しかし、'11年に、いまの役職である施設課課長補佐に異動することになる。
「公安刑事にとっては、『外された』と思っても仕方がない人事。施設課にいる間に精神的に病んだという噂もあります」(県警関係者)
ジャーナリストの大谷昭宏氏は言う。
「もちろん施設課課長補佐は悪い役職ではないのですが、警察官ではなく一般の会社員でも務まる仕事だとは言えます。それで、不満を溜め込んでいったのかもしれない。
だからといって業務と私生活をごっちゃにして、人の秘密を覗くことが許されるわけではない。今回の事件は、公安警察特有の『捜査対象には秘密裡に何をしてもかまわない』という感覚を、一般社会にも持ち込んでしまったのではないか。このような悪質なケースはきちんと対処すべきなのに、結局は逮捕しないで書類送検で済ませるのでしょう。そういった姿勢が公安をつけあがらせるんです」
公安はストーカーと同じ
公安は尾行や身辺調査など潜行捜査のプロフェッショナルだ。鍛えた技術を使えば、ストーキングなどお手の物とも言える。『日本の公安警察』などの著書があるジャーナリストの青木理氏は次のように語る。
「左翼やカルト団体などを監視するとき、公安はまず協力者という名のスパイをつくるのが常套手段です。そのための方法はいろいろあるのですが、『基礎調査』から始めるのが普通。仕事は何で、交友状況がどうで、男女関係や酒癖、借金の状況などを調べ上げる。自宅前を張って尾行したり、住民票などを入手して徹底的に調査します。
言うなれば、公安の仕事は基本的にストーカーと同じ。今回のケースでも同じことをしている恐れはあり、もし職務権限を使っていれば、問題の根は深いと思います」
女性のことを気に入っていた高井は調査の基本中の基本、尾行をしてまずは住所をつきとめたはずだ。そして次に行うのは張り込みである。家族と同居しているのか。恋人はいるのか、毎日の出勤、帰宅時刻はどれくらいなのか……。
「施設課は内勤なので、日中の張り込みはできないでしょうが、出勤前の早朝に彼女の家に立ち寄っていた可能性は十分にある」(前出・県警関係者)
さらに不気味なのは、捜査員がその気になれば、住民票や戸籍などの公的資料も入手できることだ。もちろん捜査目的以外でそれらを取得するのは職権の乱用だが、元公安刑事として役所に顔の利く高井にとっては、より容易なことだったに違いない。それによって女性の来歴や家族構成などは、完全に丸裸になる。