俺とカーソンは器物損壊の罪で牢屋にぶち込まれた。
俺と牢屋は切っても切り離せぬ関係なのか・・・?
俺はペタペタとマイルームの触感を確かめていると、呆れたような怒っているような全体的に疲れた雰囲気のバルタザールが面会に来た。
一応俺は海賊船団の預かりになっており、バルタザールはその責任者となっている。今回、監督責任が問われたのも無理は無い。
だが、俺は敢えてこう言いたい。
「俺は悪くねぇーーー!」
「チェルシーから物凄い苦情が来ているが?カンカンに怒ってたぞ、アイツ。」
あ、ハイ。その件に関しては誠に申し訳なく・・・
俺はヘコヘコと頭を下げた。完全にその場の空気で必殺スキルを打てと指示したのは俺であるからして。
「ハアアアアアアアアァァ・・・・・。お前らなぁ・・・」
バルタザールは深く長い溜め息を吐いた。心労からか顔色も悪い。
「取り敢えず・・・ルンバ。お前、旗艦出入り禁止。あとグランバロアの国家事業に出頭命令だ。損害賠償額が流石に個人での返済が困難な域になってきたからな・・・ほぼ無賃労働だが衣食住は保証付きだ。」
ーーーあ、旗艦出禁になった。
俺はFXで資産を一瞬で溶かした人の顔になった。
バルタザールはまた溜め息を吐いて、帽子を深く被り直した。
俺は何もない宙を見ながらぼんやりと思った。
ーーーグランバロアは苦手だ。船の上は狭すぎて、俺には窮屈だから。
・・・・・
白衣のティアンが興味深げな視線を投げかけてくる。
・・・ホモじゃ無いんだよな?なんだか身の危険を感じるぜ・・・
周囲には造船施設と研究施設が融合した様な今まで見た事がない光景で、どうして俺がここに呼び出されたのか皆目検討もつかない。
「やぁやぁ。来てくれて嬉しいよ!ルンバ君。君の事はゼタからよく聞いているとも。」
装甲船を沈めた上に旗艦を損壊させたんだって?中々どうして破天荒な傑物じゃないか!と興奮する中年男性は意外と見苦しい。あと隠し切れない程胡散臭い。
ミステリアスでバインバインな白衣美女になってから出直して欲しいと思ったが、一応クライアントで上司様なのでグッと堪える。
・・・最近堪え性がなくなって来ているのでは?と思わなくもないが、きっと異常行動を繰り返すカーソンに影響されたのだろう。
「失礼。俺は何故此処に呼び出されたのか理由を聞いても?」
白衣ティアンの表情が引き締まった。
「そうだね。それを説明するのであればこの研究所の目的を説明した方が良いだろう・・・。」
ピカピカに磨かれた眼鏡がキラリと光る。
「此処は見ての通り造船所と研究所の両方を兼ねているが、船舶に適した新素材の研究所という面が大きい。此処からでは見えないが実験場も兼ねている複合施設だ。研究から理論実証まで一通り出来る様になっている。」
会話のボルテージが上がっていくのを感じる。
「そして、最近とても興味深い素材が回されて来てね。それは通常ではあり得ない特性を持っていた。そして何より出所が極めて限定的で再入手は不可能と思われていた・・・!!」
グググっと溜めを入れてビシッと俺を指差して言った。
「その素材は【アムニール】に匹敵する魔力伝導率に、優れた耐久性。更に加工によって未発見のスキルが発現した!!発現するスキルの傾向から私が考えるに、武装から竜骨まで使える様な夢のような素材だ!!移植しても拒否反応が無い程人体への互換性が高いのも非常に学術的好奇心を唆られるではないか!!私は末恐ろしささえ感じている!!」
成る程。成る程。そういう・・・
「それが君の右腕だ!」
俺の右腕ね。成る程。
「故に!是非とも研究資料の提供をお願いしたく!!」
怖っ。マッドだ。発想が完全にマッドサイエンティストじゃんね。
もしやコイツ・・・俺の右腕で船を造る気では・・・?
ボブは訝しんだ。
だが・・・面白い。俺をして未知数な右腕。その性質の解明は頭の螺子がイカれてるぐらいで丁度良い。
俺はニヤッと笑って言った。
「その研究、俺にも被験体ではなく研究者として一枚噛ませろ。これでも研究者の端くれでね。薬を独自開発した事もある。」
視線が衝突する。研究者としてのプライド。
その探究心は狂気的だがその実、人格に一本の筋が通った傑物の気配。
コイツは上級の男だ。堪らねぇ。俺の脅威を知っていながら平然としていやがる。
対外用の化けの皮をさっさと捨て去った研究者が言った。
「待遇変更要請に返答しよう。承服はしかねる。研究者の端くれと自称するのであればーーー自らの実力を証明したまえ。今の君の価値は単なる素材提供者だ。人間かどうかすら不明瞭という評価も付けよう。」
そっちが素か。良いぜ、そっちの方がイイ。とても仲良く出来そうだ。
実力で認めさせてやるよ。これからよろしく頼むぜ。クライアント。
互いに握手はしなかった。
表面上のパフォーマンスは必要ないと二人は断じたから。
・・・・・
パラ、パラと紙媒体を捲る音が鳴る。
「ふむ・・・美しい論文だ。理路整然とした根拠に基づき、実験結果もそれに一致する数値を示している。途中計算式にも一片の不足は無い。素晴らしい。非の付け所が無い素晴らしい論文だとも。」
「ーーーこれが違法薬物精製理論でなければだが。」
トントン、と軽く紙の束を指で叩く。
「そうだな。ーーーそれが?」
俺もあっけらかんと言った。
「そうだ。全く問題は無い。此処では全く問題は有りはしないとも。此処はそういう場所だ。グランバロアに仇成す者ではない限り私が黙認しよう。」
逆に言えばやらかすなよって事だろ。安定のお約束だな。
「しかし、何故君はわざわざ危険性の高い論文を選んだ。私が指名手配の手続きを踏まないと思ったか。君はグランバロアの中でも警戒対象だ。器物損壊とは別の意味でな。」
おお、流石の捜査力。ゼタ先生辺りか?何処まで探られているかは知らないが、少なくとも検挙まで至らない。
俺の手掛けたラウンド・マシン・コーポレーションとは、そういう組織だ。
ましてやカルディナに本拠地を構えているのだからグランバロアが本腰を上げる事は無いだろう。
それだけが理由では無いが。
「クライアントの人間観察。アンタがどんな人物なのか知りたくてね。」
「成る程。何か、分かったかね?」
「アンタが犯罪者紛いの俺に全く関心が無いって事。アンタ自身が俺に違法薬物精製論文の動機を問い掛けても、関心は研究、ただ一点だけ。全く、研究者の鑑だナ?」
僅かに瞳孔が開いた。少し口元を緩めて、彼は言った。
「正解だ。満点をあげよう。」
品定めの段階は終わった。
これが友好的な笑みでは無い事はもう理解している。
使える人材・・・研究の為の実験器具兼素材が来た事に喜んでいるだけだ。
これがグランバロアの暗部の長か・・・
随分とアットホームな職場でワクワクして来たぜ。お咎めさえ無ければ好きにやって良いって事だろ?
ーーー最高かよ。
・・・・・
一方その頃。
「ワシがお主の監視下に入るのは分かったが・・・主様は誰が担当するのじゃ?」
「思案。守秘義務に反さない程度で言えば・・・ルンバの担当者は、筋金入りのロクデナシです。ですが、ルンバなら適格でしょう。彼のバイタリティは目を見張るものがありますから。」
これはとある夢のVRMMOの物語。
暗部堕ちしたルンバ。上司は倫理観0の研究キチ。同僚は奇人変人狂人の魑魅魍魎。
グランバロアの叡智の源泉は暗く、澱み、深い。潤すならば上澄みを掬うべし。
子供の教育方針はどれにする?
- 蠱毒にぶち込む
- 普通の子供のように育てる
- 子供の為だけの揺籠()で育てる
- 放任主義。子供は勝手に育つ
- 帝王に愛など要らぬ!!