天才と星の子   作:もう何も辛くない

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今月忙しくなりそうで笑えない。
という事で投稿ペース落ちます。
今月を乗り越えたら、また投稿ペースを戻せると思います。


天才と眉唾物

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私達の事を心配してくれてるのは嬉しいけど、大丈夫なの?」

 

 そんな事を言われたのは、休みの日にアイ達が住んでいる部屋へ訪れていた時だった。

 

 ソファに腰を下ろし、アクアの柔らかな髪や頬の感触を楽しんでいると、突然アイがそんな事を言い出した。

 

「大丈夫って、何が」

 

「休みの日はいつもここに来てるでしょ?体を休めなくて大丈夫なのかな、って思って」

 

「そんな心配はしなくていい。家に居るよりもここの方が充分休めてるよ」

 

 アクアとルビーが産まれ、アイを含めて三人が今の部屋に住み始めてから半年。

 仕事がない日は欠かさず俺はここへ通い、アイ達の様子を確認しに来ていた。

 

 子供達は何事もなくすくすくと成長している。

 アクアとは、初めて顔を合わせた時はどうなるかと思ったが、今ではこうやって抱っこも出来るし、何なら授乳だってアイではなく俺にせがんでくるくらいだ。

 

 俺に抱かれ、哺乳瓶で授乳を受けるアクアを見て、アイはいつも嫉妬している。

 一度どうしてもとせがまれ、アイにアクアを渡そうとした事があったのだが、それはそれは必死に俺にしがみついて離れようとしなかった。

 

 それからは、アイもそこまで嫌がるならと諦めるようになったが、いつか自分で授乳をしてやるという野望を諦めきれていないのは見てとれた。

 

 …授乳以外は別に普通なんだけどな。それこそ、そこだけ見ればやっぱり俺よりもアイが好きなんだろうなって思うし。

 そこはやっぱり、一緒に過ごす時間の長さが関係しているんだろか?或いは、()()()()()あるのか─────。

 

 とまあ、今はそこは置いておくとして、気になるのはルビーの事だ。

 

 ルビーも初めて会った時は敵意、警戒心剥き出しで、抱っこしようと伸ばした俺の腕に噛みついて来たりもした。

 最近までその様子に変わりはなかったのだが─────今、その様子が変わりつつある。

 

 別に、それが打って変わって俺に懐いてきたとか、抱っこが出来るようになったとか、そういう訳ではない。

 

 ルビーは俺の事は嫌いな様子だったが、アイの事は大好きで、アイが家にいる時は常に抱っこや授乳をせがんでいた。

 アクアとも仲良くしているとアイから聞いていたし─────俺に対しては態度が別だが、それでも元気に過ごしている事だけは感じていた。

 

 しかし最近、ルビーの元気がない。

 あれだけアイの傍に居たがっていたルビーが、今は近寄ろうともしなくなった。

 俺が近付くだけで激しく威嚇していたルビーが、ただ黙って無視するだけになった。

 

 …は?無視されるのは悲しくないか?

 悲しいよ。悲しいけど、それ以上に今のルビーが心配だ。

 

 どこか体の調子を崩しているのではないかと、一度病院で詳しく診て貰ったがそれもない。

 それなら、生活の中に何か原因があるのかと考えてはみたものの、心当たりはまるでない。

 強いていうなら、ルビーに懐いて貰おうとして俺がしつこく構いすぎたか、と思い当たったのだが、それならとっくの昔にルビーは今みたくなっているとアイに言われ、思い直した。

 

「(…さて、と)」

 

 多忙を極める日々の中、仕事を熟しながら俺は自分が知る限りのルビーの様子を思い返しながら、ルビーが今の状態に陥った原因について考えを巡らせた。

 

 その結果、俺の中で浮かび上がる可能性は()()()()だった。

 

「おっ、社長のお迎えかな?」

 

 部屋のチャイムが鳴り、アイの顔が上がる。

 

 俺は今日、仕事が休みだが、アイは違う。

 今日はB小町の握手会が開かれる日で、当然アイもそれに参加する。

 

 会場へは斉藤が運転するミニバスで向かう事になっている。

 斉藤からは何時頃に迎えに行くと事前に話が入っており、時計を見上げるとすでにその時刻を過ぎていた。

 遅刻ではあるが、握手会が始まる予定の時刻まではまだまだ余裕があるし、見逃してやるとしよう。

 

「それじゃあ行ってくるね」

 

「あぁ。気をつけてな」

 

 斉藤の顔が映るインターホンの画面を消しながら、玄関へと出ようとしたアイはこちらに振り返り、挨拶をしてくる。

 俺も手を上げながら挨拶を返し、アイは仕事へと─────出て行こうとしない。

 

「総司」

 

「…はいはい」

 

 ニコニコ笑顔のまま、俺の名前を口にするアイ。

 もう、こいつが何を求めているかなんて分かり切っている。すでに何度もしている事だし、初めはアクアとルビーの前という事もあり恥ずかしさもあったが、もう慣れた。

 

 ソファから立ち上がり、アイの元へと歩み寄った俺は、白い頬に手を添えて、顔を近づける。

 

 こんな風にいってらっしゃいのキスをアイが求めるようになったのは、いつからだったか。

 今日みたいに俺が休みの日とアイが仕事の日が重なったある日、突然『いってらっしゃいのキスがしたい!』なんて言い出して。

 やだ、と微かな抵抗をしてみたがアイは譲らず、挙句いつまでも仕事に行けないから早くキスしてやってくださいなんて、斉藤が言い出す始末。

 

 初めてのいってらっしゃいのキスは、そんな締まらない感じで行われた。

 今では、俺からする事はないものの、アイから求められれば抵抗なく出来るようになった。

 

「えへへっ、それじゃあ頑張って来るね!」

 

 唇を合わせるだけの、数秒にも満たない短いキス。

 たったそれだけで、ここまで喜んでくれるなら─────なんて考えるんだから、俺も変わったものだ。

 

 仕事へ向かうアイを見送ってから、俺はリビングへと戻る。

 アクアはぼーっとテレビを眺め、ルビーはベビーベッドで寝ている。

 

 因みに、今テレビでは政治家達が集まりあれやこれやと討論している番組が映っている。

 そんな番組をアクアは眺めているのだが─────うん、やっぱり()()()()()()()()

 

「アクア。お前、そんな番組見て面白いのか?」

 

 アクアの隣に腰を下ろしながら尋ねる。

 

 アクアはまだ産まれてから半年、初めての誕生日すら迎えていない。

 そんな質問をしたって理解は出来ない筈だ。名前は毎日呼ばれているし、そちらは理解出来ていても可笑しくはないが─────。

 

 アクアは一度横目でこちらを見上げてから、すぐにテレビ画面へと視線を戻す。

 

 そんなアクアを見てから、首を回してベビーベッドで眠るルビーを見る。

 

 ずっと、こいつらを見てきた。

 親として、子供達を育てる為に、()()()()を反面教師にして、こいつらを見続けて来た。

 

「アクア、ルビー。これは、俺の独り言だ」

 

 俺は、確かめなくてはならない。

 何故なら、俺はこいつらの親であると同時に、アイの()()()()()でもあるから。

 親として子供を守る義務もあるが、それと同時に愛する女を守る義務もあるのだから。

 

「お前らが産まれてから、俺はずっとお前らを見て来た。アイも斉藤も、ミヤコさんも気付いてる様子はないが─────俺は誤魔化せないぞ」

 

 俺の懸念が杞憂ならばそれでいい。だが、そうでないのならば─────

 

「お前らは一体、()()

 

 平静を装っているつもりなのか、アクアからもルビーからも反応はない。

 ただ、隣に座るアクアの蟀谷に一筋の汗が流れたのを俺は見逃さなかった。

 

「アイに対する異常な執着。日常動作に垣間見える、確かな思考。アイから全く夜泣きをしないとも聞いてたし、随分赤ん坊らしくないなとは思っていたんだがな」

 

 汗が流れるだけでなく、緊張が震えとなってアクアの体に症状として出始める。

 

「…雨宮吾郎」

 

「「─────」」

 

「二人とも、この名前に随分大きく反応するな。お前らは会った事がない筈だぞ?」

 

 雨宮吾郎─────妊娠中だったアイの主治医であり、アイの妊娠についての一切を秘密にしながら親身になってアイと向き合ってくれた、俺達の恩人の名前だ。

 しかしアイの出産当日から行方不明となっており、以前、遺体が発見され現在は事故と事件の両面を睨んだ捜査が行われている。

 

 小刻みに震えていたアクアの体が微かに跳ね、更に背後からもベビーベッドが軋む音が微かに耳に届く。

 アイに雨宮吾郎の死亡を伝えた時も、アクアとルビーは不自然な反応を示した。

 そして、今回も─────

 

 これでもう、確定だ。

 頭ではそうだろうと結論が出ていても、あまりに突拍子の無い、非現実的な話過ぎて心が納得出来なかった。流石にそれはあり得ないだろう、と冷静な理性がずっと語り掛けていた。

 だから、カマを掛けてみたのだが、どうやら当たりだったらしい。二人のこの反応を見て、頭も心も、出す結論は一つ。

 

「転生者、か」

 

 転生、なんて非科学的なもの、頭に浮かびはしたがそれを信じるなんて出来やしなかった。

 今だってまさか、という気持ちは決して小さくはない。

 

 しかし、冷や汗をだらだら流すアクアとさっきからベビーベッドが軋む音を鳴らしまくっているルビーの反応が、それが真実だと物語っている。

 

 ─────えぇ、マジで?そんな事起こるの?

 

 真実を確かめるべくカマを掛けたは良いが、内心は九分九厘あり得ないと考えていた。

 そうだろう?呪術が信じられていた19世紀ならともかく、科学の時代である21世紀にそんな眉唾物を信じる馬鹿がどこにいる?

 

 でも、これが現実なんだよな。頬を抓ったけど痛かったし、本当に転生なんてものが、俺の子供に─────それも二人共に起きているなんて。

 

「待てや、逃げるんじゃねぇ。ルビーも逃げられると思うなよ。というか普通に危ないから戻れ」

 

 俺が呆然としている間にこっそりアクアは逃げようとしていた。

 ルビーもベビーベッドから抜け出そうと柵をよじ登っていた。

 

 まずアクアを抱えて立ち上がり、次にルビーももう一方の腕で抱える。

 

 アクアはともかく、あれだけ俺の抱っこを抵抗していたルビーは、今や諦めたのか仏の様な顔をしていた。

 

 それを見て、俺は思う。

 

 あぁ、こいつはやっぱり転生者だ、と。

 普通の赤ん坊がこんな顔をするはずがないからな。

 

「で?さっきも言ったけど、お前ら何?」

 

 二人を床に座らせ、俺はソファに腰を下ろしてアクアとルビーを見下ろす。

 

「な、なにとは、何でしょう?」

 

「…」

 

 俺の質問に、アクアが質問で答える。

 

 …転生者だし、そりゃ喋る事が出来ても不思議じゃないんだろうけど、何というかあれだな。

 違和感が半端じゃない。半端じゃなさ過ぎて、気味が悪い。

 

「とりあえず、転生前の事について話してもらおうか。雨宮吾郎との関係についても、詳しく聞かせろ」

 

 今、俺は雨宮吾郎の事件についてある疑いを立てている。確証はないが可能性は高い、そしてこの疑いが本当だったなら、すぐにでも動かなくてはならなくなる、重要な一件だ。

 

 こいつらは雨宮吾郎の名前を耳にすると、不自然な反応をした。つまり、生前雨宮吾郎と何かしらの繋がりを持っているのは間違いない。

 二人が持っている情報が、俺の疑いを立証させるものかどうかは分からないが、聞いておいて損はない筈だ。

 

 そう思い、俺は二人に尋ねてみたのだが─────

 

「か、関係も何も、本人です」

 

「「は?」」

 

 返って来た答えは想像の遥か上をいくものだった。

 

「…雨宮先生?あんたが?」

 

「は、はい」

 

「…」

 

 思考が一瞬停止する。

 雨宮吾郎の名前を知っていると判断し、彼との関係について聞こうと思っていただけなのに、まさか転生していたのが本人だったなんて、思いもしなかった。

 

「せんせ…?」

 

 しかし、それはそれで好都合でもある。殺された本人に申し訳ないが、色々と聞く事が出来る。

 これで俺の疑いが立証されれば、色々と立ち回れるようになる。

 

 そう思い、口を開こうとしたその時、俺でもない、アクアでもない、もう一人の絞り出すような声がした。

 

「せんせ、なの…?」

 

「?えっと…僕を知ってる、のか?」

 

「知ってる…知ってるよ。せんせ、私の事分からないの?」

 

 ルビーが、必死にアクアに─────違う。()()()()に呼び掛けていた。

 しかし、当の本人は思い出そうとしてはいるが、心当たりはないようで、首を傾げていた。

 

「さりな。せんせ、さりなだよ!」

 

 ()()()。その名前に俺は全く聞き覚えはなかったが、アクアには違ったらしい。

 

 ルビーがその名前を口にした途端、硬直したかと思えば次第に驚きに目が見開かれていき、アクアは震える口を動かす。

 

「さりな、ちゃん?さりなちゃん…え?さりなちゃん?」

 

「うん、うんっ…!さりなだよ、せんせ!」

 

「…」

 

 さりなという名前を繰り返すアクアに、アクアにさりなと呼ばれて感極まって涙を流すルビー。

 

 そして、その会話についていけずにただ黙って耳を傾けるだけの俺。

 

「せんせ!せんせ!せんせぇっ!!」

 

「さ、さりなちゃん!ちょっとまっ…ふごっ!?」

 

 ここ最近の元気のなさはどこへやら。

 ルビーは勢いよくアクアに向かって飛び込んでいき、両腕を広げて抱き着いた。

 アクアは慌てた様子でその場から離れようとするも間に合わず、ルビーの激しい抱擁を受けながら背中から倒れ込む。

 

「アクア、大丈夫か?」

 

「せんせぇ…!本当にせんせぇだ…!私…私ぃっ…!」

 

「…」

 

 強く背中を打った様に見えた為、アクアに容態を尋ねるも聞こえていないらしい。

 アクアは呆然としつつ、しかしルビーの抱擁に答えて両腕を回しながら、片手でルビーの髪を撫でていた。

 

 傍から見れば可愛らしくも微笑ましい、兄妹のやり取りにも思えるが、実態は全く違う。

 前世で知り合いだったと思われる二人の男女が、感動の再会を果たしたという、二人の見た目からは考えられない出来事が、目の前で起こっている。

 

「(よし。少しだけこのままにしておこう)」

 

 立て続けに色々な事が起こり過ぎたせいで、俺は限界を迎える。

 

 俺は今、考えるのを止めてしばらく二人を放って置く事にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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