245 防衛
◆ 龍骨平原 ◆
――――聞いてた話と違う。
『頭を低く! 同じ動きをするなァ!! 立ち止まるんじゃァねェ!!!』
『ガァアアア!!』
『族長ぉ~!! ソンゴがやられたぁ!!』
『引き摺って後退しろォ!! あの東門を燃やしてぶっ壊せば俺達の勝ちだァ!!!』
あれが、死灰丸……!? 全身に炎を纏ってる赤髪の奴、あれで間違いないよね!? なんか聞いてた話と、違うッッッ!!!???
「なんかアイツ頭良くない!?」
『ちょ、ちょっと良くなってる気がする!』
ラーラさんが動揺するレベルで頭良くなってるじゃん! 絶対頭良くなってるのちょっとじゃないよ! うわぁあああん誰よアレが短気でアホで馬鹿で一直線にしか来ない脳筋とか言ったの~~!!
『ッ! アイツかァ! てめえら!! あの黒服の胸がデケえのが導師リンネだァ!!! 油断すんなァ!!!』
「え、バレてる」
「完全に警戒されておられますね」
『わう~……』
『(わぁ~! 敵さんに一目置かれてますね!)』
しかも向こうに完全にマークされてるし。デロナ戦でやっぱりある程度情報が漏れてるなあ……。それにしても私の判別方法が服が黒いと胸がでかいの二点だけって、やっぱりこいつアホなんじゃ――――いや、警戒する脳みそがある時点でそれはないね。
「これは遠距離の迎撃だけで追い払うのは無理かな。じゃあ、次の作戦に移行で。どん太、合図」
『ワォォォォオオオオーーーン!!!』
『(リンネ、門を閉めるぞ。十分気をつけ――――速いなこいつら!)』
これは処理しきれない。人型になって器用に避けたり、狼型になって素早く避けたりを上手く切り替えられると、射撃も魔術も完全に当たった! ってのが無くて困る。別にテレポートしたりダイブしたりしてるわけじゃないから罠スキルも効かないし、むしろアンチダイブが私の戦闘の邪魔になるから使って欲しくないところがある。とりあえず後方支援のマリちゃん達に完全に籠城する構えを取って貰おう。私達は……意外に頭が良くなって困ってる死灰丸かな……。
「行くよ」
『ワゥゥ!!!』
『来いよラーラァ!!! どっちが本物の狼か、本物の強さか、証明してやるぜェ!!! てめえらは門を潰せェ!!!』
『波動障壁、解除するからね!』
『波動のラーラが【波動障壁】を解除しました』
ん~~……本当はラーラさんに東門の守護に回って欲しいんだけど、死灰丸は因縁の相手らしいんだよね。後ろは皆に何とかして貰えると信じて、死灰丸に集中しよう。幸い向こうも私達に狙いを絞ってきてるみたいだし。こっちを無視して門を潰しに行ったらヤバいって判断できる辺り、やっぱり事前に聞いてた頭の悪さとは違うね。よし、接敵……! 門からはだいぶ離れた。この場所なら味方に流れ弾が行くこともないはず!
『久しぶりだなァ……! 一人じゃ勝てねえからお友達も一緒かァ? ははははは!!! 腰抜けがァ!!!!』
『一人じゃこの門を潰せないから全員連れてきたくせに、腰抜け!』
『ンだァ!!!???』
来る!!
『死灰丸(Lv,????)が【炎滅双波】を発動しました』
『ガァ!!!』
『どん太が【斬滅双波】を発動、相殺! 【炎滅双波】と威力が同等です!』
『ただのデカブツじゃねェようだ……なァッッッ!!!』
『死灰丸(Lv,????)が【炎迅脚】を発動しました』
「速い――!」
『(リンネ様、右から来るよ!!!)』
「ッッ!!!」
『遅ェ!!!!』
ヤバい、これが近接職の戦闘スピード……!! ティアちゃん憑依で私も近接職化したほうが強いと思ってやってたけど、これは足を引っ張るかも……! 当たる、いや……かするだけなら……!!
『姫千代が【紫電脚】【牙突紫電】を発動しました』
『ラーラが【波動放】を発動しました』
『――――うおっと、あぶねェあぶねェ……』
「ッチ……!」
『気をつけて! 高速戦闘に集中して!』
「わ、わかった!」
千代ちゃん達に助けられた、音速までは行かないにしても……さ。常人には目で追えないぐらいのスピードだよ? こんなギリギリ目で追えるか追えないかみたいなやつ相手にしなきゃいけないの? ヤバいでしょ難易度これ。
『(リンネ、ダメだ! カスリもしない! このままじゃ――――あ!!)』
え、マリちゃん!? マリちゃんどうしたの!? ん、死灰丸がこっち見てる……来る。二度は、同じヘマはしないよ。
『エリアメッセージ:プレイヤー【つくね】が炎狼族副長・斬左丸を撃退! 斬左丸撤退!』
『エリアメッセージ:加賀利城東門防衛メンバーの士気向上! 全ステータスが向上しました!』
『(こっちは大丈夫だ! すまない!)』
『よそ見してる場合かァ!!! 舐めやがってェ!!!!』
なるほど、向こうはつくねちゃんが東門防衛に入ったんだ! 完全奇襲のアイスブレスとかその辺でもぶちかましたかな、死灰丸には水属性が効かなくても部下には効くか。さて、死灰丸の炎迅脚……。さっきは慌てて回避行動が取れなかったけど、良く考えたらだよ? 私は今ティアちゃんを憑依させてる近距離スピード型、さっきは目が慣れてなかったから目で追えるかどうかだったけどさ。しっかり集中して、スピード勝負に警戒してれば、割と行けるんじゃないかなって。
『死灰丸(Lv,????)が【炎滅双波】【炎迅脚】【炎狼身弾】を発動しました』
「っく……!?」
『あっ!!』
先に千代ちゃんとラーラちゃんに牽制してから完全に私狙いで突撃。よっぽど東門を気にしてよそ見したのが気に食わなかったらしいね。相手の視野の斜め方向を取るようにジグザグに突進してくる。やっぱりラーラちゃんに聞いた話よりも相当に頭が良くなってるし、戦術レベルも高い。
『(どん太、横っ腹を叩いて! 私が隙を作る!)』
でも冷静になって見てみればだよ?
「う、う、穿て!! カーススピア!!」
『【カーススピア】を発動、MISS……。対象が存在しません』
『遅え遅え!!! その程度じゃカスリも――』
焦ってるフリをして、こうやって行って欲しくない方向にカーススピアを撃っておいて誘導するでしょ?
『【カースストライク】を発動しました』
『何ッ!?』
こうして引っかかって正面衝突コースを取れさえすれば、私にでも当てられるんだなぁ!!! MPを消費すればするだけ重くなる一撃必殺のカースストライク、それに!!
『術師のくせに、つ、突っ込んで――――!?』
「眠れぬ不死者達よ、我等の力となれ!」
『【ネクロフォース】を発動、ステータス+150・被ダメ時無敵3秒・HP20%回復・状態異常回復が発動しました』
さあ覚悟は出来たか!? さっきまで簡単に倒せると思ってた術師相手の必殺コンボ、無敵押し付け相殺拒否アタックをくらえーーー!!!
『無敵発動! 死灰丸(Lv,????)からダメージを受けませんでした』
『クリティカル!! 死灰丸(Lv,????)に11,250Kダメージを与えました』
『は――――ッガァ……!? クソァアアアアア!!!!!!!』
『死灰丸(Lv,????)が【炎滅咆】を発動、無敵発動! パーティ全員がダメージを受けませんでした』
通った! しかし立て直しが早いな、即座に範囲攻撃で無敵潰してくる辺りがムカつくわ! でも私にふっとばされた先、ちゃんと見てないで足を止めての範囲攻撃を選択したのは失敗だったねぇ!!
『ガゥ!!!』
『あァ!!?』
『どん太が【阿修羅連撃】を発動しました』
『【爆滅二段掌】、クリティカル! 死灰丸(Lv,????)に6,880Kダメージを与えました』
『2COMBO! 【剛破掌】、クリティカル! 死灰丸(Lv,????)に7,750Kダメージを与えました』
『3COMBO! 【超究極修羅魔狼拳】、黄金の右足が炸裂! クリティカル! 死灰丸(Lv,????)に16,665Kダメージを与えました』
『――――ッガアアアアアアアアア!!!!!!』
『死灰丸(Lv,????)が【超究極炎滅剛破脚】を発動! クリティカル! どん太が18,788Kダメージを受けました! ド根性!!! どん太がHP50%状態で耐えました!』
『ガァゥゥゥウウ……!! (つよい……!!)』
あの直撃を受けて、超大技で反撃……!? やる、でも……!!
「おっらぁ!!!」
『なめ、んなァ!!!』
『【カースウェイブ】を発動、MISS……。対象が存在しません』
私の範囲波動攻撃、カースウェイブは外した! 想定内!!
『ハアアアアアアアアアアッッッッッッッ!!!!!!!』
『ックソ!! ガァアアアアアァァァァァァ!!!!』
『ラーラが【猛龍葬滅波】を発動、死灰丸(Lv,????)が【炎滅大絶咆】を発動、相殺!』
ラーラさんの波動攻撃も止められた! でもまだ想定内!!! さあ足が、止まった!!!!!
「――――覚悟ッッッッ!!!!」
『――――!!!!』
『姫千代が【零姫式抜刀術奥義:祓魔居合斬】を発動しました』
届く――――――ッッッッ!!!!????
『妖狸大将軍・ぽこんこ(Lv,????)が【妖狸術参式・空蝉】を発動、姫千代の攻撃が無効化されました。死灰丸(Lv,????)が特定の地点に転移しました』
なん……だって……?!
『っぶねェ……! 命拾いしたぜェ……!!』
『おいおい、門も燃やせないわ負けそうになってるわ、暴れたいって言ってたから行かせた割には散々じゃないか~』
『こいつら、ただもんじゃねェ!!』
『そうだねぇ? 知ってる知ってる。今見てた』
「リンネ殿、下がって……。只者ではありませぬ」
『ワ、ワゥ……!』
『ヤバイよ、絶対……!』
『(わ……。すごく、怖いです……)』
こいつが、ぽこんこ……! 千代ちゃんママを裏切って、加賀利の国を攻め落とそうとした……妖狸!!! 名前こそふざけてるけど、デロナと死灰丸に比べて……格が違う!!!
『僕も出て来たくなかったんだけど、死灰丸が死にそうだから見てられなくってねぇ~……。君が、リンネちゃん? 凄いねえ、君からヤバい雰囲気をバシバシ感じるよぉ~~……ゾクゾクしちゃうなぁ~……。ああぁ……今すぐここで、刀を抜きたいなぁ…………ああっとダメダメ、まだ早いからさ、また今度ね? 僕たち暫く、そうだなぁ~かなり打撃を受けたし……。明後日の夜ぐらいまでかなぁ? 攻め込むのやめとくから。どうかな? ここは逃してくれないかなぁ~?』
正直ここでこいつを落とせたらこの戦が大きく、いや完全にこっち有利に傾く……。でも、これはヤバい。本気のカヨコさんを見た後だからわかる、絶対に勝てない……。刺し違える形でなら死灰丸ぐらいは落とせるかもしれないけど、私達はともかくラーラさんがやられる……。ネームドNPCは一度やられると大きく弱体化、最悪ロストする可能性もあるって本陣にあったこの戦の注意書きに書いてあったし……。強く出られない。
『それともここで、僕とやり合う? 死灰丸を失うのは辛いけど、君たちぐらいならなんとか倒せそうだねえ……』
「…………撤退」
「リンネ殿……承知、しました」
『ワウ…… (それが良いと思う……)』
『死灰丸、次あった時がお前の最期だ……!!』
『抜かせ……っがはァ……!! っけ、今日のところは、退いてやる……げほっ……!』
『いい選択だと思うよ、悪くない。それじゃあね~』
『妖狸大将軍・ぽこんこ(Lv,????)が【妖狸術十二式・泥乱破】を発動、ぽこんこ・死灰丸が撤退しました……』
『エリアメッセージ:プレイヤーパーティ【リンネのパーティ】が死灰丸を撃退! 死灰丸が撤退しました!』
『エリアメッセージ:炎狼族大打撃! 炎狼族撤退!』
『エリアメッセージ:黒死天狗族大打撃! 黒死天狗族撤退!』
『エリアメッセージ:【防衛戦・東門初戦】に圧勝しました!』
圧勝、ねえ……。とても圧勝とは言い難いかな、ぽこんこを見た後だと余計に。アレに勝つには、どうすればいいもんかな……。それに、明後日の夜までは攻めて来ない、か~。まあ今日の明日で攻め込めるような状況じゃないだろうしね、向こうも。さっき出てたホウエン瀕死、撤退ってのも合わせると向こうは実質2人落ち、部隊も割と壊滅状態となれば立て直しに掛かるだろうし。逆にこっちから攻め込んでも良い状況なんだけど、アレはヤバいわ。この状態じゃぽこんこに全滅させられる気がするわ。
「帰ってこっちも準備、全員の強化をしないと……。このままじゃ、勝てない」
「…………戻りましょう」
『わぅぅん……』
『(帰ってまた作戦タイムですね!)』
『……帰ろっ!! 戻って修行!』
これは、戻って修行タイムだね。それにもう夜の11時よ? 頑張りすぎだって、辛いって……。あ!!! いやぁ~これ、本戦までに終わるかな~??!! 終わらせないと私、本戦出られないんじゃないのこれ~!? 明日はメルティシアが攻め込んでくるし、うわ~~来る時期完全に間違ってるよ~~!! なんでこんな予定が大渋滞するのよ~~!!! うがぁ~~…………。