黄河から始まった世界を巡る放浪の旅は終盤に差し掛かった。
黄河から始まり、カルディナ、皇国、レジェンダリア、グランバロアと続き、俺はアルター王国へと足を運んでいる。
〈アクシデントサークル〉は周辺地域の自然魔力を喰らい尽くす勢いで吸収しているフィンがいるため道中は比較的安全であり、弱体化した力を取り戻すため試行錯誤を繰り返していた。
取り敢えず分かったのは種族:魔王というのがステータスやスキル、成長傾向に際立った特徴が無く何かしらの影響を受けている様子が全く無いという事だ。
今の俺はモンスターと同じように成長するためジョブの恩恵を受けずともレベルを上げ、幾つかスキルを獲得している。
レベルアップ時に起こる成長はどうやら固定では無いようでレベルアップに至るまでの過程がある程度反映されているらしい。
魔法を使えばMPが、速く動けばAGI、攻撃や毒物を摂取すればENDが成長し、使用頻度の少ないステータスも全体的に底上げされている。
また《死霊術》や《気配察知》など以前使用していたジョブスキルも自力で再現する事で獲得出来ている。ただ、このアバター自体の性能が全盛期とは見る影もないせいで以前と同じように使用する事は出来ない。
ただ、何というかもしカーソンがこの場いたのならば最も使用頻度が多かった《危険察知》の練度が凄まじい勢いで成長しそうな気がする。
現状、死ねない俺にとって危険回避系のスキルは文字通り命綱だ。
しかしカーソンの存在は危険回避系のスキルの成長にこれ以上ないほどブーストがかかりそうだが、おいそれと死ねない以上、ある意味これで良かったのかもしれん。
正直なところカーソンが自重してくれるかどうかといったところだが・・・
「最悪の場合、復活したカーソンの手で豚箱行きかもしれんからな。」
俺はカーソンが発狂しそうな事を率先して実行に移したし、俺が死に瀕する行為が今後カーソンにとって地雷になる可能性は想像に難く無い。
カーソンは俺をあらゆる危険から遠ざけようとするだろう。
カーソンが取りえる現実的な手段としては俺の殺害によって外界から隔離された監獄に監禁する事。
問題は俺は自衛出来るだけの力がなく、自己蘇生も出来ないためそれが現実になる可能性が非常に高いという点だ。
生まれたばかりのフィンを盾にすれば何とかなったりしないだろうか?
何食わぬ顔で下衆い事を考える父に抗議するかのように星空のような輝きを放つ球体が強く揺れる。
ダメか。・・・元より口先八丁だけでカーソンが止められてれば苦労などしなかったに決まっている。乗りこなすどころか寧ろ積極的に殺される始末だからな。
しかし、暴走するメイデンを止める方法か。今まで深く考えた事はなかったが・・・
俺は少し考えて───未来の俺に全てを丸投げする事にした。
「どの道計画にはカーソンが必要なんだ、豚箱行きだろうが墓場だろうがやるしかねぇ。」
俺は懐から通信端末を取り出した。
時間は有限だ。今の状態では計画を実行に移すことすら難しい。
その時が来るまで保険を掛けるなり準備するなり何かしらの行動を起こさねば。
「もしもし、元気してたか?俺だ、俺。・・・あぁ、依頼だ。丁度アルター王国に向かっているんだが今何処に居る?」
今の俺はモンスター扱いであるため人間社会で表立って活動する事が出来ない状況にある。
一応、【すーぱーきぐるみしりーず ぷれいどっぐ】で人間として振る舞う事は出来るのだが上級職による《看破》の前では少し心許無い。
特に魔王という種族は決して露呈する訳にはいかない。
それに痕跡は消せたとしても着ぐるみは人混みの中でも非常に目立つ為、街中での隠密行動には向いていない。
というかプレーリードッグの中の人が俺である事が一部の人間に知られているから確実に其処にいる事がバレてしまう。
なのでカーソンが復活するまで着ぐるみは封印という訳だ。
・・・・・・
レジェンダリアとアルター王国の間には山岳部に沿った交易路が存在する。
三強時代から存在するその交易路はニッサ辺境伯領に繋がっており、二カ国間貿易の要所として栄えているが、ニッサはレジェンダリアの国土に近く、レジェンダリアと違い“程よく”自然豊かであるため観光や保養地の候補としても知られている為、〈自然都市〉と呼ばれていた。
上記の性質上、国境に近いニッサは人と物の行き交いが多く、土地の近くに存在する森林や山岳地帯など天然の遮蔽物が多い。
また、一定以下の自然魔力という特定環境下でしか育たない特殊な植生の群生地でもある。
亡命と潜伏、栽培と流通。
非常に厄介な犯罪の温床になりやすい土地柄を持つニッサ。
今日も貿易と自然豊かな観光地というスポットライトが当てられている〈自然都市〉の裏側では闇の住人達がひっそりと暗躍している。
しかし逆に言えばそのどれもが密かに行われる性質上、派手に露見する事がないという事。
光と闇、両方の面を持つ〈自然都市〉は片方が目立ち、片方が闇に潜む事で一見平和で活気に満ちている光景を維持していた。
だが、そんな仮初の均衡を保っている都市に闇の住人以上に危険な怪物が紛れ込もうとしていた・・・
・・・・・
広々と覆い茂った葉によって暗くなった森林地帯の中、弓矢と矢筒を背負った狩人風の男が傾斜のついた坂を登っていく。
地上に露出した樹々の根を避け、視界を遮る藪の中をスイスイと掻き分けて行く様子から熟練の狩人である事が伺える。
幾つかのモンスターとの遭遇を隠れてやり過ごし、男は其処だけ光が差し込んでいる広場に辿り着いた。
周辺の気配を探ってから巨岩に近づき、岩肌に背を向けて座り込む。
男の《気配察知》には周辺にモンスターの気配は無く、また同時に人の気配も感じられなかった為目的の人物はまだ来ていないと判断していた。
「ふぅ、“こういったのは”俺の専門じゃないんだがね。全く、困ったもんだ。」
男は緊張が解れたからか、思わず溜め息と共に流れた汗を拭き取る。
そして、空いた時間を利用して喉を潤そうとした手が止まった。
「おいおい・・・お前さん、一体いつからいた?確か俺が聞いた話じゃ、どういう経緯か【死霊王】になったって風の噂で聞いたんだがな・・・」
《気配察知》に全く引っ掛からなかったと苦笑いしながらも心底驚いた様に言う男に返答が返って来る。
男の目の前で気配を周囲と完全に同化させていた俺は再会に喜びつつも得意げにニヤリと笑った。
「ちょっとグランバロアで色々あってな、気配を消すのが上手くなっただろう?」
挨拶がわりにちょっとした特技を披露した俺は目の前の男をジョブの名前で呼んでいる。
無数の姿と声を持つその男は特定の名前を持たず、本名ですら誰も知らない。
ただ、彼が就いているジョブの名前が彼と彼の実力を示すものとして浸透しているからだ。
「以前は手紙、前は端末越しで大分会えてなかったからな。腕は鈍っていない様で何よりだ。」
彼とはとある事をキッカケに色々教えてもらったり此方が融通したりと親しくしている。
まぁ、そのキッカケが忘れ難い出来事ではあったのは確かではあるが・・・
「まぁな。・・・にしてもお前さん、相変わらず随分派手にやらかしたそうじゃねーか!!あ!?〈SUBM〉つーとんでもねぇバケモンを単身で倒したとかいう噂まで流れて来やがったぞ!」
背中をバシバシ叩きながら肩を組んでくる男を見て、相変わらず高度なその変装のクオリティに感嘆する。
彼は使い込まれた弓に森林の中で行動するのに最適な装備、狩人特有の癖に至るまで再現している。
つまり、彼が身に付けている装備や体の癖は全てが再現された偽物。
ここまでモンスターとの戦闘を回避してきた男がまさか“一つも戦闘系のジョブに就いていない”とは思えないほどに鮮やかな変装だ。
当然、彼は【狩人】や【斥候】といった索敵系のジョブを一切持っていない。
今まで使っていたのは一つのジョブによる力だけだった。
そして、彼は完璧過ぎた。
《共振覚》という特殊な判別方法を持つ俺ですら別人かと見紛う程の立ち振る舞いは一瞬、過去に見た彼の本当の姿を無駄に逞しい現在の姿で上書きしてしまい、脳裏にSAN値直葬ものの映像が流れ出した所で俺は思考を強制シャットダウンした。
オエっ!!
精神ダメージを喰らって顔色が少しだけ悪くなった俺の肩をガッ!と太くて硬くなった指で掴み、無駄に逞し過ぎる男は言った。
「まぁ、なんだ!!色々積もる話はあるが先に用事済ませとこうや!!」
実年齢にして約17歳(生年月日不明)。12歳の時には既に超級職に就いていたという経歴、本名、出身その全てが謎に包まれている青年。
俺が出会った当時、彼は美少女と見間違えるほどの美少年だった。
彼は【詐欺王】。二重の意味で外見詐欺の容姿を持つ男。
これはとある夢のVRMMOの物語。
【死霊王】だった男と【詐欺王】の男が会った時、物語は始まる────!!
子供の教育方針はどれにする?
- 蠱毒にぶち込む
- 普通の子供のように育てる
- 子供の為だけの揺籠()で育てる
- 放任主義。子供は勝手に育つ
- 帝王に愛など要らぬ!!