原則ではなく単独親権を主張できる   視標「離婚後共同親権」 弁護士 太田啓子

2024年06月11日 17時34分

 離婚後も父母双方が子の親権を持つ「共同親権」制度の導入を柱とした改正民法が5月17日に成立し、2026年までに施行される。

離婚後共同親権を導入する改正民法が可決、成立した参院本会議=5月17日

 私は離婚事件を日常的に扱う弁護士の一人として、この改正法はドメスティックバイオレンス(DV)・虐待の被害者を脅かし、子の利益にならないと主張し強く反対してきた。最大の問題は、改正法の内容について誤解する人が多く、正確に周知されないままに成立してしまったことだ。

 例えば、父母の合意がなくても裁判所が共同親権を命じることができることや、DV・虐待から子連れで逃げたくても、子の居所変更は父母が共同で決定すべき事柄となるので〝急迫の事情〟がなければ単独で子の居所を変更すると違法となることを、どれだけの市民が知っているだろうか。

 離婚後共同親権にすると、同じ学区内の引っ越し(子の居所変更)や歯列矯正などの非日常的な医療行為にも、元配偶者の同意が必要である。同意されなければ、その都度、家裁の手続きを経なければならず、同意ないまま単独で決定した場合は損害賠償を求められる可能性がある。

 このようなことを正確に知れば、ほとんどの市民が反対または少なくとも「慎重な議論が必要」と考えるのではないだろうか。実際に、各地の弁護士会や医療、教育関連の職能団体から、反対あるいは慎重審議を求める声明が国会審議入り後になっても相次いだ。慎重審議を求める電子署名は、法案採決時には24万筆近くに及んだ。

離婚後共同親権の導入に抗議する人たち=1月30日、東京・霞が関の法務省前

 共同親権を歓迎する人たちは「親子の交流が円滑になる」「養育費不払い問題が解消に向かう」と期待を寄せ、改正法成立を歓迎するが、改正法はこれらを直接保証するものではなく、抽象的に期待されるという程度に過ぎない。実は何のための立法なのかそれ自体が曖昧なまま、市民の日常生活に直結する法改正がなされたことは深刻な問題である。

 改正法は成立したものの、世論の後押しを背景に国会では重要な質疑が展開され、問題点を封じる武器となるような答弁が多数引き出された。

 主なものを挙げると①共同親権とすることは原則ではなく、単独親権を主張することができる②父母に共同親権の合意がないことは、裁判所が単独親権と判定する大きな要素となる③過去にDV・虐待があった場合は共同親権とすべきではない④改正前に違法と評価されなかった「子連れ別居」は、改正法の施行後も変わらず違法ではない⑤共同親権でも、日常的に子の監護をする親を指定することが紛争の予防に役立つ―などだ。

 これらが広く周知されることが必要であり、答弁の通りに確実に運用されるのであれば、改正法が抱える問題は相当抑えることはできる。

 今後、不本意にあるいは誤解に基づいて共同親権を選択してしまい、困難な紛争を抱える市民が生まれないようにするために、こうした答弁が法解釈の指針となることを広く報道してほしい。

 憲法24条の要請である、個人の尊厳と両性の本質的平等を実現する家族法の実現は、道半ばである。しかし私は、多くの市民が今回、法案段階で問題に声を上げた様子に勇気を得て、改正法の今後の運用を厳しく注視しつつ、次の法改正に向かって各分野の取り組みが進むことを期待したい。

 (新聞用に5月22日配信)

おおた・けいこ 1976年生まれ。現在のさいたま市出身。2002年弁護士登録。神奈川県弁護士会に所属し、離婚事件を多く扱う。著書に「これからの男の子たちへ」など。
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