これはとある夢のVRMMOの物語。   作:イナモチ

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暴食の王威と予期せぬ邂逅

双極の暴虐が天地を抉り、全てを無に帰す。

 

あらゆる抵抗を押し潰すが如き圧倒的な強制力に抗う術は無く、しかし使徒は膨張する領域から超音速で逃れ続けた。

 

 

自然ダンジョンは完全に分解され、空間の崩壊も遠くから観測できる程に巨大化した。

 

 

そろそろ頃合いだろう。

 

 

暴食(グラトニー)、第二段階移行。」

 

 

「・・・・(承諾)」

 

 

俺の言葉を合図に暴食(グラトニー)の収縮と膨張が止まり、一対の怪魚(両儀)が更に分裂する。

 

白い怪魚()赤龍(太陽)白龍(少陰)に分かれ、黒い怪魚は()青龍(少陽)黒龍(太陰)に分かれた。

 

 

4体の龍(四象)の能力は一対の怪魚(両儀)からガラリと変化し、一対の内部で完結していたリソースが外界を巻き込んで循環し始める。

 

四体の龍が各々四季や属性を表す四象を司り、リソースが枯渇し切った死の大地に脅威的な速度で自然が再生していく。

 

無から生まれた植物が次々と見上げる高さまで成長し、僅かな静電気から成長した雷炎(プラズマ)が無差別に周囲を焼き焦がす。

 

 

空中に形成された浮島の様な山が隕石の様に墜落する。

 

 

物質やエネルギーが目紛しく変質し、物質や空間から発生したモンスターが個としての自我を獲得する。

 

 

過酷な環境に適応した屈強な生命、淘汰された脆弱な生命、皆等しく塵芥へと消えていく。

 

 

かつての自然環境以上に“濃過ぎる”自然魔力が法則を過剰に捻じ曲げ、煮えたぎる泥沼の様な混沌を作り出した。

 

 

劇的過ぎる環境の変貌に巻き込まれた使徒の生命力から無数の植物と蟲、菌類が異常発生し、更に【樹木化】や【化石化】といった特殊な状態異常を重症化させた結果、使徒は身構える事すらままならず徐々に取り込まれていく。

 

 

 

やがて無数の遷移と撹拌渦巻く混沌の坩堝に呑み込まれ───

 

 

 

────自己同一性を喪失した使徒は廻りゆく世界の一部になった。

 

 

暴食(グラトニー)の第二段階《四象》は広域殲滅型の《両儀》から世界のリソースの循環を急激に促進し、超自然法則によって変異した極限環境を形成する広域制圧型に変化する。

 

 

範囲内の存在に対して強制力が強く働くという点では変わり無いが、分解の即効性が失われる代わりにより広い範囲に効果を発揮し、即死級の殺意が高過ぎる状態異常と極限環境で滅殺するスタイルに切り替わるのだ。

 

 

俺は知覚では捉えることが出来なくなったことを確認すると暴食(グラトニー)を解除した。

 

 

周辺一帯に天変地異を引き起こした四体の龍が霞の様に消えて、卵に戻る。

 

 

・・・即死級の分解から超音速で逃れ続け、物理強度を貫通して生命を蝕む状態異常と敵対的な環境の中でも即死しないだけの耐久力。

 

 

自然ダンジョンに構築した環境も相まってシンプルに能力が高く、中々に強い使徒だった。使徒に有利な環境で戦っていれば苦戦は必至だっただろう。

 

 

また、発揮する機会を潰された未知の能力が存在した可能性も高い。

 

 

相手がリソースでゴリ押しする戦法を得意とする暴食(グラトニー)でなければ。

 

 

 

あとは後始末をどうするかだな・・・・

 

 

 

目の前は怠惰(スロウス)由来の混沌ではなく、純粋な自然法則で煮詰められた混沌が存在していた。

 

 

循環のサイクルを急加速させた事で循環の中に歪み・・・誤差が大きくなっていく所為で極めて不自然な動植物が跳梁跋扈し、生存には適さない極限環境がゴロゴロと転がっているという土地全体が深刻なバグを引き起こしている惨状。

 

 

どういう力が働いているかは不明だが液状に溶けた樹木らしきもの、高速で移動しながら轟音と衝撃波を撒き散らす草花なんかは自走する爆弾としか言えないが、これでも“非常に常識的”なレベルと言えるだろう。

 

 

極限環境と状態異常に適応・・・汚染されたモンスターはもっと頭がおかしい事になっているからだ。

 

 

もはや立つ鳥跡を濁すどころか放射能汚染級の自然破壊だが・・・このまま放置してたら不味いことは確かだ。

 

 

具体的には【発明王】のアトリエや【死源竜肉】(アンノウン)みたいな変なのが湧いて周辺環境を木っ端微塵に破壊するフラグが立ちそうな気がする。

 

 

 

怠惰(スロウス)みたいな明確な敵意を持って侵略するタイプじゃなくて暴食(グラトニー)の“超”自然由来だから被害はそれほど広がらないとは思うが。

 

 

精々が未知のモンスターが発生するぐらい(※認定型の伝説〜神話級UBM相当)だろう。

 

 

色欲(ラスト)、出来るか?」

 

 

人型に変身した色欲(ラスト)が目の前の混沌をじっと見つめ、頭を横に振った。

 

 

「無理・・・混ざり過ぎてる。」

 

 

もはや土地そのものが無限増殖する癌細胞レベルで変異している為意図せずして解析が妨害され、暴食(グラトニー)なら兎も角色欲(ラスト)が取り込めばエラーを引き起こす異物となる。

 

 

“バグをデバックするスキル”が有れば別と色欲(ラスト)は言ったが今まで学習してきたのは主に戦闘に役立つモンスターのスキルばかりであり、【詐欺王】の様な非戦闘系スキルは非常に少ない。

 

 

というかバグをデバックするってどんなジョブやモンスターだったら可能なんだ。いっそ自己開発機能を有した対化身用決戦兵器でも取り込めば解決出来るのものなのか?

 

 

色欲(ラスト)の欠点は“教材や基盤”が無ければどうしようもないという学習系や模倣系が克服することの出来ないデメリットそのものにある。

 

進化論:樹形図之設計者(オーヴァー・ラスト)》が幾らスキル同士を交配する事が出来たとしても、原型となるスキルが目的から余りにもかけ離れていると非常に遠回りで非効率的なスキルにならざるを得ない。

 

 

出来上がったスキルが偶々突然変異でも起こせば別だが、それにしてもやはり目的に合致したスキルはあるに越したことは無い。

 

 

そんな理由で色欲(ラスト)にもこれはどうにもならんらしい。

 

 

仕方ない。問題のエリアを切り離すしかないか。

 

 

色欲(ラスト)が【アイテムボックス】を分析して獲得したスキルを基に、その他のスキルと組み合わせて進化した空間系のスキルが突然変異した土地を空間ごと切り取って閉鎖し、球体のアイテムに封印した。

 

 

これで手持ちの【アイテムボックス】にいれてしまえば問題ない・・・筈。

 

 

ただ内部の時間は止まっていないので放置してたら机の中に入れたまま腐ったアイスクリーム(実話)の様に悍ましき何かの温床(生態系)となる可能性は非常に高いが。

 

 

あとは適当に“証拠隠滅のスキル”《裏口実(リバーシング・サン)》とその他諸々のスキルで地形を誤魔化して・・・

 

 

 

ヨシ!(現場猫)

 

 

 

俺は何も見なかったし、ここには何も無かった。

 

 

 

そういう事になった。

 

 

 

 

・・・・・・・・

 

 

一方、“墜落地点”では・・・使徒が残した残滓によって“変性”した◾️◾️が周辺の物質を取り込み、成長し始めた。

 

 

僅かな残滓と物質から発生したそれに本能の様なものは存在しても知性は存在しなかったが、墜落地点に寄ってきたモンスターを取り込んだ事で曲がりなりにも知性と呼べるものを獲得した。

 

 

ただ周辺の物質を取り込むだけの◾️◾️が知性を獲得し、“より効率の良い獲物”を認識した事で事態は急速に進行していく。

 

 

混沌の使徒の本質はその卓越した戦闘能力では無く『環境改変能力』。

 

 

怠惰(スロウス)にとって使徒は”使い捨ての駒“に過ぎず、使徒が構築した環境を死守する事が可能な程度の戦闘能力を与えたに過ぎない。

 

 

使徒が構築する環境はラビドラが仮称として『蕾』と呼んでいるもの。

 

 

使徒の役割とは『蕾』を構築し、それを死守する事。

 

 

しかし使徒の“残滓”からでも高次的法則を付与する機能を除き、自律した極めて小さな『蕾』を構築する事は可能だった。

 

 

怠惰(スロウス)は賭けに出た。

 

 

使徒単体を召喚した所で同格の“フィン”に負けるだけで終わってしまう。

 

 

故に怠惰(スロウス)は使徒と自然ダンジョンを囮にして注目を集め、その残滓のみで極小の『蕾』の構築を試みた。

 

 

周囲を取り込み自動的に成長する『蕾』は一定の規模になる事で『花』となり・・・極上の触媒へ成長する。

 

 

怠惰(スロウス)の目的は存在する位相が異なる自らが現実世界に顕現し、最終目的たる◾️◾️の◾️◾️◾️ を為す事。

 

 

触媒となった『花』とは怠惰(スロウス)にとって専用の召喚器に他ならない。

 

 

更に、怠惰(スロウス)の召喚は“使徒の顕現以上”の余波を生み出し、隕石の墜落とは比べ物にならないレベルの壊滅的な被害を齎す。

 

 

世界と◾️◾️◾️ の接触、禁忌の引鉄“◾️◾️接触”が起きるまであと────────

 

 

 

成長途中の『蕾』に近づく足音がした。

 

 

「・・・ん?何でこんな所に凄まじく環境問題になりそうな物体Xが落ちてるガル?」

 

 

それは”隕石の様な“衝突音の発生源を調べる為に来た、カンガルーの様な着ぐるみを装備した奇怪な人物だった。

 

 

”より効率の良い獲物“を認識した『蕾』の触手が機敏な動きで襲い掛かる。

 

 

特異的な力によってあらゆる防御手段を貫通する触手は予備動作が存在しない脅威的な早さを以って動いていた。

 

 

 

一撃必殺の触手が反射的防御や着ぐるみを容易く食い破り、接近した人物の肉を貫く・・・

 

 

 

 

筈だった。

 

 

 

 

べちゃり、と触手だったものが”破壊“され地面に撒き散る。

 

 

 

僅かでも知性を獲得した『蕾』が驚愕という感情を初めて覚えた瞬間「襲い掛かってきたって事はぶっ壊して問題ないガル。」

 

 

 

上から全力で叩き込まれる拳。

 

 

 

ただそれだけで『蕾』に侵蝕された環境全てを木っ端微塵に粉砕し、完全に”破壊“せしめた。

 

 

破壊された『蕾』と侵蝕された物質はリソースとなって世界から消えていく。

 

 

 

それは・・・

 

 

 

怠惰(スロウス)にとってありえない事だった。

 

 

『蕾』は物理的・魔法的攻撃に対して耐性を持ち、尚且つ破壊されてもリソースに還る事はなく時間経過で元通りに戻る。

 

 

だからこそ、“物理的に破壊されただけ”で『蕾』が完全に破壊されたのは明らかな異常事態だ。

 

 

しかし『蕾』や使徒を失った怠惰(スロウス)が原因を究明する事は出来なかった。

 

 

暴走した怠惰(スロウス)憤怒(イラ)と同様事態を重視した同胞たちによって封印されたからだ。

 

 

「ドロップアイテムはなし。《破壊権限》が発動したって事は何かしらあったって事だが・・・まるで墜落してきた“惑星外生命体”みてーなやつだったクマ・・・ガル。」

 

 

『蕾』を木っ端微塵に破壊した拳を不思議そうに見ながら、事情を知らないカンガルーの様な着ぐるみはつい先ほど出来た新しいクレーターの中心で首を傾げた。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

俺は再びニッサの宿に戻ってきた。

 

 

脳の疲労と気疲れからか酷く体が重く感じる。

 

 

そういえば金がねぇ。

 

 

「あぁ〜〜」

 

 

俺は肺の中の空気を全て入れ替えるぐらい溜息を吐いてベットに倒れ込む。

 

 

気分はヤンチャな子供に振り回されるシングルファザーだ。悪戯の規模と極悪さは雲泥の差だが。

 

 

【詐欺王】のスキルで人間に擬態出来る様になった色欲(ラスト)がベットに腰掛ける様に現れた。

 

 

さらりと流れる長くて蒼い髪と贔屓目なしに将来有望そうな顔立ち、小さくて細い手指、ほんのりと漂う花の様な甘い香りは間違い無くカーソンの血が流れている。

 

 

だが脳を限界まで酷使した俺に“フィン”を猫可愛がりする気力が湧いてこなかった。

 

 

マヂムリ。モウオトウサンツカレチャッテ……ゼンゼンウゴケナクテェ……

 

 

枕に顔を埋めていると色欲(ラスト)が頭を撫でてくる感触と、回復系のスキルが使われている感覚が伝わってくる。

 

 

鉛の様に体全体にのしかかってくる疲労感が雲の様にふんわりと軽く、ピリピリしていた心が安らいでいくのを感じた。

 

 

瞼が重い。俺も限界が近い様だ。

 

 

子守唄の様なゆったりとした穏やかな歌声が聴こえてきた。色欲(ラスト)が歌ってくれているのだろうか・・・教えていないのに随分上手な事だ。

 

 

 

カーソンがいた頃を思い出しながら、俺はゆっくりと深い眠りに落ちていく。

 

 

 

毛布を掛けられた感触を最後に、俺の意識はぷつんと途切れた。

 

 

 

 

 

「・・・おやすみなさい、◾️◾️◾️ ◾️。」

 

 

 

 

 

少女が寝息を立てて熟睡し始めたラビドラから手を離し、その横に潜り込む。

 

 

 

・・・“フィン”はリソースの吸収を除いて睡眠や食事、休息といった行為は根本的な問題としてする必要が無い。

 

 

“フィン”は生まれながらにして肉体と魂の限界を超越したあらゆる種族のヒエラルキーの頂点に立つ存在であり、精神生命体としての側面を併せ持つ為夢幻と現実の相互干渉を可能とする。

 

 

故に“フィン”が卵や大樹、怪魚といった“既存の生命体”を模した姿形をとることはあってもその実態は単純な物理的存在だけに留まらず、魂を具現化した状態を保ち続けているのだ。

 

 

だがそれは魂という弱点を晒すという事では無く、寧ろ逆に肉体と魂の境界が無に等しいという事。

 

 

魂が傷付いても肉体が持つ自己治癒力によって自然回復し、魂が死んだとしても肉体が活動していれば肉体に刻まれた情報から魂が復元され、

 

 

肉体は魂という非物理的存在としての特性を如何なく発揮するため“魂を傷付ける攻撃”でなければ肉体を滅ぼしても完全に死亡する事はなく、魂から復活する事が出来る。

 

 

要約すると肉体と魂の良いところ取りした上で、完全な相互修復機能が基本能力(デフォルト)という事だ。

 

 

肉体が眠ろうと魂は眠らず思考し、肉体が損耗しようと魂が完全に復元する。

 

 

故に生物としての三大欲求は存在せず、睡眠や食事といった行為は意味はあっても必要ではなく、あくまで“模倣”あるいは“活用”したものに過ぎない。

 

 

だが、それならばそもそも色欲(ラスト)が人化する必要も無いと言うことに他ならない。

 

 

高位モンスターが分割したリソースで人形を作り人化するなら兎も角、色欲(ラスト)が人化に用いるスキルの原理は物理的に肉体を整形するといったもので省エネ効果がある訳でもなく発動するだけ無駄・・・つまり趣味趣向程度の意味しか持たないのだ。

 

 

ラビドラに対する効果を期待するならば熟睡時では無く起きている時の方が効果があるのは明白であり、この場において人化するメリットは何一つとして存在しない。

 

 

なんならデフォルト状態の卵の方が“一番効率が良い”。

 

 

つまり───”根っからの効率主義者“である色欲(ラスト)が人化したまま睡眠に移行する確率は、極めて低かった。

 

 

 

“白い少女”はラビドラの隣で微睡む夢を見る。

 

 

 

これはとある夢のVRMMOの物語。

 

ラビドラが”色欲(ラスト)と認識していた存在“は一体誰だったのか。

子供の教育方針はどれにする?

  • 蠱毒にぶち込む
  • 普通の子供のように育てる
  • 子供の為だけの揺籠()で育てる
  • 放任主義。子供は勝手に育つ
  • 帝王に愛など要らぬ!!

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