「じゃ、手筈通りに。」
俺は【詐欺王】に《偽名》を掛けて貰う為に手を差し出した。
【詐欺王】も心得たように手を取り、《偽名》を発動させる。
「・・・ん?」
だが、怪訝な表情になった【詐欺王】の反応は思わしくないものだった。
「少し待て。《偽名》の反応が可笑しい。」
何度も《偽名》を発動させる【詐欺王】。その度に表情は真剣なものになっていく。
だが、俺のステータスの表記は全く変わらない。相変わらず見られたらヤバいとしか言いようが無いステータスのままだ。
「《偽名》自体は発動している・・・だが・・・」
睨む様な表情で【詐欺王】は呟く。
「・・・なんだこのステータスは。」
はて、モンスターになってたり種族が魔王だったりするがそれ以外は特に特筆すべきステータスは無かったはずだが?
「お前に発動した《偽名》の反応は人やモンスターどころかアイテムに対して発動した反応ですらねぇ。最初からステータスが存在しないものに向けて発動した感じだ・・・」
へぇ、このアバターに対して《偽名》や《看破》を使うとそんな反応になるのか。
「それこそお前らマスターが使うエンブリオのような・・・。【死霊王】・・・いや、違う。」
これなら少なくとも俺のステータスを他人が見る事が出来ないことが証明された訳だ。思わぬ副産物ではあったが。あ、でもスキルの反応で【詐欺王】みたいにバレるのか。
「詳細は知らないがアイツのエンブリオとジョブは耐久型・・・こんな真似は出来なかった筈だ。」
得体の知れないものを見る目で【詐欺王】は密かに距離を取っていく。
ルン・バ・ンルに渡した端末からコンタクトを取ってきた正体不明の存在から。
「テメェ、ルン・バ・ンルじゃねぇな・・・!!誰だ!!」
そうだな・・・ステータス、は俺には見えるけどもう無いんだったか。新しい名前がいるな。
ジョン・ドゥ、アランスミシー、名無しの権兵衛、名亡、アンノウン、無名、ナナシ、ノーネーム、ネームレス・・・
【詐欺王】は一見緊迫した空気の中、冷静に目の前の対象を分析していた。
(殺気は感じられない。だがコイツは《気配察知》どころか《偽名》すら反応しない。もしかしたら《危険察知》にも・・・)
少なくともこの場で全く反応していない《危険感知》の信憑性は限りなく低い。
もはや目の前の人物が【死霊王】と同一人物だとは感じられず、敵対の意思すら見えないのが酷く不気味だった。
(あるとしたら【死霊王】の端末を奪い、罠に誘き出された可能性が一番高い。だが、一体何が目的だ?それが事実だとするならばコイツは少なくとも〈超級〉以上の・・・!)
元の名前も消えた事だし新しい名前にはアナグラムを使うとして・・・この世界風にしたらこんな感じか?
「今後はラヴィオドラ・・・少し長いな。略してラビとでも・・・一気に可愛くなったな?レビィ、ラヴィオ、ラドラ、ヴィオ、レオ・・・は微妙に原型が残って無いか。」
まぁいいや、適当にラビドラで。
【もかでぃあ】の名付け親となったマスターのネーミングセンスはかなり適当だった。
「まぁ、待て待て。俺の正体は兎も角お前と敵対するつもりは無い。その反応だって俺の想定外だ。」
例え俺が元【死霊王】だと主張したとしても【詐欺王】に取って信憑性は薄いだろう。エンブリオは封印されているし特典武具だって模倣したものと思われればそれまでだ。
だから【契約書】を使う。
「破れば俺の死が確定するペナルティを盛り込んだ【契約書】。この場に限り俺は一切の攻撃と虚偽申告が出来なくなる。そして質問に俺が答えたく無い場合は黙秘。もちろん其方から攻撃を受けた場合この縛りは消えるが。」
【詐欺王】は丸めて放り投げられた【契約書】の文面を注意深く観察してからサインした。
「まず聞くがお前は誰だ。所属と目的を言え。」
「俺は【死霊王】ルン・バ・ンル・・・だった。まぁ、人間辞めたら名前も何もかも消えたが。所属は一応お前んとこの外部協力者に該当するんだが訳あって今は臨時休業中だ。お前に会いに来たのは見ての通り少し表で活動しづらい体になったから、だな。」
一応筋は通っている・・・と【詐欺王】は考えた。だが【契約書】で縛られているのは虚偽申告。本人が真実であると心から思っていれば【契約書】や《真偽判定》には反応しない。
暗示や洗脳、その他小細工を弄すれば裏を掻くことは出来ないわけでは無い。
【詐欺王】自身、同じ芸当は出来るからだ。そしてルンバと名乗っていたマスターも出来る事を知っていた。
何より目の前の存在は何者かのエンブリオである可能性が濃厚という事。エンブリオの能力は千差万別で全てを把握できている者はどの国だろうが存在していない。
故に、他者に成り替わる類の能力を持っている〈超級〉と仮定するのであれば辻褄は合っている。
「・・・他に何か証明出来るものは?」
ルンバが常に連れ歩いているカーソンの姿がない事。突如ルンバ本人がグランバロアから消息を絶った事。完全に気配を消した隠形の業。ルンバに持たせていた通信端末。
それらは目の前の存在が偽物である事を裏付ける判断材料になり得た。
だから【詐欺王】は出来うる限りの情報を引き出し、この場から遁走することを決断していた。
他者と成り替わるエンブリオ。戦闘に特化した凖〈超級〉を倒しうる存在。
それはどれか一つでもあれば一組織を壊滅させるには十分という事実を示している。
(必ずコイツの情報を持ち帰る。もし目的は最初から俺だったとしたら・・・コイツは危険過ぎる!!)
【詐欺王】は潜入に特化した超級職。高レベルの《偽名》になるとステータス表示を書き換えるだけではなく偽装した他系統のジョブのスキルまで使用できるようになる。
その代わり、詐欺師系統は他のジョブとの相性が悪く、《偽名》は詐欺師系統をメインジョブにしなければ使用不可の上、《偽名》で使用できるジョブスキルは元のスキルを再現した劣化版となる。
だが、他者と成り替わるエンブリオが成り替わった人物の力を使えるのであれば。
エンブリオがスキルレベルEXの《偽名》を補助的に使用するのならば・・・詐欺師系統の欠点であるジョブの相性を無視出来る。
そして何よりエンブリオが持つ他者に成り替わるという性質上、元となった対象はどうなるのか。
容姿、能力、記憶・・・対象に成り替わる為に必要なものを、何処まで奪われてしまうのか。
不死のマスターは兎も角、ティアンである【詐欺王】が穏便に済ませられるとは考えにくい。
機密情報を記憶から読み取られた【詐欺王】は始末され、【詐欺王】に成り替わったエンブリオが組織を乗っ取る。
本来騙し掠め取る側である筈の【詐欺王】がその全てを奪われる。
それが【詐欺王】が想定する最悪の未来だった。
「他に証明できるものかー。カーソンは今居ないから・・・超級武具が良いか。」
俺は満天の星空のごとき輝きを放つ海色の卵を取り出した。
超級武具。
それはつい先月襲来した【双胴白鯨 モビーディック・ツイン】という〈SUBM〉を討伐した3人に与えられた超級を冠する特典武具の名称だ。
超級武具を有しているのは現時点ではグランバロアの【大提督】、全国から指名手配された【盗賊王】、そして・・・突如消息を絶った【死霊王】の3人のみ。
フィンと呼称されている超級武具はマスターの意図に応じて実体を持っている掌サイズの卵から反転し、実体を持たない巨大な異空間へと変貌した。
TYPE:テリトリーと同じように能力が付与された異空間はフィンの固有スキルである《
フィンは卵の姿をデフォルトとして、スキルに対応した形態が幾つも存在している。
それは斬るという行為に最適化された剣が極めてシンプルで美しい形を取るように、フィンは機能に対して最適な形になる能力を有していた。
一方、突然プラネタリウムのように真っ暗な空間と星々の輝きに包まれた【詐欺王】は愕然とした表情で目の前の人物が同一人物である事を確信した。
故に【詐欺王】の深読みから発生した深刻な誤解は解けた、が・・・
(嘘だろ・・・これは一体、何が起きて・・・いや、これは一体何なんだ!?)
周辺一帯の空気が凍り付いたと錯覚するほどに深く、異空間全体に満たされた超越存在の気配。
幻想的な美しさを誇る異空間に対し、【詐欺王】の全感覚は底無しの奈落から発される本能的恐怖を感じ取っていた。
神々しいというより、とにかく巨大な質量で全てを押し潰さんとする存在感。
禍々しいというより、光や熱どころか存在する全てを飲み込もうとする虚無。
果てしなく巨大な何かの核心に迫ったような感覚。思考を放棄し、決して理解してはならぬもの。
それは本来、剥き出しになった超高密度の情報だけで感じ取ってしまった存在の精神を容易に消し飛ばす程の威力を有していた。
【詐欺王】が体感したそれは安全圏まで抑えられていたが、【詐欺王】は畏怖のあまり一気に身体中から汗が吹き出し、着ている狩人装束がずぶ濡れになる気持ち悪さを全身で味わう事となった。
そして、それだけで終わらなかった。
【詐欺王】にとって幸か不幸かこの場で発狂して廃人にならなかったのは果たしてどちらか。
現実は【詐欺王】が想定した最悪を容易く上回る。
「ふむ・・・丁度良いからコレもフィンに組み込むか。確か、【契約書】で禁止されているのは虚偽申告と攻撃だけだったよな?」
ラビドラは正気のまま知己と組織を平然と切り捨てる決断を下した。
かつてルンバだったもの・・・既に在り方が人間から逸脱しているラビドラは繋がりのある組織をフィンに捧げる事を一切躊躇わない。
【契約書】の抜け道は本人が契約に反していないと認識している事。
フィンにとって少なくともそれは害意や敵意が伴うものでは無い為、また、それを知っているラビドラがそれを攻撃とすら認識しなかった為。
想定出来ていた筈の【契約書】の仕様の抜け道を使われた【詐欺王】の命運は決まった。
巨大な異空間が変貌の予兆を漂わせる。
《
宇宙空間の様な広大な異空間が圧縮され、無数の光点が発する光量が強まっていく。
その固有スキルが司るものは特異点的進化の権能。
元となったSUBMの能力の複合による驚異的な相乗とそれに付随する偉業を顕したもの。
■■の理を為す固有スキル────── 《
象るは栄光を誇示するがの如く燦然と輝き、無数に枝分かれした極光の大樹。
光り輝く大樹から伸びた繊維の群れが本能的恐怖に縛られた【詐欺王】の体を包み込み、やがて人間大の光の繭と形成した。
そして【詐欺王】を構成する無形拡張情報が光学繊維状の根を通して解読され、【詐欺王】の情報は中枢へと集積後、集積された情報を元に【詐欺王】の能力を模した原型を作成。
作成されたばかりの原型からはステータス表示を偽るスキル《
更に幾つかのスキルは既に蓄積されていたモンスターの原型から派生したスキルと結び付き、一つの固有スキルに内包されたスキル群は派生と結合によって多様化を繰り返す。
この固有スキルは種族の違いや自然淘汰による絶滅等、進化の制限となるものを廃し、矛盾をも内包した無数に広がる選択肢の組み合わせを可能にする。
それは本来存在し得ない選択肢含め、次代への繁殖、生命の連鎖、ありとあらゆる進化の歴史を単身で網羅し、体現するという事。
《
光り輝く大樹はつい先ほど獲得した《
そして、《
「・・・もっと、頂戴?」
面影を残した幼女の形をしたものから溢れ出す超越者の気配。
人畜無害な容姿とは乖離した凶王の風格。
貪欲なまでに、いや、最初からそうあれかしと生まれたモノから発せられた言葉は他者を傅かせる威厳に満ちている。
だがしかし、幼女の姿になった光り輝く大樹は確かに最適解を導き出していた。
というか、そこまでする必要も無かった。
何よりも卓越した超越者が最初に導き出したのはただ一つ。
即ち、ロリコンという性癖持ちかつ超弩級の親バカに貢がせる方法、であった。
これはとある夢のVRMMOの物語。
バランス崩壊?いいや、世界を滅ぼすとはこういう事。
バランスとは個体における相対的な強さの範疇に収まるという事。どれほど相対的尺度から逸脱し、バランス崩壊を謳おうと世界を滅ぼすにはまだ足りない。
何故ならそれは基準点とするべきものを最初から履き違えているから。
先天的に強大な固有スキルを複数保有し、後天的にありとあらゆる性質を持ち得る完全な生命体。
幼体が成体となり、全てを集積し全能に至った時、人は正しく神を見るだろう。
それは既存の規格では計り知れないが故。それが真に規格外を冠するに値するが故。
幼女の悪魔<何故ならお前は未来で最悪な死に方をする!!
幼女の悪魔<幼女最強!幼女最強!オマエも幼女最強と叫びなさい!!
子供の教育方針はどれにする?
- 蠱毒にぶち込む
- 普通の子供のように育てる
- 子供の為だけの揺籠()で育てる
- 放任主義。子供は勝手に育つ
- 帝王に愛など要らぬ!!