ではどうぞ
────数年が経った。
様々な事が起きた。
ミズノエノリュウ、ゾンネル、エアロヴァイパーなどの新たなタイタンの確認。地球環境を狙う外来生物も度々確認され、しかもその頻度は時間を経るごとに増加しているようにすら見受けられた。
その度にゴジラが、コングが、脅威を屠る。その繰り返し。人類も頑張ったが、果たしてどれほど結果に寄与していたかはゴジラ以外知る由も無い。いつしか外来生物の中でもタイタン級の破壊力をもつ物、それを差し向ける者の存在を“根源的破滅招来体”と呼ぶようになる。確認された外来タイタンの特性には、明らかに恣意的な傾向が散見されるようになったからだ。
“それ”が、とうとう本気を出したらしい。
『■■■ッ……!』
『──、●●!!』
数多の傷を抱えて立つゴジラとコング。彼らを満身創痍にした元凶たる化け物は、身長999mの巨体をその
ギドラ族であってギドラ族ではない。説明すると長くなるが、まずギドラ族の頂点には“カイザーギドラ”という最強種が存在するのだが、その姿および生態を模倣した不定形生命体があった。“デスギドラ”と異世界で呼称されるそれに目をつけた破滅招来体が、ゴジラに阻まれ続ける地球根絶作戦に業を煮やして確保・利用したのだ。
幹部格であるゾグがデスギドラを取り込み、融合。元より絶大な戦闘力へ不死性を加えた、最強の魔獣の誕生である。
第1形態で既にゴジラ・モスラの共同戦線を食い破りかける程の戦闘力だった。コングとシーモの参戦により必死の思いで倒したものの、それを皮切りに現れたのがこの第2形態だ。
既にゴジラの底なしのタフネスすら限界に近付き、コングのアックスも刃こぼれが激しい。モスラの鱗粉も尽きかけ、後方支援に徹していた事で唯一余裕のあるシーモしか威嚇の咆哮を上げられない始末だ。
援軍を呼ぼうにも、地球全土を包んだ蝗害──ドビシの妨害によりアルファコールは阻まれていた。
詰みが近い。ゴジラはこれから起こり得る全てに対し覚悟を決めた。
……自爆。
この怪物を道連れにする。
後の事は女王に、腹立たしいがコングにも託し。かの脅威が浮かれる嘲笑を、この身を以て粉砕すべし。
彼の瞳から、全てを悟ったモスラが止めようとした。コングがその肩を掴み制そうとした。
その様を見て、無駄な事をと、新生ゾグは嘲り続けた。
その笑みが驚愕に掻き消されたのは、一瞬後の事だった。
───
「ミッションネーム:GAIA、発動───!!」
───
変化は突然だった。この地球への攻撃、その全権を統括していた新生ゾグにはすぐに分かった。
世界全土にバラ撒いたドビシが急速にその数を減らしている。何故か──その理由は、地球怪獣の総攻撃だ。
火山より目覚めたラドンが蝗の群れを焼く。纏う炎熱を前にしてはドビシは群がる事もできない。彼が飛んだ軌跡には黒煙と灰が残り、その後には青空が広がっていく。
慌てて集合し、迎撃しようしたカイザードビシを、今度は下からの火球が焼き尽くした。ゾンネルの対空砲火。マグマのバックアップを直に受ける者達の前では、幾ら集まろうと虫ケラは虫ケラに過ぎない。
彼らは生きた生ごみとして、天然の焼却炉へ次々に投じられていくのだった。
一方。密林にて豊富な植物達を食い荒らしていた者達は、その
ベヒモスが成長を促した木々を、アムルックが操る。触手のようにしなり唸る無数の槍が、害虫の群れを貫き薙ぎ払っていく。広大な緑の全てが敵となり、外様であるドビシを排斥していった。
海もまた同じだ。ティアマットおよびスキュラ、粛清された先代から座を引き継いだ二代目が猛威を奮っていた。
ティアマットが高速でトグロを巻けば、それに引きずられた海流が渦を成す。それでも尚高まり続ける速度は過剰な運動エネルギーを与え、結果海を飛び出し空まで届く程の大竜巻を引き起こしたのだ。
それだけなら良い。空を覆うドビシも全滅の憂き目には遭わなかっただろう───スキュラが熱吸収により作った流氷、奔流に揉まれ砕けた氷の刃が竜巻より飛び散らなければ。全方位へ高速で飛散するそれは、瞬く間にドビシを殺し尽くしていく。
ところで、欧州はアルプス山脈。ここではメトシェラがカイザードビシに囲まれ、猛攻に苛まれていた。
元より攻撃に秀でないタイタンとはいえ、何故反撃せずに身体を蝕まれ続けるのか。その答えは、彼の足元に避難した数多動物──周辺国からの避難民も含む──が原因であった。預かった命、種の保全を使命とする彼は、それらを庇うべく動けない。
……しかし、助けは来る。
突如
──何故?アルファコールは遮断した、ゴジラ及びモスラの命令は届いていない。なら、この一斉蜂起は何が原因だ。
破滅招来体を代表して困惑するゾグ。その有様を見て、モニター越しに不敵に笑ったのはマディソンだった。
彼女の手元には、母が遺したパンドラボックス──
「タイタンばかりに気を取られて、人間の通信網を遮断し損ねた。それがアンタの敗因よ」
「とはいえ地上の連絡手段はだいたい全滅させられちゃったけどね。地下空洞サイコー」
「無駄口叩いてないで調整に戻りなさい!ほら、パパから催促の電話よ」
「ひぃっ!」
阻害を逃れたイーウィス族の居住空洞を中心として、世界各地のモナーク基地へ直通回路を開通。ゴジラのアルファコールを模倣し、「全タイタン連携せよ」の旨で大放送を行った……それが、ゾグの意表をついた一斉蜂起の絡繰である。
また地と空を分担するラドン・ゾンネルのタッグ、植物への影響を利用し合えるベヒモスとアムルックのコンビ、大海を味方に付けれるティアマットとスキュラの共闘、“攻”と“防”を分かち合えるミズノエノリュウとメトシェラ。それぞれ相性の良い相手と組むよう誘導したのもモナークの思惑だ。他のタイタン達へも同様にコールし、それがドビシの激減へと明確に繋がっている事は言うまでも無い。
「米・欧州の混成陸空軍、ラドンへの援護を開始!」
「南米連合艦隊がティアマット達の竜巻から逃れたドビシ残党を掃討中っ」
「ベトナム軍が高高度より窒素肥料を大量投下。アムルックが攻勢を強めた模様!!」
「メトシェラ下部にいた民間人の避難ルート、確保されました!!」
「地下よりグレイトエイプの集団が出現!全
「──エマ。ドビシ損耗が規定値を超えた。
「OKパパッ!!」
さぁ最終段階だ。ドビシがその数を戻す前に、決定的な追撃を。
ママ見てて。これが、私の選んだ答えだよ。
その一念を胸に、エマはとある場所へと通信を繋いだ。
「
「……だ、そうだ。チームライトニングはゴジラへの援護に向かい、それ以外のファイターチームは引き続きドビシ掃討を続行せよ。チームマーリンはティアマットとスキュラの戦闘観測、チームハーキュリーはメトシェラに帯同しミズノエノリュウへのサポートを」
「「「「「了解ッ!!!!!」」」」」
大気圏外に座する浮遊基地。そこを本拠地とする、モナークとの連携を前提として新設された軍事部隊───XIGが動き出す。司令官として各部隊へ指示を飛ばした石室は次に、ベース格納庫へと通信を繋いだ。
「フォード特佐。いけるな?」
「了解。カウントダウン開始」
俺の前にはタイタンがいた。祖父母を殺したのと同種の奴が、ドビシ襲来と同時にエリアルベースに収容されていた。まるで抵抗しないその様に、全員で疑問符を浮かべたのはつい1週間前の事。
今から俺がするのは、そいつへの助力。でも……墓の前で、俺は胸を張れるつもりだ。
家族を守る為に。繋いでゆくべき世界を守る為に、俺は誇りと共に立ち上がったんだから。
「
『………ッ』
そっと触れた甲殻は冷たく、だがその下に確かな鼓動。コイツもまた生きているのだと、突きつけられた気がして。
「なぁ、
お前の同族は、父さんから家族を奪ったんだ。
でも父さんは、お前の同族から
……おあいこだなどとは言わない。恨むなとも言わない。
だが、今この時だけは………!
「力を合わせてくれ!
『▲▼▲▼▲!!!』
ニュームートーが月日をかけて進化した、新たな“ムートープライム”。その総身から波動が放たれ、フォード達の身体をすり抜けていった。
気持ちが通じた、なんて幻想は見てないつもりだ。ただ利害とタイミングが合致した、それだけの事。
……それを加味しても。応えるように咆哮してくれた相手に、高揚する気持ちは否定できなかった。
ムートーから放たれた強烈な電磁パルスが、周囲に敷設された資機材によって増幅。地上へ向けて、基地中のありったけの電力を以て数十倍にその規模を拡大される。
受け取るは世界中の電波塔。音叉同士が共鳴するように、伝わった波長に干渉し合い、新たなる発信源となって周囲に波動を伝えた。
その範囲───直径13000キロ。拡散された電磁パルスが地球全土をカバーした、その刹那。
全てのドビシは即死した。
ゾグは呆気に取られた。意味が分からなかった。
ドビシが音波や電波を阻害する性質、それを逆手に取られて逆に干渉された結果、神経系を焼き切られて絶滅する危険性など全く視野に入れていなかったのだ。
羽虫が落ちる、落ちる、落ちる。黒雲となっていた奴らが塵となって消えていき──取り戻された青空を、コング達は眩しそうに見上げたのだった。
『………!!』
呆気に取られたのはゴジラもまた同じ。言う事を聞かなかった配下達が、示し合わせたように取った連携。その効果を受け止め切れず……しかしその肩にモスラが乗った事で、現実への意識を戻す。
取り戻された未来。これを守り抜く、それだけという覚悟の現実へ。
ふとその頭上を、影が過った。
王は全てを理解した。
(貴様か)
これはお前が齎した
「《お願い。コングとゴジラを、助けて》」
「《当然だ。その為にここまで来たんだから》」
「フジミヤ、地核エネルギーの再活性化を感知した。もうすぐ君達にも影響がある筈だ」
「助かるよ、ダニエル」
「ピースキャリーⅡ、後部ハッチ開放!いけます!!」
「「
ジアの願い、そして
ふと、隣の戦友が口を開いた。
「お前がいなければ、俺はここにいる事は無かった」
「えっ?」
「悪い意味じゃない。俺は今、お前とここにいる事を誇りに思っている──感謝している、我夢」
「藤宮、それは───僕だってそうさ!」
瞬間、光電子管を改良した点火装置、“エスプレンダー”および“アグレイター”。その内部に灯されたそれぞれの光が、その輝きを取り戻したのを認める。タイタン達と協力したのも、ドビシ達を殲滅したのも、全てはこの為……地球を呪縛から解放し、その力を解き放つ為だ。
実験を繰り返してきた。ガイアとアグルの光を
その成果を見せる時。誰に?決まってる!
「ゴジラ!!」
見ててくれ。僕達の出した答えを。君が人類を見守ってくれた、その行為に意味があったという証左を!
───翼の無い人間の身で躍り出る空。そこへ臨む僕達を、背後から二つの視線が見送ってくれた気がした。
いってきます、
見届けてくれ、蓮。
『ガイアァァァアアアッ!!!』
『アグルッーーーーーー!!!』
───このまま流れを待っていかれて堪るかと、攻勢に出ようとしたゾグ。左右のその頭頂に突如、“それ”は炸裂した。
まるで地球が
ゾグの双頭は、しめやかに粉砕される事となった。
『ギャアアアアアアアアアアアアギャアアアアアアアアアッ!?!!?!??!』
誰が想像できただろう?つい10分前まで地球の王を足蹴していた魔獣は今、逆にその身体を踏み潰されて大地にのたうち回っている。
その劇的な光景を生み出した巨影、二つ。それは再び舞い上がり、今度はゴジラ達の前にゆっくりと降り立った。
蒼き光を帯びる赫の巨神。
赫き光を纏いし蒼の巨神。
2人の
最早言葉は要らない。人類の言語もタイタンの言語も、頷きに勝らず。
事実、ゴジラは立ち上がった。コングが続き、モスラが羽ばたいた。最後にシーモが揃い、6柱の
この星を永遠に守り、繋いでいく為に。
今、王の咆哮の下に全ての力が揃った。6者それぞれが踏み締めた大地、そこから立ち昇る土煙はまさに地球の祝福だ。
唯一残る中央の首を苦悶に歪め、半狂乱に陥る星の怨敵。それを討つべく彼らは駆け出す。
人が人を。
今それは天と地を結ぶ、ウルトラマンの光となってこの奇跡の共闘を成した。
ならば今こそ言おう。何度でも叫ぼう。
この世界は、滅んだりしない。
「心のマグマが目覚めたら」、これにて完結です。ご愛読くださり誠にありがとうございました。
ガイアよ再び。ゴジラよ永遠に。
構想の時にはガメラやティガも出すつもりだった事は内緒だ!