264 森のめぐみ
◆ 神樹ケイレ・大広間 ◆
神樹は山を越えた先に存在してるから、ただただ越えてくるのが怠かった……。でもラージウスが言うには『こんなにも通りやすい山道はそうそうないぞ』って。手入れとか誰も通らない山の道って荒れ放題になってて、歩ける歩けない以前の問題なんだって。それでも怠かったよ、越えてくるの……。私には残念だけど登山の良さが理解出来ないかも、登山よりもちゃんとした場所で運動したほうが良いよ。
「マリちゃんさん、何を見ていますか? これはなんですか?」
「ん? これか、これはリンネから貰った地図と我の置いてきた機械を連携しているものさ。ほら、この青い点があるだろう? これがさっきトンネルを掘り始めようと目星をつけた始点、今いる場所がこの赤い点、高度差は600メートルと結構あるな。下り道のほうが短い気がしたが、やはり合っていたな。距離は直線で15キロメートルというところか、なるほどかなり長い」
「便利です! 凄いですね、機械は!」
「結構登り、ましたね……」
『この距離のトンネルを作る気か? 方向は間違えないかもしれないが、高低差の計算や掘る距離の長さが面倒過ぎるだろう。他の方法のほうがいいのではないか?』
お? 何、やる前から諦めてるドラゴン居るな? どれ、ちょ~っと煽ってやるか。
「あれあれ、知らないの? ステラヴェルチェに川を引いたのは人間の魔術師なんだよ? それもとんでもない距離、このトンネルなんて足元にも及ばない距離を1人で引いた偉大な魔術師がいるんですけど、ね~?」
「あ! そうですね、いますいます! ふふ~ん♪」
お、ビキビキっと来てる。それでも冷静に一回深呼吸する辺り、こいつやっぱり他のドラゴンと違って理性的だよね。
『…………マスター、本当か? 俺を騙すための嘘を言っているわけじゃないだろうな?』
「あ~……。今も、生きてるよ。元ステラヴェルチェがあった場所にある、バビロニクスのカジノの経営を任されてる、カジノの女王様が引いたんだったかな……」
『な、え……。おい、狼女。お前も今の話知っているか? 本当か?』
「本当だよ~。結構有名な話だねぇ」
お~お~かなり狼狽えてる。おもしろ、他の人にも聞いてるし……。途中で拾ったソノスさんとか、メガ盛りトントロさんにも聞いてるわ。誰もが『本当だよ』『エキドナ様がやったらしいね~』とか言う度にラージウスが狼狽えてるわ。
『…………距離が短いとは言え、だ! こっちは地上ではなく地下! それに比べ物にならない程頑強な地盤もあるだろう! これが掘れたなら俺たちのほうが優れているということだ! それに、人間に出来て俺達に出来ないことはないはずだ!!』
「そうだねぇ~。その前にマリちゃんが出口のポイントを決めるから、それから掘ろうか~?」
『ガリャルドが、この程度あっという間に掘り切るだろうさ! それに崩壊しないよう地盤の強化を俺がやって、後からお前達の……ホソーコージ? とやらをやればいい! 見ていろ、あっという間だからな!!』
『わうっ! (そうだね!)』
『お?! お、おお……。そうだな、そうだとも! わかっているな、お前は!』
「機材設置まで少し待ってくれ。なんせ即席だからな、調整が必要だ」
「はーい。ゆっくりやってね~」
おーおープンスコプンスコして掘る気になってくれたわ~。これならもしかしたら、あっという間にこの神樹ケイレの大広間まで掘り進んで道を作ってくれるかもね~。それにここ、ダンジョンが複数あるし……通うの面倒だからトンネル作ってくれると凄い楽になるなあ~。
「神樹の根本付近にあったダンジョンは【森のめぐみ】だってさ~。レベル制限は75から、木材系の素材収集ダンジョンみたいだよ~。週2回までだってさ」
「大穴の森版ッス! 人柱、なって来たッス!」
「おお~~~」
おお、僕が盾になろうさんが早速あのダンジョンに突入して帰ってきた! なーるほど、あのダンジョンは木材収集系のダンジョンなんだ~。でもそれならなんで推奨レベルが? 木材を収集するだけなら、レベル1からでも良くない?
「モンスターとか出なかったんですか?」
「あっ……そ、それなんッスけど、ちょっと順を追って説明するッス……!」
「ほうほう、なんかあるのね~」
あ~やっぱりなんかあるんだ。このゲッソリ具合、相当な何かが潜んでますよあのダンジョンには……。
「まず、ダンジョン内はこの神樹の大広間とそっくりのパラレルワールドッス! それで――――」
ふむふむ、なるほど……。僕が盾になろうさんの話によれば【森のめぐみ】ダンジョンの内容は
【基本ルール】
・最大4人で入場可能、特に制限はないらしい
・スタート地点は入場した場所と同じ地点で、パラレルワールド的な場所
・出口もスタート地点と同じで、いつでも退場することが可能
・基本的には落ちている木材はどれだけ持ち帰ってもオーケー
・スタート地点に宝箱が設置されていて、一回のみ宝箱にアクセス出来て倉庫を呼び出せる
・この倉庫に木材を詰め込んでもう一度拾いに行ってもオーケー
【夜】
・盾になろうさんが異変に気がついたのはここ辺りから。時間の経過が物凄く早いらしい
・最初は朝スタートで、夜になると雰囲気が一転。とても不気味な霧が立ち込める
・霧の中から突然モンスターが襲撃してくるようになる。このモンスターはレベル75ぐらいの動物や昆虫系のモンスターが出る
・モンスターと戦い続け、夜が明けて霧が晴れるとモンスターが居なくなる。また採取が出来るようになる
【次の日】
・落ちている木材の質が上昇、中には名前付きの木材【★★木片・マディア】なども少量だがあった
・ふと思い立って夜明けから日没までを測定、およそ10分で日が落ちるらしい
・再び夜、霧が立ち込めモンスター襲来。この時のモンスターはレベル120、かなり強くなっている
・およそ5分戦うと夜明け。ここで盾になろうさんは次の昼間に帰ることを決意
【3日目】
・落ちている木材の中に【◆神木・ケイレ】を発見、一つだけ回収出来た
・持ち帰るのに宝箱と思ったが、宝箱のアクセス権が回復していないので手持ちに
・まさかの先程よりも日没が早く、5分ぐらいで日没。モンスター襲来時間になってしまう
・遠くに見えたモンスターに遠距離攻撃を仕掛けたところ、レベル180と表示。接近される前に脱出して終了した
「多分ッスけど、最終日は霧が晴れずに夜のまま採取しないとならないかもしれないッス……」
「まあそこは見てないからまだわからないのね~。でも確実に4日目はヤバいよね~」
「うわ~……でも、神木が手に入ったんですね!」
「そうッス! いやでも、これが後何千必要なのか……」
良い木材が欲しければ、強いモンスターの襲撃を潜り抜けて頑張って採取しろってことなのね。ん、でもさ? パラレルワールドなら神樹自体をこう、切り出しちゃえばいいんじゃないの? 取り放題じゃん!
「神樹から直接頂戴すればいいのでは?」
「…………」
『お前……それは……ダメだろう……』
「パラレルワールドだし、本物傷めないんだから大丈夫じゃない?」
『誰もこいつに常識を教えなかったのか? どうなってるんだ?』
「や、でも、アリ……かもしれない……けど……」
「どんなペナルティがあるか、わからないですよ……」
そうかなぁ? でも一番手っ取り早く入手出来るじゃん。それも大量に! ちょっとリトルブラックホールでなぎ倒して、どん太に切り出して貰って大量入手してみよう? 多分行けるって!
「ちょっとやってみようよ。気になるじゃん」
「ええ~~~……!?」
『わうぅ~~??』
『ど、どうなっても知らんぞ、貴様……』
「マリちゃんは機材設置があるから……じゃあどん太! リアちゃん! ゼオちゃん! 行こうっ!! マリちゃんの飛空艇の材料を取りに行くんだーっ!」
「ん? 良く聞いていなかったが、材料を取りに行くのか? 頑張ってきてくれ、こっちはまだかかる」
『マリアンヌをパーティから外しました』
「よぉーし、いってみよーっ!」
「わあ、挑戦的! 行きましょう、ね!」
チャレンジ精神は大事だよ? やって見る価値はあるよ! さーさーそんな嫌そうな顔をしないで、いきますよーっ!!
◆ 森のめぐみ ◆
『エリアメッセージ:穏やかな日差しが大広間を照らしています……』
「ダーリ、トゥム! ダーリッッッ! クァトリッテ!!!」
『(わ~~もうっ! しらな~~いっ!!)』
『古代神術【暗黒子猫】をMP621万を消費して発動します』
神 木 寄 越 せ ~ っ ! ! !
『【暗黒子猫】が何もかもを消し去る破壊空間に変化します!!!』
『クリティカル! 神樹ケイレに3,550,700Kダメージを与えました! 神樹ケイレが倒れます!!!』
『ワオォォォオオ~~~ン!!!! (絶対ヤバいよ~~~!!!!!)』
「凄い凄い! 倒れる!!!」
「いけどん太! 神木切り出せ~!」
『ガゥゥゥ~~~!!! (もうどうにでもなれ~~!!)』
ほら、こうなれば大量の神木ゲットよ! このためにアイテムインベントリをすっからかんにして、280キログラム入れて更に280キログラム持って帰れるようにして来たんだから!
『どん太が【徹底斬滅三連】を発動、神樹ケイレが切り刻まれました』
「おおおお~~~!!! 木材いっぱい!! ほら、ほら!!」
「いっぱい持って帰る、出来ます!」
『【◆神木・ケイレ】を入手しました』
『【◆神木・ケイレ】を入手しました』
ふっふっふ……!! ほ~ら、こうやって手に入れればなんてことはない、大量ゲットじゃない! 素晴らしい、流石森のめぐみ……。想像以上にボーナスダンジョンかもしれないわ!!!
『警報:神樹ケイレの死により封印から解き放たれ、虚空なる者が出現しました!!!』
あ、嘘。前言撤回。絶対ヤバいの出てきたわ、こういう時は殺られる前に殺るのが鉄則! 見習っていこうペルちゃんの精神!!!
「ダーリ、トゥム! ダーリッッッ! クァトリッテ!!!」
『(わ~~絶対ヤバいですよ、喧嘩売るんですかっ!?)』
『古代神術【暗黒子猫】をMP621万を消費して発動します』
『超越者に、同族も、油断ならぬ』
『きゅぅ、きゅぅぅん~~! (逃げようよぉ~~!!)』
「凄く強そう!! アハハハハハハ!!!!」
『小さい猫? 知らぬ術だが……?』
随分と余裕そうじゃん、封印から解き放たれたばっかりで寝ぼけてる? じゃあそのままおはようございますじゃなくって、二度寝のおやすみなさいになっといてよね!!!
『!!!!!』
『【暗黒子猫】が何もかもを消し去る破壊空間に変化します!!!』
『Weak!!! 特効! クリティカル! 虚空なる者に539,805Kダメージを与えました! 右腕を消し飛ばしました!』
『神樹ケイレが大きく損傷しました!』
『ァ……ァアア!!!??』
「お前もしかして――――【自主規制】メルティス側か? 殺す。絶対殺す」
『クァアアア!!! おのれ小娘!!!! 女神を、メルティスを……許せん!!!!』
あ――――この一発で逃げようかと思ったけど、気が変わった。こいつ、殺さないと。この見た目でメルティス側の奴だよ、聖属性で古代種の天使か神。絶対殺さないと。
『起爆せよ、神炎よ! カァアアア!!!』
『虚空なる者が【エクスプロージョン】を発動しました』
『ゼオが【魔盾・戦姫】を構え、パーティ全員を庇う状態になりました』
「伏せて!!!」
『ゼオが攻撃を無効化しました。【ペネトレイト・145】』
ゼオちゃんの魔盾が55削れた、古代神術にしては意外と威力がない。こいつ――――もしかしてラージウスとガリャルドより、弱い? 反撃として使う技としては最悪も最悪、相手の状況がわからなくなるような爆炎を発生させたら次の攻撃のしようがないじゃない。
『(どん太、回り込んで脅かせ! 素早く! こいつ意外と弱いかもしれない!)』
『(絶対弱くないですっ!!!)』
『(弱いの基準がおかしいよ~~!!)』
『(文句言わない! こいつは絶対殺す!)』
『(わうぅぅ~~!!!)』
『どうだァ!!!! くたばったか小娘!!!!』
この爆炎の中、どん太を回り込ませて私達も攻撃の準備をする。どっちかに気を取られて中途半端な行動をしたら――――その瞬間が、お前の強制就寝時間だ!!!
「ゼオちゃん、やり投げ!」
「んっ!!!」
『ゼオが【魔槍・獣狩】に変更、チャージを開始します』
「穿け、交差する槍撃よ」
『古代神術【ピアリス・クルス・スペアル】をMP80万を消費し発動します』
『どん太が【パワーボンバー】発動スタンバイ!』
『ハァアア――!!!?』
え? パワーボンバー?! いつの間に覚えたのそんなスキル!? カレンちゃんが使ってた、地面叩いてどっかーーーーーん!!! って奴じゃん、ばんじゃーいって前足上げてて可愛い! あ!! アイツどん太の方が迫力あるからって、どん太の方に釣られた!!! やっぱりこいつ――――見る目がないねえ。
『どん太が【パワーボンバー】の発動をキャンセルしました』
『!!????』
『ガゥゥ!!! (上手く行ったよ!!!)』
「もう一度寝てろ!!!」
『Weak!!! 特効! クリティカル! 虚空なる者に102,150Kダメージを与えました。【古代の呪い】状態になり、ステータスが激減しました』
ここまでの流れがアイツの演技じゃないなら、このダメージが嘘でないなら、効いてる! とんでもなく強い相手かと思ったけど、ラージウスとかガリャルドとか、カレンちゃんとか偽カーミラと比べると――――どうにかなる部類だ、こいつ!
『ァ、ガ……!?』
「これも、くらえー!」
『ゼオが【属性:闇】、【フルチャージ・スナイパーランス】を発動、Weak!!! クリティカル! 虚空なる者に439,550Kダメージを与え、撃破しました! 経験値 2,000,000,000 獲得 (各種ボーナス適用上限)』
『【死体安置所・1】に【虚空なる者】を納棺しました』
『エリアメッセージ:森の異常性が消滅しました。ご自由に採取してください』
『(え、やっつけたんですか……? え? 本当に? 本当にやっちゃったんですか!?)』
え、うん。あれ? やっつけたにはやっつけたし、HPメッチャクチャ多いはずなんだけど、だってえーっと? あ、ガリャルドとラージウスの降参ラインの半分もないわ。やっぱりこいつ、あまり大したことないやつだったのでは?
モンスター図鑑には【虚空なる者】と【HP:999,999,999】しか書かれてないなぁ~……。うみのどーくつはなんか、ちゃんと情報がしっかり掲載されたんだけどなぁ~。そういえばあれ以降しっかり情報が掲載されたのってドレイクとかマテオとかミズチとか辺りで、いきなり戦った地獄パーティのボスとかは載ってなかった――――あれ~? ワーロックとか戦闘後載ってなかったのに、今は載ってる? なんで?
「こいつなんだったんだろ、本物の神樹にも封印されてるのかな?」
「多分? 本物、比べ物にならない、強いですか? わからない、手応え弱いです!」
『わうぅぅ~…… (臭いは、覚えたけど~……)』
「あ、じゃあ帰ったら臭い判別してもらおっか。それじゃ神樹を――――あ」
『(お姉ちゃんさっき派手にもう一発当てちゃったから、あんまりいいところ残ってないですよ~?)』
お~う……。それより、倒した神樹に更にリトルブラックキャットぶち当てちゃったせいで、あんまり良い部位が残ってないねえ……。なんてことをしてくれたのよ~……。ぐわぁぁぁぁ~~……!!!
「とりあえず、良さげなところだけ切り出して行こうよ……」
「手伝う! どんちゃっちゃ、競争!」
『わうわぅわぅわぅ!? (どんちゃっちゃ!?)』
「あ、違う! えっと、どんちゃう?」
「どんちゃんかな」
「どんちゃ!」
「ん、なんか混ざったねえ……でも可愛いからいっか……」
『わうぅ!? (ええ、それでいいのぉ!?)』
「どんちゃ、競争だよ!」
それじゃあゼオちゃとどんちゃ、神樹の良いところを切り出しちゃって頂戴!! はい、よ~~い、どん!!