嫉妬に狂い、殺意の波動に覚醒したカーソン。
完全なるとばっちりでターミネーターの標的になったチェルシー。
救助要請を受けて現場に急行するゼタ。
各々の思惑が交差する中、俺は暴走するカーソンを鎮圧する為に非人道的兵装【カートリッジ】の使用を決断した・・・!!
状況を知ったグランバロアの上層部は揃って言った。
「「「「頼むから他所でやってくれ!!」」」」と。
・・・・・
カーソンが足元に転がる惨殺死体に手を翳す。
惨殺死体の数々から赤い蛍火の群れが浮かび上がり、マスターのアバターが自壊。
それだけに留まらずカーソンによって破壊された装備品までもが自壊し、赤い蛍火に還元されていく。
夥しい死者達から“徴収”した赤い蛍火の群れを、カーソンが取り込んだ。
無数の蛍火で構成された赤い影によって構成された甲冑を纏い、凶悪な鉤爪がギチギチと異音を鳴らせて展開される。
それは無数の死の経験によって変質し、進化したカーソンの第二スキル《生命寿く巫蠱》。
その能力は“自身の耐性&攻撃力以下であり、自身が破壊した対象のリソース変換と徴収”。
そしてーーー“燃料化”。
その本質は他者に犠牲を強い、脅威を撒き散らす暴君の力だ。
つまり・・・墓穴を掘ったらしい。
俺の扇動は、態々カーソンに塩を贈る結果に終わった。
カーソンがリソースで武装を具現化した所を見るに、燃料化というのは文字通りの意味では無いではない。
この燃料と言うのは石油やガスではなく、この世界におけるMP、SP、HP、果てはリソースまで。
カーソンは、自身の意思でリソースの使い方を決定する事が出来る。
武装の具現化、ステータスブースト、自己修復。
夢幻の具現化【ディアプラント・キャンドル】。
身体強化の極点の獣【アガナースタ】。
その生存力から滅ぼされた【メガプランテスト】。
融合し、自身のスキルとして体に刻み込んできた事で、“体得”した集大成。
それは“学習”でも”模倣“でもなく、“スキルの創造”という形で現れた。
全く・・・!!
「とんでもねぇ暴れ馬に育ったもんだ!!カーソン!!この、じゃじゃ馬娘ェ!!」
俺は動脈に【カートリッジ】をブッ刺した。
黒い棒はドクドクと体に融け、血流に乗って全身に回る。
この【カートリッジ】は、【死霊王】と【設計王】の合作。
それは装備するものではなく、全身で喰らうもの。
訳の分からないものを感覚で使ってきた定評のある【死霊王】の為だけに作られた規格外武装。
【ハイエンド・カートリッジver黒穢食】
安全性、安定性、量産性、合法性、倫理性その他諸々etc度外視の超特級危険物。
常人が使えば破裂し、自壊に耐えうる者を暴走させる為、ENDに優れ、掌握力に長けたルンバの為だけに作られた違法ドラッグ・・・げふんげふん。
世界に数点しか存在しない超希少なエナジーバーだ。
因みに原材料に隕鉄と◾️◾️◾️が使われているので量産は不可能である。
「えぇ・・・?」
テンションがいきなり振り切れ、明らかにヤバい薬をキメたルンバを見て、チェルシーがドン引きした。
しかしながら、ドン引きしつつも油断なく黄金の斧を構えている姿は非常に頼もしい。
『俺がカーソンを足止め!チェルシーは俺ごと必殺スキルで圧殺しろ!』
『えぇ!?いや、うん!分かった!後で事情説明してね!』
【テレパシーカフス】代わりの船員証を通して簡単に作戦を共有。
チェルシーとの連携経験がない為、大雑把な構図で柔軟に動けるようにするのが最善策だった。
先鋭化した感覚で全身の隅々まで制御下に置き、リミッターが解除されて発生した【筋肉破断】を《窮鼠精命》で相殺し、《ネクロボディ》で修復。
グランバロアの甲板を力強く踏み締め、一直線にカーソンに向かって疾走する。
内心感情の嵐のカーソンは向かってくるルンバを見て、少しだけ口元を緩めてーーー躊躇いもなく鉤爪を薙ぎ払った。
ルンバが振るった【誇獣闘輪】とカーソンの赤い鉤爪がギャリギャリギャリ!!と火花を散らして拮抗し、互いに弾けるように距離を取る。
二人は互いの手数を熟知しているが故に、懐に入られた時の厄介さを知っていた。
カーソンも一通りの暗器を扱うことは出来るが拳闘には及ばない。逆にルンバは格闘は我流であり、暗器の扱いに長けている。
暗器の有効圏である超接近戦下ではルンバに利があり、白兵戦ではカーソンに利がある。
実際の所、ルンバの超接近戦戦法は拳闘を得手とするカーソンと相性が良い。
ルンバは距離を詰めるだけで良いが、カーソンは拳闘の間合いを維持する必要がある。
拳闘とは最大の威力を発揮する為の溜めと間が必要であり、出鼻を挫かれると弱い。
距離を取る為の後退は瞬時の選択肢を狭め、決定的に成りかねない。
だがーーー二人の不死はそのジンクスを踏み越えていく。
ダメージを許容し、敵の撃滅を優先する自滅に等しき特攻。
防御を最低限にした特攻は洗練された戦闘論理を破砕する威力を生み出す。
言ってしまえばブレーキも踏まずにアクセル全開で踏み込んでいるのだから、常識を簡単に引き裂いてしまうのも当然だ。
不死者である二人にとって、再生能力頼りに相手のリソースを先に削り切って仕舞えば良いだけなのだから。
特にカーソンにとっては。
・・・・・
俺の肉が削れる度に赤い蛍火になって、カーソンに吸収されていく。
カーソンの血肉を海に成る程甲板に撒き散らしているが、一向にガス欠の様子が見えない。
既に《星侵超樹》で周囲のリソース吸収を開始しているが、カーソンはオリジナルの吸収量を上回っていた。
同じリソース吸収でも、単純な出力の差が存在していたからだ。
【故旧賦活】は逸話級の特典武具であり、カーソンは第6形態のエンブリオ。
もし【メガプランテスト】が古代伝説級のまま特典武具になっていたならばカーソンを上回っていた筈だが、今は意味の無い仮定だ。
ましてやカーソンはそこらの物を壊すだけでリソースを徴収出来てしまえるのだから、消耗戦に持ち込むのは無謀でしか無い。
では俺の勝機とは何か。
それはーーー
カーソンのボディブローが、腹に捩り込まれた。
当然のように人体が破壊され、向こう側の光景が見える大穴が空く。
「カハッ!」
一瞬の気の緩み。この瞬間を待っていた。
カーソンが些細なミスをする瞬間を。
仰反るように上半身を折り曲げ、ガッと掴んだカーソンの頭部に全身全霊でヘッドバットを叩き込む。
「グウッ!」
ブシュ!と穴という穴から出血する。
脳が揺らされふらつくカーソンをガッチリと関節をキメて固定。
脳を揺らし、関節を固定しようと、カーソンなら力尽くで拘束が解除される事は分かっている。
俺がするべき事は時間稼ぎーーー!!
チェルシーが両腕で黄金の斧を振りかぶり、その刃ではなく横にした腹の部分を二人に向ける。
すると黄金の斧が消失し、斧のあった空間にぽっかりと穴が開きーーー金色の海水が溢れ出した。
「《金牛大海嘯》〜〜ッッ!!」
ーーー黄金の大海嘯は轟音と共に堅牢な砦さえ潰す圧倒的な質量によって、二人を容易く飲み込んだ。
怒涛の轟音に紛れて、ブチュリ!と何かが潰れる音が鳴った。
その日、グランバロアの巨大船舶が傾いた。
「・・・。って!嗚呼ああああーーー!!船上でやっちゃったァアアア!!??」
周囲は黄金の海水で何もかもが押し流され、甲板は広大な更地と化していた。
チェルシーは頭を抱えて蹲る。
どう見ても致命傷だ。
慌てて必殺スキルを解除したが、黄金の海水が消えただけで壊れた建物は元通りにはならない。
原因はあの二人にあるものの、滅茶苦茶にしたのはチェルシーだ。
あわわわわとパニックに陥っているチェルシーを見て、現場に到着したゼタが呆然と問いかける。
「・・・チェルシー。い、一体・・・何があったのですか・・・?」
これはとある夢のVRMMOの物語。
当然の如く問われる責任。莫大な被害状況。
彼女は叫ぶ。なんでこうなった。
ーーー<黄金海賊団>の明日はどっちだ。
子供の教育方針はどれにする?
- 蠱毒にぶち込む
- 普通の子供のように育てる
- 子供の為だけの揺籠()で育てる
- 放任主義。子供は勝手に育つ
- 帝王に愛など要らぬ!!