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魔術師クノンは見えている 作者:南野海風

第十章

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328.追加の条件





「……そう、ですか」


 アイオンの言葉に、シロトは困ってしまった。


 ゼオンリーが好き。

 付き合いたい。

 結婚したい。


 なんとも返しづらい話である。


 ――正直、気にならないわけでもないが。


「わかりました。クノンには、あなたとゼオンリーの関係は話しません」


 まあ、大丈夫だろう。


 開発が始まれば、それに夢中になる。

 クノンはそういう奴だ。


 だから、あえてクノンに諸注意をする必要はないと思う。


 クノンは口で言うほど、女性に興味はないから。

 率直に言えば、魔術以外に興味がないから。


 本質的には同類だと、シロトは思っている。


 ――それにしても、だ。


「アイオンさんは、グレイ・ルーヴァの直弟子だと聞きました。


 それでもゼオンリーにはまだ勝てない、と……?」


 片や世界一の魔女の弟子。

 片や世界に知られる魔技師。


 肩書きだけ見れば、前者の方が腕があるように思えるが。


「天才の定義、って考えてみたこと、ある?」


 天才の定義。


「いえ……才能のあるなしで物事を判断したことがありません」


 魔術師として覚醒した。


 シロトとしては、そこからして魔術師は才能があるし、天才だとも思っている。


 天才の定義。

 本当に考えたことがないし、気にしたこともない。


 そんなものがあろうがなかろうが。

 己がやるべきことは、まったく変わらないから。


 ただ魔術を磨く。

 それ以外がないから。


「私は、自分の手札をどれくらい応用して使えるか、だと思う。


 限られた条件に限られた魔術。

 それで、どこまで対応できるか。


 どれくらい幅広く使えるか。

 使い方もそうだし、使い道もそうだし。


 その点で言うとね、ゼオン君は間違いなく、天才だよ。


 そういう天才ってね、一見なんの役にも立たなさそうな魔術に、立派な使い道を見出すの。


 魔技師の魔術……あの子なら、いくらでも実戦に利用して見せると思う。


 あの子がさぼってなければ、きっと今も伸びてるよ。

 私が師に学んで成長するのと同じくらいか、あるいはもっと早く。


 そこが、あの子の一番好きなところ。

 でも、一番厄介なところでもあるよ」


 ――なるほど、とシロトは頷いた。


「今のろけました?」


 言っていることはわかったが。

 内容は、ゼオンリーを褒める以外のものがなかった。


 指摘すると、アイオンは再びもじもじし出した。


「わかる? ……ごめんね。ゼオン君の話ができる相手なんて、なかなかいないから……」 


 まあ、その辺はいいだろう。


 アイオンが誰を好きでも、特に問題はない。 

 条件に関しても大丈夫だ。


「話を戻しましょう。

 魔人の腕の開発実験を手伝っていただけますか?」


「あ、もう一つだけ条件を加えていいかな? 話している内に思い出しちゃって……」


「はい、どうぞ」


「――私の目」


 と、アイオンは左手を上げ、人差し指で自分の左目を指す。


 花の紋様が入った目。

 呪詛師である証だ。


「クノン君、これ、気づいてないみたい。だからこれも秘密でお願い」


「ああ……」


 そうだった。

 クノンは目が見えない。


 まるでそんな様子がないから、うっかりしていた、


 彼は特に支障がなさそうに振る舞っているから。

 日常生活でも、開発実験の最中でも。


 だが、そう。


 大まかに、人や建物、障害物などはわかるようだが。


 目に入っている紋様までは。

 少し細かいものに対しては、クノンは判別できないのだろう。


 ――これに関しては誤解があるが、シロトは知らないことである。


「では、クノンはアイオンさんが呪詛師であることを知らないんですね」


 呪詛師。

 それは、勇者や聖女に並ぶ役職の一つだ。


 まあ簡単に言えば、固有魔術を持つ魔術師である。


 目に模様。

 あれは呪紋と言われるもの。


 あれこそが呪詛師である証だ。


 魔術に関わるなら、だいたいの者が知っていることである。


 だが。

 見えないクノンだけ、アイオンの呪紋に気づいていないわけだ。


 なお、呪詛師の固有魔術は「呪術」。


 要するに、呪いだ。


「知らないと思う。

 魔術師がこの目を見て、何も言わないの、すごく珍しいから……。


 あの子、近くの物ならだいたい見える、って言っていたから。近づけばわかると思うんだけど……」


 でも、それがわかるほど近づく機会もない、と。


「わかりました。呪詛師であることも話しません。

 このくらいの条件なら、あとから追加していただいて構いませんので」


「ありがとう。

 大した要求はしないと思うから、安心して。


 ……それで、実験はいつからするの? 予定を教えて」


 



 アイオンと話がついた。

 これでシロトの開発実験は、具体的なスケジュールとして確立する。


 半年以上を掛けて準備してきた。


 場所の確保。

 細々した素材の採取。


 魔人の腕の造り方を調べたりもしたし。

 神花と親睦を深めたりもした。


 義父ロジー・ロクソンとも相談しつつ、単位もちゃんと取って。


 半年以上を掛けて、ようやくここまでこぎつけた。


 造魔学の教師ロジー。

 グレイ・ルーヴァの直弟子、災約の呪詛師アイオン。 

 軽薄だが実力は確かな下級生クノン。


 なかなかいい面子が揃った。


 弟弟子カイユも加わってほしかったが。

 無理そうで残念だ。


 ――そうこうしている内に、約束の日がやってきた。





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