やあみんな!俺だ!
2023年から2024年へ年が進んだ!
この小説は全然話が進まない!
それじゃ!
真面目な話、間が空きすぎて申し訳ない。
もうすぐラストを迎える(と思われる)し、それまで突っ走れたらと思います。
「「「うりゃおい!うりゃおい!うりゃおい!うりゃおい!」」」
「──────」
早坂との話を終え、生徒会室へと戻って来た俺を待っていたのは、顛末を全く見ていない俺にとってはあまりに謎過ぎる光景だった。
何故、白銀と石上と藤原はオタ芸を踊っているんだ。
何故、かぐやは白銀達から離れて、一体何に戦慄しているんだ。
何故、アイは部屋の真ん中で踊っているんだ…!?
「おい、かぐや。何がどうしてこうなった…?」
巻き込まれたくないから足音を立てず、かぐやに歩み寄って声量を抑えて尋ねる。
「藤原さんが言ったのよ。どうせなら何か一曲披露してほしいって…」
「…」
恐らく唯一俺が戻ってきた事に気付いていたかぐやは、俺の方を見もしないままそう答えた。
あぁ、確かに藤原ならお願いしそうだ。そして、アイならそのお願いを快く引き受けるだろう。
このミニライブ状態に至った経緯は納得した。しかし──────
「「バブ!バブ!バブ!バブ!バブ!バブ!バブ!バブ!バブ!バブ!」」
「ねぇ総司、貴方の子供達は一体何者なの…?」
戦慄するかぐやの視線の先に居たのは、ソファに座らされ、そして白銀達に負けず劣らずのキレキレなオタ芸を披露する我が子達だった。
「…オタ芸が出来る赤ん坊くらい居るだろ」
「貴方、本気で言ってるの…?」
「かぐや」
かぐやが俺に何を言いたいのか。それは分かっている。
だから、俺はかぐやに笑顔を向けて、言ってやるのだ。
「俺の子達は、大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」
「─────べ、別に貴方を心配した訳じゃないわよ。私はただ…そう。あんなキレのいい踊りをする赤ちゃんが存在する事に驚いただけなんだから」
頬を染めながらソッポを向くかぐやに、ついつい笑みを溢してしまう。
今、かぐやが俺の方を見ていないから気付かれていないが、もし見られていたらきっと、かぐやは烈火の如く怒るんだろう。
うん、怖いから早く笑いを収めよう。いやでもなぁ…、普通に嬉しいんだよな、かぐやに心配されるのって。
「サインは~?」
「「「「「B!!!」」」」」
「「…はぁ」」
アイのミニライブの盛り上がりに完全に置いてけぼりの俺達は、白銀達に混じってアクアとルビーも大声で合いの手を入れていたのを見なかった事にして、大きく溜息を吐いた所で、眩しい笑顔を浮かべたアイと目が合った。
「総司!」
丁度曲が終わった所だったのだろうか。アカペラダンスを止めたアイがこちらに駆け寄ってくる。
アイのパフォーマンスに夢中になっていた観客達も、その反応を見て俺の存在に気付いて振り返る。
「話は終わった?」
「あぁ。ちゃんと決着つけてきたよ」
「…そっか」
俺がさっきまでどこで何をしていたのか、察せるのはかぐやくらいだと思っていたのだが─────話の内容全てを把握しているとは思わないが、ある程度予測を立てられている所は流石というべきか。
普段は抜けている癖に、こういう所の勘は鋭いんだもんな。本当に読めない奴だよ、こいつは。
「で────お前は一体、何をしている?」
だが、今はそこは良い。早坂との話は終わったし、気分が良くはならない話を続けるつもりはない。
それよりも、だ。経緯はさっきのかぐやとの話で分かったが、あのミニライブについて問い詰めなければならない。
「総司が行ってから色々聞かれてたんだけど、途中で藤田ちゃんが私の歌を聞きたいって言ったから」
「経緯はさっきかぐやから聞いた。お前、こんな所で、個人的な理由で歌を披露できる立場じゃないって分かってんのか?…あと、藤原な」
アイはもう、押しも押されぬトップアイドルとして芸能界に君臨している。こいつの歌は、踊りは、パフォーマンスはこいつ自身が考えているよりも、ずっと重いものになっている。
「もし近くに他の生徒が来ていて、今のお前の歌が聞かれていたらどうするつもりだった?下手をすれば俺との関係も、アクアとルビーの事も、世間にバレる所だったんだぞ?」
芸能界の中でのアイの立場だけじゃない。それ以上に考慮しなければいけない事が、今の俺達の間には存在している。決して、世間に知られてはならないタブー。
隠したくなんてない。本当は、外野の視線も反応も気にせず、思うがままに一緒に過ごしたい子供達。
だが、一緒に過ごしていきたいのなら、そういう訳にもいかない。
それは、アイにだって分かっている筈だ。
「でも、黒鉄君も石元君も私の歌を聞きたいって言ったし」
…本当に分かってるんだろうな、こいつは。
今日のアイの行動といい、不安になってくるんだが。
「やっぱり、アイドルとしてファンの要望には応えなきゃって思ってさ」
「白銀です」、「石上です」と続けざまに名前の言い間違えを訂正する二人に、「ごめんね?」と笑顔と共に軽い謝罪をしてから、アイドルとしての矜持を語るアイの顔を見ながら、溜息を吐く。
浮かべる笑顔の中に微かに苦いものが混じってる事から、悪びれる気持ちが少なからずあるようだが─────いや、もうよそう。
第一、星野アイという女がそういう奴だって事は初めから知っているし、そして、そんな女に惚れているという現実がある以上、俺の敗北は決定している。
「…次から気を付けろよ」
「うんっ、分かったっ」
次という機会がいつかも分からないし、それ以前に来ない可能性の方が高いというのに。
だが駄目だ。輝く様なこいつの笑顔を前に、毒気は一瞬にして抜かれてしまうのだった。
「会長。僕達は一体、何を見せられてるんですかね?」
「俺にも分からん。…それより石上、そのトイレットペーパーで何をするつもりだ?」
微笑みながら寄り添ってくるアイへと完全に意識が向いている俺は、トイレットペーパーを握りしめながら憤怒の表情を浮かべる石上と、俺とアイのやり取りを無の表情で眺めていた白銀との会話は全く耳に入らなかった。
「…」
「藤原さん。私がこんな事を言ってもどうにもならないけれど─────ごめんなさい」
「…かぐやさんが謝る事じゃありません。早く行動に起こせなかった私の自業自得ですから。…でも、ごめんなさい。しばらく総司君の事を直視できなくなりそうです」
何やら真っ白に燃え尽きた様な藤原と、かぐやの会話も全く耳に入らなかった。
「…総司」
「…どうした」
「…えへへ」
ただ、好きな人にしか意識が向かない。目も、耳も、全神経がアイに注がれる。
この場にかぐや達が居る事も忘れ、俺達は顔を近づけ合って─────
「だぁーっ!」
「…けっ」
突然響いたルビーの大声と、吐き捨てる様なアクアの吐息によって、俺達の意識は現世へ引き戻された。
弾かれるように顔を離した俺達は、ソファにお座りしているルビーとアクアへと歩み寄る。
「どうしたのー、ルビー?…おっぱいかな?」
「悪い。アイしか見えなかったんだ。だからアクア、その顔を止めてくれ」
俺とアイはそれぞれアクアとルビーを抱きかかえ、各々言葉を掛ける。
ふと見れば、白銀達が呆れた様な目で俺達を見ていた。
─────藤原だけ、何やら真っ白に燃え尽きている様に見えるが。それに、ぽっかり開いた口から出て来てるのは魂じゃないか?
…大丈夫なのか、あれ?あ、かぐやが気付いて魂を口の中に押し込んでいる。
「総司。お話が終わったなら、そろそろ帰ろう?ルビーが疲れてるみたいだし」
生徒会室の空気が微妙なものになった所で、さてこれからどうしようかと考えたその時、アイに話し掛けられ俺は顔を向ける。
アイの腕の中で、ルビーはウトウトと舟を漕いでいた。
ふと見れば、俺の腕の中にいるアクアも、目を半開きにさせて必死に眠気と戦っていた。
奉心祭へ来てからずっと俺とアイに連れられて、更にはここでアイのミニライブにも参加して、体力の限界を迎えるのは当然だろう。
「そうだな。かぐや、俺は三人を家に送ってから戻る。お前も気を付けて帰れよ」
「分かりました。貴方も、道中気を付けるのですよ」
かぐやと最初に挨拶を交わしてから、俺とアイは白銀達とも同じく挨拶を交わして生徒会室を出る。
もうその頃にはルビーだけでなく、アクアも目を瞑って眠りに落ちていた。
「近くに車を用意させてあるから、それに乗って帰るぞ」
「うん、分かった」
生徒会室で話をするにあたって、ミヤコさんは先に帰した。長い話になるだろうと分かっていたし、その間、一人で待たせるのは申し訳なかったから。
その代わり、すでに赤木に連絡を取って、校舎の近くに車を用意させてある。今日はそれに乗ってアイ達を彼女達の住まいへと送る事にする。
一日目の日程が終わり、生徒達はまばらに帰路に着く。とはいえ、まだまだ校舎に残る生徒は多く居た。
明日の準備の為か、はたまた一日目の余韻に浸っているのか。どちらにしても、子連れで歩く俺達はまたもや多くの視線を引いた。
言うまでもないが、勿論アイは変装し直している。しかし、変装をしたうえで隠しきれない美貌とオーラは、やはり周囲の視線を釘付ける。
まあ、俺もアイもこんな状況には慣れっこだが。
無遠慮に浴びせられる視線を気にもせず、俺達は靴を履き、生徒玄関から外へと出る。
─────ふと、アイが立ち止まる。
「…どうした?」
アイは振り返り、秀知院の校舎を見上げていた。
その目からアイが胸中で何を思っているのか読み取れず、俺も立ち止まり、アイへ問い掛ける。
「…ううん。ここで、総司が学校生活を送ってるんだなって思ったら、感慨深く?なっちゃって」
「…何で疑問形なんだよ」
カラっ、と笑いながら「言葉の使い方合ってるか不安になっちゃった」なんて言ったアイは、もう一度校舎を見上げながら口を開いた。
「私も、ここに通いたかったな」
それは、ステージで見せる嘘ではなかった。
心の底の、アイの本音。アイの願望。
「お前、ここに来れる学力ないだろ」
「酷いっ!?」
しかしまあ、こいつの場合はそれ以前の問題で。
言っちゃ悪いがお頭が良くないこいつじゃあ、この学園には到底入学できないだろう。
ここで言うつもりはないが、さらに言えば秀知院に来るのであればそれなりの財も要求される訳で。
どうしたって、こいつが秀知院学園に入学するという仮想は成り立たない。最早、妄想の域である。
「…アイと一緒の学園生活っていうのも、送ってみたかったとは思うけどな」
ただ、思う。
こいつと一緒に、学園生活を送るのも悪くないかもしれない、と。
アイと出会った頃の俺が聞いたら、その心変わり具合に卒倒するかもしれないが。
今の俺は、そう思えたのだ。
「─────」
校舎を見上げていたアイがこちらを向く。
目を丸くして、瞳を微かに揺らしながら、驚きの面持ちで俺の顔を見つめていた。
かと思うと、次第に目が細まり、俺の言葉がそこまで響いたのか、隠しきれない喜びが口元へと現れ始める。
…その反応を見て、俺は先程の台詞がどれだけ恥ずかしいものなのかを自覚する。
うん、逃げよう。
「帰るぞ」
「待ってよ、総司!今の話を詳しく!」
「しない。あとうるさい。二人が起きる」
元々参加する気がなかった奉心祭。参加するにしても、特に楽しむ事もなく、ただ流されるまま時間が過ぎていくだけだろうと思っていた奉心祭。
しかし、思わぬハプニングが多々起こった一日となった。
俺はハプニングが嫌いだ。予め決めていた一日の過ごし方、予定を全てぶち壊していく不意な出来事が嫌いだ。
だけど今日は─────たまになら、こんなハプニングが起きても良いかな、と思う。
「アイ」
「ん?」
「今日は、そっちで夕食を摂る事にするよ」
「本当!?」
こいつと一緒なら、それも楽しむ事が出来るのかもしれない、と思う。
奉心祭の話はここまで。次回から、締めに入る…つもりです!