法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『地球防衛隊X』というSFピカレスク漫画で、主人公が国家の未来のためにと「老害」を最終処理しはじめる根幹に矛盾があることが意図的かどうか気になる

 マガポケの作品紹介文に「真の愛国心を問う、令和のピカレスクロマン」とあるので、一応は主人公が善良ではないことは作者や編集も自覚的なのだろう。
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 第1話で主人公が宇宙人へ銃を向ける場面の旭日旗のような背景や、宇宙人と戦うための武器のレトロSFのようなデザインなど、笑いを意図しただろう描写はたしかに多い。
 しかし「鏡屋譲二@squaremania」氏のように主人公の思想に問題があることがどこまで明確で、どのような問題なのか作り手が自覚的かというと、かなり解釈が難しいと思う。


『地球防衛隊X』読んだ。これは割と最初っから主人公たちの思想がヤバいものであることをわかりやすく描いてると思う。個人的にはもっとわかりにくくして騙して欲しいけど今はこれが限界か。『寄生獣』+『DEATH NOTE』って感じで色んなバランスの舵取りが上手く行けば結構面白くなりそう

 たとえば「Tsubasa Mochida@tbsmcd」氏が指摘しているように、極秘の政府機関にしては隠す気がなさすぎる描写など、主人公と関係のないところで稚拙に感じる描写も多い。


『地球防衛隊X』とかいう浅薄な愛国心マンガの中身がクソなのは前提として、この2つのコマに矛盾を感じないのは社会人としてヤバそう

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 細部の現実味だけでなく、根幹にも読んでいて気になるところがある。第2話で老人へ手厚い福祉をおこなっているとして主人公は総理大臣を殺そうとするわけだが。
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 そもそも第1話で主人公が宇宙人と手をくむにいたったのは、祖父の介護のため大学進学をあきらめた隣人女性に主人公が再会して、その老人を殺そうとする宇宙人の主張に主人公が最終的に同意したためだ。
 漫画のなかの日本は実態と違って老人に手厚い福祉がおこなわれているのだと善解しようにも、実際の老人は福祉の恩恵にあずかれず家族個人に負担をかけていることが主人公の視点からも明らかなのだ。
 主人公が明らかな矛盾にも気づかないような愚物という描写なのか、ミクロでもマクロでも老人を切り捨てたくなる感情を喚起しようとして矛盾に気づかなかったのか、第2話までだけでは判断できない。意図的に根幹に矛盾をしのばせたなら別キャラクターの視点から指摘するようなエクスキューズを入れそうなものだし、どちらかといえば作者が矛盾を気にしなかったように感じられる。


 同じ宇宙人視点で地球人を冷徹に観察する漫画でも、たとえば短編漫画『征地球論』では、子供と大人がたがいを劣っていると考える描写を交互に入れて、けして正論ではないことを明示していた。

 そして子供と大人の世代間の自認を宇宙人が安易に信じることで、地球制服の議論が安易に左右されるというギャグ展開につなげていた。その多様な視点による安心感と風刺性が、いまのところ『地球防衛隊X』にはない。最終的に主人公の思想を根幹から否定するにしても、現実に賛同している読者を切り捨てるエクスキューズが足りない。
 先述のツイートで比較されている漫画『DEATH NOTE』も、主人公の私刑思想に賛同する読者が多かったが、主人公の行為は軽い気持ちで殺害してしまった事故の正当化という背景が発端の描写で明らかだったし、くりかえし善良なキャラクターによって私刑を否定させた。同時に、女性は基本的に男性に従属する存在という描写は、エクスキューズがないまま終わった。皮肉に感じられる描写は自覚的なのか無自覚なのか要素ごとにことなるし、読者が断定することは難しい。