの子を助けてくれるように、そのために他人との信頼を育てて縁を結ぼうと奔走した。

 

 実感はあった。

 エーデルガルトを守る意志が示すまま、誰かの助けになりながら、これならあの子を守ることができるという充実感さえ覚えた。

 

 ──全部、間違いだった。

 

 助けにはなれただろう。

 信頼は育てられただろう。

 人々の縁は確かに結ばれた。

 

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 ベレトが違和感の正体に気付いた時には、遅すぎたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはガルグ=マクの清掃作業の途中に起きた。

 帝国と同盟との和平会談、そのほんの少し前のことである。

 

 セイロス騎士団との戦いで人的被害こそ少なかったものの、市街のあちらこちらが壊されることは避けられなかった。すぐにでも直すべく瓦礫の移動や家屋の修繕が急がれた。

 もうすぐ同盟の盟主を招いて和平会談が執り行われるガルグ=マク。大修道院だけでなく、市街の見栄えも少なくない影響がある。殺伐とした雰囲気が漂う場所で和平も何もないだろうし。

 アビスにも呼び掛けるなどして多くの人を動員して修復作業が進められた。

 

 そういう力仕事ならとジェラルト傭兵団も乗り出して作業に加わった。

 瓦礫の撤去。資材の運搬。家屋の修繕。それ以外にも怪我人の面倒を見たり、時には大人数用の料理を作ったり、やることはいくらでもある。

 もちろんベレトも作業に加わった。他の傭兵達と列を成して家の支柱にもなる丸太を一人で数本ずつ運ぶなど周りからの二度見を浴びながら、自分にできる仕事に励んだ。

 

 そうして作業を手伝っていたベレトに近付く人影があったのだ。

 

「聖者様……」

 

 初めは聞き間違いだと思った。

 

「あなた様が……」

「おら達を救ってくださる……」

「ありがたや……ありがたや……」

 

 何人もの人が集まり、祈るように手を合わせてきたのだ。

 まるで聖堂の女神像に祈りを捧げるように。

 

「……どうかされましたか?」

 

 戸惑いながらベレトは足を止めた。偶然にもこの時一人で動いていたので自分だけで対応するしかなく、周りから集まってきた人に囲まれる形になる。

 

「ああ、聖者様。畏れ多くもお礼を申し上げたく、お探しておりました」

「その……聖者様、というのは誰のことですか?」

「何を仰いますか、あなたのことですよベレト様!」

「……え?」

 

 この時ほど呆気に取られたことはなかった。

 

 聖者?

 誰が?

 俺が?

 

 目の前の人が何を言っているか、本気で理解できなかった。

 言われたことを脳が拒む思いをベレトは生まれて初めて経験した。

 

「あなた様がいてくれたから──」

「わたしたちの行く先を守ってくれて──」

「セイロス教の新しいリーダーに──」

 

(……何だ、これ)

 

「またお祈りするようになりまして──」

「うちの子にベレト様のことを教えて──」

「レア様に続く新しい大司教様が──」

 

(……この人達は何を言ってるんだ)

 

「すっげえ珍しい紋章をお持ちだとか──」

「あんたさんがいてくれれば安心だし──」

「こら失礼だぞ。でもあなた様が守ってくださるのが──」

 

(……誰に向けて、何を見て)

 

「どうかわたし達を、フォドラを導いてください──」

「ベレト様──」

「おら達の新しい希望──」

 

 口々に向けられる言葉に追いつかない。

 いくら頭を働かせても空回りしている気しかしない。

 

 それでも、今ここで何を言っても通じないと想像することはできた。

 

「……作業に戻ります」

「ああ、お引き止めして申し訳ありません。お気を付けくださいませ」

 

 踵を返し、彼らから離れるために早足で動く。

 

「本当にありがとうございます──」

「わたし達の救世主様──」

「お慈悲に感謝を──」

「ベレト様──」

「聖者様──」

 

 離れる背中に投げかけられる言葉を声として捉えられない。

 それらが応援を意味するものなのだと理解できても、ベレトにはまるで自分を追い立てる刃のように感じられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 違う。

 これは違う。

 この状況は絶対に違う。

 

(何も変わってない……!)

 

 ベレトの中で思考が止まらない。

 

 これでは五年前の、エーデルガルトが決起する前と状況が変わっていない。

 セイロス教がフォドラの中心になり、紋章を持つ貴族とその後ろ盾になっているセイロス教団が社会を動かす、かつての世界のままだ。

 レアを頂点にした旧教団がベレトを頂点にした新教団に入れ替わっただけで、平民達の意識はほとんど変化がない。

 

 人々の意識はそう簡単に変わらない。そんなことは分かっている。

 それでも動きに合わせて何かしらの変化があっていいはずだ。ベレトだけでなく、エーデルガルト達が五年かけてさんざん働きかけてきたのだから。

 なのに、彼ら平民の価値観は今も同じ。紋章を重んじ、教団の威光ありきの常識が変わっていないではないか。

 

 先ほど集まった人々の視線を思い出す。

 ベレトに向けられる目は確かに好意的だった。しかしそこに乗る感情は親しみや尊敬を通り越して、崇拝の域ではなかっただろうか。

 これではかつてのレアの立ち位置をベレトに挿げ替えただけだ。

 

(さっきのはたまたまそういう人が集まっただけ?)

 

 エーデルガルトの意思が直接叩き込まれたこのガルグ=マクで?

 

(俺が今まで感じた違和感の正体はこれなのか?)

 

 エーデルガルトの意思が広まっていると勘違いしていた?

 

(このまま事が進めばもっとズレていく?)

 

 エーデルガルトではなく自分が中心の社会ができつつある?

 

 ベレトは偉くなりたいなどと思っていない。

 平民から成り上がりたいだとか、人々の中心に立ちたいだとか、そんな野心は一切ない。

 教師としての役目や傭兵団の頭として責任を負う立場だという自覚はあるが、だからと言って自分が彼らの上にいるなどとは欠片も考えていない。

 むしろ、生徒からは逆に学び、仲間にはいつも感謝している。少なくともそういう意識を抱えている。口に出すことは少ないかもしれないが。

 

 当然、王になる意思なんてない。

 ましてや、大司教になる考えなんて頭の片隅にもない。

 

 だというのに、先ほどの彼らの様子を見るとまるでベレトこそがフォドラの中心人物であるかのような扱いではないか。

 エーデルガルトという国を率いる傑物はいる。レアは今も大司教としてセイロス教団の旗本だ。

 それなのに、いつからこうなった。最初からやり方を間違えたのか。

 

 この状況が変わらないままだとどうなる?

 平民の目がエーデルガルトではなくベレトに向いている今、戦争を停めて三国が和平を結んだとして、セイロス教団がどんな扱いになるか。

 かつての教団と敵対しても、セイロス教自体は否定していないと表明したエーデルガルトの政策によって新しい教団が設立されることは予想できる。

 その中心は間違いなくベレトになるだろう。

 

 フォドラの中心的存在となって過剰に崇められていたセイロス教団。五年前から変化がないとすれば、新しい教団になっても同じように支持を集め、権力も戦力も過剰に集まっていくのではないか?

 政治力がないベレトにその流れをコントロールできるとは思えない。自分にできないことはできる人にすぐ頼る主義のベレトではあるが、教団のトップに据えられた身で同じことをやろうとすれば角が立つのではないか?

 皇帝、国王、盟主に力の分散を持ち掛けたとしても、フォドラで一番大きな組織が国の政治に口を挟む構図になりかねない。それはかつての教団と同じ動きをしていることになってしまうのではないか?

 

 紋章の価値を支える教団がかつてと同じように過剰な力を持つ組織になってしまえば、それは同じようにエーデルガルトの野望の妨げになるということ。

 即ち、同じことの繰り返し。

 

(俺が……エーデルガルトの敵になる?)

 

 ゾッとした──それはベレトが初めて覚えた感情。

 

 状況が予期しない方向へ進んでしまうことはよくある。

 一度悪い方へ傾いた戦況がもっと悪くなるのも珍しくない。

 そんな時でもベレトは冷静に立ち回ることができた。

 困難を当たり前のものとして受け止め、改善させようとする思考と力を叩き込まれていたから。

 

 だが、これはもう……どうしようもないのではないか?

 自分には、否、誰であろうとどうにもならない。

 目指していた理想からはかけ離れ、破綻してしまっていることに気付かされる。

 

 この時、ベレトの中に生まれた気持ちを言葉にするなら。

 それは無力感と呼べるもの。

 

 

 

『俺はエーデルガルトを守る。そのためなら何でもする』

 

 

 

 自分の言葉がこれほど虚しいものだと感じたのは初めてのことだった。




閉じる:開いていたもの、部分をふさいでしまう。今まで続いたものを終わりにする。

綴じる:ばらばらのものを一つにする。一つにつづり合わせる。縫いつける。

作者の活動報告に載せた後書き

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