これはとある夢のVRMMOの物語。   作:イナモチ

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我思う、故に我在り 

鈴虫の夢幻に誘う音色と科学的に夢遊を模した洗脳波が交錯する。

 

《世界改創》と《自我抹消》。

 

両者は辿り着く到達点こそ違えど、力の始発点は同じだった。

 

波と波。

 

同系統の洗脳波は共鳴し合い、機械と死者の意識を夢幻世界から更に高次元に引き上げていく・・・

 

「『ぷれはぶ、おーみぃ』」

 

チカチカと機械のモノアイが瞬き、俺の目がピカピカと断続的に青白い光を放つ。

 

双方の間で得体の知れない『チャンネル』が開かれた事を感じた。

 

リモコンでテレビの番組を変える様に・・・現実世界から夢幻世界に、夢幻世界から未踏領域に移り変わる。

 

人間の心奥だと思っていた夢幻世界の先に・・・まだ領域があったのだと理解出来た。

 

演算回路と脳神経。

 

電気羊は夢を見るのか。

 

高度な機械が生物を完全に再現したのならば、機械が夢を見る事もあるのかもしれない。

 

全てメカニズムに基づいて構成されている筈の【ドリーム・ベトレイド】を精神世界に類似した夢幻世界に誘い込む事が出来た時点で、その答えの一端を見た気がした。

 

存在が複雑になっていくほど自然獲得するブラックボックス。

 

数多の哲学者と科学者が解明しようとして、未だに解き明かされぬ生命の神秘。

 

その正体はーーー魂と呼ばれるものなのか?

 

光や音など目に見えないものは波の形を取る。

 

ならば・・・魂も波であってもおかしくは無い。

 

共鳴して、深化する。

 

構成物質の違いから彼我の物理的な距離というあらゆる境界線を超えて、もっと深い処で繋がっていく。

 

上下感覚は既に喪失していて、落ちているのか昇っていくのか自覚することは出来ない。

 

 

 

 

 

 

 

気付けば、何も無い空間に立っていた。

 

俺という視点があるだけで体を動かす事が出来ず、完全な闇に包まれている。

 

 

 

 

 

しかし気付けば一つ、意外と近くに巨大な光源があった。

 

それは無数の歯車の群れで、イルミネーションの様に歯車の群れが定期的に色とりどりの小さな光を放っている。

 

 

 

巨大な無人工場の様だ、と思った。何処か〈第四海底切削城〉の雰囲気・・・というかそのものだ。

 

人気が全く無い寂れた印象に反して、問題なく稼働している荘厳な光景が・・・今は酷く歪なものの様に思える。

 

最初はジェネレーションギャップという簡素な印象しか浮かばなかったが今になって嫌悪感を覚えたのは・・・よりくっきりと本質が顕れているから、だろうか。

 

その一点だけ、永遠に時が止まっているかの様な違和感。歯車全体から強迫観念じみた執念のようなものさえ感じる。

 

俺は非現実的な表現を用いたアートを鑑賞するのは嫌いでは無いが、これ程“異物”じみたモノは・・・初めて見た。

 

無機質な冷たさの中に刻み込まれた生々しい感情。

 

【怨霊のクリスタル】のように結晶から生物的な目口が生えている訳でもなく、冷たい歯車の一つ一つが今にも叫び出しそうな悼ましさ。

 

呪物よりも無機質な怖気を漂わせる機械。

 

負の概念そのものである怨念よりも悍ましいと言えば、どれほど酷い代物なのかわかってくれるだろう。

 

だから現実に戻ったら、遺跡は全部解体する。

 

システム的に正常な状態のまま暴走しそうな気配をプンプン感じさせる秘密兵器など信用出来るか。

 

暴走する可能性を孕む怨念式アンデッドの運用の方がまだマシってどういう事だ?

 

 

設計者は世界を巻き添えにしてでも化身を滅ぼしたかったのだろうか。

 

 

 

 

取り敢えず外見が現実世界と明らかに違うが、この光輝く歯車は【ドリーム・ベトレイド】なのだろう。

 

現実だともっと生物的なデザインをしていたが、機械としての性質が色濃く顕れているようだ。恐らくだが・・・目的の達成に手段を選ばない性質とか。

 

しかし、この状況をどうにか出来そうな【ヘイワン】が近くにいない。

 

それどころかカーソンもいないようだ。

 

俺と【ドリーム・ベトレイド】だけが引き込まれたのか。

 

周囲をつぶさに観察していると今まで沈黙していた【ドリーム・ベトレイド】に動きが生じた。

 

 

 

歯車の群れから作業用アームが伸びていく。

 

ーーー抵抗する術を持たない俺に向かって。

 

ステータスどころかスキルも使用出来ず、俺は機械の腕にガッチリと掴み取られ、引き寄せられる。

 

無数の歯車を押し退けて大人一人収容出来そうなカプセルが露出した。それが死体を納める棺桶に似ているのは皮肉か。

 

しかし残念ながらそれはただの棺桶ではなく、血塗れのアイアンメイデンより危険な収容基だ。

 

収容されるなり首筋にブシュッと注射針に似た何かから得体の知れない液体が流し込まれた。

 

現実の物体を持ち込めないこの場所に存在する液体なぞどうせ碌なものじゃない。

 

というか、そもそも液体かですら怪しい。

 

ぶっちゃけ、多分此処は魂だけが存在する場所の様なものなんだろ?

 

・・・何で【ドリーム・ベトレイド】が魂の状態で動けているのかは知らないが。

 

歯車もカプセルも注射針も魂の一部、そのものだとするならば。

 

つまり【ドリーム・ベトレイド】の魂的なサムシングを流し込まれたって事で。

 

 

 

俺の頭?に考えうる限りの最悪の未来が流れ出す。

 

一番可能性が高いのは乗っ取りなんだよなぁ・・・。

 

・・・詰んだかな?いやでもワンチャンーーー

 

 

視界が暗転した。

 

 

 

・・・・・

 

歯車が回る音が聞こえる。

 

何処からか音が聞こえる。

 

全身のあちこちから小さな声の群れが重なり合って言語を象る。

 

皮膚から、四肢から、臓物から、心臓から、脳から。

 

 

 

俺の細胞から。

 

 

『化ーーーーーー』

 

『化身をーーせよ』

 

『化身を殲滅せよ』

 

『『『『化身を殲滅せよ』』』』

 

 

「化・・・身を・・・」

 

本能のような抗い難い衝動。

 

いつしか酷かった違和感さえ消えていく。

 

全身が歯車になっていく。

 

より大きな歯車に繋がれてーーー機械の部品に成り果てることが確定した未来。

 

 

 

 

 

 

 

俺はーーーその全てを捩じ伏せた。

 

魂の認識。

 

俺とは違う魂を混入させられたお陰で魂がどういうものか理解できた。

 

混入した異物の存在がーーー逆に俺の存在をクッキリと浮かび上がらせる。

 

俺の魂は混入した【ドリーム・ベトレイド】の魂(半端に溶け出した歯車だった)に比べると随分・・・その、なんだ。

 

 

 

 

個性的。そう、ユニークだ。

 

人間とは思えない外見だったりなんなら勝手に混入した魂喰ってたけど、デンドロのシステム判定的に人間なので今も昔も俺は人間に違いない。

 

そういうことにしよう。俺は何も見なかった。

 

だが・・・俺の魂に自我があるとしたら・・・それを観測している俺は一体・・・・?

 

俺の目の前に俺の魂がある。それはとても奇妙な状況だった。

 

俺は今魂の状態なのに俺の目の前に俺の魂がある。俺の魂同士が向き合っている。

 

・・・この魂は俺の魂じゃなかった説が色濃く浮かんできた。

 

俺の魂がこんな怪物だとは思いたくなかったし、人違い(人では無い可能性が高い)だった可能性がある。

 

異物混入で自覚したと思っていたが、魂とは未知が多い。

 

 

やっぱりただの勘違いだったのかもしれない。実際俺はここに居るのだから。

 

 

 

 

 

とてもユニークな魂がギョロ、とこちらを向いた。

 

バッチリ目と目が合う。

 

どう見ても食べられなさそうな歯車をポテトチップスの様に齧っていたギザギザの歯を剥き出しにして、ガチン!と噛み鳴らす。

 

 

『ぷれはぶ、おーみぃ』

 

これは◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️の物語。

???の供述

「人を見て怪物呼ばわりはないだろ。だが、俺からしたらお前も十分怪物だと思うがね。人面疽って知ってるか?今俺はその人面疽に取り憑かれた人間の気分なんだよな。だったら支配権の奪い合いとか発生する前に棲み分けをだな。取り敢えず2:1で手を打とうや。本当なら100:1でも足りないんだがどう考えても不毛な未来しか見えねぇ。俺だからな。卑賤優劣は無いにしても上下はここでキッチリ決めておきたい。約束と信用なんて此処じゃ全く意味がないなんて俺にはもう分かってんだろ?だが・・・殺し合いでの解決は無理だ。だから別の方法で解決する必要に迫られている。そこで、だ。紳士協定を結ばないか?詰まるところ・・・スポーツマンシップってことになる。元々スポーツってのは人間の闘争から派生したものだからな。俺ならこの意味、分かるよな?俺達は人間なんだ。理性的にいこうってことさ。ラブアンドピースだよ。兄弟。(勝手に分裂するとかヤバいやつじゃん。無制限に分裂する癌細胞かよ。コイツが状況把握する前に処分しよ・・・。)」

子供の教育方針はどれにする?

  • 蠱毒にぶち込む
  • 普通の子供のように育てる
  • 子供の為だけの揺籠()で育てる
  • 放任主義。子供は勝手に育つ
  • 帝王に愛など要らぬ!!

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