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魔術師クノンは見えている 作者:南野海風

第十章

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343.赤い雨、再び





「まずいな。早く対処しないと」


 そうぼやくロジーに、シロトが言った。


「でも先生、これは前回あったんじゃないですか?」


 ――後に聞くが、シロトは事前準備として、ちゃんと調べてきたらしい。


 この実験に関するレポート等を読み漁ったのだとか。


 経験豊富なロジーが指揮を執っているが。

 この実験、リーダーはシロトである。


 責任感の強い彼女だけに、全部ロジーに任せるつもりなど、ないのだろう。


「ああ、うん、そうなんだけど……」


 走り回るカラフルなネズミたち。

 よく見たらネズミではないようだが……。


 まあ、ネズミっぽい生物たちだ。


「でもあの時は土属性がいたからね」


 土属性。

 クノンはピンと来た。


「沼ですか?」


 素早く走る小動物。

 それに対処する土魔術と言えば。


 泥沼の構築だろう。


 やはり、足を止めさせること。

 それさえできれば、あとはどうとでもなる。


 地面がぬかるめば、自由に走り回ることはできない。


 ――自分も苦労したなぁ、とクノンは思い出す。


 師ゼオンリーと訓練で勝負する時。

 足を取られる、動きを封じられる、という現象には、大いに困らされた。


 見えないクノンである。

 足を使っての移動は厳しい、が。


 それでも、動きを封じられるのは、対処に困った。


 思い返せば思い返すほど、土は厄介だ。


「いや、砂だね」


 砂。

 それもピンと来た。


「ああ、じゃあ、僕が代わりをできるかも」


 砂も大いに体験してきた。


 吹き荒れる砂。

 水分を含んだそれは、付着していくと、段々固まっていくのだ。


「水で、かね?」


「――懐かしいな。『赤い雨』だな?」


 そう、シロトは知っている。


 クノンが三派閥に属するテストで見せた、あの「赤い雨」だ。





「本体は一つで、六つの実体がある分身を作り出す。そういう生き物らしい」


 本体は一つ。

 六つの分身を出す。


 つまり同時に七体存在し、走り回っていたわけだ。


 動きが素早いので、何匹いるかもちゃんと把握できなかった。


 本体じゃないのを仕留めても無意味。

 きっと、減ったらまた増えるのだろう。


 もし対処法がなければ。


 最悪、ずっとくじ引きをさせられるわけだ。


「しかしまあ、一度に全部捕まえてしまえば同じことだね」


 霧のような「赤い雨」。

 それは少しずつネズミたちに付着していく。


 水気から水滴へ。

 水滴同士がくっついて、塊へ。


 その後、動けなくなった。

 まるでスライムに絡めとられた、哀れな獲物のように。


 あとは簡単である。


「土も便利だけど、水も多才だね……あまりそういうイメージはなかったんだけど」


 アイオンの言葉に、クノンは「たまに言われます」と返す。


「僕の師匠が多彩な人でしたからね。模倣もかなりしましたよ」


「それってどんな師匠? どんな師匠?」


 なんか急に食いついたが。


「メガネが素敵なレディでしたよ。もちろんあなたも素敵で魅力的で背が高いチャームポイントも素敵ですが」


「あ、うん。もういいよ」


 なんか急にアイオンから壁を感じた。


 あと次の師匠が……と続けたかったのだが。

 まあ、とにかく。


 クノンの水魔術の使い方は、細かい。


「それなんの役に立つの?」と。

 魔術学校の先輩たちから、時々そう言われた。


 優秀な特級クラスの生徒からしても、だいぶ細かいらしい。


 初級魔術の細分化。

 言ってしまえば、クノンの技術はそれに尽きる。


 だが、普通の魔術師からすると、目指す方向が違うのだ。


 それよりは実験するべきこと、新技術の開発が解明など。

 やるべきことはたくさんあるから。


 それこそ、クノンのように「目玉を作る」くらいの目標がなければ。

 ここまで細かく扱う必要はないだろう。


 ――まあ、その辺はいいのだが。


「それじゃシロト、始めようか」


「はい」


 異界のネズミは退治し、消えた。

 これから、壊された魔法陣の修復作業である。


 魔法陣は、特殊な塗料で描かれている。


 擦ったりしたくらいでは、消えない。

 これをいじるには、魔力を使う必要がある。


 異界からのものは、すべてが魔力を帯びている。

 少し当たったくらいなら大丈夫だが。


 さすがに上を走り回られると、所々乱れてしまう。

 ネズミのような小動物でも、だ。


 魔法陣を描く塗料は、実際は粉である。

 それを特殊な素材で固めている。


「――これで大体直せたかな?」


「――そうですね」


 まず、ロジーの魔術で塗料を融解させ。

 シロトの風で塗料を伸ばして、欠けた線や文字を埋めていく。


 これで元通りだ。


 ちゃんと魔力が通るようになり、正常に作動し始めた。


「……うーん」


 クノンは唸った。


 魔法陣の修正作業が、思ったより難しそうだったからだ。


 まず使う魔力が多い。

 次に、繊細な力加減だ。


 この作業は、今の自分にはできそうにない。


 いや――


「……」


 クノンはアイオンに意識を向ける。


 同じく、関心して作業を見ている彼女。


 彼女の協力があれば。

 クノンもできるかもしれない。


 ――まあ、その機会があるかどうか、という感じだが。





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