トヨタ、豊田章男会長が型式指定申請問題についてお詫び 「正しい認証プロセスを踏まずに量産販売してしまった」
■ 豊田章男会長と宮本眞志 カスタマーファースト推進部本部長が型式指定申請に関する問題についてお詫び 【画像】お詫びする豊田章男会長 トヨタ自動車は6月3日、同社代表取締役会長 豊田章男氏、同社カスタマーファースト推進部 本部長 宮本眞志氏が出席し、型式指定申請問題に関する会見を行なった。2023年のダイハツ工業の型式指定申請に関する問題があったことから、国交省の要請で全社的に型式指定申請に関する調査を行なったところ、2014年以降ですでに生産を終了しているものも含め、7車種で国が定めた基準と異なる方法で試験を実施していたことが判明した。 現在判明している対象は、「カローラ フィールダー」「カローラ アクシオ」「ヤリス クロス」の生産中の3車種における歩行者・乗員保護試験でのデータ不備と、「クラウン」「アイシス」「シエンタ」「RX」の生産終了した4車種における衝突試験等の試験方法の誤りとなり、5月31日に国土交通省に報告している。 6月3日の会見では、冒頭に豊田章男会長がお詫びを述べ、カスタマーファースト推進部 本部長 宮本眞志氏が今回の型式指定申請に関する不正問題の詳細を説明した。この会見は1時間30分以上の長時間にわたっており、質疑応答について冗長な部分などは省いてあるものの、全問とそれに対する回答を掲載した。 ■ 冒頭説明 豊田章男会長 豊田でございます。本年1月26日、型式指定申請に関しまして国土交通省から実態調査の指示を受け、調査を進めてまいりました。まだ調査の途中ではございますが、2014年以降すでに生産を終了しているものも含め、7車種において国が定めた基準とは異なる方法で試験を実施していたことが判明し、5月31日に国土交通省にご報告いたしました。今回の事案は、トヨタ自動車とトヨタ自動車東日本の2社にまたがる問題でございます。日野、ダイハツ、豊田自動織機に続き、グループ内で問題が発生しておりますことに対しまして、トヨタグループの責任者として、お客さま、クルマファン、すべてのステークホルダーのみなさまに心よりお詫び申し上げます。本当に申し訳ございませんでした。 今回の事案はいずれも認証に関わる問題でございます。日本国内における認証制度は、主に安全と環境の分野において、ルールに沿った測定方法で、定められた基準を達成しているかを確認する制度でございます。認証試験で基準を達成して初めてクルマを量産販売することが可能になりますが、今回の問題は、正しい認証プロセスを踏まずに量産販売してしまった点にございます。今回の問題の詳細につきまして、カスタマーファースト推進本部の宮本より説明をさせていただきます。 カスタマーファースト推進部 本部長 宮本眞志氏 私から詳細をご説明させていただきます。まず、認証のプロセスについてですが、認証はクルマを量産させていただくための、またお客さまに販売し、安全安心にお使いいただくための最低限かつ、最重要なプロセスだと思っております。 認証には大きく分けて3つのやり方があります。一つは、試験時に認証機関の審査官の方に立ち会っていただくもの。2つ目は、メーカーが自ら認証試験を実施し、そのデータを提出するもの。3つ目は、開発試験での有効なデータを認証試験データとして提出するものです。 今回、2つ目と3つ目のやり方で問題がございました。その中で、今回具体的に見つかりました事案は6種類ございます。こちらは6種類の一覧でございます。 まず1つ目の事案でございます。これは2014年、15年当時、クラウンとアイシスのモデルチェンジの際に、エアバッグをタイマー着火した開発実験データを認証申請に使用したものです。衝突の際は、主にシートベルトとエアバッグで乗員を保護しますが、アイシスではシートベルトの性能向上に向けて開発をしておりました。 この開発試験では、認証試験の基準よりも厳しい衝突条件を作り出すために、タイマー着火という手法を用いました。また、クラウンでは追加のモデルを開発しておりました。 この開発試験の目的は、シートベルトとエアバッグによる乗員保護性能を確認することであり、試験用の試作車で確実にエアバッグを展開させるために、タイマー着火という手法を用いました。なお、エアバッグの自動着火性能については、既存モデルにおいて性能が確認できておりました。 いずれのケースも、本来ならばもう一度認証試験としてお客さまにお渡しするクルマに限りなく近い状態で試験を実施し、そのデータを提出することが必要でした。ところが、開発試験データを申請に使ってしまいました。 次に2つ目の事案でございます。これは2015年当時、カローラの開発の際に、歩行者とクルマが衝突した際の頭部へのダメージを確認した試験です。より厳しい試験条件の開発試験データを認証申請に使用してしまいました。 なお、図のとおり衝撃角度65度の方がより厳しい試験条件となります。本来ならば法規で定められた衝撃角度50度で改めて試験を実施し、そのデータを提出することが必要でした。ところが、開発試験データを申請に使ってしまいました。 次に、3つ目の事案でございます。これは2015年当時、カローラ、シエンタ、クラウンの開発の際に歩行者とクルマが衝突したときの頭部や脚部へのダメージを確認した開発試験です。認証で申請した測定部位と、実際にぶつけた位置が左右で逆のデータを使ったことや、片側のデータを両側分のデータとして認証申請に使用してしまいました。車両上、左右で結果に差が出ない試験項目ということが確認できております。本来ならばもう一度選定された測定位置にて認証試験を実施し、そのデータを提出することが必要でした。 また測定位置の決定は、事前に認証機関に申請し、合意をいただくプロセスを採っておりますが、開発途中での構造変更や技術的な検証が進む中で、測定位置変更に関する認証機関とのコミュニケーションが不足していたこともあったと考えております。 次に4つ目の事案です。これは2014年当時のクラウン、2015年当時のシエンタ開発の際に後面衝突による燃料漏れ等の確認試験です。より試験条件を厳しい台車を用いた開発試験データを認証申請に使用してしまいました。 法基準の1100kgより重い1800kgの評価用台車を使用し、より大きな衝撃で評価をしました。本来ならば、再度法規で定められた1100kgの評価台車を用いて認証試験をし、そのデータを提出することが必要でした。 次に5つ目の事案です。これは2020年当時のヤリスクロスの開発において、衝突時の積荷の移動による後部座席へのダメージを調べる試験です。法規の変更で、積荷ブロックの要件が追加されておりました。一方で、認証申請では、古いブロックを使った開発データを使用してしまいました。本来であれば新しいブロックで試験し、そのデータを提出すべきでした。 最後に6つ目の事案です。これは2015年当時、レクサス RX用のエンジンの開発において、エンジン出力を確認した認証試験です。この試験において狙った出力が得られませんでした。 本来は問題が発生した際は立ち止まり、原因究明の上、対策をすべきでしたが、狙った出力が得られるようにコンピュータ制御を調整し、再度試験をしたデータを使用してしまいました。これは、結果が基準を満たすように手を加えてしまっていることが、1から5とは性質が違う事案だと考えております。 その後の調査では、試験用の配管のつぶれが原因と判断しております。以上、6つの事案を総別しますと1から5の事案は開発試験データを認証申請に使用する際の事案。6の事案は、メーカー自らが認証試験を実施し、そのデータを提出する試験において発生したということでございます。 本日ご説明の認証に関わる規模感ですが、年間で約50モデルの認証、10年間では約7000件のレポートを提出しています。1つのレポートの内容は、例えば先ほどの歩行者保護のケースで申し上げますと、多数の打点やバンパーの左右の試験結果等が含まれます。今ここに全体の試験内容の総数は持ち合わせておりませんが、総数につきましては数万におよぶ試験結果を確認し、まだ途中ではございますが、本日6事案の報告をさせていただきました。以上で議案の説明を終わります。 豊田章男会長 まだ継続中ではございますが、今回、数万におよぶ調査の結果、6つの事案が明らかになりました。いずれにいたしましても、法規に定められた基準はクリアしておりますので、お客さまに安全にお使いいただけることを確認しております。 しかしながら、こうした行為は認証制度の根底を揺るがすものであり、自動車メーカーとして絶対にやってはいけないことだと考えております。本年1月30日の記者会見を受け、私自身がすぐに動き出しましたことは、私も含めた関係者が何が問題なのかを正しく理解することでした。 そこで本年2月より、グループの責任者である私自身が中心となり、トヨタ、日野、ダイハツ、豊田自動織機に呼びかけ、法規認証をテーマをしたトヨタ生産方式TPS自主研究会を実施いたしました。 まずは認証に関わる業務の中で、特に不具合が多く発生している工程に着目し、モノと情報の流れ図を見える化することから始めました。今はそれにより明らかになった仕事の仕組みの課題に対し、具体的な改善活動に着手しております。 先日私自身も現場に行き、これまでの取り組み状況を確認してまいりました。各社の社長現場を率いる親父たちベテランのエンジニアから、入社数年目の若手社員まで参加した全員が、肩書きも会社の枠も超えて、モノと情報の流れ図を前に、集まり、学び合う姿がありました。 今はまだ仕事の仕組みのどこに問題があるかが分かった、トヨタも含め、グループ各社が同じ課題を抱えていることも分かった、そういう段階だと思います。しかし、同じグループなんだから、声を掛け合いながら、トップと現場が一緒になり改善を続けていく。その第一歩は踏み出せた、私はそう感じております。この活動をグループ全体に広げ、現場が主権を持って、「もっといいクルマづくり」に取り組める企業風土を作ってまいりたいと思っております。 地道で時間のかかる取り組みではございますが、私自身は現場におり、責任を持って推進をしてまいります。本日はどうぞよろしくお願いいたします。 ■ 質疑応答 ──豊田会長にいずれもお尋ねします。何で不正が起こって、不正が起こってるという声が上がってこないのか? 見過ごされていくのかというところについてお尋ねさせてください。規模や効率を追求される経営であるとか、現場のプレッシャーであるとか、そういったいろいろ要因はあると思うのですけれど、改めてなぜ不正が起こるかについてお考えを教えてください。 豊田章男会長:私は1月30日、グループ3社の不正に対してグループビジョンを申し上げました。そこで早速始めたことは、私も含めて一体どんな工程で何が行なわれてるのっていうのがはっきり分からなかった。まず企画から開発、設計、生産準備に至る、認証に関わるすべてのプロセスを情報の流れからどう仕事が流れてますよというのを表にしました。それがご質問の「何で不正が起こったの?」ということだと思いますけど、それをやって、ちょっと分かったことは、例えば日野でいきますとリードタイムが900日ぐらいです。900日のリードタイムの仕事です。ダイハツで1年ぐらい。そして豊田自動織機、トヨタ自動車東日本でも、約1年間にわたる仕事がいろんな部署を経てやっております。 1年単位の仕事になりますので、どこで遅れが生じているかとか、どこが早めにやったかとかいうのが分からずに、それぞれの部署が早く仕事をやろうと。ところが早く仕事をやろうはいいですけど、最初の情報の出発点がいろんな仕様変更などを企画段階でやってきても、先の仕事が進んだ場合、手戻りだとか、やり直しの修行仕事がものすごく多発する。それで後工程の方はものすごい待ち時間が発生しておりました。 私も含め、この全体像を把握している人は、多分ですね自動車業界1人もいないと思います。今回、情報図をやったことによって、本当に多くの人が関わり、仕事自体が認証にかかわる人の仕事だと、それが非常に曖昧で、もしくは属人的な技能に頼ってるケースが非常に多いです。 ベテランの人なら気づく話も、新人では……。何かルールがあるかというと、それもない。そしてそれは各社本当にバラバラだと思っております。 そんな中で曖昧なまま最終の試験で問題が発覚し、短い納期で何度もやり直しをする、という最後のところにですね、大きな負担をかけてしまったんじゃないのかなと思います。 再発防止をするときに「何が原因ですか?」となりますけど、1つの理由ではない。本当に長いリードタイムで、多くの部署が関わる仕事の中を、まず1回スルーで見て、どうしてそこに滞留が発生しているのというのを、今の段階ではそれぞれの認証項目において、各工程がなすべき作業を標準化する。また、保証すべき品質基準などを整理した段階です。 これをもう少し標準化してまいれば異常管理ができる。それがいつというと、多分今年の年末ぐらいまでかかると思います。不正というと、ただルールにのっとったかというと、先ほど申しましたようにのっとっていない事案が数万件中、6件出た。それは、本来よりも厳しい試験をやったりだとか。認証というのはあくまでも量産していいかというルールで、普通で考えますと量産するためには、スペックの、いろんな仕様数の試作車を全部作って、全部を試験する、ということになると思います。 でもそれは現実ですね、それはやるべきなのかもしれませんが現実不可能だと思います。それで当局と一緒になって、一緒になってどのを代表選手にどういう試験をすればいいですよねというネゴシエーションをしながら決めていく。その段階において、これは厳しい(条件)のでやったのだからよかったよね、というのが現場で判断されてしまった。ですけど、使っておられる方にはどうですかというとそれは安全です。安心安全は担保されております。 私が言う話ではないですが、各社いろいろなことで問題が起こっていることを考えますと、今回一斉調査をさせられたことによって、ものすごく我々も気づかされました。そういう意味では国交省の方々に、こういう場を持たせていただいたのは非常にありがたいことです。 これが使い勝手、使う方、そして業界の競争力も担保していく中でやっていくためには、今回の事案でいろいろ学んでいったことを、自工会などを通じて、国の方にも関わりながら、みなさんが安心安全で乗れる交通流を作るきっかけにさせていただきたいと思います。 不正と言えば不正なんですけれども、みんなでね、みんなで安心安全な交通流を作っていくのに、我々は認証の部分でやっちゃいけないことをやってしまった。そこはしっかりと正してまいります。 そこを正したから未来永劫いくか(編集部注:不正は起きないか)というと、ちょっとまだ自信ありませんので、その辺はちょっと時間をかけて12月までしっかり見てまいりますので、再度分かった段階でまた報告をさせていただきたいなと思ってます。 宮本本部長:今回ご説明申し上げましたように、まず法規的には認証のプロセスを踏むというのは本当に大切で、そこを怠ってしまったことは大変申し訳ないと思います。トヨタグループ全体で、よりいいクルマをお客さまにお届けしようという仕事をみんなでやっているつもりです。 今日ご説明しましたように、本当に安全安心なクルマという意味では、みなさんお分かりだと思うんですけど、そういう試験をやってます。ただ、その中でそういう思いがありすぎるが故に、認証のプロセス、ここを踏むという配慮が足りなかったんじゃないかと今考えております。 この背景には忙しさとかいろんな面もありますので、これはまだ調査中でございますので、その辺の課題をもう少し1件1件深掘りしながら、対策を1個1個持ってまいりたいと思います。 ──お尋ねしたいのが現場の負担感の話です。トヨタはかなり車種展開が増えて、開発でもヤリスクロスが今回対象になってますけど、最初は国内での導入がない予定が商品会議で、会長の発案で国内導入が決まったという話がありますけれども、車種が増えていくとか、急な変更とか、そういった現場の負担っていうのを会長はどのように考えられてますでしょうか。 豊田章男会長:負担は増えたと思いますけど、その辺りどうですか。 宮本本部長:はい、お答えします。このヤリスクロスのケースで言いますと、クルマの形状等々はですね、国内専用ではありません。したがってこの法規にミートするという意味では、今は国内専用ではなくて国連の法規ということもありますので、そんなに負担感はなかったかというふうには思いますが、やはりもう一度先ほど申しましたように、そうは言ってもやっぱり年間これだけの車種全体でどれだけの負荷があったのか、あるいは本当に無理していないというのをですね、今一度、ここで立ち止まって現場の意見を聞きながら、課題を見つけて改善を回していきたいと思います。 ──グループの不正が今まで相次ぎ発覚して、トヨタ本体の不正というのがなぜ見逃され続けたのか。今回この発覚が遅れてしまった背景について原因を教えていただければと思います。何で発覚が遅れたかということです。 宮本本部長:今回、国交省からご指示いただいたのは1月26日でございます。それはダイハツさんの件が12月中旬に発表があって、それを起点に調べるということで、そこから私たちもレポートを1件1件、数万項目およぶ実験のレポートを調査しました。細かいところまで見つけるためには、一つ一つの試験を、いつ・誰が・どういう条件で・どういうふうに試験した、その結果どういうデータが出たということまでさかのぼって1件1件見なければいけません。その当時の人に聞いたりして、本当に緻密なその調査が必要です。 その中で出したデータと、申請書のデータの違いみたいなものを発見したという経緯でございます。 もう少し早く発見できたんじゃないか、もう少し早く申告をしていただきたかったなという思いはありますが、非常に調査については難しかったということを私たち痛感をしております。 現在、まだ終わっていませんので、6月末の調査完了に向けて努力をしている最中でございます。 ──豊田会長にお尋ねしたいのですけど、今回の7車種については、エンジン以外は認証プロセスにおいて、法規よりも厳しい試験データで評価したということなので、ユーザー目線で行くと不正というのはちょっと厳しすぎるかなということもあるのですけど、特に今日、トヨタ以外のところも一斉に今回の国交省の調査の結果を報告されていますけど、ある意味足並みを揃えて不正が発覚したということについて、制度論も含めて自動車メーカーで共通している課題感みたいなのを感じられてることがあればお尋ねしたい。例えば日本だと事前認証ですけど、アメリカだと事後認証のような形で国によっても制度が違う。グローバルで開発競争も激化してますけれども、こういった違いというのがある意味足かせになったりとかする可能性もあるかなという懸念もある。今感じられている課題感みたいなのを、もしあれば教えてください。 豊田章男会長:まず認証制度がなぜあるかっていうのは、先ほど申し上げましたけど、量産するにあたって、特に安全面・環境面において、このクルマを量産していいですよというお許しをいただけるのがこの認証制度だと思います。本来であれば世の中に走るクルマ全部を検査した上で、大丈夫ですよということを申し上げるんですけれども、それが現実不可能だと思います。現実不可能なことを当局と相談をしながら、この資料でこういう試験をしましょうねということは決められているというんですけど、そのやり方が非常に曖昧で、かつメーカー間によって、かつもっと言えば担当者によって、解釈の仕方によってずいぶんやり方が違ってくる場合がございます。 そしてまた仕向地によって、仕向地によってルールも変わります。先ほど後方からぶつけられた場合の北米基準だと、1800kgの重さを後ろからぶつけなさい。ところが日本の基準だと1100なんですね。ですからこの場合どう考えるかというのは今の私が言うべきじゃないですけど、日本の自動車メーカー、特にトヨタも世界中で、グローバルでやっておりますので、日本で認可できたクルマが世界で一番厳しいのを通っているので大丈夫ですよとなっていた方が非常にシンプルになってくると思います。 今回まだ各社も、そしてトヨタ自動車も調査中ではありますが、何とか分かった段階で、自工会の方にも分かった話を提出しながら、自工会の中でまとめいただき、当局とも今後どういうことができるのか。という議論のきっかけになればいいかなと思っております。が、今の段階では、それよりもまずはやったことを正のが先でしょと思いますので、そちらの方に当分時間を割かせていただきたいと思います。 ──今回の件を受けて、仕入れ先・販売店への影響を豊田会長におうかがいできればと思います。少なくとも今回3車種が出荷停止になって、仕入れ先も含めて生産の停止とか、ユーザーのクルマの納期の長期化も予想されます。会長としてこうしたステークホルダーについてどういうメッセージを発せられるか、あとは仕入れ先への補償などについてどう考えておられるか。少し先の話になりますがよろしくお願いいたします。 豊田章男会長:今回はこの認証問題でのやり方を間違えてしまったという不正になりますので、それがOKにならない限り量産できないで。量産ができなかったので、生産ラインを止めさせていただくということになると思います。ですから当局に全面協力をしながら、早い時期にちゃんとしたご了解をいただいて、いち早く生産開始することに全力をつくしてまいりたいと思っております。 現在いろんな形で、納期とかいろいろな意味でお客さまにご迷惑をおかけしておりますが、やはりクルマとしては大丈夫なんでありますけれども、ルールがありますからそれを守った上でやります。多くの方が関わりますので、トヨタだけの判断で納期は決めれませんから、お客さま、仕入れ先、ご理解いただきたいなというふうに思います。 問題の影響が分かった段階で、執行の方もしっかりと対策は立てていくと思っておりますから、ぜひともその辺は時期が来たらちゃんとご説明させていただきたいなと思っております。 宮本本部長:少し具体的な説明をさせていただいてもよろしいでしょうか。今回の件で6事案ございましたが、そのうち継続生産車に関するものがございました。カローラフィールダーとアクシオと、それからヤリスクロスの3車種でございます。これにつきましては本日より出荷を止めさせていただきました。 したがいまして、販売店さまにクルマをお届けできなくなるということで、少し納期的にもお客さまにご迷惑をおかけするということになるかと思います。引き続き今乗っていただいているお客さまには、安全だと思いますので、お乗りいただきたいというふうに思います。 その影響ですが、工場で言いますとTMEJ、(トヨタ自動車)東日本の宮城の大衡にあります工場の1ラインと、それから岩手にある第2ライン、この2ラインが影響します。そこで年間約13万台ほど作ってございますが、そのうちの車種が少し止まってしまう。どれくらいの時期かといいますと、今回答はできませんが、今から6月末までで調査を終えて、その後国交省に報告をし、ご指示を仰ぎながら再発防止の報告をして、その時点でご判断いただけるのではないかと思いますので、そういうプロセスで進めていきたいと思っております。 しがたいまして、その間仕入れ先さん含め200社ほど、あるいは2次、3次さん含めると、1000社以上の事業者に本当にご迷惑をおかけすることになります。一社一社ていねいにコミュニケーションさせていただきまして、補償の話を含めて今後進めさせていただきたいと思いますので、ご安心いただきたいというふうに思います。 ──先ほど会長がですねTPS自主研の話に触れられました。これ、トヨタとダイハツ、織機、日野自動車とやってこられたと思うんですけど、風土改革に向けてベテランから若手まで、会長がいろいろな声を聞いてこられたということですが、この一連の不正について現場からどのような声が上がっているかですとか、これまで自主研というものをやってこられてどんな課題とか、あるいは成果が見えてきたのかというのを少し具体的に聞かせていただければと思います。 豊田章男会長:まず私自身も認証制度というのがよく理解できておりませんでしたので、すぐさま4社集め、そしていわば章男塾法規認証TPS自主研という名前で、各社から選任された改善チームが、企画から開発・設計・生産準備に至る認証に関わるすべてのプロセスを現地現物で調査をし、モノと情報の流れ図を企して、手戻りや不具合が発生している工程に関し、原因追求と対策を実施したわけであります。分かったことは、リードタイムが非常に長いということと、すべての工程を把握している人がいないという2点が、各社そして私自身も分かったことであります。 本来TPSの自動化というと、「品質は工程で作り込む」。つまりすべての工程はその工程で作り込む品質の基準がある。この認証に関しましては、事技員(事務・技術スタッフ)の仕事で、それらが非常に曖昧、もしくは属人的な技能に頼っているケースが多々ございます。 ましてやこの4社を見ても、それぞれまったく標準スケジュールというのがございません。 ですから多分全メーカーいろいろなやり方で、独自の解釈でやってるというところに現場の負担は大変かかっていると思います。また、それも私を含めて理解が、こういう活動を通じてやっとできたっていうところはぜひともご理解いただきたいと思います。 それが曖昧なまま最終の試験で問題が発覚し、短い納期で何度もやり直しをするということになり、ここのところに、最終工程である認証業務のところに関わっている現場に大変な負担を強いて、こういう結果になっていると思います。 ただ、今それぞれの認証項目において、各工程がなすべき作業を標準化すると同時に、保証すべき品質基準などを整理した段階。1月、2月から始めて、今数か月ですが、やっとその段階にきたと思います。 その模様はトヨタイムズで取材していますので、編集が終わり次第、どれだけ長いモノと情報の流れ図があるかだとか、どれだけ多くの人が関わっているかとか、その辺りの実態、ぜひともみなさま方にもご理解いただきたいと思います。 今後遅れが発生したり、基準から外れた場合は、その工程で異常を感知し、いわば私が言う異常管理の仕組みができるようになるわけですけど、まだですね、まだその段階には行っておりません。 本当にこの認証プロセスの品質というのは、トヨタは元より、ボディメーカー、ユニットメーカー、仕入れ先さん、複数のグループ企業と多くの工程組織が関与しております。この抜本的な改善と変革に向けては本当に時間もかかり、しっかりと腰を据えてやっていく仕事でもありますので、私自身がリードしてやっていくことになると思います。 年末までには、何とかもうちょっと分かった段階のご報告がみなさまにもできると思いますので、ぜひとも当面、そういう地道な現状把握、地道な現地現物におけるですね、モノと情報の流れによるこの仕事の全体把握というにちょっとお時間いただきたいというふうに思ってます。 ──今までのご説明の繰り返しになるかもしれないんですけれども、今回の調査で浮かび上がった不正というのは、つまり現場の方たちには不正の意識がなかったという解釈でよろしいでしょうか? 要は、その認証プロセスで求めている基準よりもより厳しい試験をやっておられた。いうことは今回現場からも例えば自分たちが不正認識があったら、その時点で多分、現場から声が上がってたんだと思いますけれども、そうじゃなくていろんな書類とか調査をして出てきたということは現場の方には不正の意識がなかったという理解でよろしいんですか? それが一点、それと関連ですけれども、豊田会長のご説明を聞いてるとですね、要は安全安心のクルマ作りのために、現場からやっている試験と、認証プロセスで求められている手順等の間にギャップがある、温度差があると聞こえるんですけれども、つまりそういうことによって結果的に不適切となっている事案もあるんだということなんでしょうか? その辺のいわゆる認証と現場の考える安全とのギャップの存在の有無、そちらについてご意見をうかがいたいと思います。 豊田章男会長:まず1問目は宮本の方からお答えさせていただき、2問目は私が。 宮本本部長:ご質問ありがとうございます。現場に不正の意識はなかったんじゃないかというご質問だと思います。正直不正の意識がないというと言い過ぎかというふうに思います。まだこれ調査の段階でございますので、断定的なことは言いませんが、先ほども申しましたように、やはり本当にお客さんにいいクルマをお届けしたいこの意識がすごく勝っています。 その中で、やはりだからこそ、もちろん認証はお客さまの安全安心のために規格もあり、いろいろなルールもあります。したがってそれを守ることは、最低限です。しかしながら、もの作りにはばらつきがあったり、設計にもいろいろあって、代表のクルマで試験している、いろんなこともあってより厳しい条件でクルマの開発をしているという自負もあると思います。その中でやはり少し認証という意識が、薄かったということも否めないというふうに思っております。 ──確認ですけど、調査の過程で現場の方から自らこれは不適切ではないかというような声っていうのは調査過程で分かったんでしょうか? 宮本本部長:それはデータを確認していく中で、一つ一つデータを緻密にいって、そのときにヒアリングをしました。そのときにこういうことをやってしまったかもしれないと、そういう調査の中では出てきてます。 豊田章男会長:2点目ですけれども、確かにおっしゃるように、あまりこのタイミングで私の口から言えないんですけど、ギャップはあると思います。 故にこういう気づきを得られた。以前、車検不正ということがあり、販売店の車検項目がものすごく多岐にわたってルール化されておりました。そのときも一時販売店さんとともに改善活動をやりました……ところですね、40年ほど前のクルマではで現象が起きたので、車検のときにそういう整備項目は必要であろうと。ですけど、お客さまも整備担当者も今のクルマはそうじゃないですよねと。どれだけ経年変化しても、これは違いますよねというのを省いてしまった。省いてしまったが故にそれで不正だった。 あのときも私が言える話じゃないですがということで、当局とも働きかけたところ、いろいろなクルマがモデルチェンジし、どんどんどんどん新しいものになったときに、どんどんどんどん新しい仕事は付加されております。ところが、これはもういいですよねというものを整理整頓することをぜひ一緒にやっていきたいなというふうにも思っております。 今日のこの会見の場でね、私が声を大にしてそれをやるべきなんてことは言うべきじゃないと思います。言うべきじゃないんですが、やはりこれをきっかけに、国とOEMがすり合わせをして、何がお客さまのために、そしてまた日本の自動車業界の競争力向上につながるか、制度自体をどうするのかという議論になっていくといいなというふうに思いますが、今日の私のこの場で、言うべきことではないなと思っておりますので、ぜひみなさま方の記憶にとどめていただきながら、ぜひともそういうムードも作っていただきたいなというふうにも思っております。 ──会長が先ほどから私が言うべきではないと言っていることを、ちょっとさら問いになるかもしれないんですが、今回不正はだめだというのはもちろん言うまでもないのですが、今回の件ではもっとなんか根深い問題があるのではないかなということを感じました。この会見の前にマツダの会見も見てきました。非常に様子が似ていたんですね。以前のダイハツの不正の問題を下敷きにして全体を考えるとですね、あの不正の多くはヒューマンエラーだという印象を受けました。例えばトヨタの事例で言えば、この6番目にあたるエンジンの話は若干作為があるのですが、ほかの事案は間違ったことをしているとは当人が思っておらず、ヒューマンエラーでこうした方がいいとか、これでは大丈夫だろうということをやっているんだと思うのです。人がやることである以上、ヒューマンエラーを完全に排除することは多分不可能だと思うんです。この認証試験には、残念ながらこのヒューマンエラーを解決するシステムが入っていないんじゃないかと。これが大きな問題だと感じました。リコール制度の方にはむしろヒューマンエラーを前提にしたシステム構築ができてますよね。設計が間違った場合にはあとからその申告して修正すれば、それはもうOKだよと。こういう制度設計で本来あるべきなんじゃないかと。そしてこういうヒューマンエラーを前提にしたシステム構築ができないんだとすればですよ、今回の事案を最後に多分根絶することができないエラーが起きていくので、再発によって何度もその社会との信頼関係に大きな傷がつくことが予見されると思います。この制度をヒューマンエラーをの発生を前提とした改革をしなきゃいけない、そのときにトヨタ生産方式ってのはヒューマンエラーの排除のためのシステムだと思うので、こういう本来謝罪会見の場でですね、それのリーダーシップを取れないのかと聞くのはむちゃな質問だと思いつつですね、豊田会長に自工会片山会長と力を合わせてですね、そういうシステム構築をしていくことはできないんでしょうかいうことを質問させていただきます。 豊田章男会長:はい、1月の末からやっております私の自主研活動ですね、これ例えばトヨタは乗用ですし、日野さんは大型ですし、ダイハツは軽、そして織機がエンジン、という形で取り扱う商品が異なる4社が集まったことによって、いろいろ分かってきたこともあると思います。 認証業務というのは固有の課題だけではなく、共通の課題もあるということも分かり始めてきておりますので、私が申し上げる立場ではございませんが、これが正しいという基準を、各社ごとに作るのは大変なことだというふうに思っております。 ですから今回自分たちで分かったこと、そしてこの自主研によっていろんなカテゴリのクルマでの認証業務の実態と課題が明らかになってまいりますので、自工会のみなさまとも共有させていただきながら、業界全体の課題として改善に役立てていけば、先ほど申しましたように、より使い手に安心安全、そして日本の自動車業界に競争力を担保できるということになると思います。この会見の場で言うことではないと思っておりますが、やはり自工会片山会長とはですね、ずっと一緒にお仕事もさせていただいておりますので、そういう形で共有させて、時期を見て共有させていただきたいなと思っております。 ──私からはシンプルに生産台数というところと、こうした一連の不正であったり、認証巡る問題について会長にぜひお聞きできればと思っています。自動車業界の歴史を見てみますと、どうも1000万台といった辺りに壁というか何かジンクスのようなものがあるんじゃないかと素人考えでは感じてしまうんです。例えば2000年代初頭のGMであったり、あるいは2010年代半ばのディーゼル不正のときのフォルクスワーゲン、(豊田)会長が社長に就任されたときのトヨタ自動車というのも1000万台前後、世界のトップをうかがうような際にどうしても大きな品質であったり、認証の問題というのが起きてしまう。何かそこに相関があるんじゃないかなというふうに外から見てると思うんです。先ほどモデル数が増えて負担が増えるという話があり、会社の規模がこれだけ大きくなってくる中で、認証や品質を巡る正確性、この関連はあるというふうに会長は考えていらっしゃるのかどうか、この辺りをお聞きしたいと思います。 豊田章男会長:まず1000万台の神がいるって感じはします。かつてゼネラルモーターズ、フォルクスワーゲン、そしてトヨタ自動車。1000万台を超えるか超えないときに、大変な、トヨタの場合は14年前、公聴会で本当に世界中のお客さまをご心配させる事案に陥ったわけであります。やっぱり神様がですね、この会社は1000万台超えてもいいよというね、ハードルがその辺りであるんじゃないのかなというふうに思っております。 それ以降、14年間かけてやってきたことは、やはり1000万台で、クルマを企画・開発・製造・販売していくのは、そしてまたグローバルに、そしてフルラインに、そして今のようにカーボンニュートラルでいろんなパワートレインがある選択肢を用意しなきゃいけないとなると、本当に複雑多岐になります。 そして、我々トヨタはそこでカンパニー制を敷くことにして、現在実施中でございます。まずクルマごとに、プラットフォームごとにカンパニーをやり、トータルでは1000万台の会社ですが、それぞれのカンパニーではもう少し小さい単位になる。小さい単位となっても、非常に大きな単位になると思います。重要なことは、それぞれの地域の1人1人のお客さまを見すえ、トータルの台数ではなく1台1台それぞれの町にしっかりとお届けしていく感覚をみんなで持っていくことなんじゃないのかなと思ってます。 ですから今回のこの事案に関しては、1000万台の神がどうとかいうことではないんじゃないのかなと思っております。今回は認証業務というものを、モノと情報の流れ図を見ながら、しっかりと企画・開発・生産という流れを見て、標準化し、早く異常管理していく世界を作り上げることであって、1000万台だからどうだとかいうことではないと私は思っております。 宮本本部長:今回こういう法令違反を起こしてしまって、これを台数規模を理由にはできないと私は思っています。しかしながら台数が増えてくると、一方では車形も増え、種類も増える。そのために私たちだけではできずに、いろいろメーカーさんにもお願いをして開発・認証をやってます。この1つが今日ご説明させていただいたTMEJ(トヨタ自動車東日本)だと思います。したがって、先ほど会長も申しましたように、プロセスが複雑怪奇になって、コミュニケーションも本当にいろんなところでやりながら、プロセスを踏んでいかなければいけない。そういうふうな状態になっているのはこれ事実でございます。したがって意識の向上を含めて、システムも含めて、コミュニケーションを含めていろんなところに課題があると思いますので、今からその課題を一つ一つ洗い出して、1個1個手を打っていく、これを地道にやっていきたいと思いますので、よろしくお願いしたいと思います。 ──豊田会長にまずおうかがいさせてください。日野自動車、ダイハツ、豊田自動織機とグループ各社で不正が相次ぐ中、どうしてトヨタだけの不正が出てこないのかっていろんな方面で言われていたと思います。今回認証不正の問題が起きたことにおいて、これまでトヨタは出ないんじゃないかと言われた中で起きたことについて、豊田会長は実際どう思われていらっしゃるのか、まず受け止めをおうかがいできますでしょうか? 豊田章男会長:正直、残念な気持ちと、ブルータスお前もかという感じじゃないでしょうか。ただ、再三私申し上げておりますが、トヨタは完璧な会社じゃないんですね。今回の国交省のリーダーシップのもと、調査に全面協力させていただく中でトヨタからも問題出てきたことは、ある面で私自身はありがたいことだというふうに思っております。間違いをしたときには一度立ち止まり、現地現物で何が起きたのか、確認することで我々にはまだ改善の余地があるという気づきを得ることができたと思っております。 認証制度は、ルールに沿った測定方法で定められた基準を達成しているかを確認する制度であります。ですから認証試験で基準を達成して初めてクルマを量産販売することが可能になるわけです。トヨタは量産メーカーである以上、認証制度を守ることがクルマ作りの大前提となっているわけでありますので、そのためにはまず自分たちが正しく認証にかかわる業務を行なえているのか実態を知ることが大切であるというふうに思っております。今、モノと情報の流れ図ではないですが、本当に業務を見直しております。これにはトヨタグループ、先にやり出した4社、そして今回東日本も加えてですね、そして自分たちは大丈夫というんじゃなくて、ぜひともこれをですねグループ全体の共通の物差し、そして共通の改善思想の風土作りに結びつけるいいチャンスが到来したと思っております。ぜひとも、もうちょっとお時間ちょうだいしたいと思っております。 ──ありがとうございます。もう1問なんですけれども、ダイハツさんとか日野さんとかの不正と違って、あちらの不正がどちらかというと現場がもうパンクしていたというところで。ただトヨタの部分においては少し違うのかなというふうにも思っています。特にトヨタはこれまでの開発と品質保証を分離していて、この品質保証の部分がしっかり機能するようにやってきた中で、ただそれでも今回こういった事象が起きたようについてどう思っていらっしゃるのか教えていただけますでしょうか。 宮本本部長:ありがとうございます。今回起きた問題を見ていただきますと、開発の過程で得られたデータを認証に使うという、これも認証の1つのプロセスとして認めていただいてます。したがいまして、開発の方はいいクルマを作ろう、厳しい条件でやろうという意識があって、そのデータを作るのに毎日努力をしてます。そんな中で不正が今回出たのは、少し先ほど申しましたように認証を取るプロセスに少し意識がいってなかったということだと思うのです。 そんな中で私も残念だなと思うんですが、いい気づきを与えていただいたので、コミュニケーションを含めて課題を出し切って、今回一度立ち止まってこういう課題にどう立ち向かうか、今から見ていただきたいなと思います。1つずつ改善を回していきたいと思います。よろしくお願いします。 ──ルールを守ることが目的化してしまっているような、そういう状況をやはり変えていくというのがユーザーのためにもなるし、あるいは日本の自動車産業のためにもなるし、もちろん現場で認証業務に日々あたっている方々の気持ちのためにもなると思うのです。なので、もう今日この場で私は言うことではないんですがと再三おっしゃっているのですけど、会長にこの千載一遇のチャンスをどう活かしていくのかということ。僕は本当にTPSを、認証業務、トヨタだけじゃなくて日本全体のものに適応して、より高効率化していくことがこの際重要なんじゃないかなと思ってるんですが。その辺り改めておうかがいしたいと思います。 豊田章男会長:この会見の場で私が言うべき話ではないと思いますが、改善活動をして私自身も本当に現実というのが分かりました。私だけではなくて各社トップもおりましたし、現場のリーダーもおりましたし、若手社員もおりましたし、みんなが一堂に肩書きを超えて、会社を超えて、これって大変だよねという現実を目の当たりにしております。 このまま行っても、例えばトヨタの生産ラインですといろんなボルトを付けるいろんな作業がございます。それぞれの作業にどのくらい時間をかけるかいう、我々流にいう原単位というのがございます。例えば1分に1台クルマが出る場合、それぞれの工程で1分の仕事を積み重ねていく。それゆえに仕事が進んでるのか遅れてるのかが分かる。 ただこの認証業務というところは、この仕事は何分かかるという基準がないんです。ですからみんな早くやってしまいます。早くやっていくことがいいことだと思っています。ただ、やはりここはまずは属人的にじゃなくて、まずこの仕事はこのぐらいでやるのが適正時間だよねっていうのを決めてあげて、プロセスも決めてあげるということが必要なんじゃないのかなというふうに思っております。 曖昧で何をしていいか分からない仕事もありますし、属人的に判断しているものもございます。ましてや会社を超えるともっといろいろ。今回自主研に参加してます大型、軽、そして乗用、エンジンと、これが相当な意見集約ができると思いますので、その辺りをどこかのタイミングで自工会の方に提案をしながら、業界全体としての課題・問題として、お客さまが、ユーザーの方がもっと安心して使っていただける、かつ日本の自動車業界がより競争力が出るような、そんなことが当局と一緒にできるような、チャンスとしても考えております。ぜひともよろしくお願いをしたいと思います。 ──今回の6つの事案がなぜ起きたのかについてですね、再三ご説明の中でクルマ作りが非常に長期間にわたる、そのリードタイムの中で認証工程が非常にタイトになっていたと、負担がかかっていたというふうなご説明がありました。これらの一方で、豊田会長が今の自主研究会もされているTPS、トヨタ生産方式は本来素人考えでいくとですね、その標準化と、あとは自工程の完結といったものが基礎になっているかと思います。開発プロセスが複雑になる中で、トヨタ生産方式のTPSが機能しなくなっていたということなんでしょうか? 豊田章男会長:いや、まったく違うと思います。リードタイムで見ましても1年を超える、2年を超えるモノと情報の流れ図が出てまいりました。今は企画から開発・設計・生産準備に至るすべての認証に関わるプロセスを現地現物で見てるところです。本当に1年以上に関わる多くの部署、その中には仕入れ先さんも含む部署を経て認証業務というのは成り立っております。 それをまず工程にして、どこにその情報が合流しているのか、どこに分岐しているのか、そしてその優先順位はどうか。その辺りをどなたも把握してないと思います。これはトヨタ自動車だけが把握してないんじゃなくて、どこの会社も把握してないと思います。 それだけの大変な業務を、モノと情報の流れ図という手段を使って見えるようにし、まずは認証に関わる曖昧かつ属人的な仕事を、この中において各工程がなすべき作業を標準化する、これはトヨタ生産方式ですね。標準化し、それと同時に保証すべき品質基準を整理の段階です。 それはなぜかというと、ずっと1年にも以上にわたるプロセスを誰かがずっと番人のように見続けるわけには参りません。そうなると、どうやって問題を把握するかというと、異常管理になると思います。 今現在、多分年末までかかると思いますが、異常管理の仕組みを構築中でございますので、異常管理ができるようになれば、問題がより早く発見でき、初動を早く解決できるということになると思います。そういう意味では、TPSがあるからということじゃなくて、TPSの考え方、そしてその技を用いながら、みんなが問題をスルー(通し)で見て、そして課題は何なのかということにやっていくということであります。 魔法の杖のようにTPSがあるから大丈夫ですということは申し上げておりませんし、TPSの考え方、そして技を使いながら、問題発見、課題発見をし、みんなでこういうことが起こらないような世界を作っていこうと、現在やっておりますので、ぜひともご理解いただきたいと思います。 ──6つの事案のうちRXについてエンジンの出力制御をしていた点で性格がほかのものと違うという説明がありました。これについてなぜそういうことをしたのか、これも認証業務がタイトだったということなのか。原因についてはどのようにお考えでしょうか? 宮本本部長:先ほども申しましたように、1から5は開発と同時に認証に使うデータを取っているということです。エンジンのケースは、認証試験としてあの試験をやってる。そのときに出力が出ないということで、何が原因か調査をせずに、認証のときのデータが出るようにした試験をして調整して出してしまったということです。 この原因なんですが、まず1つはそれまで開発段階において何十何百とエンジンは試験して出力の確認もしております。それはもちろん違うベンチだったりいろいろするんですけども、そういうことが頭にあったということと、もう1つはベンチで排気管を車両と同じように設置をしている。その中で何か問題あるんだろうと思うんですけども、その解析をし、原因を追究して、対策を処置するという時間がなかったのじゃないかなと。開発のリードタイムが短かったからだということかもしれません。そういうことが現場で起きていたんだというふうに思います。 ──私から2点ご質問したいと思います。1点目ですけれども、今回の6つの不正項目の中には衝突安全性能に関する内容とかも含んでいて、まったく同じではないですけれども先般のダイハツの認証不正と重なるといいますか、類するような項目も含んでいるように見受けられます。この点についての受け止めをまず教えてください。 宮本本部長:ありがとうございます。ダイハツのときもタイマー着火みたいな話が出たかと思います。今回、私が先ほどご説明申し上げた、タイマー着火という手法を使って開発をしていたときのデータをそのまま認証データとしてお出ししてしまった、そういうことです。 より厳しい条件を再現しようとする手法として、タイマー着火というのがあります。これがトヨタでやってしまった事例です。ダイハツさんのときは、認証試験でエアバッグの性能そのものも含めて確認するときにタイマー着火という手法を使ってしまった。このタイマー着火という手法を使ってしまったこと自体は同じだと思いますが、認証試験でやったということと、開発でやったこと、ここがちょっと違う点かと思います。 いずれにしましても私たちはタイマー着火をやってしまったのですが、クルマの安全性については確認ができておりますので、安心してお乗りいただきたいなというふうに思います。 ──2点目は豊田会長にお聞きしたいと思います。会長は1月の記者会見の際に、グループでほかに不正があるかどうかということについて、私の知る限りないというふうにお話をされたと思います。先ほどは宮本さんからは、できればもう少し早く申告があればよかったんだがというお話もありましたが、今回これは国交省による不正の指示を受けて調査を始めるまで社員の方からこういう不正がありますという自己申告はなかったということでよろしいのでしょうか? もしそういうことであるとすれば、そういう申告が上がらなかったということについて、会長はどういうふうに受け止めていらっしゃるかお聞かせいただきたいと思います。 宮本本部長:まず社内での仕組みでございますが、トヨタそれからトヨタグループの中に共通してスピークアップ制度がございます。社員が何かこれおかしいなと思ったらすぐ申告できる、そういう仕組みはございます。残念ながら結果で言いますと、そういうところにも今回は上がってきてない、これ事実でございます。 先ほども申しましたように、エンジニアが日々仕事をする中でこれだけの厳しい条件でやってるっていうことも含めて自負があったと思います。もちろん、それはお客さまのためだったということだと思います。 その中で少し手続きとしては、そのデータをトヨタに送って、うちが申請するというプロセスが長いものですから、なかなかその意識が通ってなかったんじゃないかなというふうに思います。 ただもう少し、先ほど言いましたように早く見つかってもよかったなという、そういう思いも今残ってるのは事実でございます。 ──スピークアップ制度の実効性が欠けているっていうところの課題認識、これをどう改善するかという点についても教えてください。 宮本本部長:この制度については1人1人に告知をして、本当にこういう制度があるんですよというところは、やはりもう一度社内に徹底していく必要があると思っております。 ──トヨタは、トヨタウェイとかお客様第一、マネジメント機能の強化をやっていて、正直他社の模範になるような取り組みをしてきたと思います。しかし、結局のところ不正はあった。ではどうしたら一体、不正を撲滅すると思われますか。会長にお願いしたいです。 豊田章男会長:これ不正て、撲滅は無理だと思います。 環境も変わりますし、いろいろなこともありますので、故意で間違いをやろうという人を、まずゼロに持っていかなきゃいけないと思う。 ですけれども、故意でなく、知らずにやってしまったとか、よかれと思ってやってみたとか。今回の事例で多分それも多々あると思いますけど、そういうことは起こりうると思うんですよ。ですから、起こったときに異常が分かり、初動として……トヨタは、何度も何度も申し上げておりますのは、完璧な会社ではございません、間違いも起こるでしょう。 間違いが起こったときに立ち止まり、すぐそれを直していく。そのサイクルを回していくことが企業として永続的に企業活動していいということになると思いますので、私自身は不正撲滅とかね、いうようなことはあまり社内で申し上げたこともありませんし、それよりも問題が起こったらとにかく事実を確認してしっかり治そうと、そうするとまた問題が起こったら、またそれやろうよと。それを繰り返すことこそが、今必要なんじゃないのかなというふうに思っております。 ──もう1点なんですが、会長が1月30日に今回認証不正をやった企業は、会社を作り直すくらいの覚悟は必要だというふうにおっしゃったかと思います。より厳しい条件で開発をしてきたという思いはあるかもしれませんが、これだけ社会問題にもなった事案に対して、日野が発表してから2年以上経って、これまで声が上がらなかったというのは、危機意識が薄くなっているってことはありませんか。 豊田章男会長:それは非常に難しいところなんですけど、私、会長になったんですよね。社長であったらどこで何をしたかというのはちょっと別問題であると思います。ですけれども会長になったが故に、やはり現場の情報というのはちょっと遠くなっていることは事実でございます。 そういう意味で、日野さんのケースとか、そしてダイハツのケースとかは問題の報告までにちょっと時間がかかったと思います。それで例えば、私が知った段階でどうしたかっていうのはまた別問題であると思いますが、そこのところは、この件もそうなんですけど、ちょっとそこは難しいなって感じます。 ──すいません、日野自動車の不正が発覚したときは、確か会長は社長だった。 豊田章男会長:あれはアドバイスしましたけれども、公表までに1年3か月かかりました。それはもう別の会社ですので、そこのところは、私は日野自動車の指示命令系統を持っているわけではございません。株主として、株主をしている会社の社長をやっていたり、会長をやっているわけですから。 そこのところは、日野で起こったところの日野の発表というのは、やはり日野の中の判断決定で進んでいくものですので。ですけれども、その責任は誰と言ったときには、私が1月30日に出たわけです。 私が出たことによって、多くの人が本当に本音で話をできるようになり、ちょっと一方進み出したというふうにぜひともご理解いただきたいと思います。私自身がよく言葉にするのは、1月30日の段階で再発防止を進めるにあたって、原因追及というところに行くと思います。そのときに原因追及イコール、言葉を選ばずに言えば犯人探しになるんです。犯人探しのときに1人の犯人じゃないんです。ものすごく長年にわたり、そしてものすごく多くの部署が関わり、すごく長いリードタイムの中で行なわれてる仕事ですので、1つの理由でこういうことは出ておりません。そうなると、私が犯人ですということを実施することによって、本当に現場は落ち着き、本音の議論というものが出たというところは、ご理解いただきたいと思います。 私はグループの責任者としてこうして立っておりますので、ぜひとも今は私自身も理解を進めるように、トヨタ生産方式の中のモノと情報の流れ図という手段を使って、何が現場で起こったのか、何が正しい道なのか、というのを探っている段階でございますので、お時間をいただきながら……。 ──すいません、日野自動車の不正が発覚したときに、自社ではないかということを調査していれば、今回のような後手を踏まなかったんじゃないでしょうか? そのときに社員の方から実は不正をしていたという声が上がらなかったのはなぜですかっていうことをおうかがいした。 豊田章男会長:現在こういう状態になっておりますから、過去にあったことを、仮にというご質問に対してはお答えられないなと思っております。 宮本本部長:一つ、担当ベースの話にはなりますけれども、先ほど声が上がらなかったのは危機低下ではないかとおっしゃっていたと思うのですけど、私は声を上げてもらわなかったということを理由にした責任にしてはだめだなと今思ってます。 日頃、会長から私たちに本当にご指導いただいてるのは、現場にマネジメントが行って、何が起きているのかというのは我々が知るべきだと思います。したがいまして、現場に行くと本当に忙しくて時間が足りていないんじゃないかとか、お金が足りていないんじゃないかとか、いわゆる不正につながるような動機が現場にないのかということを調べたり、あるいは現場に行ってシステムでデータを送るとかで人を介していないかとか、いろいろな意味で不正ができる環境にないかみたいなところを、我々がつぶさに現場に行って、そういうリスクを我々がきちんと日頃から見ておくということが何よりも大切じゃないのかなと。 不正をしましたということを声を上げてくださいというよりは、むしろそちら側で努力をしてまいりたいと思います。 ──私からはリリースに書かれた思いを聞かしていただきたいです。国土交通省のリリースとトヨタが出されたリリースで、少しニュアンスが違う部分があるのかなと思っています。国交省のリリースは現行3車種については、その歩行者保護における虚偽データの提出と書かれていて、過去生産車種についても衝突試験における試験車両の不正加工というふうに書かれています。一方トヨタのリリースは、その3車種については、歩行者、乗員保護試験でのデータ不備、生産終了した車種については衝突試験等の試験方法の誤りになりますというふうに書かれていて、両方のリリースを見比べると少しニュアンスが違うのかなと思っています。ここに込めている思いというのは、会長自身も先ほどから再三前置きをされて認証試験のあり方みたいなものも提起をされているというふうに受け止めているんですけれども、トヨタとしては法規を上回る試験を実施してきているという自信というか、そういったところも含めて問題提起をされているという、そういうことなんでしょうか? 豊田章男会長:まず言葉の使い方というのは、これも私が言うべきことじゃないんですが、私、14年前品質問題で公聴会へでかけました。あのときメディア各社から言われましたのは、プリウス暴走という、暴走という言葉を使われました。 そして私が現地現物で、暴走の距離はどのくらいなのかなというのを調べたところ、制動距離が70cm伸びるということなんですね。それで、あの暴走という言葉を使われますと、私も含めてもう200mぐらいね、制動をしないんじゃないかということを気持ち的に与えてしまうと思います。 今大事なことは、国交省の言葉の使い方、そしてトヨタの言葉の使い方、そこに両者に何か思いがあるんじゃないかということはあると思いますが、それよりも使っていただく方の安全保護、そして日本の自動車業界における競争力強化のために、双方がどういうことをしていけば、みなさんがWin-Winになるかということを考えるきっかけに持っていくよう、ぜひご協力いただきたいと思います。 どうしても、これも本当に私がこの場で言うことじゃないんですが、対立とか分断をあおり、そして言葉で、特に見出し部分でセンセーショナルなものを書き、そこであおっていくことは理解できますけれども、闇雲に使っておられる方に不安をあおるような言葉選びは、ぜひともそれぞれのお会社、お考えいただきたいと思います。 それだからこそ、我々がこの会見でも意識して申し上げたいと思っておりますのは“事実”です。この仕事においても時間がかかるので見せていただきたいというのは、800日を超えるモノと情報の流れ図、リードタイムがございます。それを一点ずつ現地現物で、対流を一つずつ解決している作業に現在入っておりますので、ぜひともそこのところお時間ちょうだいをし、事実をベースにみんながそれぞれの役割で、もっといいクルマ社会を作っていくというところに、ぜひともご理解をいただきたいなと思っておりますので、よろしくお願いしたいと思います。
Car Watch,編集部:谷川 潔