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 どこへでも行き、生きて帰ってこられるクルマ――。1951年の初代誕生から70年以上、トヨタ自動車のSUV(多目的スポーツ車)「ランドクルーザー」(ランクル)が守り続けている価値の根幹だ。

 トヨタは“ランクル基準”を独自に設定し、「他の乗用車とは比べものにならないくらい厳しい耐久試験を実施している」(同社の関係者)。灼熱(しゃくねつ)の砂漠から極寒地域の雪原まで、どのような環境でも性能を発揮できる「信頼性」「耐久性」「悪路走破性」を重視して開発してきた。

歴代のランドクルーザー
歴代のランドクルーザー
「トヨタBJ型」として1951年8月に誕生して以降、累計で1130万台のランクルを販売してきた。(写真:日経Automotive)
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 だから、ランクルは電動化に慎重だった。2021年に発売したランクルの旗艦モデル「300」シリーズは、ハイブリッド車(HEV)の採用を見送り、パワーステアリングには油圧を残した。ランクルの開発に長年携わってきた小鑓貞嘉氏(トヨタMid-size Vehicle Company MS製品企画ZJ主査)は、「石橋をたたいて渡ってきた」と振り返る。

 そんな慎重派のランクルが転換点を迎えた。トヨタが2023年8月2日に発表したランクルの新型「250」シリーズに、HEVを初めて採用したのである。同時に電動パワーステアリング(EPS)の搭載も決めた。250シリーズはランクル「プラド」の後継となる系譜で、14年ぶりの全面改良となる。日本では2024年前半に発売する予定である。

ランクルの新型「250」シリーズ
ランクルの新型「250」シリーズ
車両寸法は、全長4925mm×全幅1980mm×全高1870mmである。ホイールベースは2850mm。「プラド」と比較すると、全長は100mm、全幅は95mm、全高は20mm、ホイールベースは60mm拡大している。(写真:日経Automotive)
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「タンドラ」への先行導入で熟成

 「シーラカンスのままではいけない。環境規制が厳しくなっており、HEVを用意しておかないとランクルを売る権利がなくなってしまう」。小鑓氏はHEVの必要性を訴える。250シリーズの責任者を務めたトヨタMid-size Company 製品企画ZJチーフエンジニアの森津圭太氏によると、HEVモデルは「環境規制が厳しい北米と中国から導入していく」という。

 250シリーズに搭載するハイブリッドシステムはパラレル方式で、排気量2.4Lの直列4気筒ガソリン・ターボ・エンジン「T24A-FTS」に8速自動変速機(AT)やモーターなどを組み合わせる。システムとしての最高出力は243kWで、最大トルクは630N・mである。

250シリーズに搭載するハイブリッドシステム
250シリーズに搭載するハイブリッドシステム
1モーターのパラレル方式である。(出所:トヨタ自動車)
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 T24A-FTSはトヨタの新型「クラウン」でも使っているエンジンで、「型番こそ同じだが部品の半分くらいはランクル専用に新開発したもの」(トヨタのパワートレーン開発担当者)である。シリンダーヘッドやシリンダーブロック、ターボチャージャーなどを耐久性の高い部品にしたという。

 モーターや電池、PCU(パワー・コントロール・ユニット)は、トヨタが北米で展開する大型ピックアップトラック「タンドラ」と「同じもの」(同担当者)だ。トヨタは新型ランクルに先立って、パラレル方式の1モーターハイブリッドシステム「i-FORCE MAX」を適用したタンドラを2021年に市場投入。実環境を走り回るタンドラで部品群の信頼性を確認し、満を持して250シリーズに搭載した格好だ。