ペシペシと【呪王】の頬を叩いても反応は無い。
うーん。結構ハマるもんだ。お前はエゲツない索敵殺しだな。【ヘイワン】。
『もっと早く気付くべきだが。』
「最近お前で洗脳しかして無いだろ。すっかり忘れてた。」
【ヘイワン】の《世界改創》の発動をバッチリ『認識』したらしい狂人は夢の世界へトリップ中だ。
《世界改創》で認識を刷り変えて誤情報に差し替え砲撃を外させ、俺達を倒したというカバーストーリーが進行。
肉踊り血沸く闘いを愉しむ狂人にとって不満な結果になるだろうが、知った事では無い。
俺としても殴り合いが出来る奴は少ないので惜しい気持ちはあるが今回は依頼が優先だ。
で。
「やれんのか?コイツ。俺が念入りに擦り潰せば殺せるが、そっちのステータス的に無理だろ。」
ちっこいのは如何にも非力そうでジョブも【狩人】系統。ハッキリ言って正面戦闘には向かない。
「問題ない」「彼でも依頼主のアナタでも」
「私は誰でも殺せる」
へぇ。エンブリオの必殺スキルに即死級のスキルでもあるのか?俺には状態異常とか超ダメージは意味ないぞ。
俺は指を刺しながら言った。ついさっき例外が出来たので。
ーーーコイツの呪いと【極毒】以外じゃあな。
「知ってる」
狩人は淡雪のような儚い印象を持つナイフを紋章から物質化させた。左手には天使を象る紋章。
狩を司る天使がモチーフか?
「《
暗殺だと?綺麗な見た目に反して結構物騒なスキルじゃねーの。・・・シャルロット?
おい!待てそれって・・・!やめろ!俺の依頼ーーー!!
「ごめんね納品は遅くなる」
モチーフからして死と引き換えのヤツじゃねーか!俺はお前のデスペナで3日は待つ事になるんだが!?
依頼主に何もかも黙ってた狩人が首を自らのエンブリオで掻き切った。血が噴水のように噴き出し、生命の源が失われていく。
【出血】で脳への酸素が少なくなり、フラつきながらも狂人の元へ歩み寄って倒れるように抱きつく。
「アナタを殺すのは私だけで良いの・・・アナタが誰をどれほど殺しても、私だけが死なないアナタを殺してあげる・・・」
狩人は狂人の頭の後ろに手を回して低く下げさせる。小さな彼女の身長では足りないから。
そして奪い取るように唇を重ねさせた。
『おおっ!』
カーソンが興奮しているのが分かる。この光景が乙女チックだからなのだろう。
愛おしむように狂人の頭を抱え抱く狩人の表情には隠し切れぬ愛慕が浮かんでいた。
俺が美しいと感じた昏く、深い海の眼は、輝かしい生命の蒼海の色を湛えている。
どちらも命脈尽きる寸前で仲睦まじく寄り添っているようで、一見すると絵画にしても違和感はないのだがーーー
現実は被害者と加害者の構図である。しかも強制的に心中しようとしているし。
・・・どう考えてもメンヘラじゃね?
『愛じゃ。愛じゃよ。主様。こういった愛があっても良い。愛とは形に囚われぬ概念じゃ。偽りであろうと、正真であろうと他者を愛し、寄り添おうとする者はそれだけで尊い。』
お、オゥ。なんかよく分からんがよく分かった。要は多様性の許容って事で・・・
・・・カーソンが俺を殺すのは多様性の許容の結果なの?
『・・・。乙女からそれを言わせるのはどうかと思うぞ。』
カーソンが照れたように不貞腐れて言った。まるで俺が女心を解さない二次元の鈍感系主人公のようだ。きっと年齢レーティングはR18G。
※ゴア、スプラッタ表現があるので小さいお子様には見せられないよ!
何故だろう。死体の心臓がバクバクと鳴り始めた。
きっとこの感情は恋とかいう甘酸っぱい青春風味の感情ではなく、恋愛を謳いながらもその皮を被る理解し難く悍ましいナニかへの恐怖だと思った。
証拠に俺の脚が小鹿のように震えている。
カーソンが無言かつ顔を真っ赤にして俺との融合を解除した。分離していたアバター達が俺のステータスに還元されていくのを感じるが、全く勝てる気がしない。
俺達男はどれほど強くなっても頭のおかしい女達の前では等しく無力だ。
両方とも超級職で戦闘力は上から数えられる存在であるはずなのに、両方とも頭のおかしい女達に殺されようとしている。
狂人の殺害を幇助したのは俺だが、【シャルロット】を孵化したのは一切関係無かった。
分からない・・・何故カーソン達の脳内では殺す事と深い愛情表現が繋がっているのだろう。
共通している事はどちらも独占欲が強い事。俺は他の女と寝た事でカーソンに殺され、狂人は殺すのはわたしだけとか言っている頭のおかしい女に殺されている途中だ。
俺は無自覚に《世界改創》を解除していた。異常な世界の中で狂人だけが唯一の光のようにさえ思ったから。
あと多分俺はこの異常な世界の犠牲者を増やしておきたかったのだと思う。だいたい80%ぐらい。
正しく現実を認識した狂人は抱きつく狩人を見て、カーソンに首を絞められて殺されようとしている俺を見た。
以前のように死を悟りながらも、その眼は闘争の狂気ではなく、何処か儚げな感情に染まっていた。
どこか諦めたように初めて笑って、狩人の頭にポンと手を置き、俺に向けてグッとサムズアップ。
そしてその親指を下に向けた。
『地獄に堕ちろ』と無言のジェスチャー。
俺は首を折られかけながら親指で首を掻っ切るジェスチャーで『お前もな』と伝えておいた。
他の男に意識が逸れたことを感じたカーソンが更に自分を主張するように肩を噛んだ。
血が流れて肉が噛みちぎられ、ゴクリと嚥下される。
当然のように食人行為を行ったカーソンと俺に向かって、狂人のドン引きした視線を感じる。
それを見ていた頭のおかしい女はエンブリオで自分の腹を裂いて、内臓を切り取り、口に含んだ。
そのまま強引に狂人の唇を奪って自分の肉を食べさせる。
狂人が顔を青くして吐きそうになっていたが、頭のおかしい女が舌を突っ込んで無理矢理嚥下させようとディープな接吻を繰り出した。
ゴクリと音が聞こえる。
狂人は真っ赤な泡を吹いていた。逝ったか・・・軟弱者め。
人肉を食わされたからどうだと言うのだ。俺なんて既に自分の血肉どころか骨の味を知っている。
全部ミネラルとカルシウムの味。キスは甘く感じると言うがきっと嘘だ。
そんな味覚補正は実際に経験しても無かったから。
【《ラスト・コマンド》効果時間終了】
【蘇生可能時間経過】
【デスペナルティ:ログイン制限24h】
どこかの世界の中心で二人の【死兵】の命が散った。
白い花弁が二枚。遠い空へと風に攫われて、シャボンのように儚く消えた。
これはとある夢のVRMMOの物語。
人から外れた【呪王】と【死霊王】。
類は友を呼ぶ。そして二人は同様の最後を遂げた。
子供の教育方針はどれにする?
- 蠱毒にぶち込む
- 普通の子供のように育てる
- 子供の為だけの揺籠()で育てる
- 放任主義。子供は勝手に育つ
- 帝王に愛など要らぬ!!