ミセスMVに識者「悪意なくても差別」 透ける「名誉白人」の意識

聞き手・大内悟史

 ロックバンドのMrs.GREEN APPLEが12日に公開した新曲「コロンブス」のミュージックビデオ(MV)について、所属レコード会社のユニバーサルミュージックが13日、「歴史や文化的な背景への理解に欠ける表現が含まれていた」として、動画の公開を止めた。

 MVはメンバー3人がコロンブス、ナポレオン、ベートーベンとみられる人物にそれぞれ扮し、ある島で類人猿たちと遭遇するという設定。メンバーが人力車を引かせたり、西洋音楽や乗馬を教えたりする場面などがあり、植民地主義を想起させるなどとSNSなどで批判が飛び交った。

 社会学者で米国の人種問題に詳しい同志社大教授の南川文里(ふみのり)さんに今回の映像表現がはらむ問題点について聞いた。

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 映像を見て、全体に人種差別の問題や歴史認識の面で配慮を欠いた、不適切な映像表現だとの印象を持った。非西洋世界への植民地主義を背景とした抑圧、征服、人種差別を肯定する表現だと受け取られかねない。

 第一に、この曲の主人公コロンブスは、いわゆる大航海時代のスペインの探検家で、一般には「新大陸を発見した英雄」というイメージが流布しているが、今日では、ヨーロッパの人々によるアメリカ大陸への入植と植民地支配、とくに先住民の征服や虐殺を象徴する存在とされている。米国などではコロンブスによる1492年の「新大陸発見」500年を迎えた1990年代ごろから、先住民の視点をふまえたコロンブスの評価の見直しが進んでいる。今日では負の評価を避けられない人物を英雄のように描いている点で、映像には問題がある。

 第二に、島に暮らすサルないし類人猿に対して外からやってきた人物が乗馬や音楽を教えるという映像上のストーリー展開も、明らかに欧州の植民地支配を想起させる。主人公コロンブスとナポレオンやベートーベンとおぼしき3人の登場人物は、いずれも西洋文明の優位を前提としている。映像のなかでは白人3人は常に「教える側」であり、サルないし類人猿は「教わる側」として描かれている。

 第三に、島に住む存在をサルないし類人猿として描くこと自体が、人種差別表現と言える。たとえば、「バナナを手にするサル」という表現は典型的な黒人差別であるし、「車を引くサル」の姿は明らかに「奴隷」を想起させる。映像の作り手の側に悪意がなかったとしても、端的に人種差別的メッセージを含んだ表現だと見られてもしかたがない。

 最後に、日本のアーティストが「白人」の偉人にふんするかたちで、以上のような差別的な表現を繰り返したことも問題だ。自分たちを「名誉白人」であるかのように植民者の側に位置づけ、先住民を含む非西洋人を見下すような態度が見て取れる。そこには、日本も関わってきた植民地主義や人種差別の歴史を軽視する動向が反映されているのではないか。

 このような映像表現はパーティーを楽しむためのネタだ、主人公たちやサルたちがその場で楽しさを共有できていればいいじゃないか、というような反応があるかもしれないが、そうした感覚は、島に入植する側の一方的な言い分に過ぎない。たとえ入植する側と入植される側の間に一定の共感や相互の交流があるように描かれていたとしても、支配と被支配の構造と歴史をあまりにも無視した表現を容認することはできない。

 米国だけでなくパレスチナへのユダヤ人入植や北海道開拓といった「入植」の問題は、セトラー・コロニアリズム(入植者植民地主義)と呼ばれ、歴史的問題でありかつ現代の問題としてさかんに議論されている。人種差別を批判するブラック・ライブズ・マター(BLM)運動などの米国の最新動向を把握しているはずの音楽会社やスポンサー企業によるチェック機能が働かなかった点も問題だろう。(聞き手・大内悟史)

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