にゅっと心臓を口から吐き出して、麻酔で寝ている部下の心臓と入れ替えていく。
摘出した心臓はラベルが貼られた瓶に入れられて冷凍保管。
俺単身から作られた心臓アンデッドは込められたステータスも体積もそう多くはなく、複数人分に行き渡る量産型だが、体内の心臓のアンデッドなど【死霊王】でなければ作れない為、偽造や紛失、強奪の恐れが無い完璧な身分証明代わりになるのだ。
それにアンデッドのスキルも戦闘より回復に特化しているので、移植された方にもメリットが発生するという優れもの。常時発生するHP回復の恩恵が受けられる様になる。
勿論、組織を裏切った瞬間に心臓アンデッドは停止。
そして痕跡も残さず自壊する。
外傷も無く死ぬ事になり、凶器の断定も不可能。腑分けしてもポッカリ心臓だけが無くなっているという寸法だ。
とはいえ俺が命を握って恐怖で支配する訳ではなく、情報を漏らさない為の処置に過ぎない。
これは一種の踏み絵だ。
炙り出しとも言う。
・・・・・
見えない鼠がいる。
それは何食わぬ顔で入れ替わっているのか裏切っている事に無自覚なのか。或いは巧妙に立ち回っているのかも知れない。
・・・・・
ーーー潜り込んだ鼠によって開発中の【人化薬】の情報が漏れている。
俺は偶然発見した牛(自覚が無い裏切り者の隠喩)の脳をクチュクチュと弄ってその確信を得ていた。しかし牛もその鼠を一切知らなかった。
むしろ本人に裏切っていた自覚も無く、無意識で機密文書の暗号を外部に出力している。
【契約書】も本人に自覚も無かった為ペナルティは発動せず。
対象に違和感を覚えさせる事が無い無自覚の誘導の痕跡。
十二支のように牛を唆した鼠がいることは明らかだった。
・・・という訳でゴリ押しで全員潔白証明してもらうことにした。
それが心臓移植処置だ。
体内スキャンで扉のロックの解除と施錠が出来る仕様に施設全体をバッサリと改築・増築する計画の進行中である。
設備内のあらゆる場所で心臓アンデッドを照合し、部外者は弾ける様に。
工事には俺も巨大プレーリードッグ形態も使って参加している。
今回の計画では、俺は装備スキルの恩恵によって無音無振動状態で大規模地形操作が可能な為、実行側に回る。
あとDEXが誰よりも高い。←(ここ重要)
なので怨念関連のジョブスキルの蒐集を中断して、既に【大工】や【建築士】、【技師】、【整備士】、【労働者】の下級職も取っている。
下級職のレベル上げはモンスターの討伐でカンストしてから【設計王】のアトリエを借りてジョブスキルのレベルを上げた。
更に元から【もかでぃあ】や【死霊王】によってDEXが普通のカンスト生産職より高いので、施設の性能も以前よりもバージョンアップする見込みだ。
今回の計画はステータスで製作物の性能が左右される仕様を利用した、無駄に有り余っているDEXの有効活用を兼ねている。
施設の製図と一部の設備の設置には【設計王】が携わっているので、完成したら研究所と工場を兼ね備えた一種の地下要塞になるだろう。
黄河に居た時はいつか生産職に手を出してみようかと思っていたが、・・・まさか秘密基地的な建造物を作る事になるとは思わなかった。
勿論、巨大建造物への改築には多額の出費が必要だが、個人資産と組織の予算も合わせて十分賄える金額だ。
ーーーカーソンのポケットマネーから出すのであれば。
俺のポケットマネーは副業(賭博)で使われているのでそんな金はない。あったら使っている。
何故そこまでカーソンの預金が増えているかというと、現在、俺の収入の九割九分(99%)がカーソンの預かりになっているからだ。
お陰でモンスター討伐なりで一億リル稼いでも100万リルしか手元に残らない。
俺は何度か副業で所持金の全てをスッてカーソンに金の無心をする度に、カーソンが差し出した【契約書】にサインした記憶がある。
無心の度に書面の数字の割合が増えていたが、その分稼げば問題ないとその度に鷹を括っていた結果だった。
今ではカーソンの財布から(酒を)飲んで(賭博を)打って(女を)買うヒモ生活まっしぐらである。
元は俺自身が稼いだ金で使っているのだから実際には問題は無いが、カーソンが財布を管理するようになってから周囲にヒモのように見られている。
そして・・・
ーーー酒!!飲まずにはいられないッ!!
自分がズブズブと抜け出せぬ深い沼に沈む錯覚を覚えたが、カーソンが注いでくれる酒を飲んでいると、やはり気の所為の様な気がした。
「グビっ、グビっ、っあーー!!」
俺はカウンターにダンっ!!と(手加減して)空のジョッキを叩きつけた。
ーーーこの悪魔的な美味さっっっ!!
働いている労働者を肴に飲む真昼間のビールも美味いものだが、働いた後のキンキンに冷やされたビールもまた別の味わいがあるもんだ・・・
今なら地下で労働していた◯イジの気持ちがよく分かる気がした。
買うわ。ビール我慢したけど限界が来たら絶対買うよ、それは。
カーソンが鉄網の上で育てていた肉を箸で摘んで差し出してくる。
親鳥から餌を貰う雛鳥のように口を開け、俺好みに調整された焼肉を堪能。
程よい焦げ目はしっかりとついていながら、スキッと歯が通るほど柔らかく、心地よい噛み心地を主張している。
更に天地から輸入されている白米を掻き込み、よく噛む事で生まれる肉の甘みと米の甘みを楽しむ。
そしてビールで油や糖分が染み付いた舌を洗い流してリセット。
ビールが喉を通っていく感覚に、またビールを流し込みたくなるが、飽くまでも焼肉を引き立たせるためと思い直し炭火で焼かれている肉に視線を向ける。
全く、感慨深いものだ。
ーーーカーソンが俺から火箸を取り上げる領域に至るとはな・・・
料理に拘りを持つ俺は、未熟な者に自分が食す料理の調理器具に指一本たりとも触れさせる事はない。
例外は本物の料理人、自身より腕が良い者のみ。あとは夏祭りとか海開きとか偶に季節の風物詩を食して風流を楽しむときもある。
故にこそ最初は精々、中の上ぐらいの腕前だったカーソンに料理をさせることは無く、自分が常に料理を振る舞っていた。
買えるだけの調理器具を買い揃え、調味料専用のアイテムボックスを購入し、アイテムボックスの中では自家製のたれ、ソース、発酵食品まで手を出している。
野外の調理に使う炎も火力、燃料である魔力、炎の形状、特性に拘り抜いたマジックアイテムを使用。
しかし、いつの間にか腕前の上下関係は逆転し、カーソンの出す料理しか食べないようになっていた。
デンドロにログインする理由の一つにカーソンの提供する美食が食い込む程、ガッチリと俺の胃袋を握られており、リアルでも再び初心に戻って研鑽を重ねる様になった。(料理人として初心に戻る事3回目経験者)
その調理技術を見て盗み取り、下克上を果たすのはそう遠くないと確信を抱きながら、俺の為だけに焼かれ、差し出された肉をパクンと頬張る。
美味い。
俺はよく噛んで味わいながら酒でふやけた頭をキリッと引き締めた。
君はもう知っていると思うがね。
グビっとジョッキを傾けてビールを一息に飲み干す。
ーーー俺は勝つのが好きなんだよ。カーソン。
カランと氷がジョッキの中で鳴った。
これはとある夢のVRMMOの物語。
負けられない戦いがそこにある・・・!!
子供の教育方針はどれにする?
- 蠱毒にぶち込む
- 普通の子供のように育てる
- 子供の為だけの揺籠()で育てる
- 放任主義。子供は勝手に育つ
- 帝王に愛など要らぬ!!