これはとある夢のVRMMOの物語。   作:イナモチ

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二匹の着ぐるみ 白熱の水上レース

海面でパクパクと口を開ける鯉に餌をやる。

 

そう。あの鯉だ。海でよく見かけるので、自然と餌やりが習慣になっている。

 

俺という奴は存外、コイツを気に入ったらしい。

 

「・・・。」

 

起伏が少ないゼタ先生が不思議な生き物を見る目で俺達を見ていた。

 

「・・・。餌やり、やってみるか?」

 

コクリと小さく頷いてテクテクと近づいてきた。

 

鯉の餌が入った袋を差し出す右腕をジッと見ている。

 

あの日から偶にゼタ先生は俺の右腕を見るとこうなる様になった。トラウマになったのかも知れない。

 

餌袋を受け取ったゼタ先生が無表情で餌をばら撒く。

 

「疑問。貴方の右腕が変化した切っ掛けとなったこの生物・・・いえ、このナマモノは一体何なのでしょうか。」

 

俺も分からん。実際一体化しかけていた俺でもコイツはよくわかっていない。

 

鯉なのかもしれないし、鯉じゃないナニカなのかもしれない。

 

俺はそれ以上でもそれ以下でも無いと思うぜ。

 

俺はそう思う事にした。

 

コイツが鯉かなんて、考えるだけ思考の深みに嵌るだろうからな。

 

海面に浮かぶ餌を無心で鯉?がパクパクと飲み込んでいる。

 

「それ以上でも、それ以下でも無い・・・」

 

ゼタ先生は鯉の口の中をジッと見ていた。入って中を調べたくなったのかもしれない。

 

子供ってよくそういうのあるよな。

 

特に用はないけど行ったことが無い暗い廊下の先を探検したり。何が入っているのか分からない穴に棒を差し込んでみたり。

 

今思うとあれは何でそうしたのか思い出せないけど。

 

「ソイツの中に入るのは、流石にお勧めはしない。あれは慣れないと気持ち悪いからな。」

 

「否定。得体の知れない鯉の口の中に入る変人は貴方ぐらいかと。」

 

心外であるとゼタ先生は即答した。

 

ーーーそれもそうだな。

 

俺は納得した。

 

得心したように頷いた俺を、ゼタ先生は実験動物を観察する目で見ていた・・・

 

・・・・・

 

「おう。ゼタから報告は聞いているぜ。色々とお前さんも常識から外れているらしいってな。」

 

え。俺って常識枠じゃんね。

 

「あー。そうだなぁ・・・」

 

バルダザールは俺の右腕をジッと見て考え込む。

 

「“腕が変なのになっても平然としている”・・・何というか、それが自然体だと受け入れているあたりが、あぁ、コイツもマスターなんだなぁって儂は思うね。」

 

そんなに変じゃなくね?だってそれ程デメリット無いんだぜ。

 

でも確かにマスターってホント変人多いよなー。

 

実際、レジェンダリアンとか変態共で凄い事になってるし【拳姫】が原因で黄河帝国は風紀が乱れている。

 

もしかしたら、強力な個性を持つ人物が時代を変える瞬間、ってやつを目撃しているのかもしれねぇな。

 

「・・・ああ、そうだな。そうかもしれねぇ。」

 

そう言いながらも何か言いた気な表情だったが、バルダザールは諦めたように飲み込んだ。

 

「ま、良くも悪くもお前さんは寛容だって分かったんでな。ゼタに海に投げ出されても全く気にしてねぇようだし、ウチで上手くやっていけそうで良かったぜ。」

 

ところで船団長様。

 

「ん。どうした。」

 

俺はスッと佇まいを正した。

 

今の俺は最終奥義、土☆下☆座をも辞さない覚悟がある。

 

どうか俺に酒を飲む許可を!!

 

バルダザールは深く溜息を吐いた。

 

「無理だな。」

 

バルダザールは表情が隠れるように帽子を深く被って、言った。

 

「潔く諦めてゼタに矯正してもらえよ、そのアルコール中毒。アイツはお前と同じような奴らを何人も矯正した実績があるぜ?」

 

その執務机にはノンアルコールジュースが置かれている。

 

老齢の彼はゼタからアルコール摂取制限を出されていた。

 

・・・・・

 

「強制参加。」

 

ゼタ先生の鶴の一声で匿名で水上ボートレース大会に出場する事になった。

 

上司の命令は絶対だ。

 

覆面選手ならぬ着ぐるみ選手枠である。

 

のそのそ、と二足歩行する【すーぱーきぐるみしりーず ぷれいどっぐ】は歴戦のレーサーっぽい選手達の中でクッソ目立つが、動きには問題はない。

 

アクセルとブレーキには短い足でも、ちゃんと届いた。着ぐるみが特典武具で良かった。

 

しかし、レース以前の問題である第一の試練を乗り越えた俺にも、ライバルが存在していた。

 

同じく着ぐるみ選手枠のウーパールーパー君である。こちらも匿名で参加している。

 

普通のウーパールーパーではなく体の色が真っ赤だが、居るだけで空気を浄化してそうな顔だ。

 

癒し系マスコットとしての貫禄を感じる。

 

「「・・・あ、ども・・・。」」

 

ペコリ、とデフォルメされたウーパールーパーとプレーリードッグがお辞儀する光景に、小さなお子様の歓声が聞こえる。

 

俺達がお互いの事情の裏を察した瞬間である。

 

俺達は大会側が用意した客寄せパンダだったのだ。

 

職務として参加している俺達は顔を見合わせて、観客席にブンブンと手を振った。

 

・・・・・

 

大会のルールは4つ。

 

まず、ボートの大きさ規定。これは他のレーサーの妨げになるとして規定されている。

 

【救命のブローチ】や救命着の着用を義務づけるものだったり、随伴させるテイムモンスターは二体まで。

 

そして何よりこの大会は妨害行動を取っても失格にはならない。手に汗を握る激しいぶつかり合いが売りである。

 

しかし大会外での妨害は即失格。ボートが転覆、沈没した選手は脱落扱い。

 

結構ルールはゆるゆるだが、大会側が盛り上がっている最中に細かい事気にしてたら観客が冷めてしまうからだ。

 

選手は事前に【契約書】にサインしている為、失格を判定する審判もいない。

 

自動的に発動する【契約書】のペナルティが判定代わりになっている。

 

“クラァァァッシュ! ナンバー41、ぷれいどっぐ君!この試合で六隻目の撃墜ーーっ! 可愛い見た目に反してその妨害行動は非常に苛烈で陰湿だぁ! さぁ、残りは六隻。誰がアレから逃げ切れるのかーーっ? それともあの兇獣を仕留めるものはいるのか!? それと同じく着ぐるみ選手、こちらは今大会における異端にして正統派!ナンバー40、ウーパールーパー君も健在だぞぉー! これはBブロック、突破選手は決まったかぁ!?”

 

くっ!あのウーパールーパーを仕留め切れなかったか!

 

俺は大会側が用意したボートをゴーストシップ化して、大砲、衝角、機雷、煙幕、鉤縄と様々な呪いの武装を搭載し、《操船》のスキルレベルと経験の差をDEXと武装のゴリ押しで埋めようとした。

 

だが。

 

用意していたあらゆる手段が、悠々と回避されている。

 

コ、コイツは、俺とボートレースの場数が圧倒的に違う・・・!

 

ボートレースにおける最適解のボートを用意し、スキル任せでは無く自身がボートの操作を熟知している動きだ。

 

「・・・。」

 

俺の前を征くウーパールーパーが、初めてレース場の水に触れた。

 

《危機察知》ィ!?

 

次の瞬間、俺のボート直下の水面が爆発。

 

それは、確実にボートが転覆するように調整された爆破だった。

 

瞬きさえ遅くなった刹那の瞬間に、俺はやっと理解した。

 

水上戦において・・・奴は強者なのだと。

 

ーーールンバを乗せたボートが水面から離れて、宙に浮いた。

 

ザァアア・・・と水飛沫が降り注ぐ音がする。

 

脱落は確実。

 

そう、誰もが思った。

 

そして幽霊船は水煙の中から現れた。

 

ーーー転覆した様子も無く、何事も無かったかのように勢いを保ったまま。

 

距離を離したウーパールーパーが僅かに驚いた気配を感じる。

 

「良い仕事だっ!」

 

「【グデアメール】!」

 

「◾️◾️◾️◾️◾️ォ!!」

 

幽霊船は船頭の巨大な鎧から発せられた霧の上を走っていた。

 

アイススケートのようにスイスイと勢いを増していく。

 

【グデアメール】の腕の中に抱えられた呪われた魔剣が一人でにカタカタと震えた。

 

愛剣が餌(流血)を求めている・・・

 

“な、なんとあの爆発の爆心地にいながら全くの無傷!そして霧です!ついさっきまで姿が見えなかった同乗者が船を霧の上で滑らせているのかーー!?”

 

そして後続のボートがコース上に広がる霧を突っ切ろうとして、硬化した霧と正面衝突を起こしていた。

 

他のボートも前を走っていたボートと衝突するか、通過しようとすると硬化する霧の前で立ち往生している。

 

俺は爆破の衝撃がボートに伝わる寸前に、アイテムボックスから放出した【グデアメール】にボートの下に霧の壁を作るように命じた。

 

衝撃を与えると硬化して反発する霧は、俺の思惑通り爆破の衝撃に反発。

 

一瞬で硬化した霧の道を形成した訳だ。

 

もし俺が爆破だけを凌いでいたらポッカリと凹んだ水面に落下して、順位を落していただろう。

 

あの爆破はアイテムを使用したものでは無かった。

 

《危機察知》が反応するまでは、ただの水があるだけだった。

 

あのウーパールーパーが触れた水が。

 

そしてボートが触れた瞬間、爆発を起こした。

 

明らかにこれは何らかの特典武具、或いはエンブリオの能力だ。

 

流石に水を爆発に関する物に変えるジョブスキルは、無いと思う。

 

しかし決勝まで秘匿しておくはずだった奥の手が今、切らされた。

 

これで初見殺しの霧の性質を明らかにされてしまった。一度種が明らかにされて仕舞えば対処も可能だろう。

 

しかし手札を切ったのはあのウーパールーパーも一緒だ。

 

本来なら水の爆発は初見の時こそ決定打となり得た筈。

 

そして、それは【グデアメール】なら完封出来るものだと分かった。

 

状況は変わらずイーブンのまま。

 

そのまま第二ブロックは2名のみが突破する事になった。

 

残りはコースに展開された霧を突破出来ずにリタイアだ。

 

・・・・・・

 

各ブロックの突破者が集結した決勝戦。

 

Aブロック突破者【疾風操縦士】【船長】【大海賊】【蒼海術師】

 

Bブロック突破者【???】ぷれいどっぐ君 【??】ウーパールーパー君

 

Cブロック突破者【障壁術師】【狙撃名手】【大銃士】

 

Dブロック突破者【罠狩人】【海賊剣士】【高位精霊術師】【提督】

 

Eブロック突破者【高位操縦士】

 

決勝戦参加者は以上の14名。

 

参加者にはグランバロアの決闘ランカーや討伐ランカーも中に混じっている。

 

モチーフがデフォルメされた着ぐるみがフワッとした雰囲気を撒き散らしているが、他の選手達は着ぐるみからスッと目を逸らして其々の世界に入ってしまった。

 

闘気漂う世界から無言でペイ、と弾き出された着ぐるみ達は、お互いにのそのそと距離をとって、威嚇し合った。

 

ウーパールーパーが前屈みのファイティングポーズを構え、プレーリードッグが自分の身体を大きく見せつける様に毛を逆立てる。

 

一切の威厳や迫力を感じさせぬ茶番劇だった。

 

威嚇合戦でレーサーの力量差を感じ取ったのか、偶々近くを通りがかった女性スタッフの背に隠れるプレーリードッグ。

 

その目は盾にした女性スタッフのバストサイズを驚異的な精度で測っている。

 

プレーリードッグは!?、と気付いた。

 

スタッフユニフォームで、着痩せしている・・・!

 

入力情報を修正し、再演算。

 

F・・・、だと・・・ッ!?

 

ウーパールーパーがアイコンタクトでバストサイズ測定の結果を聞いてきた。

 

プレーリードッグが驚愕の結果をアイコンタクトで伝える。

 

マジで!?と女性スタッフを見て確認するウーパールーパー。

 

その反応を見て、プレーリードッグはウーパールーパーが巨乳派である事を確信した。

 

女性スタッフの背からプレーリードッグが歩み出た。

 

その仲間を見る目にハッ、としたウーパールーパー。

 

ウーパールーパーとプレーリードッグが、固い握手を無言で結び合った。

 

男と男の友情に、言葉は必要ない。

 

無言で交わされた内容も知らずに、キャッキャと観客席の子供達が喜んでその様子を見ていた。

 

その横でゼタ先生が大物感を滲ませながらコクリと頷いた。

 

愛らしい着ぐるみ部隊の効果が存分に発揮されている事に満足したらしい・・・

 

・・・・・

 

各選手がスタートラインに待機する。

 

シン、と静まり返った会場。

 

空砲の引き金がギリリ、と鳴り・・・

 

高く広く響き渡る発砲音によって、決戦の合図は為された。

 

ウーパールーパーがスタートラインの水に触れた。

 

船頭で仁王立ちになった【グデアメール】は霧を爆発的に放出した。

 

一気にスタートラインが爆音と霧に包まれる。

 

開幕から放たれた脱落必至の妨害。

 

しかし決勝戦まで進出した選手はその妨害を各々突破する。

 

そして脱兎の如くスタートダッシュを決めた着ぐるみ達が先行しているのを見て、口元を燃え上がる戦意で歪めた。

 

レースは序盤。まず開幕妨害を繰り出した着ぐるみが先行。

 

後を選手達が追随し、既に激しい衝突が発生している。

 

出遅れた一隻。乗っているのはEブロックを単身突破した【高位操縦士】。

 

ーーーそして肩に巨大なグレネードランチャーを背負った。

 

巨大なグレネードランチャーの正体は、【爆砲轟轟 シヴァ】。

 

TYPEエルダー・アームズ。

 

破壊の神をモチーフとするエンブリオの特性はーーー広域炎爆。

 

《壊灰危闘》

 

「一々脱落者助けんのも面倒だろう!俺が全員纏めて救護室に送ってやるゼェ!!精々綺麗に吹っ飛びなぁ!!」

 

コースの殆どを射程距離に収めたグレネード・ランチャーは、良心の呵責も躊躇も無く発射される。

 

轟々と燃え盛るグレネード弾の群れは、同時に爆発して爆炎を撒き散らし、コースの全域を覆った。

 

・・・・・

 

「フッ、汚ねぇ花火だぜ・・・」

 

某野菜人の言葉を余裕綽々の表情で呟く【高位操縦士】。

 

だが綺麗に吹っ飛べと言ったのはコイツである。

 

大会規定で【救命のブローチ】の着用義務がある以上、この大会では致命的な攻撃でも許可されている。

 

あまり観客受けしない方法ではあるが、全員が【救命のブローチ】を一挙に破壊されて脱落するなら上等。

 

第一射を辛うじて凌いでも第二射があり、ボートが損壊して機能を低下するならそれで決着が付く。

 

余裕で優勝を掻っ攫える作戦ーーー

 

だった。

 

この【高位操縦士】は対戦相手の情報をリサーチしていない。

 

作戦以前に必要な前提が自分に都合の良い妄想でしか無い。

 

だから、この作戦は前提から破綻していた。

 

超音速で飛んで来た砲弾がドヤ顔をしていた【高位操縦士】の顔面を一気に破壊する。

 

決勝戦 一名、行動不能(リタイア)。

 

序盤から脱落した馬鹿がコースを爆破したが、レースは続く。

 

俺は霧で爆炎を完全に防ぎ、ウーパールーパーは触れた水を巻き上げてグレネードの軌道を歪めていた。

 

完全に防いだ者もいれば、何人かボートの一部が焦げているが、全員共通してレース続行可能。

 

他者の妨害を最小限で突破した者が順位を上げていく。

 

後方から放たれたカトラスのアームズを片手で弾き、やけにバリバリ鳴っている銃弾を回避。

 

《危機察知》の大きさで対処方法を変えながら、後方に【死霊王】が呪った特製の機雷と普通の機雷を、対処し難くする為に煙幕と霧を先にばら撒いていく。

 

後方が真っ白に染まる。

 

俺が作った呪いの機雷は自動的に近くにいる者に接近して自爆する。

 

火薬の代わりに込めた、制限系、呪怨系状態異常を発生させる呪いが周辺にばら撒かれる仕組みだ。

 

そして状態異常の対策を持たぬ者から絡み取って行く。

 

しかし呪いの機雷は《危機察知》を持っているか、状態異常の対策をしている者には効果が薄い。

 

だから【グデアメール】が撒いた霧は硬化反発する性質を付与していない。

 

霧に付与したのは《危機察知》の範囲を極端に狭める性質。

 

硬化反発と違って普通に通過出来るし、なんだったら霧を簡単に振り払う事が出来る。

 

だが、その霧の中なら《危機察知》頼りで機雷を回避させず、状態異常の対策を過信している者を普通の機雷で仕留める事が出来る。

 

【覆竜霊鎧】は多彩な性質の付与が最大の特徴である。というかそれしか無い。

 

 

 

後方から普通の機雷に引っかかった愚か者が爆破される音が聞こえた。

 

【大海賊】【大銃士】二名脱落。

 

レースは中盤。

 

あいも変わらず先頭はウーパールーパー、二番プレーリードッグ。

 

三番【高位精霊術師】四番【蒼海術師】五番【罠狩人】が二人を追っていく。

 

六番【狙撃名手】から七番【船長】八番【海賊剣士】が五番【罠狩人】の後続に対して仕掛けたトラップにより脱落。

 

九番【障壁術師】十番【疾風操縦士】は互いに伯仲した接戦を繰り広げ、最後尾は妨害の影響を受けた十一番【提督】が遅れを取り戻そうとしている。

 

脱落者現在六名。

 

水の流れが変わった。

 

コースの水流が進行方向と反対方向に変更されて、先頭のスピードが減速する。

 

【蒼海術師】と【高位精霊術師】がコースの水に干渉して逆流を起こしている。

 

そのとばっちりを受けて【罠狩人】が遠い後方まで流された。

 

そして自分が仕掛けた自動反応型トラップに引っ掛かり、自爆。

 

流れに逆らって前に進もうとするウーパールーパーが水に触れた。

 

強い逆流でウーパールーパーが触れた水が俺を通り過ぎて、逆流を起こしている【蒼海術師】と【高位精霊術師】の元に流される。

 

【高位精霊術師】が何かを察知したのか、急に顔色を変えて流されてきた水を纏めて水球にして後方に投げた。

 

【蒼海術師】が【高位精霊術師】の突然の奇行に訝しむ。

 

【障壁術師】と【疾風操縦士】が競り合っている中間に【高位精霊術師】が投棄した水球が着弾。

 

「「「!?」」」

 

大爆発。

 

対処出来なかった【蒼海術師】と【障壁術師】、【疾風操縦士】が空高くまで吹っ飛ぶ。

 

人が空を飛ぶ光景は何処かコミカルな光景だが、全員漏れなく【救命のブローチ】を破壊されている。

 

冷や汗を浮かべる【高位精霊術師】。

 

【高位精霊術師】も異変を察知出来なければ同じ末路を辿っていただろう。

 

そういえばこの戦法、見覚えのある者のような・・・と思い出そうとする【高位精霊術師】。

 

まぁ、俺も奴を邪魔だと思ったから始末するのだが。

 

突然前方から飛んで来た光を呑む黒い奔流が【高位精霊術師】に直撃した。

 

咄嗟の判断で水の壁を形成したが、水の壁を生物以外に干渉しない闇属性魔力は呆気なく貫通し【救命のブローチ】を砕かれる。

 

脱落者 十一名。

 

レースは終盤。

 

後方に結局最後まで生き延びた【提督】がいるが、今はそれどころでは無い。

 

今まで積極的に妨害をしてこなかったウーパールーパーが脱落、あるいは引き剥がそうと妨害を仕掛けて来ている。

 

俺も今まで使っていなかった属性放出を解禁。

 

前方に暴風を巻き起こし、闇の連弾が弾幕を形成。

 

距離を刻々と縮めていく。

 

ゴールテープが見える。

 

並び合ったウーパールーパーとプレーリードッグ。

 

一匹は純粋な卓越した操船技術によって。

 

一匹は多種多様な手段による他者の蹴落としによって。

 

最後は殆ど殴り合いのようなものだった。

 

爆発物と化した水をぶっ掛けて起爆し、霧を顔面にぶっ掛けて硬化した霧の顔面衝突を試みた。

 

夥しい鼻血を撒き散らしながらウーパールーパーは凄惨な笑みを浮かべ、毛皮が焼け爛れたプレーリードッグが牙を剥き出しにして笑う。

 

会場の大画面に凶暴化した着ぐるみ達の顔が拡大されて表示されていた。

 

保育士と化したゼタ先生が咄嗟の判断で興奮する子供達の目を覆った。

 

ボートを衝突させ、超至近距離で妨害の連打を展開する。

 

そして、最初にゴールテープを切ったのはーーーーー

 

 

 

 

・・・・・

 

「暴走。やり過ぎです。」

 

「「・・・。」」

 

ゼタ先生の前で正座して、反省中と書かれた襷を掛け、重石を膝に乗せられている二匹の姿があった。

 

これはとある夢のVRMMOの物語。

理性が飛んだ二匹によって、ゴールテープごとコースが全壊。優勝は最後尾の【提督】となった。

子供の教育方針はどれにする?

  • 蠱毒にぶち込む
  • 普通の子供のように育てる
  • 子供の為だけの揺籠()で育てる
  • 放任主義。子供は勝手に育つ
  • 帝王に愛など要らぬ!!

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