これはとある夢のVRMMOの物語。   作:イナモチ

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被験体I-001コードFTKWQSD

「勝負。私と賭けをしませんか?」

 

ほう?

 

「報酬。貴方が勝ったら特別に酒類を摂取する許可を」

 

「分かった。勝負の内容は?」

 

俺はゼタ先生にソファーに座って、話す事を促した。

 

「不安。アル中もそうですが、その賭博癖も末期ですね・・・。いつか、あの時の様な大失敗の原因になりかねないようですが。」

 

自覚はある。だが今はそれじゃ無いだろう?

 

「同意。今はそれについては良いでしょう。では。」

 

ゼタ先生は何も持っていない手からトランプを出現させた。

 

見ていて違和感を感じさせない。良い腕前だ。

 

「勝負の内容はポーカーです。《透視》や《窃盗》等のスキルを使用する特別ルールですが。」

 

ふむ。

 

「そしてイカサマは立証時にペナルティが発生します。負けたら私の実験に付き合ってください。」

 

スキルを使用したギャンブルか。

 

成る程な・・・実験?

 

「肯定。実験です。」

 

俺は念の為に確認を取ったが、実験の内容に関しての具体的な注釈が返ってこない。

 

明らかに怪しい。疑って下さいと言わんばかりの言動ではないか。

 

しかし禁酒令の権限を持っているのはゼタ先生だ。おそらくバルダザール船団長の許可も出ている。

 

ならば然程実験の危険性は無い・・・かもしれない。

 

『主様よ。さっきから酒を飲む為に理屈を並べている様に感じるのだが?相手の思惑通りなのではないか?』

 

そうか。そう感じたか・・・

 

だがカー『明らかに罠じゃな。』

 

しかし『【盗賊王】とのスキルポーカーなど絶対に受けてはならんぞ。根こそぎ身包み剥がされた状態で負ける未来が見えるからのぅ。』

 

・・・ダメか?どうしても?

 

『ダメじゃな。酔って暴れた主様には良いお灸じゃしの。』

 

よく覚えていないが、過去の俺を止めてもらったカーソンの正論が刺さる。

 

そうだ。このゲームは明らかに部が悪い勝負だ・・・いっそ俺の敗北を前提とした、なにかの過程の一部のような予感さえ感じる。

 

だが酒ッ!飲まずにはいられない!

 

俺の手が、禁断症状に震えている。喉が渇く。

 

リアルでは健康に差し支えない様に加減して飲んではいるが、デンドロで健康に気を使わなくても良いからと、パカパカ加減をせずに飲んで来たツケが回ってきた。

 

この体は、もう大分酒を・・・アルコールを摂取出来ていない。

 

人間は苦痛よりも、快楽に対する耐性が弱い。

 

それは悪い記憶はよく覚えているが日頃の楽しみをよく覚えていないのと一緒で、自身に降りかかった被害を二度と繰り返さない様に、その悪しき前例がハッキリと記憶に刻まれる仕組みになっている。

 

自然と苦痛を予防するストッパーが形成される訳だ。人間の免疫の獲得に似ている。

 

だが快楽にはそれが無い。より楽しい方があればそちらに惹かれる様になっているし、歯止めは自身の理性だけ。

 

甘い毒の様に理性を水面下で侵食する快楽は、極めて抗い難い。

 

つまり何が言いたいのかというとーーーただひたすらに、酒が飲みたい・・・!!

 

【上級契約書】の存在が、酷く恨めしい。

 

手が届く所にあるのに、決して届かぬジレンマ。積み重なるストレス。

 

俺の理性は、かなり限界を迎えていた。

 

『主様?』

 

ーーーお前も・・・もう、お休みーーー

 

ゴンさん・・・

 

そうだ。俺の道は、最初からただ一つだけだった。

 

フレンドになったゴミ共の顔が空に浮かんでいるような気がした。より柄が悪くなっていた。ゴミ共め。

 

すっかり美女の姿が板についたジーエンが苦笑いしていた。そんな表情も好きだ。

 

俺は、一人じゃなかった。結ばれたフレンドの繋がりが俺に勇気をくれる。

 

ーーーもう、何も怖くない。

 

俺がどうなったって良い・・・!!だから・・・ッ!!ありったけを、今!

 

全部ッ・・・!!!

 

『今の幻覚は何なのじゃ!?いや、そうではない!止めるのじゃ!どう見てもおんしを嵌める罠であろうが!』

 

俺は穏やさの中に覚悟を秘めて、微笑んだ。

 

「カーソン。俺は、今を全力で生きると決めたぞ。」

 

 

 

・・・・・

 

無明の空間からパッと無影灯が照射される。眩しい。

 

「結果。貴方は賭けで私に負けました。約束は、履行してもらいます。」

 

全身を清潔な手術衣に身を包んだゼタ先生が手袋を嵌めた。

 

その傍のカートには様々な実験器具や薬品が置かれている。

 

手術台の上で、俺は仰向けになっていた。

 

今を全力で生きると誓った結果だった。

 

俺に、何をする気だ・・・

 

「約束。決して意図的に危害を加える事は無いと約束します。」

 

そうかい。そいつは安心だぜ。

 

「解剖。神秘の解明の為に、今から貴方の体を生きたまま腑分けします。」

 

だがその約束とやらは蜻蛉の一生よりも早く、儚く散る様だ。

 

此処は、裏切りのディストピアだった・・・?

 

「麻酔。痛みや恐怖を与えるつもりはありません。貴方が寝ている間にデータを収集し、起きた時には全てが終わっている筈です。」

 

ゼタ先生が点滴らしき針を腕に刺した。

 

「保証。全身を解剖しても、【死霊王】の生命力であれば死ぬ事はありません。なお、今回の実験協力の報酬は酒類の特別摂取許可という形で支給されます。」

 

報酬が出るのは良いんだが・・・体を分割出来ても、流石に解剖はされたくは無い。

 

だが、約束は約束。

 

男に二言は無い。

 

「貴方の献身に感謝を。」

 

俺は麻酔で感覚が落ちていくのに身を任せた。

 

視界が闇に覆われる。

 

「記録開始。これより【死霊王】解剖実験を開始。」

 

反応が完全に消えた事を確認すると、ゼタ先生は映像記録機の録画機能を起動させた。

 

慎重に、時に大胆に。その身に秘める神秘の一端を探る為に、オペは進行する。

 

その表情は真剣にグロテスクな臓物と向き合っており、血痕に染まった姿は美しい。

 

・・・・・

 

モノクロの空間。

 

通常は真っ暗な空間なのだが、俺の精神世界は専門家が管理しているので通常とは様相が違う。

 

黒い靄に包まれた蜘蛛が目の前に居た。

 

普段から会話はしているものの、随分と久しぶりにその姿を見た気がする。

 

『マスター・・・その悪癖は、矯正した方が良いのではないか・・・?』

 

【ヘイワン】が呆れた様子で言った。

 

靄に全身が包まれているのに感情が読み取り易い。器用な奴だ。

 

俺はポツリと呟いた。

 

「自覚はある。が、一向に改善する気がしない・・・」

 

・・・・・

 

酒の摂取量を制限されているが許可が出たので、フレンドになったウーパールーパー君と飲みに行く。

 

どこかで呑んでいたのか既に酔っているウーパールーパー君が不思議そうに言った。

 

「お前そんなに飲めないんだろ〜。なのに酒の付き合いって大丈夫なのかよ〜?」

 

俺はウーパールーパー君の肩にガッと腕を回して、耳元で囁いた。

 

そう言われると思って今日は秘密兵器を用意してある・・・。

 

「秘密兵器〜?」

 

俺はプレーリードッグの着ぐるみの懐から秘密兵器を取り出した。

 

じゃん。ミニジョッキ〜!テレレテッテレ〜。

 

「なるほどな〜!工夫したじゃねーの!」

 

これで摂取量を抑えつつ酒の喉越しを楽しむって寸法よ。

 

ま、ちと物足りねぇがそこは美味い酒のつまみでリカバリーするってのが重要な訳だ。

 

そこで、だ。

 

ピッと人差し指を立てる。

 

俺はゴソゴソと懐にミニジョッキを仕舞い込んで、次のセリフへ向けての溜めを入れた。

 

今日は!ウーパールーパー君のグランバロア一押しの店を紹介して貰うぜ〜!!

 

「「イェーイ!!」」

 

俺達はぴょんと飛んで、ハイタッチをした。

 

何処からか調達したサラリーマン御用達のネクタイを頭に巻いてふらふらと歩いていく。

 

「俺のお薦めは怪鳥の肉を使った焼き鳥屋でな〜。彼処ぁ屋台の親父が出すつまみが旨い。」

 

「良いね〜。俺も屋台料理は好きだぜ〜。」

 

俺達は互いの正体を知らない。

 

着ぐるみを脱いだ姿を見た事が無い。

 

ーーーそれで良いのだと思った。

 

俺達の間に無粋な詮索は必要ない。

 

今は立場を隠した姿。

 

偶々会った気の合う相手と、心ゆくまで心地良い時間を楽しむだけで良い。

 

俺達は互いに言葉にせずとも通じ合っていた。

 

“焼き鳥屋 海雄”

 

寡黙そうな親父はウーパールーパーとプレーリードッグの姿を見るとその事情を察し、スッとメニュー表をテーブルに置いた。

 

俺達は取り敢えず生を注文。

 

ミニジョッキとジョッキに泡立つ黄金の酒が注がれる。

 

「「乾杯〜!」」

 

ガラスを軽く当ててカチン、と澄んだ音が鳴った。

 

酒飲み達の夜は、これからだ。

 

これはとある夢のVRMMOの物語。

軽く酔っ払ったルンバを、カーソンが肩を担いで宿に連れて行く。

 

ルンバの《危機察知》が常に鳴り続けているが、本人は全く危機感を覚えていない。

 

あまりにも無防備すぎる姿を見て、カーソンが上気した頬を少し膨らませた。

 

美少女に分類されるカーソンの其れは可愛らしい、或いは微笑ましいものであったが、その内情は穏便ではなかった。

 

それは、他の女に全身を余す所なく触れさせた事への不満。

 

単なる実験でしかなかった当人達は気にしていなかったが、カーソンにとっては不愉快でしかない。

 

カーソンのメイデンとしての心情、そして何よりーーー常軌を逸した強い独占欲求。

 

ーーー故に、これから行われるのは官能小説の如き背徳的な肉欲の交わりでは無い。

 

真っ赤に染まったベッド。ビクビクと震える何か。

 

骨と肉塊の花弁を咲かせた華。華から漂う芳香は、血の鉄臭と死の腐臭。僅かな酒精。

 

ベッドよりも更に真っ赤な剣を抱き抱えて妖艶な笑みを浮かべる少女は、マスターに対する愛を唄う。

 

血に染まった【グデアメール】の愛剣が至上の悦びを表現する様に、唄に合わせて激しく震えた。

 

ーーー人の条理を越えた、冒涜的で凄惨な”上書き“だ。

子供の教育方針はどれにする?

  • 蠱毒にぶち込む
  • 普通の子供のように育てる
  • 子供の為だけの揺籠()で育てる
  • 放任主義。子供は勝手に育つ
  • 帝王に愛など要らぬ!!

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