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魔術師クノンは見えている 作者:南野海風

第十章

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330.これからの実験について





「面倒を掛けてすまない」


 合流したはいいが、一旦シロトと別れることになった。


 彼女は荷物を運ぶそうだ。

 今度の実験に使うもので、結構な量があるとか。


 まあ、風属性のシロトなので、荷運びは問題ない。


「構いませんよ、レディ。それでは後で」


 そして、クノンはアイオンを案内するよう頼まれた。


 今度の開発実験。

 場所は、学校ではなく、ロジー・ロクソンの屋敷で行われる。


 専門的な設備が必要で。

 かつ、ロジーの長距離移動が難しいこと。


 その辺を考慮したそうだ。


 補助筋帯ベルトで歩行は可能になったが。

 長距離に加え長時間となると、身体的にきついらしい。


 衰えきった身体には負担が大きい。

 もう少し鍛えれば、もっと行動範囲も広がるかも……という話は聞いているが。


 まあ、シロトが決めたなら、文句はない。


「それじゃアイオンさん、行きましょうか」


 クノンは自然と手を差し出す。


「あ、……うん」


 アイオンは手を重ねる。


 …………。


「認めたくないですが、さすがに体格差ですかね……」


「そうだね」


 エスコートするつもりだったクノン。

 少し躊躇して、手を重ねたアイオン。


 しかし、子供に対する長身という組み合わせである。

 学んだ形のエスコートが難しい。


 なんというか。

 母親に手を引かれる子供みたいだ。


「すみません、僕はあなたを連れていけないようです。

 こうなった以上、もうアイオンさんにエスコートしてもらうしかないですが……お願いしても?」


「え? ……あ、うん……えっと、こうで、いいの?」


「ありがとう。素敵な手だ。繊細で力強く、そして繊細ですね。とても魅力的な繊細さだと思います」


「うん……」


 ――とかなんとか言いつつ、二人は歩いて行く。


 その後ろ姿を、シロトは何気なく見送る。


「……」


 弱気なアイオンの性格が、ちょっと心配である。


 なんだか受け身というか。

 受け入れがちというか。


 果たしてこのまま見送って大丈夫だろうか。


 クノンは口ほど女に興味はない。

 が、デートに誘うくらいは普通にやる。


 アイオンが断り切れなくなって、みたいなことにはならないだろうか。


 クノンをあしらうくらいはしてほしいものだ。

 いや、あれで実は割とあしらえているのだろうか。


 ――まあいい。やるべきことをやろう。


 二人に背を向け、シロトも歩き出した。





「培養液による生体パーツは作ったことあるんだよね?」


「はい。基本ですよね」


 クノンとアイオンは、歩きながら話していた。


 もう魔術の話に夢中になっていた。

 シロトの心配をよそに。


「そうだね。

 今度の実験ではそれじゃなくて、かなり特殊なやり方になるんだ」


「特殊?」


「異空性物質交換の法、っていうの。

 異界から少しずつ魔力を呼び込んで、媒体に定着させつつ受肉させていく……理屈では召喚魔法と似てるかな」


「へえ。召喚魔法ってあれですよね、よそから生物を呼び寄せるとか、そういうのですよね。

 なんかすごく準備が面倒で、現代魔術ではほぼ廃れたとか聞いていますが……」


「そう、すごく面倒なの。

 でも廃れてはいないよ。資料もレポートもちゃんとあるから。


 だから再現はできる。

 年に一回か二回、暇な子が試してるね。それから二度と触らなくなるけど」

 

 ――そういえば、とクノンは思い出す。


 前に「合理の派閥」代表ルルォメットが精霊を呼び出したことがある。

 あれも召喚魔法だったのだろうか。

 

「造魔の実験をやったことがあるなら、わかると思う。


 基本は、安定と維持。

 少しずつ変化していくものを見守るんだ。


 特殊なやり方であっても、やることは変わらないよ」


 いまいちピンと来ていないが。


 しかし、これまでに触れたことのない形の魔術だ。

 基本ではない造魔にしろ召喚にしろ。


 クノンとしては楽しみでしかない。


 ――実際は、大変な想いをすることになるのだが。


 あの魔帯箱を開発していた時と同じくらい。

 あるいは、あれ以上に。





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