これはとある夢のVRMMOの物語。


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作:イナモチ
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存在しない性癖


光の塵が何処かへと移動する予兆が無いか見届けた俺が言った。

 

「今度こそ・・・死んだか?」

 

「肯定。氷や霧の欠片もなく消失したことを確認しました。あとは討伐アナウンスだけなのですが・・・」

 

ポーションで右腕の【出血】を止めたゼタ先生が【ウラノス】の大気操作で夢幻世界内部を余す事なく精査し、モビーディックの残滓が欠片も残っていない事を確認した。

 

「・・・・・」

 

【大提督】が燃え尽きたかのように横たわっていた。

 

というか彼が起こしていた液体の爆薬化現象に、とても見覚えがある気がするんだが・・・

 

奇妙な偶然もあったものだ。

 

「なぁ、もしかしてウーパールーパーって・・・」

 

疑問を確信に変えようと俺が口を開いた瞬間。

 

 

 

その異変は《危機察知》と《殺気感知》の類を擦り抜け、異変を第一に察知出来たのはカーソンただ一人だけだった。

 

 

カーソンのガーディアン形態の黒い体表に、アルビノが広がっていく。

 

夢幻世界の各地から滲み出るように現れた赤い蛍火が舞う。

 

それはリソースと化した煌々と輝き、絶えず燃ゆる命の火。

 

赤い蛍火ーーー無形情報エネルギーは引き寄せられるように巨大な器へと収束し、吸収されていく。

 

《生命寿く巫蠱》によって燃料化されたリソースが天使の細胞を活性化し、技巧に優れたガーディアンが編纂したオリジナルスキルが起動する。

 

徴収したリソースを用いた自己再生。

 

生まれたてにも関わらず最初から古代伝説級に認定された、規格外侵緑の生命力。

 

肉の断面がボコボコとグロテスクに膨れ上がり、モビーディックの霧で消滅した体がーーー“白く変色した状態で”再生した。

 

急に俺の視界が変化して、視点の高さが低くなった。

 

黒く、巨大な怪物が至近距離に存在していた。

 

肉肉しい触手が束ねられた手脚が生えて、全身にギョロギョロと動く白い眼球が生えている。

 

カーソンのガーディアン形態を外から見たのは、何気にこれが初めてだった気がした。

 

それは竜や蚯蚓、海獣、怪魚のどれにも当て嵌まらず、強いて表現するのならば・・・それら全てが混ざった非人道的生体実験の成れ果てが表現として適切だった。

 

クトゥルフ神話の邪神の一種と言われても違和感が全く働かない。

 

もしや天使とは上位存在の神格を表現したステータスだったのだろうか・・・

 

モチーフの海洋生物学者であるレイチェル・カーソンは環境保護の啓蒙を齎したが、薬物耐性を持った病原体を生み出し、意図せずに生態系破壊の一因となった。

 

エンブリオとしてのカーソンは生命を司る天使だが、同時に破壊者としての側面を持っている。

 

カーソンの天使らしからぬ性質はモチーフの負の側面が元になっているのかも知れない。

 

 

 

AAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!

 

 

 

純白の天使が断末魔に似た叫喚を発し、霧海によって荒廃した夢幻世界が激しく鳴動した。

 

断末魔の凄惨さを感じさせながらも、世界を歌声で席巻するアリアの独唱のようであり、美麗とは裏腹に醜悪で執拗な悪意が込められていた。

 

 

夢幻世界に天使の血と肉を纏った怪物がーーー降臨する。

 

 

・・・・・

 

 

ジャバウォックが【双胴白鯨 モビーディック・ツイン】に付与したスキルは三つ。

 

第三スキル

吸収したエネルギーと水を武装へと転換し、無際限に強化される超級氷霊戦艦。

 

第四スキル

接触した質量を消滅させ、全てを滅する終末海洋のヌシ。

 

 

そして、ジャバウォックが仕込んだ第五スキルにして“第ニ次最終超級進化促進装置”。

 

その起動には幾つかの前提条件が存在している。

 

 

第三スキル《白き禍痕(ケートゥス・ナヴィス)》、第四スキル《白い虚霧(ボイドミスト・モンストロ)》が完全討伐される事。

 

ーーー復讐の徴は自己の喪失と共に消え、

 

ーーー深い虚無は己の半身を飲み、

 

ーーー再び白鯨は自己同一性を喪失した。

 

 

対象がモビーディックのリソースの一部を蓄積し、体の大半が水で構成されている事。

 

ーーー紅海は自身さえ知らぬままに敵の軀に潜伏し、霧散した己の呼び水となり

 

ーーー蒼海は巫蠱の体を、生命の起源たる水を通して己へと造り替る。

 

 

これらの条件を、カーソンは全て満たした。

 

ーーー最早鯨には何も無い。何も無いが故に鯨は欠けたものを補い、己を再定義する。

 

 

 

白鯨戴冠(テセウス・パラドックス・モビーディック)

 

 

SUBMの名を冠した最終必殺スキルは、置換した対象が消滅するまで“半永久的に“【双胴白鯨】へと置換する。

 

ーーー鯨は二度の死を超越して天敵より奪い取った白き神格を纏い、今再び現世へと黄泉還る。

 

 

 

 

「そうか。」

 

それは、ポツリと振り始めた小雨のように静かな宣言だった。

 

しかし、溢れ出んばかりの闘気がその静謐な雰囲気を根底から否定する。

 

「俺から・・・カーソンを奪うか。」

 

俺は思わず嘲笑った。

 

敵の強みを潰し、自身の戦力を現地調達。戦法自体は然程間違っていない。

 

俺にとっての好悪で言えば、俺からカーソンを奪った行為は悪でもない。

 

寧ろ手段を選ばないだけ好ましいし、小賢しくもある。

 

生死を賭けた殺し合いに正道も邪道も無く、復活しない定命の抵抗を咎める事は無粋。

 

どちらにせよ殺しは殺し、結果は変わらない。手段が正道だろうと邪道だろうと命を奪った事実は何も変わりはしない。

 

力で以って他者に犠牲を強い、不可逆的な死という現象を与える事で永劫的に自由を奪う行為が悪ではなくてなんだというのか。

 

生きるという事は、必然的に命を奪う罪を犯さざるを得ない。

 

故に俺達は皆等しく間違っているし、世界そのものが生殺与奪を肯定している。

 

殺したものは殺されても仕方ない。

 

食らったものは食われても仕方ない。

 

奪ったものは奪われても仕方ない。

 

目には目を。歯には歯を。死には死を。

 

世界から奪った清算は何れ自らに返る。世界に奪ったもの全てを奪われる時が来る。

 

生物は世界より生まれ、生物は最期の還元を迎えて世界となり、生命の苗床となる。

 

それを人は、死と呼んだ。

 

だから俺はカーソンを奪ったモビーディックを憎まない。

 

エンブリオを奪い取るという規格外さと、死から蘇る生存力に賞賛さえ覚える。

 

それに、カーソンを奪われた俺は正しく戦力を半減している。

 

それだけではない。

 

唯一の神話級武具である【誇獣闘輪】が今もカーソンの体内で融合したままだし、属性魔力変換&怨念精製機能を有した【竜禍喰匣】もカーソンの中に残留したままだ。

 

幸いにも明確に意志がある特典武具達は俺の手元に残り、カーソンがモビーディックの不死化を危惧したのか【瘴鼠衛衣】と【故旧賦活】がカーソンの中から弾き出されている。

 

それに比べ、意思がありそうな【竜禍喰匣】がカーソンの中に残っているのは・・・なんでだろうな?

 

意思疎通が出来ないせいで味方なのか使われるだけの器物なのか全く分かっていない。

 

キワモノが集まったと自負している特典武具の中でも、全く行動が読めない特典武具であり、レシピ制作に特化した【設計王】でも、再現性が皆無と思考を放棄した謎の逸品だ。

 

「お前如きがそのじゃじゃ馬を乗り熟せるとは全く思わねぇが・・・」

 

大体こいつのコンセプトは理解出来た。

 

こいつはーーー俺達三人の天敵としてデザインされたのだろう。

 

理由は分からないが、俺達を打ちのめす一種の試練のように感じた。

 

化身とやらが何を期待しているのかも不明だが、エンブリオと神話級武具を奪われただけで俺が折れると思われたのは非常に遺憾だ。

 

あまり俺を見縊るなよ。

 

他者を蹂躙したものが、蹂躙される事を恐れると思ったのか。

 

他者を踏み躙って得た誇りとは、強者が更なる強者に出会った時、卑屈に謙り無様を晒す事を選ばない。

 

死の瞬間まで抗い、糧となる。

 

それが命を背負い、生きるということなのだから。

 

無様を晒すぐらいなら、誇りを失うぐらいならーーーその意思に、命に価値は無い。

 

ではどうするか。

 

解決方法はシンプルで良い。

 

俺はただ、全身全霊を賭けて相手をするだけだ。

 

「カーソン。まだ聞こえているのならーーー《メッセンジャー・アポートシス》を使用しろ。」

 

俺の言葉が聞こえたのか、カーソンの巨体に巨大な罅が走った。

 

まるでーーー中から何かが孵化するかのように。

 

特典武具の出力上限を解除し、己がポテンシャルの全てを発揮する事を可能にする代償に、24時間以内に選択した敵対者の殺害を強制し発動者の逃亡を禁止する。

 

敗北した際のペナルティでレベル、特典武具、エンブリオ等全てのリソースが相手に移譲されるノーコスト・ハイリスク・ハイリターンの固有スキル。

 

凖〈超級〉エンブリオである【星浄巫蠱】と、SUBMである【双胴白鯨】が《メッセンジャー・アポートシス》を使用するメリットは非常に大きい。

 

第五形態に進化した事で獲得した《星天使徒・双極》の種族特性のデメリット消去・メリット強化に加え、第6形態で獲得した《生命寿く巫蠱》のスキル創造。

 

純竜級からSUBMにまで進化したモビーディックの唯一無二のポテンシャル。

 

極め付きにーーー【誇獣闘輪】の装備スキル《天上天下唯我独尊》による限界突破。

 

その全てが《メッセンジャー・アポートシス》によって強化されている。

 

今のカーソンinモビーディックは、比喩抜きに過去最高ポテンシャルを発揮する。

 

果たして《メッセンジャー・アポートシス》が発動したのがカーソンか、モビーディック自身なのかは今はどうでも良い。

 

敵に塩を贈ることになろうと、カーソンが封印されようとーーー【アガナースタ】と死合った時から既に通過した瑣末な些事に過ぎない。

 

 

ログアウトで《メッセンジャー・アポートシス》の時間切れまで待つような事はない。

 

それに1日もあればーーー奴はグランバロアを滅ぼせるだろう。

 

 

だから今はただ、過去最大の好敵手の出現に感謝を。

 

 

俺が全力を出せる相手は、俺の全力に耐えうるものに対してのみ。

 

全ステータスが5桁越えした俺の全力を受け止める事が出来るのは数少なく、最低でも古代伝説級か神話級相当の相手でしか俺の全力を出し切れない。

 

《メッセンジャー・アポートシス》を発動させたカーソンを巨大な罅が全身を包んでいく。

 

全身に罅が入ったカーソンのガーディアン形態が、限界を迎えたように脆化してボロボロと崩れ・・・

 

 

ーーー血のように赫い業火に包まれた。

 

 

それは触れたものを燃やすのでは無く、癒し、活性化させる炎だった。

 

それは生命の熱量。

 

それは生命力の具現化。

 

生命を祝福する巫女は熱と血を以って奇跡を起こす。

 

《生命寿く巫蠱》によって燃料化され、蓄積されたリソースが盛大に燃えていた。

 

それは、伝説の不死鳥の生誕に似ていた。

 

燃え尽きた灰の中から新生した生命の化身が顕われる。

 

 

 

ステンドグラス越しに差し込むような柔らかい光を放つ光輪。

 

天上の触感を有した羽毛によって構成された六対の白翼。

 

四肢に付けられた唯一無骨なデザインの白い【誇獣闘輪】。

 

周囲を浮遊し、衛星のように飛び回る白い【竜禍喰匣】。

 

爪先までありとあらゆる美を詰め込み、人間離れした美肌を誇る手足。

 

黒から海色に染まり、赤色光を吸収する深い藍の瞳。

 

柔らかい乙女の小さな唇と整った目鼻が超然とした雰囲気を醸し。

 

海色の滑らかな髪は白く染まり、絹の様に波打って虹色の反射光で輝き。

 

全身に薄く纏う聖属性の魔力と怨念が、妖艶で神聖な相反するオーラを放つ。

 

 

白。

 

 

カーソンがいつもゴシック調の服に着けていた、名も知れぬ白い花弁が舞っていた。

 

戦場で惚けることの愚かさ。

 

それでも、自然と言葉が零れ落ちた。

 

 

「綺麗だ・・・」

 

 

その存在に、否応無しに目を奪われる。

 

心臓が恐怖では無く、未知の感情によってバクバクと震えていた。

 

魂が蕩けそうな悦びに満ち溢れていた。

 

 

敵にこんな感情を抱いたのは、初めてだ。

 

分からない。

 

これはどういう感情なんだ?どうしたらこの狂おしい感情を解消できる?

 

誇りを賭けて闘いたいのか。

 

血を浴びるように殺したいのか。

 

狂ったように目合いたいのか。

 

分からない。

 

俺にとって未知の経験だった。

 

 

穢れなきあの存在を穢し、徹底的に組み伏せ、屈服させろと、俺の獣性が叫んでいた。

 

あの白い皮膚を食い破って血を啜り、肉を噛み千切り、嚥下しろと、俺の本能が叫んでいた。

 

全身全霊、ありとあらゆる手を用いて敵の命を剥奪せよと、俺の修羅が叫んでいた。

 

 

 

俺の情緒はカーソンの所為で殺されたいのか殺したいのか愛したいのか愛されたいのか喰いたいのか喰らわれたいのか、もうぐちゃぐちゃだった。

 

 

少なくともこれは・・・恋じゃない。もっと悼ましいナニカだ。

 

 

空を飛ぶ天使が一丁の銃を具現化し、繊細な装飾が施された白い銃口が俺を捉えていた。

 

いつものカーソンとは違う悪意の殺気。

 

何故かそれが嬉しい。

 

俺は悟ったかのように晴れ晴れとした表情で笑っていた。

 

愛憎入り混じったこの感情は耽美で激しく、死に切った心臓が酷く甘く疼く。

 

【アガナースタ】以上に魅力的で心惹かれる存在を見つけることができるとは思いもしなかった。

 

存外、俺は浮気性で一途だったらしい。

 

一筋の鼻血が垂れた。

 

鉄の味がした。

 

好いた女はロリだった。

 

ーーーだから俺は、一人のロリコンで良い。

 

今はそれが真理のように思えた。

 

性癖に合致した女を口説くように俺は熱で蕩けた脳で愛を叫ぶ。

 

 

「素敵だ・・・今のお前は最高に魅力的だぜ・・・カーソンッッ!!!」

 

 

愛の告白を不快そうに顔を顰めた白い天使が容赦なく発砲し、超音速の銃弾を以って殺気籠った返答を返す。

 

俺は歯で超音速を突破した銃弾を止めて、食った。

 

舌の上で砕けていく天上の美味。

 

「バレンタインにはまだ早いが・・・本命と受け取って良いのかな?」

 

空間をぶち抜いた拳が俺の頭を殴り飛ばす。

 

殺意によるコミュニケーションが酷く心地良い。

 

遠慮なんてものはなく、心の底から思った事を行動に移す。

 

だからこそ殺し合いは相手の底が見えて来る。底に眠っていた狂気が、目を覚ます。

 

俺は塵を見るような冷たい目に興奮し、劣情を催した。

 

俺は追われるより追う方が好きだったのか。

 

困難であるほど追い求める男の心は燃え上がる。

 

いつの時代も権力者にのし上がってきた男達を破滅させてきたのは女の存在だ。

 

好きな女の前では男はいくらでも見栄を張り、暗君にも魔王にもなれる。

 

今のカーソンは傾国の魔性だ。心底から人間を憎んでいる。それがイイ。

 

本心で俺を殺したがっている。俺を見ている。

 

何度も何度もただ一人に殺されてきた俺は、ある意味既に調教済みだった。

 

恐怖心が好意に繋がるなどと、どうやら脳味噌の感情の配線がイカれてしまったらしい。

 

まぎれもなくストックホルム症候群の症状だった。

 

果たして俺は現実世界で真面な恋愛が出来るかどうかすら怪しい。

 

殺してその存在を俺のものにしたいという暗い独占欲が、猟奇的な狂気を掻き立てる。

 

一体なんなんだ、この感情は。

 

もう自分が何を目的にしていたのか、自分が何を言っているのかすら分からなくなっていた。

 

俺は一体、どこに向かおうとしているのだ。

 

 

 

愛を謳い、殺し合う。

 

 

 

そんな奇怪極まる殺し合いを繰り広げる俺を、その場の空気に取り残された二人が度し難い狂人を見るような目で見ていた。

 

 

これはとある夢のVRMMOの物語。

死を恐れぬ狂戦士。

 

自身を狂人だと自覚している狂人は存在しない。

 

恐怖心を無くし、生存本能を著しく刺激し、指向性を与える。

 

それを人は、洗脳と呼んだ。

子供の教育方針はどれにする?

  • 蠱毒にぶち込む
  • 普通の子供のように育てる
  • 子供の為だけの揺籠()で育てる
  • 放任主義。子供は勝手に育つ
  • 帝王に愛など要らぬ!!
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