かつては怒号飛んだ応援練習、様変わりする伝統の姿は クラスマッチで出来栄え競う「校歌コンクール」も登場

「校歌コンクール」で出来栄えを披露する高遠高の1年生たち。新入生は生徒手帳で歌詞を見つつも3番までしっかり声をそろえた=4月、伊那市

 〈令和の空の下で 県内高校「応援練習」のいま(下)〉

 県内の一部高校に受け継がれてきた「応援練習」。入学直後に応援団などの上級生から校歌や応援歌を教わり、覚える「通過儀礼」だったが、新型コロナ禍を契機に中止となったり期間が短縮されたりと、様相は変わりつつある。

 伊那北高(伊那市)はコロナ禍の間は応援練習を行えず、校歌を校内放送で流すだけだった。今春は1年生全員での練習が復活したが、期間は以前の1週間から2日間に縮まった。内容も「校歌と応援歌1曲のみ」(同校)と小規模に。松本工業高(松本市)も期間を2日間に短縮。「伝統は大事にしつつ(高圧的、強制的な雰囲気にならないよう)時代に合わせた内容としている」とする。

 この他、上田高(上田市)、屋代高(千曲市)、岡谷南高(岡谷市)などもコロナ禍で休止した応援練習を復活させたが、いずれも期間を短くした。校舎の屋上での練習が“風物詩”の松本深志高(松本市)も、かつて2週間だった応援練習が3日間に。

 生徒会の応援委員会をなくした高校もある。飯田風越高(飯田市)は、応援委員会の活動が元々盛んでなかった上にコロナ禍が重なり、2021年度をもって廃止した。

 「今、応援団と応援練習のあり方は大きな曲がり角にさしかかっている」―。野沢北高(佐久市)の同窓会が23年に発行した、創立120周年の記念誌の一節だ。

 同誌によると、かつては不参加が許されず、上級生は大声で威嚇した。声が小さかったり歌詞を間違えたりした1年生には怒号が飛んだ。「根性論」そのものだが、今なら「パワハラ」と非難されそうだ。約半世紀前に2年生が応援団廃止の緊急動議を出す(反対多数で否決)など、生徒自治が盛んだった当時ならではのエピソードも載っている。

 過去の経緯もあり、同校は保護者に応援練習への理解を求める通知をコロナ禍前から出している。練習は20、21年度は中止。22年度から生徒会役員の協力の下に復活、練習時間を以前の半分以下に減らして行っている。

    ◇

 応援練習の縮小に伴い生徒が校歌を覚えないとの声も。ある北信地方の高校の教頭は「卒業式前に『校歌を歌えない』と話す3年生がいてショックを受けた。式当日は歌詞カードを配るほどだった」と打ち明ける。新型コロナの5類移行後に復活した練習に対しては「連帯感を味わい、母校での思い出の一つになるのは良いと思う」と受け止めている。

 級友らと心を合わせて校歌を覚える―。それを旧来とは別の形にした高校もある。

 「東に立てる仙丈の偉霊の姿迫り来る(中略)われらが瞳燃ゆるかな」。今年4月中旬、高遠高(伊那市)の体育館に1年生の斉唱が響いた。新入生がクラスマッチで校歌の出来栄えを競う「校歌コンクール」。2、3年の合唱部員や生徒会役員、教員が3番まで通して歌われた校歌に耳を傾け、音程や団結力を基準に採点した。

 かつては他校と同様に応援練習を行っていたが、11年度からコンクールに切り替えた。「厳しい指導で覚えるのではなく、生徒のモチベーション(意欲)を重視した」と同校は説明する。

 1年生79人に校歌を指導するのは合唱部の2、3年生。今年もコンクール前の2日間、放課後に1年生の教室を訪れ、CDで曲を流して練習に付き添った。応援団はあるものの、活動は部活の壮行会での激励などに限られる。

 合唱部長の3年生、市村信吾さんはコンクールの最後、後輩たちに「今日のことを生かして式典では大きな声で歌えるようにしましょう」と優しく呼びかけた。一方で取材に「成果を出すには練習を1週間ほどに延ばしてもいいと思う」と本音をのぞかせた。

 感染対策が優先され、中学時代にはみんなで合唱する機会に乏しかった新入生にとってコンクールは貴重な経験となった。1年生の唐沢月愛(るな)さんは「みんなが一つになれる場」と、新たな伝統になりつつある行事の意味をかみしめた。(中村真希子)

■明治時代の旧制中学などに由来 意味や価値を見つめ直して

 南信地方で生まれ育った記者が、母校で経験した応援練習について周りの県外出身者らに話すと「何それ?」などと不思議がられた。そのため信州独特の風習と思っていたが、応援団や応援練習を研究する鳥取大教養教育センター(鳥取市)准教授の瀬戸邦弘さん(51)=スポーツ人類学=によると、全国の高校にも所々残っている。

 応援練習の伝統は明治時代、旧制中学校などで校歌や寮歌を先輩から後輩に代々伝えたことから生まれたという。バンカラ風な手法や考え方は「全国共通」(瀬戸さん)だそうだ。

 応援練習について「生徒たち自身の結束を促し、学校のアイデンティティーを醸成し継承する役目もあった」と評価。「時代錯誤と捉えられがちな一方、伝統は一度やめれば復活させるのは難しい」と訴える。新型コロナ禍が収束した今こそ、「意味や価値、方法を見つめ直してほしい」と指摘している。

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■先輩に怒鳴られ水飲み禁止、衝撃の応援練習は今 長野県の高校、女子団長が感じる変化の兆し【令和の空の下で 県内高校「応援練習」のいま(上)】

https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2024052001005

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