ヴィランの言い分

その"嫌われもの"、本当に"悪"なのか!?

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【蛾の言い分 パート1】なぜ明かりに集まる?りん粉が騒音問題から人類を救う⁉

謎の粉を身にまとい、闇夜を飛び回る不気味な昆虫の代表格。
蛾(が)は、嫌いな昆虫ランキングでゴキブリに次ぐ2位!
果たして、蛾は本当に悪なのか?最新研究で、意外な能力が明らかに!

もくじ ●まるでトリックアート!芸術的な擬態 ●りん粉に秘められた役割とは? ●りん粉が騒音問題から人類を救う⁉ ●蛾が明かりに集まる理由

●まるでトリックアート!芸術的な擬態

アンチの言い分「見た目が不気味!」 蛾の言い分「不気味だから3億年生き延びてこられた」

チョウと比べられることが多い蛾ですが、どちらも同じ鱗翅目(りんしもく)の仲間で、日本にはおよそ6000種います。その中の95%が蛾でチョウに比べて圧倒的に蛾の方が多いそうです。

そんな蛾の繁栄には、不気味な見た目が関係しています。
蛾とチョウ、それらの共通の祖先が生まれたのは、今からおよそ3億年前のこと。夜行性である蛾は、昼間は木陰などに身を潜め、敵から身を守っています。周囲に溶け込む(=擬態する)ために地味な見た目をしているのです。

突然ですが、蛾の仲間が下の写真の中に擬態しています。
どこにいるかわかりますか?

小枝に擬態していたのは、ツマキシャチホコと呼ばれる蛾の仲間。

続いてはこちら!

枯葉そっくりの見た目をしているのは、ムラサキシャチホコと呼ばれる蛾の仲間。

さまざまな蛾の仲間がトリックアートのように自然の中に溶け込んでいました!蛾は周囲の環境に擬態することで、3億年もの間、生き延びてきたのです!

●りん粉に秘められた役割とは?

アンチの言い分「羽の粉に毒がありそうで気持ち悪い」 蛾の言い分「りん粉こそ蛾の生きる術」

蛾の羽についているりん粉の役割について解説してくれたのは、蛾を30年研究する東京大学 総合研究博物館の講師 矢後勝也さん。

りん粉の“りん”は“鱗(うろこ)”。実際に羽を電子顕微鏡で拡大してみると…鱗のようなものがびっしり!このひとつひとつがりん粉です。

毛穴にそっくりな根本部分を見ればわかる通り、りん粉は体毛が進化したもの。

りん粉には、蛾が生きていく上で欠かせない役割がいくつもあるそうです。

矢後さんは「夜は気温が下がるので、ある程度体を温めないとうまく飛べなくなる。りん粉の間で空気の層を作り、保温機能を持ちます」と解説。
蛾はりん粉の間の空気で、外気に触れずに寒さを防いでいるのです!

さらに矢後さんは「蛾の細かな模様を作り出しているのもりん粉です」と解説。蛾の一種であるクロメンガタスズメの羽をよく見ると、色のついたりん粉がモザイク上に並んでいます。

りん粉を取り除いてみると(下の写真の右の羽)、羽が透明に!
蛾が擬態するために必要な模様はりん粉で出来ていたのです。

さらに、りん粉には撥水(はっすい)効果があり水を弾いています。

一方、りん粉が付いていない羽は水滴が残ったまま。

蛾が雨の日にも飛ぶことができるのは、りん粉のおかげなのです!

矢後さんは、蛾のりん粉について「蛾になるための進化の過程で生まれた、生きていくために欠かせない術と考えてもらうと良いと思います」とコメントしました。

ちなみに、りん粉自体には毒はありませんが、チャドクガなどのごく一部の蛾の幼虫には、毒身毛(どくしんもう)と呼ばれる細い毛があり、人間の皮膚に触れるとかゆみや発疹を生じることがあります。触れた場合は流水で洗い流しましょう。

●りん粉が騒音問題から人類を救う!?

アンチの言い分「蛾のりん粉は人間の役には立ってない!」 蛾の言い分「りん粉が騒音から人間を守る!」

一体、どういうことなのか?イギリスのブリストル大学で生物が出す音を研究しているマーク・ホルデリード教授に伺いました。

りん粉に覆われた蛾の羽に注目したマークさんは「蛾の羽には非常に優れた吸音性能がある。非常に薄いりん粉の層で87%もの音を吸収します」と解説。
りん粉を拡大してみると…スポンジのように穴が空いていることがわかります。

穴が空いたりん粉は、音楽室などの壁に使われている吸音材と同じ構造。無数の小さな穴に音が吸収される仕組みです。

マークさんは「蛾の羽はさまざまな形や大きさのりん粉で覆われています。音が当たるとりん粉が振動してさまざまな周波数の音を吸収します」と解説。

音は空気の振動で伝わり、硬い壁に当たると跳ね返りますが、蛾の羽に当たると、りん粉が振動し、さまざまな周波数の音が吸収されるという仕組みなのです。

この仕組みは、蛾が敵から身を守るための進化、と考えられています。
蛾の天敵であるコウモリは、超音波を出し、その反射を感じ取ることで獲物の位置を把握します。そこで蛾の羽は、自分の居場所をコウモリに特定されないように、りん粉で音を吸収する構造に進化しました。

マークさんによると「蛾のりん粉は自然が作り出した偉大な発明と言えるでしょう。私たちの暮らしがより静かで健康的になる可能性があるからです」とのこと。マークさんは、蛾のりん粉構造を応用した吸音素材を開発しました。

マークさんは「これを使えば既存の吸音材の10倍の効果が期待されます。しかも、厚さは10分の1まで薄くできるのです」とコメント。
薄くて軽い構造を実現できるため、自動車の内装、家の壁紙としても使うことができ、現在は特許出願中。2025年の製品化を目指しているそうです。

蛾のりん粉は、これから私たちの暮らしに役立っていくかもしれません!

●蛾が明かりに集まる理由

アンチの言い分「明かりに集まってくるのが許せない!」 蛾の言い分「人工の光にダマされている!」

明かりに集まる蛾の習性について教えてくれたのは、光に集まる昆虫を研究している 石川県立大学 応用昆虫学 准教授の弘中満太郎さん。

弘中さんによると「飛んで火に入る夏の虫…まさに蛾がモデルとなっているように、蛾は昆虫の中でも特に光に集まってきます」とのこと。なぜ、蛾は明かりに集まるのでしょうか?

この理由について弘中さんは「本来の自然環境の中では、蛾は月の光を目印にして飛ぶ方向を決めていますが、私たちが作り出した人工の光で迷子になっているのです」と解説。

蛾は月の光をコンパス代わりにして、ほぼ並行に届く月の光線と一定の角度を保ちながら、目的地に向かって飛行します。

しかし、街灯などの光は放射線状に届いているため、月の光と同じように一定の角度を保って飛ぼうとすると、街灯の周りをぐるぐると回ってしまいます。

蛾が街灯の周りをぐるぐる回っているのは、人間のせいだったのです!

そんな明かりを頼りに生活している蛾は、光を一定時間浴び続けると、昼間だと勘違いして動きを止めてしまいます。これを明順応と呼び、街灯の下や壁などで動かなくなっている蛾はこの状態なのです。

この明順応の習性の利用して、果樹園では、蛾の好物であるナシやモモなどの作物を守るために防蛾燈(夜間に強い光を灯し蛾を明順応させる)が実用化されています。

いかがでしたか?
不気味な模様、りん粉など、人間から嫌われるさまざまなものには、蛾の生き抜く術や驚くべき機能が詰まっていたのです!
防蛾燈のように、蛾を作物に寄せ付けない研究も進んでいるので、優しい心を持って、共生していきましょう!

<嫌いな昆虫【第1位】の言い分はこちら>

●【ゴキブリの言い分】たたいても死なない?ゴキブリのしぶとさが人類を救う⁉