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魔術師クノンは見えている 作者:南野海風

第十章

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350.見えないし見えないもの





「中級かぁ」


 そう言われると、クノンも思うことはあるわけで。


 恐らく、そろそろ夕方である。


 ロジーの復帰から、めっきり雰囲気が明るくなり。

 なんだか話も弾んだ。


 アイオンに問い詰められたり、シロトにも問い詰められたりと。

 いろんなことを質問された。


 クノンは初めてだった。

 誰かにこんなに聞かれたことなど、今までなかった。


 己の紳士らしさが仇になったか、と少し思ったくらいだ。


 彼女らの質問の中心となった話題は。

 やはり魔術についてだ。


 まあ、この場の全員が魔術師である。

 世代も性別も違う四人の共通項なので、当然かもしれないが。


「魔術学校に来てから、たくさんの魔術を見てきました。もちろん中級魔術も見てきました。まあ見えないんですけど」


 真っ先に思い出すのは、やはり狂炎王子との勝負だ。


 あれは見ただけではなく。

 この身で経験したことである。


 だからこそ印象に残っている。

 めちゃくちゃ痛い目に遭ったことも含めて。


 ――それでもいつか再戦はしたいな、とは思うが。


 また怪我をすることになっても。

 彼との勝負は、楽しいから。


 次は、二級クラスへ行った時に会った生徒。

 アゼルとラディアだ。


 特に、先に対戦した三ツ星の水魔術師アゼルは。

 クノンの知らない水魔術を、たくさん見せてくれた。

 

 あれはすごかった。

 容赦なく中級魔術を放たれた。


 惜しむらくは、練度不足。

 魔術自体もすごいし、魔力量も多かった彼だが。


 唯一、魔力操作が甘かった。


 彼の放つ魔術は、全て奪い取ることができた。

 あれに魔力操作さえ伴えば、それこそ特級クラス入りはたやすいだろう。


 次に対峙したラディアは、魔力操作も上手かったが。

 それでも、まだ練度不足が否めなかった。


 でも、細かい操作がよくできていた。

 彼女はきっと、クノンと同じく、大技より小技の方が好きなタイプだろう。


 ――と、過去を振り返ってみたが。


「僕、中級魔術は向いてない気がするんですよね」


 まず、だ。


「ロジー先生も、シロト嬢も、アイオンさんも、三ツ星でしょう?

 僕は二ツ星なんですよね。


 才能はともかく、三ツ星と比べると魔力量が違うって聞いたことがあって」


 中級魔術は、魔力の消耗が大きい。

 これは水だけに限らず、他の属性でもそうだと思う。


 小さな魔術をたくさん使うクノンである。

 負担の大きな魔術は、あまり向いていない気がするのだ。


 普段使いするようなものでもないし。

 普段使う分には、強い魔術なんてあまり必要ないし。


 そういう意味でも。


 ジオエリオン、アゼルの中級魔術連発はすごいと思う。


「感覚的に、四回か五回くらい使ったら、たぶん魔力が尽きると思います」


 と言いつつ、クノンはもう一人思い出す。


「合理」のサンドラだ。

 彼女は魔力量も多いが、とにかく出力が異常に強いらしい。


 どういうことか、と聞けば。


 初級魔術でも中級くらいの規模になるとか、ならないとか。

 要するに、嫌でも強く出てしまうらしい。


 代わりに、魔力操作が絶望的に苦手らしいが。


 小技が得意なクノンと真逆で。

 サンドラは大技が得意なわけだ。……得意と言っていいのかはわからないが。


「だったら尚更早く覚えないと」


「え?」


 思いがけないアイオンの言葉に、クノンは驚く。


「それって僕が紳士だから?」


「うんそう」


 相槌が早すぎる。

 もはや反射的のような返事の早さだ。


「それから、魔術は使えば使うほど、身体に馴染んでいく。もっと言うと魔力にね」


「あ……そう、ですね」


 ――魔力の変質化のことだ。


 クノンにとっては非常に馴染み深い現象だ。


 魔力の変質化により、魔力視という視覚要素を得たのだ。


 それがどんなに重要か。

 日常的に感じている。


「中級魔術も同じ魔術、ってことですね」


 だったら、確かに、そうだ。


 使えば使うほど馴染むだろう。

 その魔術を使いやすくなるよう、魔力の質が変わるのだから。


「最初は大変かもしれないけど、いずれ慣れるのか……」


 どうやら、少しばかり本気で習得を考えた方がよさそうだ。





「――夕食の時間です」


 使用人一号がやってきて、夜の訪れを告げた。


 事務的にサンドイッチを配り、さっさと帰っていった。


「そろそろ何か来て欲しいところだ」


 ロジーの言う通りだ。


 前に来た異界のモノは、「悪夢の書(デビルブック)」だ。

 やるだけやって、何も成せず、消えて行ったあの本だ。


 クノンはあれを思い出すと少し切なくなる。


 まあ、それはいいとして。


 三日目の深夜から明け方に来た。

 このまま一夜を明かせば、丸一日間隔が空く。


 できればその前に何か来てほしい。


 さすがに、もう大物は勘弁だ。

火法円環(レッドリング)」のような危険生物とは遭遇したくない。


 あの時はロジーが盾になり。

 そのまま注意を引きつけ続けて、その間に処理した。


 下手をすれば、怪我人はロジー以外にも出ていたかもしれない。


 その筆頭はクノンだ。

 実力不足ゆえに、狙われたら対処できるかどうか怪しい。


「――来た」


 何気なく口にしたシロトの言葉に、三人の視線が向く。


「というか……もう来てます」


 もう来ている?

 どこに?


 魔法陣内に変化はない。

 何か生き物が来た、あるいは何かが増えたようにも見えない。


 何もないはずだ。

 しかし、シロトはじっと魔法陣内の何かを見ている。


 その視線の先には……やはり、何もない。


 ない、はずだ。


「先生、何かが何匹います。

 わずかに空気が動いていますので、間違いなく」


 いるのか。

 何もないのに。


 まあ、それ以前に、クノンは見えても見えなくても見えないが。


「透明な生き物……『無色の妖精(スプライド)』かね?」


「恐らく――あっ」


 ロジーの言葉にシロトが頷いた瞬間。


 魔法陣内に光が生まれた。


 魔法陣だ。

 それは縦横無尽に、ありとあらゆる方向へ向いており――黒いものが飛び出した


  ガガガガガガガ


 それは金属の棒。

 鉄槍のようだった。


 魔法陣から発生した鉄槍は、障壁や床、天井へと放たれた。


 しかも、一本どころか二本三本と、続けざまに飛び出している。


「まずい!」


 呆気に取られている中。


 鉄槍の一つが、魔法陣中央に安置されていた水槽に当たった。


 密閉された容器が、弾かれて、宙を舞う。





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