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魔術師クノンは見えている 作者:南野海風

第十章

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349.折り返し





 魔人の腕開発実験は、四日目に突入した。


 行程は一週間である。

 多少前後することはあるそうだが、それでも長くて半日ほどだそうだ。


「これで折り返しか。……まあ、概ね順調かな」


 と、ロジーはクノンらを見回す。


 ――自分が怪我こそしたが、ほかの負傷者はいない。


 ならば順調である。

 生徒二人とアイオンに、多少の疲労の色は見えるが。


 三人とも、まだまだ元気だ。


 ロジーにはない若さというのもあるのだろうが。

 それにしたって消耗度は低いようだ。


 特に――


「――やっぱりいっぱい食べるからですか? 僕ってどうです? 同年代と比べるとちょっと背が低いんじゃないかと思うんですけど、食べてないからでしょうか? どうしたらアイオンさんくらい魅力的で可憐で素敵で色っぽくてセクシーに背が高くなるんでしょう? やっぱり食事が大切なんでしょうか? あ、それとも魔術やってるから背が高くなったとか? 僕も魔術やってますけど伸びるでしょうか?」


 クノンである。

 この場では最年少である、彼である。


 何があったのか、すごい勢いでアイオンに絡んでいるが。

 とても元気そうである。


 ――シロトが彼を誘うと言った時、ロジーは賛成しなかった。


 クノンの実力はわかっているつもりだ。

 だからこそ、賛成はしなかった。


 他のことならともかく。

 この実験に参加させるには、まだまだ実力不足だと判断していた。


 この実験は危険だ。

 怪我人も出るし、失敗したら貴重な素材が失われる。


 簡単にできる実験ではない。

 そうである以上、すべてにおいて万全を期すべきだ。


 もちろん、参加するメンバーも厳選する必要がある。

 少しでも成功率を上げるために。


 一人倒れたら、全員でカバーする必要がある。

 結果、それが命取りになったりもする。


 この実験に限ってのことではない。


 どんなことでも、集団で何かをしようとすれば。

 足手まといは邪魔にしかならない。


 言い方は悪いが。

 無用なリスクを抱える理由はないだろう。


 だが、そのリスクを理解してなお、シロトはクノンを呼んだ。


 自分と同じ「魔王の呪い」を持っている。

 きっと将来、彼の役に立つし糧にもなるから、と。


 この実験のリーダーはシロトだ。

 だからロジーは、彼女の決めたことに、もう何も言わなかった。


 ――クノンは健闘していると思う。


 付いてこれるか。

 どこまでやれるか。


 そんな心配をしながら臨んだこの実験。


 クノンは立派に健闘している。


 特級二年生。

 十三歳かそこらの少年だ。


 そんな子が、上級魔術が関わるほどの実験に参加している。

 結構な無茶だと思う。


 だが、それでなお通用する実力だ。

 底力と言えばいいのか、磨きすぎた基礎力と言うべきか。


 思ったより反応がいいというか。

 実戦慣れしているというか。


 咄嗟の判断が速いのだ。

 そのおかげで、ロジーも命を拾った。


 状況確認も割と的確で。

 彼の目が見えないことを忘れそうになる。


 なんとなく。


 この期に及んで、わかった気がする。

 シロトがクノンをメンバーに入れた理由が。


 ――育てたい逸材だ、と思うからだ。


 初級魔術しか使えない。

 まだまだ経験も少ない。


 にも拘わらず、クノンはこの実験に付いてきているのだ。


 細々したサポートはありがたい。

 だがそれは、参加メンバーじゃなくてもできることだ。


 むしろサポートとしてなら、ロジーもクノンにいてほしい。

 彼の水は、本当にありがたいサポートをしてくれる。


 現段階でこれなのだ。

 数年後はどうなっているのか。


 中級魔術を習得して。

 たくさんの経験を経て。

 今よりもっと優秀な魔術師に成長して。


 果たしてそれは、どこまで伸びているのか。


 現役の教師を超えるか?

 それとも、もっと先を行くか?


 この可能性を見ていると、「蒼の魔術師」になることさえ、夢ではないと思う。


「――先生」


 まだまだ絡み続けて、若干アイオンを困らせているクノン。


 そんな彼を見ていると、シロトに呼ばれた。


「誘った理由、わかっていただけましたか?」


 どうやら義娘に、考えていることを見抜かれたようだ。


「君と同じ理由を考えたかどうかはわからないが、なんとなくは、ね」


 もう少しクノンと付き合いがあったら。


 きっと、ロジーも何かしらの難しい実験に誘っていただろう。


 彼を成長させるために。


 ……いや。


 しなかったかもしれない。

 やはり、彼に造魔学は似合わない気がするから。



 


「――お昼ですよー、っと」


 使用人三号が昼食を運んできた。


 もう昼のようだ。

 あっという間だったな、とクノンは思った。


 アイオンに話しかけていたら、もうこんなに時間が過ぎていた。

 ついさっき朝食を食べた気がするのに。


 少し浮かれていたのかもしれない。

 ロジーが復帰したことで、雰囲気が明るくなったから。


 彼が休んでいる時は、怖かったから。


 今何かあったら対処できるだろうか。

 そんなプレッシャーを、ずっと感じていたから。


「クノン」


 がさがさとサンドイッチの包みを解いていると、ロジーに声を掛けられた。


「君はいつ中級魔術を憶えるのかね?」


「は、はい? 急になんですか?」


「気になったから」


 気になったから。

 つまり、好奇心からの質問だろうか。


 なぜだかシロトも頷いている辺り、


「もしかして、僕ってそんなに習得が遅いですか? 不自然ですか?」


 クノンの方がおかしいのかもしれない、と思えば。


「君の実力からすれば遅い」


「私も不自然だと思う」


 二人して言われてしまった。


「そもそもまだ初級魔術を四つしか使えないと聞いているぞ」


「えっ」


 シロトの言葉に反応したのは、アイオンである。


「初球を、四つ? それだけしか使えないの? なぜ? ……え、二年目だよね? 特級クラス二年生だよね? なのに四つ? しかも初級だけ?」


 今度はアイオンに絡まれ出した。


「そんなに不自然ですか? いや、まあ、確かによく言われますけど……」


 いつだったか、師ゼオンリーにも言われたくらいだ。

 基礎くらいさっさと覚えろ、と。


 クノンから言わせれば、「一年間で二つも増えた! すごい!」という認識なのだが。


 遅いらしい。

 遅い上に、中級魔術も使えないと不自然らしい。


「……普段何してるの? 魔術の訓練とかしないの? 何してるの? 何かはしてるよね?」


「い、いやあ……そんなに僕の紳士的日常が気になります?」


 女性にこんなに聞かれるのは初めてだ。

 興味津々じゃないか。

 ちょっと引くくらいだ。


「気にならないけど、気になる」


 矛盾している返答だ。

 アイオンが今ちょっと複雑な心境らしいことは、理解できた。





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